作品タイトル不明
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夜も更け、ゼアトの領主館は静寂に包まれていた。
執務を終え、ようやく館に戻ったレオルドは、重い足取りで執務室に入った。
イザベルが控えており、彼の帰還を迎えた。
「お帰りなさいませ、レオルド様」
「……ああ、ただいま」
レオルドは椅子に腰を下ろし、深いため息をついた。
ジークフリートとの対話を経て、心は少し軽くなったものの、目の前には新たな課題が山積みだった。
「シルヴィアは?」
「希望者たちとの面談を終え、先ほど休まれました」
「そうか……。あの子たちには大きな覚悟が必要だろうな」
「ええ。それでも彼女たちは、ジークフリートを支えるため、そしてゼアトの未来のためにと、強い意志を持っておられます」
イザベルは淡々と報告を続けたが、その声にはわずかな誇りが滲んでいた。
「シルヴィアはよくやってくれたな……。俺も彼女に負けてはいられない」
「レオルド様、お身体をお休めください。明日からはジークフリートたちの訓練が本格化します」
「わかっている……。イザベル、今日はもう休んでくれ」
「畏まりました」
イザベルは深く頭を下げ、静かに執務室を後にした。
一人残されたレオルドは、机の上の資料に視線を落とし、無意識に手を伸ばした。
だが、手は書類に触れず、しばらくその場に留まった。
「……これからが大変だな」
呟きと共に、レオルドは目を閉じた。
ゼアトという大地、ジークフリートたち、そして仲間たち。
全てを守り抜くために、彼は再び心を奮い立たせる。
◇◇◇◇
そして、翌朝。
ゼアトの訓練場には、シャルロットの甲高い声が響き渡った。
「はいはい、こっち来て! クラリス、エリナ、もっと気合入れて動いて!」
「は、はい!」
「うう……こんなきついの、初めて……!」
クラリスとエリナが顔を赤くし、必死にシャルロットの課す訓練メニューをこなしていた。
一方、ジークフリートはバルバロトにかつてのレオルドと同じくらいしごかれていた。
しかしながらも、顔に汗を流しながら、凛とした表情で応えていた。
「へへっ、でも、これくらいじゃ負けないぞ!」
「よく言った!!! では、あと6時間はいけるな!」
バルバロトは満足げに頷き、さらに厳しい声を飛ばした。
そんな様子をレオルドが少し離れた場所から見守っていた。
「おお……。ジークの奴、頑張るな」
レオルドは感心し、ゼアトの未来に期待を寄せた。
同じく訓練場ではジークフリートのクラスメイトであったロイスとフレッドも訓練に励んでいた。
ロイスは素振りを行っており、フレッドは魔法の研鑽を行っている。
二人共、筋がいいので教えている方も気合が入っていた。
他にもジークフリートを慕ってゼアトにやってきた女性陣が張り切って訓練に参加している。
帝国戦争の時にはあまりの弱さに落胆したが、少しは成長している姿が見えた。
これならばそう遠くない内にゼアトの戦力として立派にその役目を果たすことが出来るだろう。
レオルドは満足げに頷き、自身の鍛錬を再開させた。
そしてその背後から、いつものように凛とした態度でシルヴィアが現れる。
レオルドはシルヴィアに気づき、彼女に歩み寄る。
「おはよう、シルヴィア。昨日はよく眠れたか?」
「はい。おかげさまで快眠でしたわ」
「ハハ、そうか……」
ジークフリートたちを慕ってゼアトにやってきた希望者たちの面談は心身共に疲れ果てたのだろう。
レオルドは苦笑いを浮かべていた。
シルヴィアは控えめに微笑み、わずかに肩をすくめた。
「昨日は……面談というより、希望者たちの熱意に圧倒されてしまいましたわ。皆様、ジークフリートのためなら何でもすると仰って……。正直、それだけでやっていけるのかどうかと……」
「そうか……その熱意、ジークには少し重荷になるかもしれんな」
レオルドは苦笑いを浮かべつつ、シルヴィアの肩に手を置いた。
「だが、ああいった者たちがいてくれるのは心強い。彼女たちの想いを、無下にはできない」
