軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◇◇◇◇

正午を少し過ぎた頃、国王からの返答が転移魔法陣によって届けられた。

文書には、 国王(アルベリオン) 自ら、日程調整の意思を記しており、「本日、午後三時に王城へ来るように」との明確な一文が記されていた。

執務室に集まったレオルド、シルヴィア、ギルバートたちは、改めて緊張を引き締める。

「ふむ。ギルバート、イザベル、王城へ向かう支度を整えてくれ。それからシルヴィア、テスタロッサ、シャル、一緒に来てくれるな?」

「勿論です」

「命令とあれば」

「一緒に行くに決まってるじゃな~い」

「では、支度をしてくれ。それから資料などの準備もな」

レオルドの言葉に、それぞれが即座に動き出す。

ギルバートは召使たちに指示を飛ばし、イザベルは王都へ向かうための馬車を準備する。

シルヴィアとテスタロッサは手分けして書類の確認と衣装の選定を行い、シャルロットは自分の服装を見ては「もうちょっと派手でもいいかしら~?」と鏡の自分に問いかけていた。

「書類は全部まとめました。地図資料と技術図面はこの鞄に、王都向けの礼式文書は封筒に分けてあります」

「ありがとう、シルヴィア。助かる」

「レオルド様、服装はこちらでよろしいかと。王都の目は厳しゅうございますから」

「何度も足を運んでいるのだから、もう少し気楽でいいのではないか?」

「ダメですよ、レオルド様。そのようなことを仰っては。見た目というものは思っている以上に大切なのですから」

シルヴィアに窘められ、レオルドは唸るが、渋々として衣装に手を伸ばす。

「……わかったよ。では、せめて一番動きやすいやつで頼む」

「動きやすさが基準なのですか……まったく、レオルド様らしいですね」

シルヴィアは小さくため息をつきながらも、微笑を浮かべていた。

「よろしいでしょう、今回はこの深緑の礼装を。格式を保ちつつ、貴方の動きにも配慮された仕立てです」

「ふむ……。確かに悪くない。ありがとう」

レオルドが着替えを終える頃には、テスタロッサとシャルロットも準備を整えて合流していた。

シャルロットは鮮やかな紅のスカートに、黒のショールを軽く羽織っており、テスタロッサは銀糸の刺繍が施された上品なワンピースで、隙のない佇まいだ。

「おそろいのように見えて、全然違うでしょ? こだわったのよ~」

「見た目の印象は重要ですからね。今日は、ゼアトを代表する顔として立つのですから」

全員が整ったのを確認し、レオルドは静かに頷いた。

「よし。準備完了だ。イザベル、馬車の手配は?」

「すでに整っております」

やがて準備が整い、全員が領主館の前に用意された馬車のもとへ向かう。

領主館の前、レオルドはゼアトの主要部門の責任者たちを中庭に呼び集めていた。

陽光を受けて整列したのは、バルバロト、ジェックス、ルドルフ、マルコ、サーシャ、カレン、キャロライン、そして執務補佐官たち。

彼らの前に立ったレオルドは、凛とした声で告げる。

「――これより我らは王城に向かう。俺たちが不在の間も、やるべきことは山積みだ」

全員の視線がレオルドに集中する。

その表情は緊張と責任感に満ちていた。

「バルバロト、騎士団の巡回強化を頼む。広場の設営は急ピッチで進む。万が一の混乱にも即応できるようにしておけ」

「はっ。お任せを」

「ジェックス、警備隊と餓狼部隊には、周辺の不審動向を徹底的に探らせろ。お披露目会を狙う輩がいないとは限らん」

「了解です。何かあれば即座に報告いたします」

「マルコ、整備班の手配を継続しつつ、自動車の再点検を怠るな。細部の一つで全体が崩れることもある」

