軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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回復薬の実演が終わった後も、王城の中庭に広がる祝宴はなお続いていた。

貴族たちは回復薬の威力に衝撃を受けながらも、すでに“次”を見据えて動き出している。

その中でも特に目ざとい者たち――

王国の高官、商会の代表、軍務の局長、さらには高位聖職者の姿まで、彼らは表向きの歓談を装いながらも、明らかに一つの人物を追い始めていた。

「……やはり、あの若造が鍵だな」

「どちらの案件にも関わっているのは明らか。王家が隠しても、目を逸らせはしない」

「いま、繋がっておけば十年後には国の屋台骨に喰い込める……!」

その鍵――レオルドは、今まさに中央の噴水近くでワイングラス片手に軽く息を吐いていた。

「……視線が露骨になってきたな」

「それだけ目立っているという証ですわ」

控えめに苦笑するシルヴィアの横から、陽気な声が飛び込んできた。

「よぉ、レオルド。いや、王国の革命児、それとも問題児とでも呼ぶべきか?」

声の主は、灰銀の軍礼服を着たベイナードだった。

がっしりとした体格に豪胆な性格、だがその瞳には鋭い理性が宿っている。

「ベイナード団長。もう酔ってるのですか?」

「ハッハッハッハ。この程度じゃ酔わねえよ。まあ、この雰囲気で酔っちまいそうだけどな。見てみろよ、誰も彼もがお前に注目している。自動車に回復薬まで作っちまったお前と繋がりを築こうと必死だ」

「回復薬は王国の優秀な研究者たちの功績ですよ。俺じゃありません」

「誰がそんな言葉を信じるかよ。皆、気づいてる。お前が関わってる時点で本来の手柄はお前だってな……」

「いくら俺でもそこまでではないですよ」

「……まあ、お前がそう言うならそういうことにしておいてやろう」

ベイナードは肩をすくめ、グラスの果実酒を一気に飲み干す。

そして、ふと思い出したように目を細めた。

「ところでジークフリートたちはどうしてる? 元気にやってるか?」

レオルドは一瞬だけ目を細め、懐かしむような微笑を浮かべた。

「はい。今はゼアトの防衛に従事しています。日々、鍛錬に励んでいますよ。相変わらず融通の効かない性格ではありますが、少しでもゼアトに馴染もうと努力しているみたいです。女性関係のほうは、まあ、その、進展なしですが」

その言葉に、ベイナードは盛大に笑った。

「ハハッ、あいつらしいな。しかし、一番の問題は未だに解決出来てないのか……。大丈夫なのか? 特に、なんだ、アレ、エリナだったか? ヴァンシュタイン公爵のところのご令嬢」

「ゼアトに馴染もうと努力はしているみたいですが、俺を敬う気は一切ないですね。このままだと不穏分子として排除してしまいそうです」

「おいおい、マジか……。何やってんだかね」

そこに唐突に口を挟んだのは、隣で二人の会話を聞いていたシルヴィアだった。

珍しく、頬をぷくりと膨らませている。

「本当です! レオルド様に対する発言は万死に値します!」

ベイナードは目を見開き、驚き半分、面白がり半分といった表情を浮かべた。

「うお……! 殿下、ご立腹だったりします?」

「当然です。仕えるべき主であるレオルド様に向かって、たかが辺境伯の癖にだのと、口にしていい言葉ではありません!」

「そんなことまで言ってたのか……おいおい、ヴァンシュタイン家、大丈夫か……?」

レオルドは苦笑を漏らしつつ、グラスを揺らした。

「まあ、俺個人が貶されることに関しては別に気にならないのですが……」

「……アホ。騎士として言わせてもらうが仕えている主がそんな風に馬鹿にされたら激怒するわ。特にここ最近のお前を見ていれば、たかが辺境伯のくせに、なんて言われた日には後で罰せられることになったとしても、その場で発言者を切って捨てるぞ」

「全くです! レオルド様は甘すぎるのです!」

「殿下が怒るのも無理のないことです。レオルド、少しは考えろよ?」

「……すでに陛下にも怒られてます」

「ハッハッハッハ! それなら大丈夫か。まあ、よく覚えておけ。お前が許してもそれ以外の者が許さないことはあるってことをな」

「そうですね。陛下にも言いましたが肝に銘じておきます」

ベイナードはグラスを傾け、名残惜しそうに席を離れる。

「じゃあな、レオルド。今度は一緒に騎馬戦でもやろうぜ、ダンスよりは得意だろ?」

「……ええ、ぜひ」

二人は軽く笑い合う。

まるで旧友同士のような空気だったが、それを邪魔する者は誰もいなかった。

それはレオルドの地位に対する敬意というより――

彼が背負っているものの重さを、理解した者たちだけが持つ、静かな距離感だった

その時、宰相が近づいてくる。

厳格な政治家であり、王の右腕とも言われる老人だ。

「レオルド。陛下がお呼びだ」

「わかりました。すぐに参りましょう」

案内されて向かった先には、王座を離れ、控えの席に移った国王がいた。

その傍らに王妃と、数人の重臣が並んでいる。

「よく来たな、レオルド。先ほどの祝辞に続いて、少しばかり現実的な話をしようか」

「……手短にお願いしますね」

国王はレオルドの言葉を聞いて穏やかな笑みを浮かべる。

「魔導自動車の販売と運用――いずれは民間にも解禁する予定だが、まずは王都、ゼアト、国境周辺の三地区に限定しよう。試験導入としては、ちょうど良いだろう」

「ええ。その際は、販売価格、免許の取得方法、そして道路の設置予算などを明確にしておく必要がありますね」

二人の会話を聞いていた宰相が口を挟む。

「製造についてはどうする? 民間企業に許可するか、王国直属の技術者たちに任せるか?」

「中間案として、王国認可制を提案いたします。ゼアトを中心とした監査機構を王都に設け、基準を満たした工房にのみ製造を認める形です」

「……抜かりがないな。まさに実務家というわけだ」

国王が笑い、王妃も小さく頷いた。

「そして、回復薬の件もな」

「はい。あれは絶対に、適切な規格と保管体制がなければ、流通と同時に危険が発生します」

「模造品や密売の対策、製造法の秘匿、規格ごとの区分と登録制度も必要だな」

「ええ。回復薬は万能薬ですからね。もちろん、解毒、解呪などは出来ませんがね。病気の種類によっては効果を発揮しません。王印とゼアト印の二重封印で保管するのが最も安全かと」

「……見事だ。もうお前に王国の法体系ごと任せたくなるな」

「それはご勘弁を。ゼアトだけで手いっぱいです」

レオルドは肩を竦め、苦笑いを浮かべる。

一同が笑いに包まれる中、祝宴の音楽がひときわ華やかに鳴り響いた。

弦楽の舞踏曲が流れ、中央の広場では貴族たちが次々にペアを組み始めていた。

「……レオルド様。せっかくの祝宴です。少しは踊られてはいかがですか?」

そう言ったのは、控えていたシルヴィアだった。

思えば、彼女と踊るのも久しぶりだ。

レオルドは懐かしい気持ちになりながら了承する。

「そうだな。シルヴィア、一緒に踊ってくれるか?」

「もちろんです。しっかりとリードしてくださいね」

レオルドは静かに彼女の手を取り、舞踏会の輪の中へと歩を進めた。

シルヴィアの瞳が、淡く揺れる灯火に照らされて輝いている。

今日は宴の日だ。

日頃の激務を忘れて、今はこの音楽に身を任せて踊ろう。

二人は静かに踊りながら、確かに足を踏み出していた。