軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

368話 正道と邪道

「君が"逃げた"と判断したら、即刻ヴァルツ全軍は王都の一斉攻撃に転じる。ニーヴァル嬢はそれこそ、全てを賭して立ちはだかったけど……君はどうするのかな?」

「……」

遮ることのできない一方的な言葉に苛立ちを覚えながら、迫りくる敵兵の腹を3人同時に薙ぎ払い、そのまま握っていた槍を後方から振り被る兵に向かって投げつける。

敵方が何を狙っているのか。

『個』対『群』の構図になった時点で予想はしていたが、この警告でより鮮明になったな。

狙っているのは、体力、気力、魔力、装備――これら戦闘に係わる全ての消耗だろう。

俺が王都に来ることを予想し、ヴァルツ軍は明らかに待ち構える格好で準備を進めていた。

加えて2位や他のランカー達が直接の対決を拒むということは、すなわち南部での戦闘情報が既に漏れているということ。

当初は"遠地に直接言葉を届けるスキル"の使い手が南部にもいたのかと判断していたが。

パンッ!

「ッ……ってぇ」

こめかみ付近に飛来したのは"雷の矢"。

足を一歩横に踏み込み、衝撃と痛みに耐えながらも、次はこの属性かと嘆息を漏らす。

(もう少し防御を厚くしないとキツいな……)

この威力、攻撃の特徴――先ほどから様々な攻撃を仕掛けているのは、7位のユークリッドでまず間違いない。

南部にいたはずの7位がここにいるということは、俺の情報を中央に漏らしたのもコイツだろう。

的の絞れる上空ではなく、兵の陰に身を隠せる地上から。

今も各属性矢を飛ばしながら、あからさまに俺の属性耐性を測りにきているし、こうも不定期に攻撃を加えられては、こちらも素の状態で対処するわけにはいかなくなる。

『"雷光"、一線、奥深くまで、薙ぎ払え』

バリバリバリ――……

『【建築】Lv6を取得しました』

「ハズレか」

【探査】でも反応が掴めないし、いったいどれほどの距離から射ってきているんだろうな。

射線を辿り、極力深くまで通るように周囲を薙ぐも、やはりそれらしいアナウンスは流れてこない。

コイツのおかげで無駄な消耗を強いられていることに苛立ちを覚えるも、先ほど上空から見た光景を意識した瞬間。

心は急速に冷静さを取り戻し――いや、冷静であらねば俺が死ぬと、そう警告してくれる。

2千や3千の敵兵を殺しきれるか?

そう問われれば、迷わず『できる』と答えるし、それが5千という数であっても魔力を惜しまなければ答えは変わらない。

きっと1万でも、体力と魔力の消耗バランスを少し調整すれば可能と判断してすぐに動くはずだ。

しかし中央侵攻軍の数は40万。

北で多少は減ったのだろうが、その減りを補って余りある戦力――傭兵連中がさらに別で存在している。

正(・) 攻(・) 法(・) で勝つにはどうすればいいのか。

マルタ同様、王都も各所での個別撃破を想定していただけに、その全てが俺に向くとなると想像の範囲をあまりにも超え過ぎていて、暗闇で閉ざされたように取るべき選択が見えなくなる。

気力は丸一日でも、丸二日でも。

成果という見返りがあるならば戦い続けられる。

装備も問題ない。

武器は現状【付与】目的で腰に下げているだけ。

並みの兵が相手ならば奪った武器で事足りるのだし、防具も兵が相手であれば気にする必要はないだろう。

だが如何ともしがたいのは体力と魔力だ。

短期勝負を仕掛ければ魔力は枯渇し、魔力維持に努めれば体力が確実にもたなくなる。

そして尽きた時、俺に止めを刺せるファニーファニーのような傭兵が健在していれば、俺はまず、そこで死ぬ。

(せめて 上(・) 空(・) に(・) 逃(・) げ(・) ら(・) れ(・) れ(・) ば(・) 別だが……)

