軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◇◇◇◇

王都からの帰還は転移魔法陣を用いたため、一瞬だった。

ゼアトの中枢、領主館に戻ったレオルド一行を、ジェックスとバルバロトが迎えに出ていた。

「よう、お早いお帰りだな、大将」

「話が早くまとまってな。ギル、すぐに各部門の責任者たちを会議室へ集めてくれ。準備を本格化させる」

「承知いたしました」

「バルバロト、会場の設営状況はどうなっている?」

「おおむね順調に進んでおります。ですが、貴族どもの馬車や衛兵の詰所を考えると、さらに整備が必要かと」

「……よし。細部の調整は後で詰める。まずは全体の動きを確認する」

やがて、マルコ、ルドルフ、キャロライン、サーシャ、カレンらが揃い、再び会議が始まった。

「開催は二日後。王命による強制参加で、主要な貴族は全員来る。警備と設営は最大規模を想定してくれ」

「了解だ。餓狼部隊は当日、周囲一帯の警戒と索敵を担当するぜ」

とジェックスが即答する。

「自動車は試作三号機を展示予定。走行可能な簡易テストコースも設置してあります。勿論、レオルド様、シャルロット様が実際に走行させるための試作機もあります。壊してもいいのですが出来れば原型は留めておいてもらえれば、と。それから、国王陛下及びに貴族の方々にも体験できるよう用意はあります」

マルコが地図を広げながら補足した。

「音響と美観は私が責任を持って監修します。王族や貴族の目にも、洗練された都市の一端として映るように頑張ります!」

サーシャの表情はいつになく真剣だ。

「回復薬については、陛下の提案もあり、お披露目会後に王城で行われる宴の席で発表されます」

シルヴィアが一歩前に出て、静かに告げた。

「その場でのデモンストレーションには、王城の管理下にある囚人が使われる予定だ。重傷を負わせ、回復薬の効果を証明する」

テスタロッサの声に、場に緊張が走る。

「目撃効果としては最も説得力があるでしょうね~。百聞は一見に如かず。話を聞くよりは見た方が手っ取り早いでしょう。それに宣伝効果としても効果的ですね」

ルドルフが眼鏡の奥で何かを見据えるように呟いた。

彼の隣でキャロラインも同意見らしく、首を縦に振っていた。

そして、最後に全員の視線がレオルドへと注がれる。

「……やるべきことは決まったな。あとは、各自が全力を尽くしてくれ。時間は短いが最大限の努力を頼むぞ」

その一言に、皆が一斉に頷いた。

こうして、ゼアトは国家事業となった自動車のお披露目と回復薬の発表に向け、空前の準備態勢へと突入するのだった。

日が西へ傾きかける頃。

夕食の支度が始まるにはまだ早い――だが、ゼアトの中枢はすでに慌ただしさの渦中にあった。

「……な、なんなんだこれは」

初めて見るゼアトの光景にジークフリートは驚愕に固まる。

ゼアト領主館。

騎士団本部、警備隊詰所、開発局、設営班、そして厨房――すべてが、まるで戦時下さながらの慌ただしさで動いていた。

「失礼っ、部材通ります!」

「外装班! 貴族用テントの金縁は、もう少し控えめにってサーシャ様から指示だぞ!」

「回復薬の箱詰めはラベル確認してから! 逆になってたらぶっ飛ばすからな!」

飛び交う怒号と指示、駆ける足音。

その光景を、ジークフリートたちは唖然とした面持ちで見つめていた。

「まるで戦場ね……」

エリナが呟くように言い、スカートの裾を軽く握りしめる。

「いや、むしろ前線の戦場より統率が取れてる気がする……」

フレッドが無意識に背筋を伸ばす。

騎士の血が自然と反応していた。

「ジーク君、私たち、ど、どうすればいいのかな?」

クラリスが顔を引きつらせながら問いかけるが、当のジークフリートも答えに詰まる。

「……どうって言われてもな。とにかく、指示を待つしか」

その横で、ロイスが乾いた笑いを漏らした。

「発展途上だって聞いてたけど、ここまで忙しいのか。ちょっと、異動してきたの後悔しそう」

「こら、ロイス。バカ言うな」

フレッドが即座にツッコむが、内心では同意していた。

次の瞬間、警備隊のジェックスが現れ、彼らの背後から声をかける。

「おい、お前ら。見学は終わりだ。各自、割り振られた持ち場に案内するからついてこい。それから、いつまでも新人気分でいるんじゃねえぞ。明日には立派な実働部隊として動いてもらうからな」

