軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ジークフリートを新たに迎えたレオルドは、執務室の窓からゼアトの風景を眺めていた。

王都から帰還したばかりの領内は穏やかな空気に包まれている。

だが、その穏やかさの裏で、心中に浮かぶのはこれから訪れるであろう嵐の気配だった。

「(ヒロインたちの件……ジークフリートが身辺整理の際に説明した通り、希望者はかなり多い。全員を養えるほどの財力はあるが、問題はそこじゃない)」

レオルドは指先で机を軽く叩き、無意識にため息を吐いた。

「(……クラリスだ。彼女と和解しなければ、ジークをゼアトに迎える話は進まないはずだった)」

しかし、事態は意外にもあっさり進んでしまった。

ジークフリートは迷いを断ち切り、自らゼアトへやってきた。

順序が逆になったことに、レオルドは一抹の不安を抱いていた。

「(あいつは強い。だが、その強さを本物にするには……)」

レオルドは低く呟く。

「絆の力か……」

ジークフリートの強さは単なる剣技だけではない。

彼の中に眠る、誰かを信じ、誰かと繋がる力――絆の力こそが、魔王の脅威に対抗する鍵となる。

「付与術士としてのクラリスの力も必要だ」

レオルドは視線を窓から外し、机に広げられた書類に目を落とした。

「(彼女はジークフリートにとっても、ゼアトにとっても重要な存在。過去の因縁に決着をつけなければ……)」

彼の中に浮かぶのは、ゼアトに向かう途中で見たクラリスの姿。

王都での滞在時、イザベルを通じて彼女の動向を掴んでいた。

彼女は今、ゼアトの領内に滞在しているはずだった。

「(……ならば)」

瞳を閉じて、レオルドは腹を括った。

「イザベル」

「はい、レオルド様」

控えていたイザベルが即座に応じる。

「クラリス嬢の所在を確認してくれ。……出来れば、直接話をしたい」

「畏まりました。すぐに手配いたします」

イザベルは礼を取り、静かに執務室を後にした。

レオルドは机に肘をつき、額を押さえた。

「これで、ようやく順序を整えられる……」

呟きと共に、彼はゆっくりと椅子に背を預けた。

「(クラリスとの和解――それが、ジークフリートの力を完全なものとするための最初の一歩だ)」

レオルドは目を開き、これから訪れる試練と、決意を胸に刻み込んだ。

イザベルの迅速な手配により、王都からクラリスがゼアトに招かれた。

その面会を前に、レオルドは気持ちの整理を行うため、シルヴィアのもとを訪れていた。

陽光が差し込む領主館のテラスで、執務を終えて一服していたシルヴィアは一人静かに紅茶を口にしていた。

その優雅な姿に、レオルドはしばし言葉を失い、そして歩み寄る。

「……シルヴィア」

「レオルド様。顔色が少し険しいですわね……」

シルヴィアは柔らかな声で問いかけ、そっと椅子を勧めた。

レオルドはその隣に腰を下ろし、深く息をついた。

「これから、クラリスと向き合うことになった。彼女に謝罪し、そして和解を望む……。それが、ジークフリートの力を強めるために必要なことだと理解している」

「ええ……。クラリス嬢との過去があったからこそ、今の貴方がいるのでしょう」

シルヴィアの言葉には、優しさと同時に、強い信念が込められていた。

レオルドは少し口元を緩め、視線をテーブルに落とす。

「ただ……いざ向き合うとなると、昔の罪が心を刺す。彼女を傷つけた俺が、どの面下げて和解を求めるのかと……」

「それでも、貴方は変わった。今の貴方なら、過去を受け止め、前に進めますわ」

シルヴィアはそっとレオルドの手を取り、その温もりを伝える。

「大丈夫。貴方は、ゼアトを、そして私たちを導く人です。……貴方を信じています」

「……ありがとう、シルヴィア」

その言葉に、レオルドは深く息を吐き、決意を込めた目でシルヴィアを見つめる。

やがて立ち上がり、静かに告げた。

「行ってくる。クラリスと向き合ってくる」

「ええ……お帰りをお待ちしておりますわ」

シルヴィアの微笑みに背を押され、レオルドは再び歩き出した。

クラリスとの面会が、いよいよ始まる。

場所はゼアト領主館内の一室。

窓から柔らかな陽光が差し込み、緊張感を和らげるかのような穏やかな空気が漂っていた。

部屋の扉が静かに開き、淡い色のドレスを纏ったクラリスが姿を現した。

以前よりも落ち着いた雰囲気を纏い、その瞳には複雑な想いが宿っている。

「……お招きに応じて参りました、レオルド様」

どこか硬い口調だったが、そこにはかつての憎悪や拒絶の色は見えなかった。

レオルドは深く頭を下げ、ゆっくりと席を勧める。