――【魔力纏術】――魔力1000

――【身体強化】――

戦略を組み立てるため、つぶさに周囲と結果を観察し、魔力残量に目を向ける。

(5000はきった。が、まだ1分間に30以上は自然回復が見込めるなら十分。これでユークリッドの回避できない被弾ダメージを試すか)

近接の攻防は一切力まず、その場からも無駄に動かず、流すように、周囲を斬る。

死体の山を築ければ、それは僅かでも休息の取れる俺の砦であり、身を守る盾にもなる。

それでも手柄を得るため、死体を押しのけ、踏みつぶしてでも俺に迫ろうとする兵士達。

そいつら目掛けて――

『硬化、散開、撃ち抜け、"魔弾"』

おおよそ2分に1度、高威力の範囲魔法をぶちかませば、これでまた幾ばくかの休息を得られつつ、魔力も極僅かな消費だけで済ますことができる。

『【泳法】Lv3を取得しました』

『【伐採】Lv7を取得しました』

『【盾術】Lv6を取得しました』

(へぇ。参考に【無属性魔法】も使ってみたけど、感覚的には"雷光"よりもマシ。でも"天雷"の方がさらに上ってところか)

【夜目】は使っちゃいるが、それでも一度にどれほどの兵が死んだかなんて目視で分かるもんじゃない。

あくまでその後に得られるスキルでの判断。

それでも同じ魔力消費でどれほどの兵を殺せているのかは、この戦いの肝と言ってもいいくらいに重要だ。

大きな魔力消費を伴う魔法系統で、スキルレベル8まで到達しているのは【雷魔法】と【無属性魔法】の2種類のみ。

あとはいろいろとリスクの高い、イレギュラーな系統をこの場で試していくかどうかだが――。

「……ッ!?」

思案しながらも、向かってくる敵兵に武器を投げようとした時。

「ほっ、初めましてじゃな、異世界人」

目の前に、剣を携えた明らかに普通の兵とは異なる老人が 降(・) っ(・) て(・) き(・) た(・) 。

僅かに視線を空に向ければ、暗闇の中を巨体だと推察できる鳥が飛んでいるのだから、アレが原因と考えるべきだが……

しかし、これはどういうことだ?

「あなたは?」

「名をロブザレフと言う。お主にはヴァルツ傭兵8位と言った方が分かりやすいか」

「それはたしかにそうですが……でもあなた、本当に8位なんですか?」

「ん? なぜじゃ?」

まず単独で目の前に現れたことも驚いたが。

2位はエルフ種、4位は貴族の女、5位は牛頭の獣人だと兵士から聞いていた。

そして8位が、高名な剣士であることも。

ならばたしかに、事前情報の通りだが、この爺さん――。

「あなた、かなり強いでしょう? 3位のファニーファニーと、たぶん同じくらいに」

【洞察】を通して見れば、明らかに9位の変態ゲス野郎より、3位の虎女に近い強さを持っている気がする。

これは何かの罠なのか?

「ほほ、これは面白いことを言いよる。ちなみにお主、そこらに転がっている鈍らな剣を握っとるが……剣を扱うというのは真か?」

「……さぁ、どうでしょう」

「ふむ」

空気で。

所作で。

目つきで、分かる。

これはきっと、まずいやつで。

それは周囲にも伝わっているのか。

兵士は囲うように動きを止めて見守っていた。

「ならば、どれ。試させてもらうか」

「……っ、らぁアッ!」

ロブザレフと名乗った『剣士』の動きは、まさに一瞬だった。

言葉をその場に置いてきたと錯覚するほどの踏み込みに、【硬質化】と唱える隙間など無く……

それはファニーファニー戦でも味わった、しかしそれ以上に思考を挟む余地が限りなく薄い、刹那の世界。

手に掛けていたダマスカス製の長剣を咄嗟に切り上げ、袈裟斬りを強く弾く。

「ほう」

が、何か、感触がおかしい。

弾くではなく、剣の側面を滑ったような、そんな感触。

そして、戻りが、あまりにも速い。

動きは、まだ、見えている。

既に横薙ぎの姿勢。

このままでは、腹を裂かれる。

「ズゥオアアアアッ!」

間に合う、間に合わせろ!

