作品タイトル不明
355話 一人目
『オールヒール』
自分の身体に纏わりついていた岩の塊は『収納』し、傷を回復させながらも周囲を見渡す。
(んーやっぱりいないか……)
『転移』した先は、先ほど戦っていたマルタ南の上空。
急に現れれば姿を確認できるかと思ったが、やはりそれっぽい鳥の姿は見当たらず。
7位の行方は依然として不明のままだ。
兵士は傭兵も上位になると派閥が作られ、その派閥が違えばだいたい仲は悪いと言っていた。
だからあの時、ギリギリまで虎女を引きつければ、どこからか遠距離の攻撃が飛んでくるのかと思ったがそれもない。
3位と9位は明確な仲間意識――というより主従関係に近い印象があるので、もしかしたら7位も同じ派閥なのかもしれないが……
少なくとも、マルタの南部にはいない。
そう結論付けても良さそうなくらいには、動きが何も無さすぎる気がする。
「え? あ、空?」
「あぁ、やっと我に返りました? えーと、エヴィゲロ――、変態クソ野郎」
「こ、このガキッ! オマエ、何をした!?」
「空に飛んできただけですよ。良い景色でしょう?」
わざわざ動きを止め、俺を押さえてくれていて本当に助かったな。
ちょこまかと動かれていたら、こうして一緒に『転移』することは叶わなかった。
「あの状態で飛べるわけないだろ! それに一瞬で……え? 一瞬で?」
「あなたが慕い、守ってくれる虎女では絶対に辿り着けない場所です。ここからあなたの、本当の力量が試されますね」
そう告げた途端、小男は怯えたような目つきに変わり、
「と、閉じろォ! "土装武甲"!」
「……」
顔の部分だけ開いていた窓を閉じようとする。
へぇ~なるほど。
土がない上空でも、他から回して埋めることができるのか。
まぁ、させないが。
「ふグェッ!?」
閉じきる前に勢いよく手を突っ込めば、何か丸いモノを指で押し込んだような感触がしたけど、そんなことはどうでもいい。
そのまま俺の腕を包むように岩は閉じていくので、一つの疑問を解消すべく魔法を唱える。
『大量の、水』
「ブゴォ……!」
俺の手から溢れるように水が生まれ、急速に中の空間が満たされているのか、くぐもった呻きが聞こえてくる。
と同時に、岩から漏れ出るように、細い水の線が遠い地面に向かって垂れていった。
一応どこかに空気穴は用意されていたらしい。
この程度の量じゃ、排水がまったく間に合っていないけど。
このままいけば溺死させられる――それを理解したんだろうな。
ボロボロと剥がれ落ちるように纏っていた岩が落下していき、僅か30秒ほどで眼窩に深く指を突っ込まれた、情けない男の姿がお披露目された。
改めて見ても特徴的な顔だ。
モグラ、サル、ネズミ……他にもあるのか?
いくつかの獣がキメラのように混ざったような、そんな印象を受けてしまう。
(生きづらかったのかもしれないけどさ……)
でも、だからなんだという話だ。
何もしていない人達を肉塊に変えて良い理由は一つも出てこない。
色々な理由をバネに強くなれたのなら、そこで止めておけば良かったんだ。
「さぁ、そろそろ行きますか。あまり待たせると、下で右往左往している虎女が街に向かってしまいそうですしね」
「あがっ、な、何をする……」
「あなた、人を潰してミンチにするのが好きなんでしょう?」
「そんな、こと」
「だから、あなたもしてあげますよ。盛大に」
「ッ……ま、まって」
これ以上男の言い分なんて聞く必要もない。
やるべきことはただ一つ。
ズズズズズズズ――……
「は、羽ッ!?」
これ以上ない速度で下降し、
「ヒギィイイイイイイイぃぃイイイイイイイイイぃッ!!?」
地面に叩き付ける。
「詫びながら、全てをぶちまけて、死ね」
それだけだ。
――【投擲術】――
「ぁ」
ぎりぎりまで加速したところで、指に引っ掛けていた頭部を全力で投げれば、爆発したような音と共に土煙が濛々と舞い上がる。
『【魔法射程増加】Lv5を取得しました』
『【気配察知】Lv8を取得しました』
『【土魔法】Lv7を取得しました』
『【手加減】Lv3を取得しました』
『【手加減】Lv4を取得しました』
『【省略詠唱】Lv6を取得しました』
『【鋼の心】Lv7を取得しました』
『【土操術】Lv1を取得しました』
『【土操術】Lv2を取得しました』
『【土操術】Lv3を取得しました』
(ふーん、【土操術】ね)
やっと、一人目。
欲を言えばすぐに色々と試してみたいところだけど……
待ち焦がれていたもう一人が放っておいてくれそうにない。
「どっかに逃げちまったのかと思ったけど、ちゃんと戻ってきたようだねェ!」
離れた位置から聞こえる、少し苛立ちの混じった女の声。
砂埃の先に見えた小さな影が、どんどん俺の方へ近づいてくる。
――【身体強化】――
――【魔力纏術】――魔力『1000』
いつでも戦闘が開始できるように、今はただ準備を。
――そして、砂塵が落ち着いてきた時。
落下地点に目を向ければ、出来上がった小さなクレーターは僅かに赤い斑点を残すのみ。
周囲には人の原型をほぼ留めていない、大小様々な『欠片』が無数に転がっていた。
クレーターを挟んで向かいには、僅かに動揺した表情を見せる虎女。
「もしかして、これがエヴィゲラ?」
「そうですよ。そういう趣味があったみたいなので」
「……そう。で、その黒いのは、何?」
「どうでもいいじゃないですか。それよりやっとあなたに集中できる」
「ほんと、ムカつく目してんねェ……」
「始めましょう、ここからが本番ですよ」