「来てくれて感謝する、クラリス嬢」

クラリスはためらいながらも椅子に腰を下ろした。

二人の間には、静かな空気が流れる。

「……話は聞いております。ジーク君がゼアトの騎士として働くそうですね」

「ああ。ジークの力が必要だったからな……」

レオルドは言葉を選びつつ、クラリスに視線を向ける。

クラリスは頬にかかった髪を指で払いつつ、目を伏せた。

「正直……貴方に呼ばれるとは思ってもいませんでした」

「……だろうな。だが、だからこそ呼んだ。謝罪しなければならないことがある」

レオルドは深く頭を下げる。

「クラリス嬢、あの時……俺は君を傷つけた。俺の未熟さと傲慢が原因だ。心から、申し訳なかった」

低い声に、クラリスは驚いたように目を見開いた。

そしてすぐに、視線を逸らし、テーブルの木目をじっと見つめた。

「……私、ずっと貴方を恨んでいました。あの時のこと、簡単に許せるものではないって」

「分かっている。許されるとは思っていない。ただ、今の俺ができることをしたい」

沈黙が落ちる。

しかし、その沈黙は、これまでのわだかまりが少しずつ溶けていくような、柔らかなものだった。

「……ジーク君は、貴方のことを信じて、ゼアトに来たんでしょ」

「……ああ」

「……貴方のことは決して許せないけど、その力は信じられる。だから、もし貴方が贖罪をするというのなら――」

クラリスの声は震えていたが、瞳はまっすぐレオルドを見据えていた。

「私に力を貸して欲しい。ジーク君の隣に立つために」

レオルドは小さく、だが確かな笑みを浮かべた。

「ありがとう、クラリス嬢。君の信頼に応えられるよう、必ずや全力を尽くす」

クラリスはわずかに頬を染め、目を伏せて小さく頷いた。

「……それならいいです。私もゼアトのために力を尽くします。ですが、それはあくまでジーク君のためだということを忘れないでください」

「分かっている」

ようやく二人の間に和解の兆しが見えたその瞬間、扉の外からイザベルの声が響いた。

「失礼いたします。レオルド様、クラリス様、準備が整いました」

クラリスは立ち上がり、少し緊張した面持ちでレオルドに一礼する。

「これからが本当の始まりですね」

「……ああ」

「裏切ったりしたら、承知しませんから」

「無論だ。君がジークと添い遂げられるよう尽力しよう」

「後ろ盾になってくれれば十分です。私は貴方と違って卑怯な真似をしたくはありませんから」

「痛いところ突いてくる……。分かった、あくまでも俺は補佐というわけだな。出来るかぎりのことはさせてもらおう」

「頼りにしてます」

二人は扉に向かい、ゆっくりと歩み出した。

ゼアトの未来のために、そして新たな絆を紡ぐために。

クラリスが部屋を出た後、レオルドは深く息を吐き、肩の力を抜いた。

「……ふう。なんとか話はついた、か」

扉の外から控えていたイザベル、シルヴィア、そしてシャルロットが、静かに部屋へ入ってきた。

イザベルは穏やかな表情でレオルドに近づく。

「お疲れ様です、レオルド様。和解の場としては、十分な結果だったかと存じます」

「……まあな。完全に許されたわけじゃないが、今はそれでいい」

シルヴィアが柔らかな微笑みを浮かべ、椅子に腰を下ろす。

「クラリス嬢の心情を考えれば、これ以上の譲歩は求められませんわ。むしろ、彼女なりの覚悟が見えてよかったです」

シャルロットがにこやかにレオルドの肩を叩いた。

「私はよく知らないけど、一度無理矢理襲った子でしょ~? よく話し合いに応じてくれたわね~」

「いや、どちらかと言えば、彼女の気持ちの整理ができていたからこそだ。俺はその場を整えただけだよ」

イザベルが冷静な声で続けた。

「それでも、和解の場を用意し、真摯に向き合ったのはレオルド様のお力です。これでゼアトにおける不安要素は一つ減りました」

「だが、まだジークの女難問題は残ってるけどな……」

レオルドが苦笑をこぼすと、シルヴィアも肩を竦めた。

「ええ、それはこれからの課題ですわね。でも、彼の決意は確かなものでしたし、クラリスもジークフリートを支える気持ちを持っている。これからが本当の始まりです」

シャルロットはにやりと笑い、腕を組む。

「クラリスも来たことだし、次は本格的にジークフリートの修行に入るわよ~。楽しみ楽しみ!」

レオルドはシャルロットの調子に苦笑しつつも、シルヴィアやイザベルの視線を受け止める。

「ありがとう、みんな。これでようやく、先に進める」

その言葉に、全員が小さく頷いた。クラリスとの和解は完了し、ゼアトの陣営は新たな一歩を踏み出す準備を整えた。

そして、その歩みの先に、ヴァンシュタイン公爵家の影が、静かに近づきつつあった――。