作品タイトル不明
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やがて日が完全に沈むと、邸内には柔らかな灯りがともり始めた。
晩餐の準備も整い、広々とした食堂にレオルド一行が集う。
テーブルの中央には、ローストビーフやポタージュ、色とりどりの付け合わせが並び、銀の食器が高級感を添えていた。
どれもレオルドの期待していた通り、肉料理がメインである。
「さて、全員揃ったことだし、食事にしようか」
ハーヴェスト家当主であるベルーガが音頭を取る。
レオルドが座ると隣にシルヴィアとシャルロットが陣取った。
三人の前にはオリビア、レグルス、レイラの三人。
ベルーガは家長なので一人上座である。
「さあ、召し上がれ。遠慮はいらないわ」
オリビアの言葉に続き、皆が手を伸ばす。
シルヴィアもシャルロットも自然と笑みを浮かべ、和やかな空気が食卓を包んだ。
「……実家で食べる料理はいつもと違う気がするな」
「雰囲気もあるでしょうから」
「そう~? 私はいつもと同じ気がするけど?」
「お前の味覚がバカなだけだ」
辛辣なことを言うレオルドにシャルロットはムスッと顔を顰める。
「悪いことを言う口はこの口かしら~」
「ムゴッ!?」
ローストビーフをフォークで刺して口に運んでいたら、顎が外れてしまいそうなくらい大きな氷がレオルドの口を塞いだ。
慌てて氷を吐き出して、咽るレオルドは若干の涙目でシャルロットを睨みつける。
「レオルド。今のは貴方が悪いわ。シャルロットさんに謝りなさい」
「ぐ……」
一連のやり取りを見ていたオリビアがレオルドを咎めた。
省みても自分の言いようが悪かったのは確かなのでレオルドは何も言い返せず、グッと堪える。
「先程はすまなかった。俺が言い過ぎたようだ」
「仕方ないわね~。アーンしてくれたら許してあげるわ」
甘ったるい声でふざけたことを言いだすシャルロットにレオルドは手が出そうになった。
しかし、悪いのは自分だと認めたばかりだ。
かといって、家族に婚約者も同席している場でシャルロットにそのような真似は出来ない。
「シャル。悪いがそれは勘弁してくれ……」
「え~、いいじゃない。それくらい。ね? シルヴィア」
「そこで私に振りますか……。シャルお姉様」
大きく息を吐くシルヴィア。
シャルロットの悪戯好きには困ったものだが助けられた場面もあるのは確かだ。とはいえ、限度というものがあるだろう。
「シャルお姉様。レオルド様は私の婚約者です。しかも、今はレオルド様のご実家であるハーヴェスト家でのお食事中ですので悪ふざけはおやめください」
「シルヴィアにそう言われたら仕方ないわね~。今回はオリビアとシルヴィアの顔に免じて許してあげる」
「……また今度、改めて謝罪する」
頭を下げるレオルドは食事を再開させる。
空気が重たくなったのを感じる。
しかし、いつものことなので先程のやり取りはなかったように談笑が始まった。
「なんというか、お前たちはいつもこうなのか? まあ、静かすぎるよりは良いが……」
先程のやり取りは見ていてハラハラするようなものだった。
ベルーガからすればレオルドがシャルロットに喧嘩を売っているように見えたのだ。
相手は世界最強の魔法使い。
機嫌を損ねたらどうなるかは歴史が証明している。
国一つを簡単に滅ぼせるような相手を怒らせるような真似は出来れば控えて欲しいだろう。
レオルドとシルヴィアとシャルロットの三人にとっては普段の会話なのかもしれないがベルーガはそうでない。
三人の普段からの言動など一切知らないのだ。
だから、内心怯えている。
シャルロットがいきなり怒り出さないかと。
とはいえ、ずっと無言でいるのも不自然だろう。
ベルーガは意を決して口を開いた。
「お前達は普段からそうなのか?」
「まあ、そうですね……」
「申し訳ありません。ベルーガ様。困ったことにお二人は普段と変わらない様子でして……」
「まるで私達が問題児みたいな言い分ね~」
「間違ってないだろ。シルヴィアからすれば俺達は問題児だ」