「ええ。だからこそ、彼女たちの想いを真摯に受け止め、応えられる体制を整える必要がありますわね」
シルヴィアはまっすぐレオルドを見上げ、真剣な声で告げた。
「私もイザベルも、シャルお姉様も、そしてレオルド様ご自身も、希望者たちを受け入れる覚悟を問われるのです。ジークフリートのことばかりでなく、彼女たち一人一人の気持ちに向き合わなければ」
「そうだな……。彼女たちはただの戦力ではない。人として、仲間として迎え入れる。それを忘れないようにしよう」
シルヴィアは頷き、軽やかに微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、レオルド様。そのお言葉を聞いて、胸がすっとしました」
レオルドは小さく息を吐き、周囲を見渡した。
訓練所の空気は、シャルロットの甲高い声と、クラリスやエリナたちの必死な声に包まれている。
そしてその中心に、真剣な表情で稽古を続けるジークフリートの姿があった。
「……早く一人前にしてやらなければな」
「ええ。まだまだこれからですわ」
シルヴィアの言葉に、レオルドもまた力強く頷いた。
「よし、俺も鍛錬を再開する。皆に示さねばならないからな、俺自身の背中を」
「はい。私も、共にお支えします」
そう言ってシルヴィアはそっと微笑み、再び訓練場の活気ある空気の中へと足を踏み入れた。
レオルドはその背中を見送り、静かに拳を握りしめた。
「ゼアトを、守り抜く――」
その言葉は、誰に向けたものでもなく、己への誓いだった。
風が吹き、訓練所に新たな一日が始まる音を運んでいた。
訓練場では、慣れない環境の中で不器用ながらも必死に剣を振るうジークフリートを、ゼアトの騎士たちが温かく、そして時に厳しく見守っていた。
その中には、かつて王都でジークフリートを密かに慕っていた者も多く、彼女たちは彼の成長を心から応援していた。
レオルドはその光景を少し離れた場所から眺め、満足げに頷いた。
「……悪くないな。これなら、ジークも力を発揮できるだろう」
「レオルド様」
声をかけてきたのはイザベルだった。彼女は手に書類を抱え、静かに近づいた。
「希望者たちの配属先と役割分担について、概ね決まりました。皆、ゼアトで役立とうという気持ちが強く、適応も早いです」
「そうか。彼女たちはただジークを追ってきたわけじゃない。自分たちの居場所を求めて、ここまで来たんだ。その想いに応えてやらねばな」
イザベルは小さく頷き、レオルドに書類を手渡した。
「それと……希望者たちの面談の最終確認をお願いします」
「わかった、行こう」
レオルドはシルヴィア、イザベルと共に、領主館の執務室へと向かった。
室内では、シルヴィアが端正な顔立ちを崩さず、几帳面に書類を整えて始める。
希望者の名簿、経歴、希望する役割、そして今後の課題。
全てが整理され、整然と机上に並べられている。
「お待たせしました、レオルド様」
シルヴィアは微笑みながら、整えた書類を示した。
「こちらが、希望者たちの配属先一覧です。それぞれの適性を考慮し、配置いたしました」
レオルドはその書類に目を通し、ゆっくりと頷いた。
「……ありがとう、シルヴィア。彼女たちの新たな一歩、俺たちも支えてやらないとな」
「ええ。彼女たちはジークフリートを支え、ゼアトを支える存在となるはずです。それに……」
シルヴィアは少しだけ笑みを深めた。
「……私の部下として頑張ってもらいたい者もおりますからね」
「……ほう? いい人材でもいたか?」
「ええ。将来、役立ちそうな方は何名か」
「そうか。そういうことなら好きにしてもいいぞ」
シルヴィアの声には、ほんの僅かな期待と、深い信頼が混じっていた。
レオルドは決意を込めて呟き、シルヴィアに目を向ける。
「これからも、頼りにしてるぞ」
「はい、レオルド様」
新たな仲間を迎え、ゼアトは確実に力を蓄えていく。
その力が、いずれ訪れる魔王の脅威に立ち向かう力となることを信じて――。