軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

354話 3位と9位

パンッ――!

バリバリと空気が裂けていくような音を鳴らし、直後の弾ける音と共に中身入りの岩塊が後方へ吹き飛んでいく。

それまでの光景を眺めていると、高速の雷が相手だからか。

旋回していた2枚の盾も、周囲を蠢めくように流れる土や岩の壁も反応できていない。

それこそ、直撃。

しかし、何かしらのスキル獲得を示すアナウンスは一切流れなかった。

(中まで伝わってない?)

水場のようにはいかないことくらい理解していたが、どうやら雷とあの"岩の鎧"は、あまり相性が良くないらしい。

となれば、物理的に崩せるかどうか。

大剣を強く握り、小男を追うように飛行。

そのまま岩の鎧ごとぶった斬る――、そう思っていたところで立ちはだかったのは虎女だった。

「女をほっとくんじゃないよ!」

低空飛行していた俺の動きを阻害するように、飛びながら突き出してきた拳。

それは押し迫る巨大な壁のようで。

――【硬質化】――

避けきれないと察して防御に回れば、首が捩じ切れるような錯覚を覚えるほどの強い衝撃を受け、そのまま後方へ吹き飛ばされていく。

着地し、頬を伝う感触に手を滑らせれば、それは鼻から垂れる血。

(速さはやや負け、力は【硬質化】も超えてくるか)

悠長に分析している余裕はない。

俺を追うように迫ってくる虎女は既に目前。

打撃では想定以上にダメージが出ていないと判断したのか。

虎女は拳を握らず、爪を刺し込むように手刀を繰り出すも、俺が受けに専念している状況ならばまだ辛うじて避けきれる。

できれば後に回したい格上と、幾度となく交わされる攻防。

(くそっ、厄介だな……)

大剣を握っていたのが仇になった――いや、大剣に合わせた動きを取られているのか。

張り付かれ、剣を振り抜けるような間合いを満足に作らせてもらえない。

(そっちが、その気なら……!)

――【爪術】貫手――【硬質化】――

「グッ……」

剣を強引に振ると見せかけ、こちらが左手を突き入れれば第二関節手前。

その程度でも、俺の指が下腹部に刺さっていく。

ならば、このまま燃やす。

――【発火】――

「ッ!?」

虎女まで炎に包めば、身の危険を感じたのか。

【白火】へ繋げる前に自ら離れていくも、俺との接触から外れれば"火だるま"の完成だ。

「あ"あ"っ……」

ここで初めて、身体中に纏わりつく熱を理解したのだろう。

(防御は想定通り、魔法防御はやや低めってところか)

このままあっさり終わるとは思えないが、できればそのまま悶え苦しんでいろ。

まずは今のうちに、小男を仕留め―――、

「グガァアアアアアアアアアアアア――ッッ!!」

空気を震わすその雄叫びは、まさしく獣だった。

何をどうすればこの結果に結び付くのか。

直後には纏っていた炎が全て消え失せ、代わりに身体からは熱気、なのか?

僅かに煌めく湯気のような 靄(もや) が身体中から噴き出していた。

なんだあれは?

俺の知る知識で、答えに繋がるようなモノは何もない。

「クハッ! こいつが噂の"火纏い"かい! 意味の分かんない攻撃だねェ!」

「……あなたのその、身体中から放出されているモノも意味が分かりませんけど」

「うふふっ、アタシを倒せたら教えてあげるよ」

「初めからそのつもりです」

「……………倒せるならねェ」

一瞬、虎女の視線が僅かに俺の横へ逸れた。

と同時に【気配察知】で捉えたのは、背後から高速で迫る複数の飛来物。

状況からして、あの小男が飛ばしてきた何かだ。

(まずは避け――)

背後に意識を向けたのは一瞬だったと思う。

「 」

それでも、既に巨大な拳は目の前にあり。

先ほどとは違い、腕を前に出す余裕はなく。

【硬質化】を唱える時間すらなく。

できたことは歯を食いしばり、せめてもの抵抗に、己の額を拳に合わせただけ。

ゴッ――………

「……――ヴィゲラッ!」

数秒だとは思うが、俺は意識を飛ばしていたんだと思う。

虎女の叫ぶ声で我に返った時、俺の視界は空を映していたが、流れる風の強さが、物凄い勢いで飛ばされている現状を理解させてくれた。

「クソガキがぁああああああああ!!」

別の叫びは後方から。

とほぼ同時に、大きな岩の塊が空を塞ぐように見えた時――

ドゴッ!

既に自分がどうなったのか。

何もしなければどうなるのかを理解した。

ドゴッ!

「ギギッ! 目玉も! 脳みそも! 全部! ぶちまけろ!!」

ドゴッ!

「そのムカつく顔ボコボコに砕いて、笑える顔にしてから肥溜めに漬けてやる!」

聞くに堪えない罵声とともに、続けざまに数度、殴るように振り下ろされる巨大な岩の腕。

自分の身体が地中にめり込むたび、顔や上半身を潰された人達が。

壁のように一つの塊となっていた子供達が何をされていたのか。

ここまでくれば容易に想像できてしまう。

「チッ……丈夫な虫は、つまらない」

攻撃が一度止み、覗き込むように俺を見下ろす小男。

器用なもんだな。

覆っていた一部を消したのか、岩の隙間からは顔だけを覗かせていた。

と同時に周囲の土が纏わりつき、俺を強引に引きずり出していく。

【不動】の効果で身動きが取れず、俺はされるがまま。

目に頼らずとも、俺の手足が冷たい岩で覆われていき、最後には岩の腕が2本。

覆いかぶさるように俺を拘束し、他の岩と繋がっていった。

(あぁ、そういうことか)

視界の先には、悠然と歩きながら、拳に力を籠める虎女。

どうやら俺は小男のゴーレムに抱えられ、これからサンドバッグになるらしい。

……懐かしくて、反吐が出る。

「エヴィゲラ、もう大丈夫なの?」

「大丈夫です。ここまで強固にすれば空には逃げられないですし、姉さんが本気で殴っても吹き飛ぶことはありませんから」

「うふふっ、どう? これから腹に大穴開けられる気分は」

「既に経験しているので、今更ですね」

「あァ? ったく、ムカつく目してんねェ」

「ははっ」

「なに? 空を飛ぶ、雷を放つ、炎を纏う――それ以外に【剣術】や【体術】もそれなりなんだろうけど、この状況をひっくり返せるほどの奥の手でもまだ隠してんの?」

「いや、特に。あなたで穴を空けられるのかなって、そう思っているだけです」

「ふふ、うふふっ……」

(さて、どちらでいくか)

【気配察知】を使用したとしても、動きがなければ背後の状況を正確には測れない。

【魔力感知】で流れる魔力を頼りにという手もあるが……

ここは魔力消費が多少増えようとも、確実性を取った方が賢明か。

おまえらが望んだ状況でもあるのだろうが、俺もやっと、二人を引き離すチャンスがここに来て生まれた。

絶対に逃せない。

判別はしつつも、確実に、殺す。

ズシリズシリと、重みを感じる足取りで歩み寄る虎女。

その小さな瞳孔は一点に俺を見据え、怒りのせいか、握る拳は僅かに震えているようにも見えた。

「そんなにお望みなら、腹が千切れるくらい大量の穴を開け――――」

――『転移』――