作品タイトル不明
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今にも泣いてしまいそうなエリックを前にレオルドが焦っていると、イザークがエリックの方へ近づいた。すると、エリックの背丈に合わせるようにしゃがんで頭を撫でる。
「エリック。レオルド辺境伯を困らせてはダメだよ」
「で、でも僕強くなりたくて……」
「その気持ちは立派だけど、レオルド辺境伯のことも考えてごらん。彼はゼアトの領主だから沢山仕事があって忙しいんだ。だからね、エリックばかりに時間を割くことは出来ないんだよ」
「それは……」
イザークの言うことは正しい。それがわかっているからエリックも言葉に詰まってしまう。わがままを言っている自覚はある。それでも、レオルドに指南を受けたいのだ、エリックは。理由は至極単純で 英雄(レオルド) に憧れているから。
レオルドに指南を受ければ自分もいずれは英雄になれるのではないかと夢見ているのだ。そのようなことはないのだが、やはり子供ゆえに夢見がちな年頃なので仕方がないことだった。
しかし、幼いながらもエリックは王族の一人だ。イザークの言うことを理解しているので、これ以上のわがままは言えない。それに今でも剣術は自身の護衛である近衛騎士に教えてもらっている。さらには宮廷魔道士に魔法を教えて貰っているのだ。十分環境に恵まれているのだから、それ以上は高望みであろう。
「わかりました。イザーク兄さん」
「うん。エリックがわかってくれてよかったよ」
エリックはイザークから離れて、もう一度レオルドの前に立つ。そして、頭を下げて謝罪の言葉を述べる。
「レオルド辺境伯。わがままを言ってごめんなさい」
そう言って素直に謝るエリックを見てレオルドは笑みを浮かべる。純粋で頭のいい子だとレオルドはエリックのことを評価した。
「いえ、私の方こそ殿下のお願いにお応えすることが出来ずに申し訳ありません」
「いいえ、僕の方こそレオルド辺境伯の事を考えないで申し訳ありませんでした」
「殿下……」
「でも、あの、いつか……いつか一度だけでいいですから僕に鍛錬をつけてもらえませんか?」
我慢しようとエリックは抑えていたが、やはりどうしてもレオルドに一度は指南してもらいたいようだ。
レオルドもそれがわかって微笑んでエリックに手を差し伸べる。
「いずれ必ず。約束しましょう」
「は、はい!」
弟子入りは叶わなかったが、いずれ鍛錬をつけてもらうことを約束してもらえたエリックはレオルドの手を握り大いに喜んだ。
そして、エリックはレオルドの元から離れて元の席へ帰る。
「いや〜、エリックは羨ましいな。レオルド辺境伯と約束ができて」
(なんだ? もしかして俺になにか頼みたいことでもあるのか?)
また絡んでくるカルロスにレオルドは怪訝そうに眉をひそめる。
「おいおい、そんな顔しないでくれよ。別になにか頼もうなんて思っちゃいねえよ」
「そうか? なんか信じられんが」
「ハハッ、少ししか話してないのにえらい疑われようだな」
そう言ってカルロスはへらへらしながらレオルドと肩を組む。また勝手に肩を組まれてレオルドの表情が歪むが、耳元で囁かれた言葉に目を見開く。
「俺にも自動車の製造に一枚かませてよ」
それはレオルドにとって、いいや、ゼアトのトップシークレットだった。防衛戦の際も多脚式移動砲台はお披露目したが自動車については未だに秘匿していた。
「なんのことですか?」
「とぼけなくていいって。ネタはもう上がってるから」
「……何が目的だ?」
「なんだと思う?」
「利権でも奪う気か?」
「そんなんじゃねえよ」
「じゃあ、何が目的だ?」
「……俺専用の自動車が欲しいのよ。報告で聞いた感じ、四人乗りから五人乗りなんでしょ? でも、俺は一人乗りか、二人乗りのカッコいいのが欲しいんだ! で、どう?」
見た感じでは嘘をついていないように見える。レオルドは信じるべきか信じないべきかと悩んだが、そもそも自動車は完成次第、国王に報告する気でいた。
だから、レオルドは少し考えたがカルロス一人に専用車を与えても問題はないだろうと判断した。国王よりも先にというのはどうかと思ったが、カルロスならば上手いこと言い逃れをするだろうと思ってのことだった。
「わかりましたよ。でも、他に漏らしたらその時は容赦しませんからね」
「流石、話がわかる〜! 勿論、口外する気はないって。お前とは敵対したくないからな!」
「はあ……約束ですからね」
「おう! 約束ね!」
ニッと笑うカルロスにレオルドはしてやられたと顔を手で覆う。考えたくはないがエリックもカルロスが仕組んだことではないかと疑ってしまう。
(流石に考えすぎか〜……)
勿論、考えすぎだ。カルロスは専用の自動車を作ってもらおうと画策はしていたが、どのように切り出そうかと思案していた。たまたま、そこにエリックがレオルドへお願いをしているのを見て便乗しただけである。
それからもレオルドは王子達と話しを続ける。とは言ってもカルロスと話したようなものではなく、世間話のようなものだ。
後は妹の話。シルヴィアについてどこが好きなのか色々と質問攻めに遭ったりした。