軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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応接室の空気は、まるで鋼のように張り詰めていた。

国王(アルベリオン) は深く座り直し、卓上に置かれた厚い資料の束に視線を落とした。

それはイザベルとギルバート、シルヴィアたちが精魂込めて作り上げた、回復薬の制度草案と試作品の報告書である。

「全て読ませてもらった上で言わせてもらおう……」

緊迫した空気の中、国王は鋭い目でレオルドを見詰める。

「ここまで細かくビッシリと書かれているから、このままで全然問題ないぞ? むしろ、よくここまで細かい部分に目を付けたと褒めたいところだ。なあ? 宰相、お主もそう思うだろう?」

「そうですな。私も拝読させていただきましたが、実に素晴らしい草案でした。このまま正式なものとして発表しても問題ないくらいです」

「だ、そうだ。レオルド、自動車の件も同じだ。私たちは、お前から貰った草案をもとに法を敷こうと思うのだが、どう思う?」

「どう思う、と言われましても……最終的に決めるのは陛下ですので」

「そうなのだがな~。情けない話ではあるが、これまで前例がなく、どのようにするか決めかねていたところにお前からの草案を見て、目から鱗だったぞ!」

レオルドを褒めるかのように手を叩く国王は話を続ける。

「で、だ。私としては気になっているのがお披露目会だ。ゼアトで特別な場所を使って開催するとしか書かれていないがどういうものになるんだ?」

新しい玩具について気になって仕方がない子供のように目を輝かせている国王にレオルドは口元を小さく釣り上げる。

「それはお楽しみということで」

「そうか。確かに楽しみは後にとっておくべきだな」

「ええ。ご期待に沿えるかは分かりませんが、陛下にもお楽しみいただけるよう精一杯務めるつもりですので、その時はよろしくお願いします」

「お前にはいつも驚かされているからな。今回も楽しみにしておこう」

小さく笑みを浮かべていた国王だったが、すうっと目を細め、応接室に再び緊張感が走る。

「さて、気安い話はここまでにして……」

国王は一瞬、宰相リヒトーと視線を交わし、やや苦笑気味に眉を上げた。

「ジークフリートの件についてだが……」

静まり返る室内に、重い言葉が響いた。

国王の瞳が、鋭さを増してレオルドを射抜く。

「はっきり言わせてもらうが、ジークフリートをゼアトに勧誘する理由が分からん。今のゼアトにはお前を含め、シャルロット様もいる。さらには帝国戦争の際に見たこともない兵器や広域型殲滅魔法と戦力は十分どころか過剰とも言えるものとなっている。だと言うのに、何故ジークフリートをゼアトに勧誘するのかが分からん」

沈黙。

応接室の誰もが言葉を発せぬ中、レオルドはゆっくりと息を吸い込んだ。

「その件に関しては……」

レオルドは拳を握りしめ、覚悟を決めたかのようにシルヴィアへ目を向ける。

彼女はレオルドの拳にそっと手を重ねて、小さく笑みを浮かべながらゆっくりと頷いた。

レオルドは以前から用意していた答えを国王に伝える。

臆することなく国王の問いに、沈黙のまま視線を返した。

そして、ゆっくりと口を開く。

「陛下。私は、王国だけでなく――この大陸全土に迫る見えざる災厄に備えております」

国王の眉がわずかに動く。

宰相が無言で頷き、続きを促した。

「詳細は未だ不明です。しかし、静かに、そして確実に訪れるでしょう。もしかしたら、明日にでもその時は来るかもしれません」

「お前は一体何を……?」

怪訝そうに眉を顰める国王にレオルドは今まで隠してきていたことを明かす。

「魔王……そう呼ばれる存在が、再び現れようとしている。おとぎ話でも、神話でもない。確実に、現実の脅威として――」

「魔王だと!? 確かに存在はするだろう。過去の文献にも記録されているが……魔王が現れる周期は数百年だぞ? 前回の魔王が現れてまだそう時間は経っていない。レオルド、魔王に備えるのは分かる。だが、あまりにも時期尚早ではないか?」

国王は静かに呟く。だが、レオルドの目は揺らがない。

「私は本気です。そして、その時に備えて戦力を集め、備蓄を進め、技術を整えているのです。ジークフリートも、そのための要。回復薬もまた、失われた希望を繋ぐ鍵となるでしょう」

