作品タイトル不明
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開演の鐘が高らかに鳴り響いた。
会場中央に設置された壇上へ、ゆっくりとレオルドとシルヴィアが歩み出る。
その足取りは静かだが、誰もがその姿に目を奪われた。
「――会場にお越しの皆様。本日は遠路はるばるゼアトまで足を運んでいただき、誠にありがとうございます」
拡声魔法によって、彼の声は会場全体に透き通るように響く。
「この地は、辺境であり、国境の要と呼ばれる場所で、難攻不落の要塞以外は何もありませんでした。しかし我々は、ここから変えていきます。王国の未来を、そしてこの世界の運命すらも!」
その言葉に、場内の空気が変わる。
「本日お披露目するのは、我がゼアトが誇る新技術……魔導自動車! 帝国の魔道列車にも勝る発明となるでしょう!」
レオルドの合図で、舞台後方の巨大幕がせり上がる。
その奥から、ゆっくりと銀色の塊――魔導自動車が姿を現した。
美しい曲線、安定感のあるタイヤ、魔導灯が反射してきらめく車体。
一瞬、観客席からどよめきが起こる。
「おおおおおおお!?」
「なんだあれは!?」
「馬車ではない!? 全く別の乗り物だというのか!」
貴族たちの反応にレオルドは満足そうに小さく笑みを浮かべた。
まだまだこんなものではない。
見た目だけでなく自動車の素晴らしさを伝えるためにレオルドは次の一手を打つ。
「皆様、ご覧いただきありがとうございます。しかし、この自動車は見た目だけではありません。その力をお見せしましょう!」
用意していた完成車を使って実際に走っているところを見てもらうためにレオルドはレース会場へと貴族たちを案内した。
「ほう……。ここが試験会場か?」
「レース会場と言います、陛下」
「レース、か。うむ、中々にいい響きだ」
レオルドは国王を案内しながらレース会場に入る。
「では、陛下。申し訳ありませんが、ここからはシルヴィアにご案内させますのでご容赦を」
「構わん。何かするのだろう? 楽しみにしている」
「ええ。存分に楽しんでください」
そう言ってレオルドは国王の案内をシルヴィアに任せてスタートラインに用意されている自動車のもとへ向かう。
そこには魔導自動車が4台――整備班によってスタンバイされていた。
前衛的なスポーツ仕様、安定型の家庭用仕様、小型高速試作機、軍用耐久モデル。
それぞれの目的に応じた設計がなされている。
そして、スポーツカーの隣にシャルロットが仁王立ちをしていた。
「来たわね、レオルド! さあ、早く始めましょう!」
「まあ、待て。これから宣言して来る。それから、実況もしてもらわないといけないしな」
「早く終わらせてね! 私、楽しみにしてたんだから!」
「俺もさ……」
レオルドは貴族たちが着席している観客席へ顔を向ける。
そして、拡声魔法を使って声高らかに宣言した。
「これより皆様には実際に――走る姿をお見せしましょう! 私とシャルロットによる実演を行いたいと思います! 目を離さぬよう、最後までお付き合いください!」
レオルドの宣言に、会場の空気が再び動いた。
「実演か! 一体、どのようなものなのだ!? 自動車というものは!」
ざわめく貴族たちの前で、レオルドは笑みを浮かべたまま続ける。
「では、しばらくの間、お楽しみください」
レオルドは自身のカラーと同じである金色のスポーツカーに乗り込み、シャルロットも同じく赤色のスポーツカーに乗り込んだ。
ブゥン――
魔導炉(エンジン) の低音が空気を震わせる。
旗が振られ、魔導エンジンが咆哮を上げる。
――スタート。
魔導自動車は、風を切り裂き、地を滑るように駆け出した。
レオルドとシャルロットはアクセル全開だ。
「おおお……っ! なんだこの加速は!?」
「速すぎる……馬とは比べ物にならんぞ!?」
「凄いっ! 帝国の魔道列車も凄まじい発明であったが、これはそれ以上だ!」
観覧席は熱狂に包まれた。
特に、軍部に関わる貴族や商会関係者たちの目がギラリと光る。
「この技術……! 兵站と運搬だけでなく、将来的には戦術機動兵器としても応用が……!」
「輸送隊の損耗がこれで減る……! 戦争の形が変わるぞ……!」
あっという間に二人が乗るスポーツカーは見えなくなった。
だが、ゼアトの魔法研究部門が開発した魔道具、 幻晶板(げんしょうばん) にレオルドたちの姿が映し出された。
巨大な幻晶板に映し出された風景に貴族たちは、さらに驚きの声を上げるが、それ以上に二人の走る様子に度肝を抜かれていた。
「くそっ! シャル! 少しは加減しろ!」
先頭を走っているレオルドだが、その表情は焦っていた。
後ろをシャルロットが妨害とばかりに前のレオルドヘ魔法を放っていたのだ。
見事なドライビングテクニックでレオルドは魔法を避けている。
「これくらいのハンデがないと私が勝てないでしょ~!」
「馬鹿たれ! 今日は実演だから勝負じゃないだろ!」
