軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◇◇◇◇

王都及びに各地の貴族邸では、突如届けられた王命に、昼夜問わず混乱と動揺が広がっていた。

それは『二日後、ゼアトにて技術革新に関する新事業の発表会を行う。王命により主要貴族は全員出席せよ』という文面だった。

「は、二日後だと!? 馬鹿な……。私にはその日、息子の婚約式があると言うのに!」

「視察? しかも辺境のゼアト!? こんな急な通達、常識ではあり得ん! いくら王命とはいえ無茶であろう……!」

老侯爵が文を握り潰し、壮年の男爵が青ざめる。

貴族会館の一室では、複数の名家が憤懣やるかたない様子で怒鳴り合っていた。

「レオルド・ハーヴェスト……! またあの若造が何か始めたのか?」

「急すぎる……! どう考えても段取りが王都の手を経ていない。これは、国王直通か? それともフリューゲル公あたりが噛んでいるのか……?」

「なぜこのような重要な発表を我々に伏せて進めていた!? レオルドは王国を私物化する気か……!」

「いや、フリューゲル公爵と組んだと聞いたぞ? となれば、これはもう単なる地方発表ではない。王国の中枢を動かす一手だ……!」

不満、不信、猜疑――。

従わねばならぬ絶対王政の命令に、誰もが従うしかない。

だがそれが逆に、不安や恐れを煽っていた。

その一方で――

「ゼアトでの発表だと? ならば、レオルド様が関わっているに違いあるまい」

静かな書斎で、眼鏡を外しながら語る若き貴族がいた。

「転移魔法の復活、斬新な結婚式、帝国軍を殲滅した兵器や魔法、王都の新しい結界開発、数々の新しい産業技術……革命を起こしてきた男の次の一手だ。どう考えても、国を変える何かがある」

「予定など後回しだ。今ここで乗り遅れれば、我が家は十年は時代に置いていかれるぞ」

「すぐに準備をしろ。使節団は増員、馬車ではなく転移魔法陣の使用許可も取りつけろ。招かれるのではなく、食らいつきに行くのだ!」

同じく、冷静に家臣へ指示を出す壮年の女侯爵もいた。

「レオルドが手掛けるのなら、下手な陰謀ではない。未来への道筋があるはず。今、見届けずして何が政治家か」

「我らが真っ先に支持を表明すれば、他の連中より一歩早く新時代へと踏み出せる。王命など待たずとも、向かうぞゼアトへ」

この混乱は、王都中の貴族社会に一斉に波紋を広げていた。

ある者は怒り、ある者は怯え、ある者は絶望し、ある者は興奮していた。

そして、その中心にある名――

レオルド・ハーヴェスト。

かつて金色の豚と呼ばれた青年は、今や王国中枢に最も近い革命の旗手として、全貴族の注目を集めていた。

貴族たちを大混乱に陥れている王命は、当然ながら他の者たちにも混乱をもたらした。

――王都・貴族街、某侯爵家屋敷の兵舎棟にて。

「おい、いま何て言った……? 二日後にゼアト行きだと?」

「そうだ。殿下直々の命令らしい。うちの当主様が今朝方お決まりになった。全員、準備せよと」

「……ふざけんな! 今週は南部領の視察同行の予定だったろ!? もう馬車も押さえてあるし、宿の手配だって――」

「やり直しだ。全部キャンセルしてこい」

「やってられっかァァァァ!!!」

怒号が兵舎内に響き渡った。

別の貴族家の詰所では――

「ま、待ってください! ゼアトって転移魔法陣が必要ですよね!? でも許可証は三日前申請のはずでは……!」

「陛下の命だ、例外中の例外だそうだ。上層部が直談判で全線優先枠を取ったらしい。……そのせいで他の案件が全部ズレ込んだがな」

「頭が痛い……!」

調整班の書記官が頭を抱え、その背中で事務員たちが大量の書状を入れ替え、転送魔法陣の使用予定を組み直していた。

――ある下士官は、詰め所の壁に額をぶつけながら呟いた。

「ついさっきまで、王都の治安回りが今週最大の仕事だったのに……どうして、急にゼアト行きなんだよ……」

その隣では、衛兵が青い顔で書状を握りしめている。

「俺なんて明日結婚式だったんだぞ……! 親戚中呼んであったのに、なんでゼアトなんかに……!」

「泣くな……泣くなよ! 俺だって母ちゃんの誕生日にケーキ届けるつもりだったんだ……!」

男たちは静かに肩を寄せ合い、魂を抜かれたように夕焼けを見上げた。

――だが、彼らは知っていた。

逆らえば職を失う。

王命であれば、なおさらだ。

「ま、まあ、レオルド様のやることだ。きっと大事なんだよ……。きっと……!」

「そうだな。なんかすごい発明とか、起きるんだろ……」

「お前、それ王都の大臣が泣きながら言ってたのと同じセリフだぞ……」

こうして、被害甚大な末端の貴族下士官たちは、誰よりも早くレオルドという名の嵐に巻き込まれていた。

◇◇◇◇

王国中で大混乱に陥っていることなど知る由もないレオルドは、今宵も変わらぬ夕食を取っていた。

「うむ、このスープ、今日も絶品だな」

レオルドは満足げにスプーンを置き、目の前の肉料理にナイフを入れる。

その隣では、シルヴィアが静かに微笑み、シャルロットは肉を頬張りながら幸せそうに頷いている。

「今日も一日ご苦労様です、レオルド様。明日も忙しいでしょうから、沢山食べて英気を養ってくださいね」

「そうよ~。倒れちゃいけないからね。沢山食べて精をつけておかないと。いざって時に力が入らないわよ~」

二人の会話に混じって、イザベルが手元の書類に目を通しながら呟いた。

「ゼアト各局は徹夜体制に入りました。会場設営は今夜中に完了予定。お披露目会の開始が十時からとなっておりますので貴族たちの到着予定時刻は、明後日の午前九頃になるでしょう。恐らくですが、予定よりも早い到着があると思いますが、転移魔法陣の配備も確認済みです」

