軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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昼食と甘味で満たされたレオルド一行は、王都の中心から少し離れた上流貴族の邸宅街へと足を運んでいた。

静かな通りに面して建つのは、堂々たる佇まいの屋敷――ハーヴェスト家。

レオルドの実家であり、彼が領主として生まれ育った場所である。

「思えば実家に帰ってくるのも久しぶりだな……」

「そうですな。坊ちゃまは近況の報告だけ済ませてましたから、もう随分と戻られておりません」

立派な鉄の門の前で足を止め、レオルドは目を細める。

薔薇が咲き誇る庭園、白い壁に緑の蔦が絡み、威厳と優美さを兼ね備えたその姿は、まさに名門の証だった。

「イザベルが先に伝えてくださっていますので、すぐに通していただけるはずですわ」

「余計なことを言ってなければいいのだが……」

「イザベルは出来る侍女ですから……多分、大丈夫ですわ」

シルヴィアがイザベルのフォローをしているがレオルドはほんの少しだけ不安を抱える。

門の呼び鈴を鳴らすと、執事が素早く姿を現した。

「レオルド様、お帰りなさいませ。シルヴィア様、シャルロット様もようこそお越しくださいました」

「ご苦労だった。案内を頼む」

重厚な門が開き、一行は屋敷の中へと入っていく。

石畳を進みながら、シルヴィアは少し緊張した面持ちで屋敷を見上げた。

「本当に久しぶりですね」

「そう堅くならなくてもいいだろう。前回と間があいてしまったことを母上はそう怒らないさ」

微笑むレオルドに背中を押され、彼女は小さく頷いた。

ほどなくして玄関ホールに到着すると、奥から軽やかな足音が聞こえてくる。

「レオルド!」

姿を現したのは、優雅なドレスに身を包んだ女性――オリビア。

レオルドの実の母親であり、ハーヴェスト家の実質的な支配者である。

ハーヴェスト家当主であり、レオルドの父親であるベルーガも逆らえない存在だ。

「母上、お久しぶりです」

「もう、そんな顔をして……ほんの少し見ないだけで、あなたったらまたたくましくなって」

オリビアはレオルドに駆け寄ると、その手を優しく取り、しばしその姿を確かめるように見つめた。

その目には、母としての誇りと愛情が滲んでいる。

「シルヴィアさん、シャルロットさん。お久しぶりね。今日はゆっくりしていってね」

彼女は穏やかな笑みをたたえながら、シルヴィアに視線を向ける。

シルヴィアは少し緊張しながらも、丁寧に頭を下げた。

「はい。 義母(オリビア) 様。本日からしばらくお世話になります」

「ふふ、そんなに畏まらなくてもいいのよ? 実家だと思って寛いでね」

「……はい、よろしくお願いいたします」

そのやり取りに、レオルドは安心したように息をついた。

しかし、オリビアとシルヴィアとシャルロットが揃うのは恐ろしくもある。

レオルドもオリビアには逆らえない上にシルヴィアまでいるのだ。

すでに尻に敷かれているのでシルヴィアにも当然、逆らえない。

そして極めつけは世界最強で文字通り誰も逆らえない存在であるシャルロット。

この三人が一堂に会するのだ。

平穏な場所であるのだが心の平穏が保つかどうかは分からない。

「さあ、旅の疲れもあるでしょう? まずはお茶にしましょうね。サロンの準備は整っています」

一行は広々とした応接室へと案内され、香り高い紅茶と菓子が振る舞われた。

オリビアのもてなしは完璧で、シルヴィアも自然と笑みを浮かべるようになっていく。

「そうそう、晩餐の支度も着々と進めてるわ。レオルドが帰ってくると聞いたから腕によりをかけて貴方の好物を用意したから楽しみにしててね?」

「……ありがとうございます、母上」

「勿論、シルヴィアさんもシャルロットさんも遠慮なんてしなくていいからね?」

オリビアの微笑みに、レオルドは心からの感謝を感じていた。

家に帰ってくるとは、こういう温かさなのだ。

(……本当に母上には頭が上がらないな。数えきれないくらい迷惑をかけたというのに、それでもこうして俺に愛情を注いでくれるのだから)