剣撃を上から潰す勢いで――。

しかし、振り下ろした俺の剣は、気付けば地面を刺していた。

差し向けられた剣筋が突如として変わり、横から上へ、また剣が側面を擦ったように滑らされる。

狙いは、首だ。

まっすぐに首へと吸い込まれていく剣撃に対し、俺は強引に顔を捻るくらいしかできず。

「剛剣、だが、それだけじゃな」

ブシュッ!!

嫌な音を耳が拾い、その後に熱をもった痛みが右の頬に広がったことで事態をようやく理解する。

フェイスアーマーを突き破り、口がまともに閉じないくらい、頬をぶった斬られた。

「ハッ……ハッ……」

冗談じゃない。

この爺さん、ファニーファニーよりも強く感じる。

魔力を温存などと言っている場合ではなく、本気も本気。

全力で挑まなければ俺が殺される。

――しかし当の爺さんは、気が抜けたようにこちらを見つめていた。

「決して弱くはない。が、スキルのレベルで言えば『8』程度といったところか?」

「だから、なん――」

「異世界人であれば【剣術】スキルレベル10――『剣天』の可能性があると思っとったんじゃがな……残念、お主は期待外れのようじゃ」

そう言い残し、囲う兵の中へ姿をくらます爺さん。

「ちょ、っと、待てぇえええええええ!!」

この時、なぜ叫んでまで呼び止めようとするのか、自分自身でもよく分かっていなかった。

見方によっては命を救われたとも言えるし、強者が目の前から去れば継戦が楽になることは確実。

そんな考えもあるからこそ、叫びはするも追撃の手は自然と出ない――そのことに気付き、また強い苛立ちを覚える。

「くそっ……くそっ……クソッ!!」

今までとは逆だ。

【洞察】による結果が格上の判定であっても、手数と応用で勝負に挑んできた。

だからガルグイユにも、ファニーファニーにも勝ててきたんだ。

でもこの爺さんは、たぶん今の俺と同じくらいの立ち位置にいながら、それでいて命を失い兼ねない大きな一太刀を浴びた。

推測するに、かなりの特化型。

そんな相手の得意とする分野でバカ正直に勝負した――そのこと自体がひどく軽率で、傲慢で。

勝つことに慣れ、無意識に張り合えると思ったからこそあんな行動を取ったのだろう。

自分はただの器用貧乏でしかないというのに。

『――傷を、塞げ』

戦場の真っ只中だというのに、空を見上げれば、思考が徐々に澄んでいく。

「ありがとう、爺さん」

剣技も、心の在り方も。

ここで気付かせてくれたことは非常に大きい。

「俺はまだまだ、弱い。反吐が出るくらいに、弱い」

たかがスキルの一つもカンストしていないというのに、それで慢心など100万年早い。

それにスキルという数値化されたモノだけでなく。

それとは別に研鑽し、研ぎ澄ましてきた技術のようなものもきっとあるんだと思う。

あの爺さんの剣技を見れば。

そしてあの爺さんが俺に向けた去り際の眼差しを見れば、そんな気がしてしまった。

「少しだけ、待っていてください。ここからは形振り構わず、本気でいきますから」

効率を考えながらも引っかかりを覚えていたのは、この戦いの後に残るリスクだった。

これだけの数を相手取るとなれば、一人残らず殲滅というのは現実的に難しい。

どれほどの数を討ち漏らし、 戦(・) 闘(・) の(・) 目(・) 撃(・) 者(・) となり得るのか。

目立つ邪道なスキルほど今後のリスクを抱えると思っていたが――、そうだ、これこそが驕りというもの。

上空に逃げることも許されない現状、俺に後を考える余裕なんてなかったんだ。

今は、目の前の敵を。

全て、殲滅することだけを考えろ。

後のことは、生き残ってから考えればいい。

――【炎獄柱】――【白火】――

持てる全てを使い、全力で潰す。