室内に重たい沈黙が落ちた。

ただ、窓の外で揺れる木々の音だけが、静かに響いている。

「……お前は確信しているのか? 魔王が近い内に現れるということを」

やがて、国王がレオルドの言葉を半ば信じるようにぽつりと呟いた。

「はい」

レオルドは真っすぐに答えた。しばしの沈黙が室内に訪れる。

その沈黙を破ったのは、宰相だった。

細身の指で机を叩き、慎重かつ鋭い目をレオルドへと向ける。

「……レオルド。お前の言う魔王について、いささか疑問が残る」

「疑問?」

「確かに、魔王の存在は過去の記録にも明確に記されておる。だが――その出現には一定の周期がある。前回の魔王の出現からまだ百年も経っておらん」

宰相は目を細め、言葉を慎重に選びながらも、一歩も引かぬ気迫を滲ませる。

国政を支える重鎮として宰相はレオルドを威嚇するように睨みつけながら話を続けた。

「魔王の名を出せば、誰もが納得する。だが、それを口実にお前が戦力を独占しようとしている可能性も、否定はできぬ。お前ほどの知略を持つ者であれば──尚更な」

宰相のもっともな疑問に室内の空気が、わずかに緊張する。

レオルドは、宰相の言葉を真っ向から否定することもなく、ただ静かに言った。

「……私の言葉が信じられぬのなら、信じなくて結構です」

弁明するわけでもなく、レオルドは静かに言い放った。

その声音には怒りも焦りも悲しみもない。

ただ、揺るぎない信念と意思だけがあった。

「ですが、――もし、私の予見が真実であったとき、備えなかったことを悔やむのは、王国そのものです」

重く、深く落ちる沈黙。宰相の眉がわずかに動いたが、レオルドは構わず言葉を続けた。

「ふう……」

理性的に、されど情熱的に。頭は冷静に、心は熱く。

レオルドは建前と本音を使い分けながら、宰相を説得しようとしたが本心が叫んでいた。

それでいいのか、と。本当にそれで正しいのか、と。

たとえ、罵られることになろうとも、侮蔑の目を向けられようとも、この場で首を斬られることになろうともレオルドは己の内側にあるマグマにも劣らない煮え滾る想いを隠したくはなかった。

ずっと運命に打ち勝つためだけに走り続けて来たのだ、レオルドは。

腹を括り、覚悟を決めてレオルドは瞳に炎を宿して胸の内を曝け出す。

「はっきりと言おう! 俺が守りたいのは己自身であり、また大切な者たちだ。家族、友人、ひいては領民たちだけだ! 王国などその付随するものに過ぎん! 死にたければ勝手に死ね! だが、俺を! ゼアトを巻き込むな! あそこは俺の、俺たちの故郷だ! 戦うと言うのなら徹底的に戦うぞ! 命を尽くし、魂を燃やし、俺という存在が灰になって散るまで俺は戦うと決めているんだ! この想いを、この覚悟を! 俺は最後まで貫き通す!」

