軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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王家主催の祝宴――

この場には、軍部、学術、財務、外交、宗教、さらには王都大商会の代表に至るまで、ありとあらゆる要人が集っている。

だがそのどの顔も、好奇と興奮、そして一抹の警戒を浮かべていた。

「レオルド様、皆が注目しています」

シルヴィアが耳打ちする。

「発明者ではなく、勢力として」

「構わないさ。注目されるのが嫌なら、最初からゼアトで燻っていただけだ」

レオルドは微笑し、堂々と絨毯を進んだ。

中庭中央には、長大なテーブルが設けられ、贅を尽くした料理が並ぶ。王都近海の鮮魚に、鶏のロースト、金粉をあしらった果実酒。

その一つひとつが格式を体現していた。

やがて、金色の冠を戴いた国王が、王妃とともに高座へと姿を現す。

「皆の者、本日はようこそ集まってくれた」

静けさが広がる。

「レオルド・ハーヴェストの成し遂げた業――魔導自動車の発明とその実証は、もはや一地方の成果に留まるものではない。我が王国が次代を迎えるにあたり、最も重要な礎となるだろう」

王は杯を掲げた。

「ゆえに、これよりの祝宴は、レオルド・ハーヴェストの偉業を称え――王国の未来に捧げるものとする!」

杯が掲げられ、場内が歓声に包まれる。

「レオルド辺境伯に――乾杯!」

中庭のあちこちで金属の杯が触れ合い、香の高い酒が一斉に注がれた。

祝宴は華やかに、しかしその水面下では、すでに無数の視線がレオルドを狙っていた。

「お初にお目にかかります、レオルド閣下。我が家は軍への供給路を担っております」

「私は王都商会の代表です。魔導自動車の生産ライン、ぜひ我が社と……!」

「若き領主様、ぜひ一度我が領にもお越しを。我が地の鉱山も捨てたものではありませんぞ?」

貴族たちが次々に言葉を交わしにやってくる。

その顔は笑みを浮かべていたが、その目は明確に――利を見ていた。

だが、レオルドもまたその意図を読み切っていた。

彼は杯を交わしながら、にこやかに応じる。

「皆さま。ありがたいお話ばかりです。ですが、私にはすでにフリューゲル公爵閣下が便宜を図ってくれるので申し訳ありません」

その言葉に、貴族たちが顔を見合わせる。

「し、しかし、フリューゲル公爵家だけでは荷が重い、というか、少々手が足りないのでは?」

「いえ、そのようなことはありません。先ほども陛下が話していたように国家事業としてこれからは行っていきますので、人手は足りています」

「で、では、販売経路は? それから流通も――」

「それらに関しては今後、陛下を含めた宰相閣下や皆さまと協議して参りますので、また後程ということで」

レオルドは言葉に含みを持たせながら、あくまで冷静に応じた。

その態度は敵意でも排他でもなく、ただ、まだ時ではない、と言外に語っているに過ぎない。

のらりくらりと正面からの商談を避けられてしまい、貴族や商人たちはたじたじである。

本来であれば、ここで手を打ち、レオルドの懐に潜り込み、莫大な利権に与ろうという算段だったのだ。

だが、肝心の本人は飄々とした態度を崩さず、真正面からの接触すらすり抜けていく。

「……くっ。そう上手くはいかないか」

「昔の金豚時代だったなら簡単だったのに……」

「金豚のままでしたなら、魔道自動車や転移魔法陣など今頃、なかったでしょうな……」

歯痒そうに、ある者は酒杯を握りしめ、またある者は舌打ちを噛み殺しながら顔を顰めていた。

その一方、王城の奥――高座近くでは、静かに動きが始まっていた。

「レオルド様。そろそろかと……」

背後からの低い声に、レオルドは視線だけを送る。

そこには付き添いのギルバートいた。

レオルドは一つ頷き、酒杯を置く。

そして、視線を国王のいる高座へと向けると、数人の騎士たちが忙しなく動き回っているのが見えた。

――いよいよだ。

騎士たちが向かった先は、王城の地下牢。

そこには、回復薬の性能を証明するために用意された、ある存在がいた。

罪人――

正式には、重犯罪者の中でも王命による実験対象として処理が確定した者。

命の価値を失った者たちであり、同時に存在価値を取り戻すための舞台装置でもある。

やがて、会場の一角に設えられた特設舞台が静かに光を帯びはじめた。

魔導灯が照らし出し、その中央に豪奢な銀台座がある。

貴族たちの間に、再びざわめきが走った。

「……あれは、何を始める気だ?」

「まさか、魔導兵器か?」

「まだ何かあるのか? しかし、あの銀台座はなんのためにあるのだ?」

情報の乏しさは、かえって不安と期待を膨らませる。

ただでさえ、魔導自動車という常識を塗り替える発明を見せつけられた直後だ。

今度は一体、何を披露するというのか――

その時、王の席より国王が立ち上がった。

静かに手を掲げると、ざわついていた貴族たちは徐々に口を噤み、やがて場内は水を打ったような静けさに包まれる。

拡声魔法によって、国王の声が厳かに響いた。

「皆の者。我が王国の未来は今、大きな転換期を迎えている」

堂々とした声音で、国王は言葉を紡いでいく。

「先ほど、レオルド・ハーヴェストが成し遂げた魔導自動車の発明は、王国の物流、軍備、経済に計り知れぬ恩恵をもたらすこととなろう。そして……今、ここにて披露されるものは、もう一つの偉業である」