「はい、万全を期します」

「ルドルフとキャロラインは回復薬の配備数と保存条件の再確認。不測の事態にも動じぬ備えを整えておいてくれ」

「承知しました」

「サーシャ、装飾設営の監督はお前に任せる。王の目にも美しいと映るような構成を頼むぞ」

「はい。最善を尽くします!」

レオルドは一人ひとりの目を見ながら、静かに、しかし力強く言葉を継いだ。

「それじゃ、行ってくる。留守は頼んだぞ」

一瞬の沈黙のあと、バルバロトが右拳を胸に当てて叫んだ。

「――はっ! ゼアトの名に懸けて、必ず守り抜きます!」

他の者たちもそれに続き、次々と声を張り上げる。

「了解!」

「任せてください!」

「必ずや!」

その場の空気は、静かな決意と士気で熱を帯びていく。

レオルドは静かにうなずき、振り返る。

シルヴィア、シャルロット、テスタロッサ、ギルバート、イザベルと共に馬車へ乗り込み、ゼアトの転移魔法陣へと向けて出発する。

「……行こうか。陛下のもとへ」

ゼアト郊外、転移魔法陣の広場。

白銀に輝く魔法陣が静かに光を放ち、風が周囲の草を揺らす。

馬車の中で待つレオルドたちは、最後の確認を済ませると、転移魔法陣を起動させる。

「転移開始まで、あと十秒です」

イザベルの冷静な声と共に、魔法陣の縁に配置された魔力石が淡く共鳴を始める。

空間が微かに震えたかと思うと、瞬間――光が弾け、世界が歪んだ。

王都・転移魔法陣、貴族専用転移の台座。

眩い光が収束し、ゼアトの一行が無事に到着する。

煌びやかな石畳の床には、すでに迎えの兵士たちが整列していた。

「ゼアト領主、レオルド・ハーヴェスト様一行。ご到着、確認いたしました」

近衛騎士の一人が恭しく頭を下げる。

レオルドは頷き、騎士たちの誘導に従って王城へ向かう。

「随分と用意がいいな……」

小声でそう呟いたレオルドの耳元に、ギルバートがそっと寄せる。

「陛下が直接対話の場を設けられた影響でしょう。あとは他の貴族への牽制かと」

「ふむ……。用心はしておこう」

一行は王城へと進む。

通りの兵士たちが一斉に整列し、正門が音もなく開いた。

王城の玄関前で馬車は停止し、レオルドたちは近衛騎士に従って馬車から降りた。

壮麗な回廊を抜け、赤い絨毯の上を進む一行の歩みは静かだが重い。

随行する侍従が、応接室の扉を前に振り返った。

「それでは、レオルド様。陛下がお待ちです」

「……わかった。皆、心の準備はいいな?」

シルヴィアは頷き、テスタロッサは表情を引き締め、シャルロットはふんわりとした笑みの奥に緊張を隠していた。

ギルバートとイザベルも、静かに前を見据えている。

「陛下! ゼアト領主、レオルド・ハーヴェスト辺境伯ご一行をお連れしました!」

侍従の合図と共に、重厚な扉が音もなく開かれた。

部屋の奥には、温かな陽光がステンドグラス越しに差し込む応接室。

中央の円卓には、王国の象徴である金の双頭鷲が彫り込まれている。

その席に、国王が静かに座していた。

隣には、宰相とリヒトーが控えている。

「よく来てくれた、レオルド」

「数日ぶりですね、陛下」

気さくな友人ように国王はレオルドに片手を上げる。

レオルドの背後ではシャルロット以外の者たちが国王に向かって一礼していた。

それから、レオルドは国王に座るよう促されて、対面のソファにシルヴィアと並んで腰を下ろす。

「さて、何から話そうか」

国王は顎に手を添え、何を話そうかと思案する。

「そうだな。自動車、回復薬の件も大事であるがジークフリートについても気になっていた。今、彼はどうしている?」

「そうですね。まだゼアトに来て短いですが上手く馴染んでいるかと」

「ほう? 何か問題はないのか?」

