軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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熱気に満ちた試乗会を終え、再び場面は会場中央の壇上へと戻る。

貴族たちの興奮冷めやらぬ中、国王はゆっくりと立ち上がり、レオルドのもとへ歩み寄った。

金と紅を基調とした王衣の裾が風になびく。

「レオルド・ハーヴェスト」

「はい、陛下」

レオルドはすぐに片膝をつき、恭しく頭を垂れた。

だが、国王はそれを制するように片手を上げると、声を張り上げた。

「その方、顔を上げよ!」

レオルドが顔を上げると、国王は朗らかな笑みを浮かべていた。

「私は満足した。この地にて、お前が成し遂げた偉業。見事である」

「……もったいなきお言葉です」

「いや、それだけでは足りぬ。この発明は、もはやゼアトだけのものに留めておくには惜しい……!」

国王は壇上に立ち、観客席を見渡した。

「諸君! 今この瞬間から、魔道自動車は王国全体の希望となる!」

喝采が再び湧き起こる。

「我が王国は、魔導自動車の開発・生産・運用を――正式に国家事業として採択する! その責任者には当然、ゼアト領主……レオルド・ハーヴェストを任命する!」

雷鳴のような拍手と歓声が場内を包む。

レオルドは再び頭を下げ、言葉を絞り出す。

「身に余る光栄……ですが、必ずや、お応えいたします! 我が王国に新たな光をもたらすために!」

その言葉に、国王は深く頷いた。

「よい心がけだ。では、皆の者――王都での祝賀を用意せよ! この偉業を称え、今宵は祝いの夜とする!」

式典の興奮が一段落した頃、レオルドが舞台裏の控えエリアに向かっていると、背後から穏やかな声がかけられた。

「いやはや……これほどの見世物になるとは、まったく。君のことは信じていたが、想像以上だな、レオルド君」

振り返ると、深緑の礼装に身を包んだ壮年の紳士――ベルナールが立っていた。

その胸には、フリューゲル公爵家の紋章が輝いている。

「ベルナール公。ご足労、感謝いたします。おかげさまで、ここまで来られました」

「礼には及ばん。君の技術と情熱があってこそだ。私など、ほんの少し便乗させてもらっただけのこと。君の、いや、ゼアトの力があってこそだよ」

ベルナールはにこやかに笑い、レオルドの肩を軽く叩く。

「それにしても、あの自動車――本当に魔導列車を超える日が来るかもしれんな。車体部分と動力炉にミスリルを使い、魔力の伝導率を上げて、安定性を出すとはね」

「ええ、出力を安定させるにはどうしても……。試作段階では通常の鉱石では制御が効かず、何度も暴走寸前でした」

「その話を最初に聞いた時はにわかには信じられなかったがね。だが、結果は上々だ。王都の連中も今日で目を覚ますだろうよ」

ベルナールは周囲を一瞥し、やや声を落とした。

「……ただし、成功すればするほど、金の匂いに群がる連中も増える。特にミスリルの流通経路は今後、争奪戦になる。そこは我々でしっかり管理しよう」

「もちろん。その点も見越して、契約書は“フリューゲル公爵家の承認を経てのみ”と明記しています」

「ふふ、それを聞いて安心した。さすがベルーガの息子だ。抜かりがない」

ベルナールは冗談めかして肩をすくめると、片手に差し出した。

「改めて、おめでとう。レオルド君。君と手を結んだのは私にとって最良の選択だったと言えよう」

レオルドも微笑んで手を取り、大きく頷いた。

「こちらこそ、協力して頂き感謝しています。今後ともよろしくお願いいたします」

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」

握手を終えてベルナールは静かに、その場を去って行く。

レオルドは一息入れて、近くにあった椅子に腰を下ろすと、そこへベルーガが現れた。

威厳のある赤色のマント、きっちりと整えられた金髪に端正な顔立ち――しかしその目は誰よりも鋭く、静かな威厳を放っている。

「……久しいな、レオルド」

「父上。ご覧になられていたのですね」

レオルドが立ち上がると、ベルーガは労うように手で制した。

「疲れているだろ。座っていなさい」

「それではお言葉に甘えまして」

「先程、フリューゲルのじじいから、褒めてやれ、と言われた。で、まあ、悪くはなかった」

「ありがとうございます」