「性能を試すにはちょうどいい機会じゃな~い! きっと、今頃観客たちは大盛り上がりよ~!」
シャルロットの言う通り、二人の様子を見ている貴族たちは大盛り上がりだ。
見たこともない自動車もそうなのだが、二人の走っている姿と魔法で妨害している光景は見る者たちにとってはいい見世物であった。
「ちっ! そうだろうな! きっと、大盛り上がりだろうよ!」
「喰らいなさ~い!」
「うおおおおおおっ!?」
前方の地面が吹き飛ばされ、レオルドは車体が傾く。
横転しそうになるもレオルドは寸前のところで耐えた。
「折角の完成品を壊そうとするな!」
「また作ればいいだけでしょ! 楽しいわね、レオルド!」
「お前はなっ!!!」
シャルロットだけでなく観客も大いに楽しんでいた。
緊張感のある実演は多くの貴族たちに印象を残した。
やがて 全ての車両が一周を終えると、場内は歓声に沸いた。
魔導自動車たちは整然と帰還し、停止。
美しかった車体が泥で汚れ、シャルロットの魔法で傷つき、無残な姿になってしまったが無事に完走したレオルドは自動車から降りる。
「いかがでしたでしょうか! 自動車の魅力が十分に……伝わったかと思います。先程の実演は少々、過激でしたが……。恐らく、自動車の性能については伝わったかと思います」
彼の声が、熱狂に一石を投じる。
「輸送、医療、教育、流通……。魔導自動車は、王国の隅々まで文明を届ける脚となるでしょう。そして、来るべき時に備える道を作るための――第一歩です」
そして、レオルドは不敵な笑みを浮かべて続けた。
「その他にも私は自動車をもっと身近なものとして普及させていこうと思います! 趣味で乗るのも良し、先程の私が行ったように見世物としてするのも良し! コレクションにするのも良し! 選択肢は皆さま次第です!」
観覧席のあちこちで、誰かが拍手を始めた。
それはすぐに広がり、波となり、やがて――喝采へと変わる。
貴族たちは立ち上がり、口々にその名を讃える。
「ゼアト……いや、レオルド・ハーヴェストに乾杯を!」
「未来はここから始まる!」
「今すぐ契約を! 製造権の枠は空いているのか!?」
貴族たちの拍手を受けてレオルドは深くお辞儀をする。
そして、顔を上げて実際に体験してもらうことを告げた。
貴族たちの拍手を受けて、レオルドは深くお辞儀をした。
そして、ゆっくりと顔を上げて告げる。
「それでは、次へ移りましょう。皆様には――実際に、自動車を運転していただきます」
場内がざわつく。
驚き、戸惑い、そして一部には明らかな興味と期待が混じっていた。
「もちろん、私たちゼアトの整備班や術士が同乗いたします。安全は万全に期しておりますので、ご安心ください」
レオルドの合図で、試乗用の魔導自動車四台が観覧台下の特設レーンに並べられる。
傍らでは、ゼアト技術部のスタッフたちが恭しく頭を下げ、乗車サポートの準備を整えていた。
「殿下、お先にいかがですか?」
レオルドが声をかけると、カルロスがニヤリと笑った。
「やっと俺の番か。待ってたぜ!」
マルコが助手席に同乗し、注意点を簡潔に伝える。
「では、魔力量制御はこの術式盤で行います。速度は六段階調整ですので、最初は二からにしてください。くれぐれも“五”にはしないように」
「へいへい、わかってるって……って、五ってどれくらい出るの?」
「殿下が想像している以上だと思ってください」
「……了解、二で行きます!」
その一方では――
「し、失礼……! 乗るのは乗りますが、本当に大丈夫でしょうか……?」
恐る恐る乗り込む老侯爵の横に、シャルロットが座った。
「だ~いじょうぶよ~。私に任せなさ~い。安全運転を心掛けるから」
「いや、先程の様子を見る限り安全運転ではなさそうですが……?」
そして、貴族たちが次々に試乗しはじめると――
「うおおおおお!? なんだこの浮遊感は!?」
「す、滑る!? え、止まらない!? いや、止まった……! すごい、これ、すごい……!!」
「ふふっ……思ったより滑らかだ。乗り心地も悪くないな」
叫ぶ者、感嘆する者、無言で感動する者――反応は様々だが、共通するのは衝撃だった。
レオルドは観覧台からその様子を見下ろし、隣にいるシルヴィアと視線を交わす。
「成功ですね」
「ああ……。触れさせることが一番だ。言葉より、乗った一回の方が千の理屈より強い」
それは、ゼアトの思想そのものでもあった。
”見せる”のではなく、体感させる。
だからこそ、彼らは革命の担い手となれたのだ。
最後の一台が帰還し、試乗体験が終わったと同時に――
スクリーンのように設置された幻晶板が空中に光を放ち、記録されていた走行映像が映し出される。
魔力によって投影された軌跡、加速時の術式変化、搭乗者たちの笑顔と驚きの表情――
それは何よりも雄弁な証明だった。
「これなら皆、買ってくれそうだな。まあ、その前に免許制度の導入にインフラの整備が必要だな~」
誰に聞かれることもなく、レオルドの独り言は会場の喧騒によって消えていくのであった。