「自覚しているなら直したらどうだ?」
「パパさん、世の中には不可能なことなんていくらでもあるのよ~?」
「そ、そうか。よく分かったよ」
「父上、諦めないでくださいよ。年長者としてシャルに一言ガツンと言ってやってください」
「レオルド。人間、誰にでも出来ないことはあるんだ」
「情けねえ~な~、親父!!!」
「あ! お前、また親をそのように呼んで!」
口論が始まるかと思えばオリビアが大きく咳払いをして黙らせる。
「ンンッ!」
そして、ベルーガとレオルドにニッコリとした笑顔を向けた。
「……父上、マナーが悪いですよ」
「そういうお前もな」
「二人共?」
「「すいませんでした!」」
「全く……」
困ったように息を吐くオリビア。
その様子を見て他の者達は思わず笑ってしまう。
「ふふ、楽しいですわね」
「ええ、そうね~」
「お父様とお兄様は相変わらずですね」
「少しは学習したらいいのに……。どうして、お二人は学ばないのかしら?」
「レイラ、いいのよ。あの二人はアレで」
穏やかな雰囲気であるが、当人であるレオルドとベルーガは針のむしろだ。
二人は話題を変えようと顔を合わせる。
「父上、何かいい話題はないのですか?」
「そういうお前にはないのか?」
「ないです」
「近況報告とか色々あるだろう。それにフリューゲル公爵と面会することも知っているんだぞ」
「流石、耳が早いですね」
「今度は何を企んでいるのだ?」
「オホン。二人共、そこまでにしておきなさいね?」
「「はい」」
またもオリビアに咎められ、二人は揃って頭を下げる。
そもそも食卓で内緒話など出来はしない。
勿論、二人もそれはわかっている。
分かっているからこそやったのだろう。
少しでも楽しい食卓にするために。
「そうだ、レグルス。最近の学園の成績はどうなんだ?」
レオルドが弟のレグルスに顔を向ける。
一応、オリビアの方から双子のレグルスとレイラは元気に過ごしていると報告は逐一貰っていたが学園での様子などは語られていない。
「はい。魔術学では上位を維持しています。戦術論のほうはまだ伸びしろがありますが、シルヴィア様からいただいた資料が大いに役立ちました」
「ふふ、役に立ったなら何よりですわ。あれは王国騎士団の教育資料の抜粋でしたので、実践向きでしょう」
「ありがとうございます、シルヴィア様!」
誇らしげに笑うレグルスに、シルヴィアも少しだけ得意気な笑みを浮かべた。
一方、レオルドはさりげなく隣のレイラを見やる。
「レイラは……あまりしゃべらないな。元気にしていたか?」
「喋りたいけど兄様が喋らしてくれないじゃない! どれだけ喋ってるのよ!」
「い、いや、それほど喋ってるわけじゃないが」
「喋ってるわよ! 私だって色々とシルヴィア様やシャルロット様とお話したいのに、さっきから兄様がペラペラと!」
「す、すまん。気を付ける」
「ふん! 後でお二人とは沢山お話するから」
「ええ、レイラ様。夜寝る前に沢山お話ししましょうね」
「私もいいのかしら~?」
「はい。勿論です! 普段の兄様について沢山教えてください! 後、出来れば魔法についても教えてもらえると嬉しいです!」
「それくらいならお安い御用よ~」
「わあ! ありがとうございます!」
シャルロットから魔法を教えてもらえると知ったレイラはニッコニコ顔だ。
レオルドは懐かしさとほんの少しの寂しさを感じた。
兄としての立場がシャルロットに奪われたような気がして。
「レイラはいつも通りね。変わらないことも大事な美徳よ」
オリビアがフォローするように微笑んだ。
やがて食事も中盤に差し掛かり、話題は自然と領地のことへと移っていく。
「ゼアトは最近どうだ?」
ベルーガの問いに、レオルドはすぐに反応する。
「順調です。シルヴィアと共に街道の整備と市場の拡充を進めています。シャルロット殿の協力で魔道照明の導入も進んでおり、夜間の治安も改善傾向にあります」
「ふむ。上手くやれているようで何よりだ」
「……ありがとうございます」
短い言葉の中に父からの評価と確かな信頼を感じた。