「そうか。徹夜組には特別手当を出してやってくれ。それくらいの褒美がないとやってられないだろうからな」

「わかりました。手配しておきます」

「ああ。俺も夕食を済ませたら、現場に向かおう」

「領主が直々に動かれると現場の者たちが委縮してしまいますので自重してください」

イザベルは皮肉混じりにため息をつくが、その顔に怒りの色はない。

「う、う~ん。しかしな、ジッとしてるのは性分に合わないと言うか、なんというか……」

「レオルド様。上に立つ者として、それくらいはわかってください。部下を信じるのも領主の役目ですわ」

「まあ、そうだな……。わかった。では、安全作業を心掛けるようにだけ言っておいてくれ」

「わかりました。必ず、伝えておきます」

イザベルが丁寧にお辞儀をすると、食堂から静かに去って行く。

「そういえば、王様の命令で全貴族家がゼアトに招かれてるって話、もう王都中で大騒ぎしてるでしょうね~」

シャルロットが言いながら、ふと笑みを浮かべる。

「ええ。恐らくは下士官たちの方が泣いてますわ。突然予定変更を食らった方々は特に……」

「……想像はつくな」

レオルドは苦笑しつつも、どこか遠い目をしてグラスの水を口に含む。

そんな中――

「おかわり~!」

と、元気よくシャルロットが手を挙げた。

「……ふふ、これがゼアトの日常だなんて誰が信じることでしょうか。きっと、誰も想像できないでしょうね」

シルヴィアは軽く肩をすくめながら目を細める。

かくして、王国中が混乱と奔走に駆られる中で、ゼアトの食卓には奇妙なまでの静けさと安寧が流れていた。

夜は静かに、だが慌ただしく更けていた。

レオルドたちが一日の疲れを癒すべく眠りについたその頃、ゼアトはまるで夜明けのない要塞都市のように光と怒声に包まれていた。

「搬入完了! 次、魔導灯の設置班、第三エリアに移動!」

「案内用の標識、上下が逆だぞ! 早く修正しろ!」

怒号が飛び交い、作業音が響く。

巨大な会場跡地では、魔法の光源に照らされた仮設テントや貴族用観覧席が、蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。

その最前線――

「ジークさん、こっちで配置間違ってます! こっちが王都組、そっちが南方辺境です!」

「マジか……! くそ、もう三回目だぞ、配置図……どこいった……!」

ジークフリートは汗だくで図面とにらめっこしていた。

元は騎士としての剣に生きる男。

だが今は配置係に雑務指導、警備動線の再設計まで何でも屋だ。

その隣で、サーシャが魔導ランプを持ちながらキッと声をあげる。

「そこの新人二人! フレッドとロイス! その杭、角度がズレてる! 見栄えが悪くなるから打ち直して!」

「えー!? もう二十本は打ったぞ!? 腕が……」

「俺は仮眠すら取ってないんだが……」

ロイスとフレッドは情けない顔で杭を引き抜きながらも、黙々と作業を続ける。

サーシャの容赦ない命令が、今は逆に現場の士気を支えていた。

そして――

「ジーク君……! 私、そろそろ限界かも……目が回るぅ……」

クラリスは地図のロールを抱えたまま、その場にへたり込んだ。

「……クラリス、さっきから三回目だ。もうちょっと頑張れ」

ジークフリートが肩をすくめる。

だが、それでも彼らは動きを止めない。

その時――

「えっと、この標識は……『貴族受付→』っと……! うん、これで――きゃっ!」

標識の設置を任されていたエリナが転んだ。

足元に転がっていた資材に気付かず、見事に足を取られ、手にしていた標識と一緒に地面に転がり込む。

ガッシャーン! と大きな音を立てる。

「うわあああああ!? 痛っ……!?」

派手な音と共に、掲示板が見事に真っ二つに割れた。

一瞬、現場が静まり返る。

ジークフリートが眉をひそめ、クラリスが呆れたようにため息をつく。

「……エリナ。マジか?」

「し、仕方ないでしょ……もう眠くて……って、あれ!? これ逆じゃない!?」

エリナが焦って起き上がると、掲げようとしていた標識の文字が逆さまになっていた。

「『←受け付族貴』って……何これ!?」

「逆にしてどうすんだよ……!」

ロイスが盛大にツッコみ、フレッドは堪えきれず吹き出した。

「もう~……。エリナ、いい加減にしてよ」

クラリスも呆れ顔ながら、どこか口元が緩んでいる。

「う、ううぅ……! みんなひどい……もう寝かせて……」

エリナが涙目でうずくまると、徹夜組の一人として全体の指揮を執っていたテスタロッサが彼女の頭を叩いた。

「貴女、寝たらそのまま朝まで起きないでしょ。弱音を吐いてないでさっさと立ちなさい」

「うぅ……! わかりましたぁ……」

「さあ、あともうひと踏ん張りよ! 気合を入れ直しなさい!

深夜三時の空気の中、テスタロッサの激励が現場の空気を引き締める。

「明日、いや今日か……? 王国中の貴族が、俺たちの用意した会場を目にするんだ」

ジークフリートは空を仰ぎ、息を吐いた。

夜空には雲がなく、月明かりが静かに照らしていた。

「もう少しだけ頑張るとするかっ!!!」

その一言に、誰もがうなずいた。

不満も、疲労も、すべてを一時忘れる。

ゼアトという名の旗のもとで、彼らは立場を超えて動いていた。