領主として、息子として、婚約者として――

レオルドの胸に、また一つ強い決意が灯った。

サロンでの団らんの後、女性陣は庭に面した小さなティーテラスへと移動していた。

陽も傾き始めた午後の柔らかな光が、薔薇の庭を赤く染め上げる。

シルヴィアとオリビアとシャルロットは並んで腰かけ、優雅に紅茶を味わっていた。

レオルドは一足先に屋敷内に戻り、メイドと共に夕食の衣装合わせに向かっていた。

「やっぱり、このお庭は落ち着きますわね」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。実家のように思ってもらえたら、もっと嬉しいわ」

「私はもうすでに自分の実家のように思ってるわよ~」

オリビアは二人に微笑みかけ、静かに紅茶を口に運ぶ。

その優雅な所作に、シルヴィアも自然と背筋を伸ばした。

シャルロットは本当に実家だと思っているようで遠慮なく寛いでいた。

「ずっと楽しみにしていました。今日、義母様に会えること」

「レオルドもそういう素振りを見せてなかったけど、内心嬉しそうにしてたと思うわ~」

「ええ、私もです。最近、お仕事が本当にお忙しそうで……」

シルヴィアの声には心配と労わりの色が滲んでいた。

それを聞いたオリビアはどこか安心したように目を細める。

「やっぱり、貴女がそばにいてくださると安心できますわ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

その言葉に、シルヴィアの胸がじんわりと温かくなる。

婚約者として気を張ることなく、素の自分で過ごせるこの家と、この人――。

それは、彼女にとって大きな救いでもあった。

「実は……最近、少し不安なことがあったのです。レオルド様の隣に立つには、私では力不足ではないかと……」

「まあ……そんなこと、貴女が言うなんて意外ね」

オリビアは少し驚いたように言ったが、すぐに優しく微笑みを浮かべた。

「でも、それは本当に彼を想っている証拠。……心配しなくても、貴女なら大丈夫よ。レオルドのことを、貴女ほど真っ直ぐに見つめられる人はいないわ」

「……オリビア様」

「大切なのは、完璧であろうとすることではなく、互いに支え合うことよ。そうやって私もあの人を支えてきましたもの」

“あの人”――現ハーヴェスト家当主であり、レオルドの父親であるベルーガ。

威厳のある公爵家当主であるが夫人のオリビアには逆らえないという情けない一面はしっかりとレオルドに受け継がれている。

レオルドもシルヴィアには逆らえないのだ。

「……私も、レオルド様を支えていけるように、努力いたします」

「ええ。そうしてくれると、私も安心できますわ」

二人の視線が庭先の薔薇に向けられた。

静かで優しい時間が、紅茶の香りと共に流れていく。

「良かったわね~。シルヴィア。オリビアからお墨付きをもらえたんだから」

「はい。今日は来てよかったです」

「うふふ、いつでも来ていいのよ? お二人ならいつでも歓迎するわ」

「私ももう少し頻繁に顔を出そうかしら~?」

「でも、シャルお姉様はベルーガ様に苦手意識を持たれていませんか?」

「そうなのよね~。やっぱり、私が美しいからかしら?」

「そうじゃないと思うわ」

オリビアの笑みに圧が生まれる。

流石に冗談でも不味かったかとシャルロットは反省し、訂正した。

「冗談よ~。息子同様に私の力が怖いんでしょうね~。まあ、最近のレオルドはメキメキと成長してるから段々と私の扱いがぞんざいになってるけどね~」

「まあ、そうなの? それはダメね。シャルロットさんみたいな素敵な人をぞんざいに扱うなんて後で説教ね!」

「オリビア様。程々にしてあげてくださいね」

笑い合う二人の姿は、まるで本当の母娘のようだった。

夕陽が庭を包む中、ティーカップの中の紅茶が揺れる。

これから来る晩餐、そして未来の家族の姿を想いながら――

三人はまた、穏やかなひとときを重ねていった。