軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

369話 待ち受ける悪夢

「ガルファ! バリーはどこだ!?」

「分からん……魔力を回復するまで休むと、街の方に降りたまでしか把握していない」

「チッ……ただ事じゃないぞあれは!」

異世界人の消耗を促す妨害も放棄し、切迫した様子で城壁の上まで走り込んできたのはユークリッドだった。

実質の司令塔とも言えるバリー・オーグを探すも見当たず、いたのは城壁の上で険しい表情を浮かべながら戦場を眺める総司令官ガルファのみ。

そしてガルファも、戦場で展開されている異常な事態に戸惑いを隠せず、思わず知っているであろう人物が現れたことを幸いと、この男に答えを求める。

「あれは我が国の……、<<エントニア火岩洞>>のヴァラカンが使用する能力ではないのか?」

「私も同じことを思ったから、一度離脱してでもここに来たのだ。あの天まで貫くような2本の火柱、中で蠢き人を喰らう龍など、特徴があまりにも似過ぎている」

ユークリッドは当然として、ガルファ総司令も『剣仙』の二つ名を持つ者。

自国の狩場に現れるボスの討伐くらいは、若かりし頃に数度経験していた。

そう、二人とも直接ヴァラカンと対峙した経験があるのだ。

だからこそ、戦場で広がる光景に、二人は言い知れぬ危機感と恐怖を覚える。

「だが、あそこまで、煌々と周囲を照らすほどに明るかったか?」

そう問うガルファに、ユークリッドは最も初歩的な【火魔法】を唱えた。

「記憶ではこちらの色に近かったはずだ。あれは何かが違うし、熱量も明らかにおかしい……触れなくても近くにいた兵士の身体が燃え始めるなんて、どう考えても普通ではありえん」

「そ、その上、あの速さで動き回るのか……?」

「低空飛行で移動している異世界人を火柱が追っている風に見えたがな。いずれにしてもここまで兵が密集していては、反応できたところで避ける場所も無い。あんなもの、大半は触れただけで即死するぞ」

「……」

ガルファもユークリッドも。

過去の記憶を掘り起こすほど、目の前で起きている現実が信じられなくなる。

本来はゆっくりと、揺らめくように不規則な動きをとっていたはずだ。

なのに今戦場で猛る2つの火柱は、不規則ながらも射られた矢のような速さで戦場を移動していた。

その通り道にいた兵士達がどうなっているかなど、討伐経験者ならばすぐに想像がつくというもの。

「異世界人がなぜ、ヴァラカンと似たようなスキルを使用しているのかはこの際どうでもいい」

「そうだな……問題は消耗狙いの長期戦を継続すべきかどうか」

「ああ、凄まじい勢いで兵が飲み込まれているのは間違いないのだろうが、それだけ魔力消費が尋常ではない可能性もある。あのスキルの委細をバリーが把握していれば、大きな判断材料になるはずだ」

「あと2時間もすれば戻ると本人が言っていたのだ。ルエルもまだ戻れていないだろうし、今しばらくはあのふざけた攻撃を継続できるのか、様子を見ていくしかあるまい」

「承知した。俺は一旦どこかで目を休める。早めにどう対処するのかバリーと決めておいてくれ」

そう言いながら城壁を飛び降りようとするユークリッドに、一つ聞き忘れたと、ガルファから投げかけられた言葉。

「ああ待て、最後に一つ確認しておきたい。なぜあまり大きな動きを見せなかった異世界人が、突如として活発になった? 何か切っ掛けがあったのか?」

その問いにゆっくりと振り返りながら、ユークリッドはなんとも言えぬ表情で答えた。

「ロブ爺だ。会話までは聞こえなかったが……軽く一戦交えた後からあの調子ということは、大方バリー以上の挑発でもしたのだろう。本人に自覚はないだろうがな」

「あの"剣聖"め……」

余計なことをしてくれたと二人は思うが、しかしそれを面と向かって言うことはない。

機嫌を損ねれば戦線を離脱どころか、最悪はこちらの首が飛ぶ。

それより今は、東の戦地にとりあえず来てくれたことを喜ぼうとガルファは思考を切り替え、もしあの驚異的な火力を誇る攻撃が継続された場合。

その後の王都攻略も考えれば兵を無駄に減らすわけにもいかず、後半戦に備えていた傭兵連中や遠距離部隊。

そして要となる一桁ランカーが全員揃うのを待ってから、極力早めに同時攻撃を行うべきかと。

そのように思案しながら、戦場を駆ける火柱に視線を向けた。

そして、空き家となった手頃な家で一人休息を取るバリー・オーグは、当然このような状況を把握していない。

もしこの場に居合わせていれば――もしくは戦場に立っていれば、どう対処したのか。

ガルファ総司令の意見に同意したかもしれないし、強引にでも近くにいるロブザレフを探し出し、ルエル・フェンシルがいない今の状況でも総攻撃を加えていたかもしれない。

それは当人にしか分からないことだが。

ロブザレフが攻撃を加え、ユークリッドが危機感を覚えて戻ってきたこのタイミング。

ここで居合わせなかったことが、バリー・オーグの痛恨のミスと言えた。

本人からすれば、魔力を回復するための休息に充てた僅か3時間という認識だろう。

異世界人の首を取り合うという意味ではライバルになるルエル・フェンシルはまだ移動中であり、剣にしか興味のないロブザレフとは望む報酬の中身で被ることもない。

捨て石の兵に相手をさせ、異世界人の消耗を待つだけの3時間。

そしてガルファ総司令とユークリッドもその認識は変わらない。

いくら脅威的な殲滅力があろうと、兵はそれこそ唸るほどいるのだ。

バリーは 2(・) 時(・) 間(・) 程(・) 度(・) で戻る。

その2時間を、異世界人の消耗を目的とした長期戦のままでいくか。

それとも兵数確保のため、戦力を集中させた短期決戦に舵を切るべきか。

判断をするには丁度良いくらいの時間と考えていた。

それはそうだ。

誰もこの僅かな時間で、王都攻略を阻む敵が成長するなど、予想もしていないのだから。

そしてこの傍観するしかない様子見の時間が、果たしてなぜ生まれたのか。

今は誰も理解することなく、時間は刻一刻と進んでいった。