「ええ。今のところは何もありませんね。懸念していた女性関係についても今は鳴りを潜めております」

「そうか、それはよかったな。だが、油断はしないように。いつ爆発してもおかしくないからな」

「爆発は慣れっこですから」

「物理的な爆発と精神的な爆発を一緒にするな……! まったく、あの一件で私がどれだけ悩んだことか」

国王は呆れたように息を吐いたが、その表情はどこか楽しげだった。

レオルドも肩をすくめるようにして、苦笑を返す。

「まあ、ジークフリートが落ち着いているというのは、ゼアトにとっては嬉しいものだろう」

「ええ。ゼアトでも彼に興味を示す者は多いですが、本人が距離を取っている節があります」

「……自覚しているのかもな、自分の周囲にいる者たちの熱量が、どれほどのものかを」

そこへ、宰相が控えめに口を挟んだ。

「ジークフリートがゼアトで戦力として安定してくれるのは王国にとっても喜ばしいこと。……くれぐれも、その扱いには注意するんだぞ?」

「当然です。我がゼアトは、皆が役割を持ち、支え合って成り立っている場所ですから」

その言葉に、国王はうなずき、やや姿勢を正す。

国王が茶を一口含み、ふうと息を吐いた時だった。

それまで黙していたシルヴィアが、静かに口を開く。

「陛下、僭越ながら……ジークフリートに関する件で、ひとつ申し上げたいことがございます」

「ほう? どうした? シルヴィア。何かあるのか?」

国王の声には、若干の警戒と興味が混じっていた。

「先日、ヴァンシュタイン公爵家のご令嬢――エリナが、ゼアトに足を運ばれました。おそらく、ジークフリートを追っての行動かと」

「……そうか。こちらでも把握していたが、やはり動いていたか」

「はい。今は公爵令嬢ではなく、ゼアトの一員として精進しているようですが、その言動と態度には問題がありまして」

国王は一瞬だけ苦笑し、手元のカップをソーサーに戻す。

「父親であるエドワードが頭を抱えるわけだ」

「すでに陛下もご存じかとは思いますが、彼女は政略結婚を強く拒み、ジークフリートへの感情を隠しておりません。そして、何よりも彼女はレオルド様への敵対心を制御しきれていません」

「……レオルド」

「は、はい……」

「シルヴィアの言いたいことは概ね理解した。レオルドよ、お前はゼアトの領主であり、今はエリナ・ヴァンシュタインの上司であるな? いや、上司というよりは主と配下という方がいいな」

国王は背凭れからわずかに身を乗り出し、レオルドをじっと見据えた。

「主であるならば、感情で支配してはならぬ。彼女が誰を想おうと、それを否定する必要はない。だが……職務と私情は別物だ。お前がそれを見誤れば、ゼアトの統制は一気に崩れる」

「……以後、改めます。エリナには厳正に対応していくこととします」

レオルドが神妙に頭を垂れると、隣のシルヴィアも静かに続けた。

「ゼアトの秩序を乱さぬよう、私も補佐してまいります」

「うむ……それが聞けて安心した」

国王が頷いたその時、空気を読むようにシャルロットが口を開いた。

「まあまあ、難しい話ばかりじゃ気が滅入っちゃうわ~。せっかく王様とお会いできたんだし、たまにはお茶でもして、甘いお菓子でも食べましょ?」

場に柔らかな笑いが広がり、国王も「はっはっは」と小さく笑う。

「そうですな。シャルロット様の言う通りだ。少し、休憩を挟んでから話を再開するとしようか」

それからしばらくして、レオルドたちは他愛のない話で盛り上がった。

「よし、では本題に入ろうか。……自動車と回復薬の件についてだ」

「はい、陛下。あらためて、詳細をご説明させていただきます」

レオルドの声が切り替わり、場の空気が一瞬引き締まる。