怒り、熱く、それでいて堂々と、レオルドは口を閉じた。

その瞳には、疑念を向けられてもなお揺るがぬ覚悟と、守るべき未来が宿っていた。

今、この場で不敬だと断じられても構わないとばかりにレオルドは構えていた。

レオルドの叫びにも似た本心に、執務室は静まり返った。

国王は、しばらく何も言わなかった。

窓の外に視線を投げかけたまま、まるで遠くの空に、何か見えぬものを探しているようだった。

「……ふっ、若いな、お前は」

やがて、ぽつりと呟いた言葉は、責めでも、諌めでもなかった。

「だが、その若さは時に──世界を変える力となる」

国王はゆっくりとレオルドに振り返り、視線を合わせた。

「お前の言葉は傲慢にも映る。だが、虚言には聞こえぬ。己の命すら賭けて、それでもなお守ろうとするものがある。ならば、王として、それを否定する道理はあるまい」

その声に、これまで沈黙を守っていた宰相も肩をすくめ、小さく笑う。

「……まったく。手のかかる男ですな、レオルドは」

「いや~、首を切らないで済んで良かったよ~」

王の護衛としてリヒトーいつでもレオルドを処罰できるように剣の柄に手をかけていた。

「ふふ、ドキドキしたわ~! 今の啖呵は中々よかったわよ~」

それと相対するようにいつでも魔法を撃てる準備していたシャルロットは先程の光景を見て、胸が高鳴っていた。

リヒトーはお咎めなしと分かり、嬉しそうに剣の柄から手を離したのである。

レオルドは無言で頭を下げた。

そこに威圧も、過剰な感情もない。誠意だけがあった。

「お前の本気は伝わった。──だが、それを私が認めたところで、国全体が従うとは限らぬぞ?」

「承知しております」

「ならば、己が旗を振れ。ゼアトの名のもとに。その旗印が、やがて王国を導く灯となるなら──私はその時、喜んでお前の背中を押そう」

その言葉は、紛れもなく王の赦しだった。

「感謝いたします、陛下」

深く頭を下げるレオルドの後ろで、シルヴィアが静かに微笑む。

その瞳には、涙が光っていた。

「—―だが、話はまだ終わっておらんぞ」

国王は片手をあげ、宰相の方を一瞥する。

いい感じに纏まりかけていたが、まだ話は残っている。

「ジークフリートの件も含め、正式な布告には手続きが要る。よいな?」

「……はっ。謹んでお引き受けいたします」

「それとレオルド。あまり無茶をするな。貴様が本当に灰になってしまっては、我が国の損失であるが……なによりもお前が守るべき大切な者が悲しむだろう?」

暗にシルヴィアを泣かせるな、と国王は言っている。

その言葉に、レオルドは微かに笑った。

「分かっています。それに俺という存在が燃え尽きる時は、きっと、すべてを終わらせた時です。ええ、必ず……!」

国王に約束するレオルドは膝の上で拳を握り締めた。

その握り締めた拳にそっとシルヴィアが手を重ねてくる。

「シルヴィア……」

「レオルド様。大丈夫です。私がお傍で支えますから」

その言葉にレオルドは目を見開き、やがて小さく微笑むとシルヴィアの手を握った。

「ああ。二人でならどんな困難も乗り越えられるだろう」

「ええ……」

「んん! ロマンチックなところ悪いが話は終わったけではないからな?」

国王がなるべく二人の雰囲気を壊さぬように気配りするも、大して意味はなかっただろう。

慌ててレオルドとシルヴィアは離れ、お互い顔を赤くして下を向いていた。

「さっきと同じ人物とは思えんほどですな」

「言ってやるな、宰相。ちょっと、周りが見えてなかっただけだ」

「なるほど。恋は盲目と言いますからな~」

「初々しいね、二人じゃないですか。僕はいいと思いますよ」

「いいじゃな~い。ラブラブで~! 私は好きよ、そういうの~!」

二人の初々しい反応に室内は和やかな空気となる。

「さて、ジークフリート・ゼクシアの件に戻るとしよう」

国王が、再び場を引き締めるように声を発した。

「彼の実力と忠誠心は、我が国の騎士団長ベイナードからも高く評価されておる。だが同時に――彼を巡る女難と人間関係が、今や王都においても問題視されているのも事実だ」

「……はい。その点についても覚悟のうえです」

レオルドが答えると、宰相が一枚の資料を広げた。

「二十人を超える女性がジークフリート殿を慕い、その中には王家の姫君すら含まれる……。お主の領地ゼアトにそのすべてを受け入れるというのは、なかなかに冒険的な采配だな」

「そのリスクも承知の上での決断です。彼女たちの中には優秀な者も多く、真に国を動かせる器を持つ者たちです。力を借りるべきだと判断しました」

国王は静かに椅子の背に身を預ける。

「ふむ……。我が娘—―クリスティーナのことも含めて、複雑な問題を孕んでいるな」

シルヴィアが言葉を添える。

「その件については、私が責任をもって調整にあたります。姉のことも、正面から話し合うつもりです」

「うむ。お前たちならば任せてもよかろう。だが忘れるな、ジークフリートを引き入れれば、王都騎士団だけでなく、他の貴族派閥からも警戒される。彼は希望でもあり火種でもあるのだ」

「肝に銘じております」

レオルドは深く頭を下げる。

その背には、ゼアトを担う覚悟と、未来に抗う意志がしっかりと刻まれていた。

「ところで一つ聞きたいのだがジークフリート本人はこのことを知っているのか?」

「一応、手紙を出しております。返事はまだ来てないのですが……」

「そうか。では、一旦ここまでにして、別の者に話を聞こうか」

それから、国王は騎士団長ベイナードを応接室に呼び寄せるのであった。