「「「「「え……?」」」」」

ジークフリート、クラリス、エリナ、ロイス、フレッド、五人が同時に絶句した。

「ま、待ってください。私たちはまだ、状況を把握して……」

「時間は待ってくれねえんだ。ゼアトでは学習と実戦は同時にやる。最初は辛いだろうが慣れればどうってことねえ」

そう言い放ち、資料を手渡すジェックス。

彼の背後では、既に他の新兵たちが怒鳴られながら配置につき始めていた。

「「「「「…………」」」」」

全員が揃って黙り込む。

ジークフリートが額を押さえた。

「……まあ、これがゼアト流ってやつなんだろうな」

「そう思わないと、やってられないわ……」

ロイスが溜息混じりに言い、エリナも項垂れるように頷いた。

こうして、ゼアトという狂騒の渦に巻き込まれた外様たちは、否応なしにその激流に飛び込まされていくのであった。

それからジークフリートたちはジェックスに指示された場所へ、それぞれ向かった。

ジークフリートは警備の配置図を見ながら、警備隊の副官カレンに怒られている。

「その配置じゃ貴族の行列とぶつかるでしょう! もう一度考えて!」

「くっ……すまない。慣れてなくてな」

「言い訳はあとで! 今は少しでも早く仕事に慣れてください!」

一方その頃、クラリスは設営班の貴族応対研修に放り込まれていた。

「はい、笑顔が硬い! ようこそお越しくださいました、を三百回練習!」

「よ、ようこそ……って、え? 三百回!?」

厨房では、ロイスが食材搬入の仕分け作業で、名前の読めないハーブと格闘しており――

「誰だ、このシュヴァルツなんとかって……! 何に使うんだこれ……?」

フレッドはというと、荷運び班に組み込まれ、すでに額に汗を浮かべながら叫んでいた。

「お、重いっ! このミスリル製のフレームって、持ち上げちゃいけないんじゃ……うおおっ!?」

そしてエリナは医療班で回復薬の取り扱い方法を叩き込まれていた。

「ええと……こっちのラベルは、この箱に? どっち……ああもう、わかんないっ!」

回復薬のビンを思わず、床に叩きつけたくなるエリナだったが、後頭部を思いっ切り叩かれる。

「痛ったいわね~! 誰よ!?」

文句を言ってやろうとエリナは後ろへ振り返ると、そこにはキャロラインが鋭い目で睨みつけながら立っていた。

「文句を言ってないで、さっさと働け。それから、回復薬は取り扱いに注意しろ。万が一、落として割れたりでもしてみろ。その時はお前の給料が三か月分は無くなると思え」

「うっ……! わ、わかりました」

「ではな。私も忙しい身でね」

そう言って去って行こうとするキャロラインにエリナは呼び止める。

「待って。キャロライン先輩」

「……昔馴染みとはいえ、今は私の立場は上だぞ? 気安く話しかけてもらうのはやめてもらおうか」

「す、すいません。キャロライン様。あの、もう少しだけ教えてもらえないでしょうか?」

「はあ……。そこまで時間はない。巻きで教えていくから覚悟しておくように」

「は、はい!」

それぞれが、それぞれの地獄を味わっていた。

だがその顔には、ただの絶望だけでなく、どこか「やりがい」や「悔しさ」も滲み始めていた――。

本来、ジークフリートたちは、正式には“騎士”としてゼアトに迎え入れられていた。

しかし、深刻な人手不足に喘ぐこの地では、身分や役割にこだわっている余裕などない。

準備期間中は騎士であろうと関係なく、必要とあらばどんな部署にも駆り出される。

建築、警備、輸送、衛生、接客――まるで冒険者ギルドの雑用係のように、彼らは領内のあらゆる現場を走り回らされることになるのだった。

なお、当日になれば騎士としての任務に戻れるらしい。

が、果たしてそこまで辿り着ける者が何人いるのかは、まだ誰にもわからなかった。