国王が歩み出ると、騎士たちが銀の台座の傍に並び、警戒を強めた。

重罪人を護送してきた者たちだ。

「――それは、回復薬の復活だ」

その言葉は、まるで稲妻のように会場を駆け抜けた。

「なっ……回復薬!?」

「あれは、数百年前に失われたはずでは……!?」

「まさか、それを……!?」

貴族たちは一斉に騒然とし、顔色を変えた者もいた。

歴史の中に葬られたはずの知識。怪我や病気に効く万能薬。

もちろん、万能薬と言っても治せないものはある。

ただ、それでもあらゆる怪我や病気に効果があるのは確かだ。

それを蘇らせたという事実は、政治、宗教、軍、あらゆる均衡を崩しかねない爆弾だった。

だが、国王は臆さずに続ける。

「この薬を生み出したのは、我が国の優秀なる研究者たちの手によるものだ。王家直属の技術機関が主導して完成に漕ぎ着けた!」

国王が掲げたのは、功績の帰属だった。

すでに王家による主導と国家管理体制の宣言はなされた。

ならば、その成果もまた“王家のもの”であることを明言する必要がある。

「そして、ここに至る礎を築いた若き天才――レオルド・ハーヴェストにも、改めて感謝と敬意を表す」

名を呼ばれた瞬間、レオルドは静かに一礼した。

王家に手柄を譲る形とはなったが、それもまた彼の選んだ道である。

ゼアトを戦火から遠ざけるために――そして、回復薬という刃を、正しい鞘に納めるために。

国王はさらに声を張り上げた。

「よって、王国はこの奇跡の薬――回復薬を国家医療機関の管理下に置き、必要とされる場にのみ厳正に供給することとする! この薬をもって、我が民を守り、未来を繋ぐと誓おう!」

銀の盆に乗せられた小瓶が、術師の手によって掲げられる。

蒼い液体は、魔力の光を孕み、鼓動するかのように脈動していた。

そして――

騎士たちに連れられ、銀の台座の上に罪人が座らされる。

絶望と諦念に染まりきった顔。

その傍へ、一人の騎士が進み出る。

純白のマントに身を包み、腰には装飾のない実戦用の剣。

――リヒトー。

国王直属の近衛隊長にして、処断と証明の役割を担う男。

彼は無言のまま剣を抜くと、迷いもためらいもなく、その切っ先を罪人の背へと振り下ろした。

ザシュッ――

「ぐっ……!」

肉が裂け、皮膚が焼けつくような激痛が罪人の背中を貫いた。

鮮血が銀の台座に広がり、観客席からどよめきが起こる。

だが、罪人は叫ばない。

唇を噛み、奥歯を軋ませながら、ただ静かに痛みに耐えていた。

「いまの一撃で、背筋が断裂しています」

リヒトーの冷静な報告が、観衆の背筋を凍らせた。

「死ぬことはないでしょうが苦痛に苛まれることでしょう」

銀盆が再び掲げられた。

青く輝く、小瓶の中の液体。

それが傷を癒す唯一の鍵であると――

誰もが、もう疑ってはいなかった。

「—―投与せよ!」

国王の指示に、術師が瓶を傾け、青い液体を罪人の傷口に振りかける。

――その瞬間だった。

血で濡れた背中からは湯気のように魔力が立ち昇り、傷口の奥から、音を立てて肉が繋がっていく。

忌まわしい音とともに、切れた筋肉が再構成され、傷跡は見る見るうちに消えていった。

「お、おお! これが回復薬!」

「これは素晴らしい! 是非、手元に置いておきたい!」

「これがあれば、もう回復術士に高い金を払う必要もなくなる!」

観客席のあちこちで、貴族たちが呟く。

恐れ、畏れ、欲望、そして何より――確信。

この薬は奇跡だ。

再び罪人が静かに息を吐いた。

血の気が戻り、青ざめた顔には僅かに赤みが差している。

彼はゆっくりと顔を上げた。

傷一つ残っていない。苦痛も、恐怖も、すでに去っていた。

――回復薬

その効果は、疑う余地のないほどに、圧倒的だった。