「ただし、少しばかり演出過剰だな。お前が魔法を避けながら爆走する姿を見て、心臓が止まるかと思ったぞ。一緒に見守っていたオリビアは笑っていたがな……」

「……あれは予定外です。シャルの暴走でして。しかし、母上は相変わらず、シャルに甘いですね」

「ははっ。まあ、派手な方が民も貴族も覚えやすい。結果としては悪くなかっただろう」

そう言ってベルーガは笑った後、表情を少しだけ柔らかくした。

「……しかし、お前も世渡りが上手くなったものだな。ベルナールと手を組んで、王様に試乗させて、軍と商会の鼻先に餌をぶら下げて……。俺よりはよっぽど公爵らしい」

「お褒めに預かり光栄ですが、まだまだ父上の背中は遠いですよ」

「ふん、背中なんぞ追わんでいい。お前はお前のやり方で世界を変えろ。……まあ、それを言いたくて来た」

レオルドが少し驚いたように眉を動かすと、ベルーガは目を細めて続けた。

「私が若い頃は、お前より酷かった。もちろん、酷いと言うのは政治的な話だぞ? 人間性はまともだったさ」

「それは余計な一言です……」

「なんにせよ、私に比べたらお前は上出来ということだ。胸を張れ、レオルド。お前は立派な領主だ」

ベルーガは一瞬だけ、真剣な眼差しで息子を見つめた。

「そして、前に進め。迷わずにな。お前ならできる。……そう思わせるには、十分すぎるものだった」

「……はい。必ず、世界を変えてみせます」

ベルーガは鼻を鳴らすと、立ち去り際にポンと息子の肩を叩いた。

「じゃあ、王都で会おう。着飾るのは嫌いなんだがな」

「母上に怒られますよ、そのようなことを言っては」

「お前も変わらんだろ。婚約者のシルヴィア殿下にご迷惑をかけてないだろうな?」

「黙秘権を行使します」

「言っているようなものだぞ、それは! まったく……。誰に似たんだか」

「さあ? 誰でしょうかね?」

「こいつ……。まあいい。今日は楽しかったぞ、レオルド」

笑い声を残して去っていくその背中に、レオルドはどこか誇らしげな表情を浮かべた。

すべての式典が終わると、夕日がゼアトの空を紅に染めていた。

レオルドたちは王都へ向かうため、ゼアト郊外に設けられた巨大な転移魔法陣へと移動する。

術士たちが最終確認を終え、転移の準備は整っていた。

「それでは――王都へ」

イザベルの合図とともに、転移魔法陣が青白く輝きを放つ。

一瞬、視界が歪み、身体が浮遊するような感覚に包まれ――

――次の瞬間、そこは王都の転移魔法陣の台座の上だった。

「……何度やっても慣れねえな」

カルロスが腕を組みつつ呟く横で、すでに待機していた装飾付きの馬車が列をなしていた。

レオルドたちはその一台に乗り込んでおり、王都の大通りをゆっくりと進み始める。

わざと目立つ道を選んだのだ――これは、王城に向かうまでの見せ物でもある。

街の人々は、通りを進む一行に気づき、次々に足を止めた。

「……あれ、何事だ?」

「貴族様の馬車があんなに……! 何か、あったのか?」

「まさか戦か? いや、武装してる様子はない……?」

「でも見ろよ、あの旗印……王城直通の列じゃないか!?」

人々の間に不安と期待が入り混じったざわめきが広がる。

目を凝らせば、その列の中にはゼアト領地の旗印が誇らしげに翻っていた。

「ゼアトって……あの辺境の? こんな大行列を……何が起きてるんだ?」

確かなことは誰にも分からない。

ただ、王都を揺るがす何かが、いま動いている。

そんな空気だけが、通りを埋め尽くしていた。

レオルドはその視線の熱を馬車の中から静かに受け止めながら、窓越しに言葉を漏らした。

「……やがて彼らにも伝わるだろう。その時、喜んでもらえればいいんだがな」

子どもたちが手を振り、通りの商人や兵士までもが次々に頭を下げる。

それに応えるように、レオルドは馬車の窓を開け、軽く手を挙げて微笑んだ。

「間違いなく、今日は歴史の分岐点となることでしょう」

隣のシルヴィアの呟きにレオルドが静かに頷く。

「そうなるといいんだが」

「そうなるに決まってるでしょ~。貴族たちの反応を見れば誰だって言うわよ。今日は歴史に刻まれる日だって」

「そうです。レオルド様。もっと、自信をお持ちください」

「二人とも……。ああ、そうだな。俺たちは頑張ったんだ。皆に自慢しようか!」

やがて王城の威容が目前に現れ、その門が静かに開かれた。

白金に彩られた門の先、すでに盛大な装飾が施された中庭では、貴族たちと要人が列を成して出迎えていた。

王都が誇る最高の祝宴の始まりである。