作品タイトル不明
157
ゼアトに来てレオルドは二度目の夏が訪れようとした時、屋敷に一報が届く。その一報を聞いたレオルドは驚きのあまり、勢い良く立ち上がり椅子を倒してしまう。
「帝国の使者だと? このゼアトにか?」
「はい。今朝、手紙が届き内容を確認した所、帝国の使者がゼアトへ訪問するそうです」
「俺に用事があるというわけか……」
腕を組んで考える素振りを見せるレオルドにギルバート、イザベルを含む使用人は静かに見守る。
(わざわざ、俺に使者を送るってことは動き出したか? どうして、このタイミングで?
まさか、車の製造がバレたのか?
それとも、水道の件か? 確か、帝国の作りに似ているって話だが……
いや、それとも転移魔法のことか? まだ、王国内しか普及されていないから、復活させた俺に直接交渉でも考えてるのか?
レグルスとレイラを誘拐した事を覚えていないのか? いや、そもそもアレは帝国は関与していないという話だったな……
くそ……! なんにしても面倒な事は確かだ)
とにかく、使者が来る前にレオルドは出来る限りの事を思いついて行動に移す。
「ギル! 陛下に連絡を。それからイザベルは、転移魔法陣の使用を一時禁止とさせ、騎士団に転移魔法陣の封鎖命令を出せ」
『はっ!』
「俺はマルコたちの元へ向かう。車の製造を見られるわけにはいかないからな!」
急いでレオルドはマルコの元へと向かい、作業に 勤(いそ) しんでいるマルコへ作業の中止命令を下す。
作業員達は戸惑うが、レオルドの切羽詰った様子を見て只事ではないと分かり、命令に従って大人しく自宅へ帰る事になる。
工場を見られると不味いのでレオルドは土魔法で隠蔽する。ただ、少し不恰好なのは目に余るが誤魔化す事は出来るだろう。
その後、レオルドはマルコとサーシャに家を出ないように伝える。二人は理由も聞かずに快く返事をしてくれた。その事が少し嬉しかったレオルドは頬が緩んでしまう。
すぐに気を引き締め直して、レオルドは屋敷へと戻る。
屋敷へと戻ったレオルドは今も寝ているシャルロットを叩き起こす。
「おい、シャル! いつまで寝ている! 起きるんだ!!!」
「ふぇっ!? な、なによう~。人が気持ちよく寝ていた所なのに~」
「悪いが時間はないんだ。早く、着替えてくれ」
「何かあるの?」
「帝国から使者が来る。わざわざ、俺に会いにな」
「あら~、懐柔にでも来るのかしら?」
「ゲームだったら懐柔されて帝国の手先になる展開もあるがな。今回は予想できん」
運命48(ゲーム) では帝国の手先になる展開がいくつかある。その内の一つは寝返るように唆されて帝国の操り人形とされて破滅する。
しかし、それはレオルドが屑のまま変わらなかった場合の話だ。今のレオルドは魅力的な提案を受けても断るだろう。
シャルロットを起こしたレオルドは使者が訪れる時まで待つだけとなった。
その頃、ギルバートにより国王へ帝国から使者が訪れる事が伝わっていた。国王は宰相を呼び、どのように対応するかを話し合う。
「ついに帝国がレオルドに接触するようだ。恐らくは懐柔が目的であろう」
「さて、どうでしょうか。レオルドが作った水道は帝国の水道と酷似しているとのことですから、その点をついてくるやもしれませんな」
「厄介な事には変わりないか……宰相、すぐに動ける者はおるか?」
「声を掛けてきましょう」
「なるべく急いでくれ。手紙が今朝届いたということは、遅くとも今日の夕方には到着するだろう」
慌しくなる王城にいち早く気がついたのはシルヴィアだ。何かがあったに違いないと動き出した。
シルヴィアが向かう先は国王の下。恐らく、何があったかを一番知っていると確信を持ってシルヴィアは国王の下に向かい、話を聞いてみることにした。
「陛下。何やら、城内が騒がしいようですけど、何かありましたか?」
「シルヴィアか。お前には関係の――」
途中まで喋っていた国王は思案する。シルヴィアに今回の話を打ち明けて外交を任せても良いのではないかと。
上手くいけばレオルドがシルヴィアの評価を改める事にも繋がる。一石二鳥だと言ってもいい。
「……シルヴィア。実はゼアトに帝国の使者が来るそうだ。先程、レオルドから連絡を受けた。そこで、今外交を任せられる者を探してた所なのだが……やってみる気はないか?」
「是非ともお任せください!」
レオルドが困っているかもしれないと考えただけで、シルヴィアは今こそ自分の力を見せる時だとやる気に満ち溢れている。
「お、おお。そうか。やってくれるか」
「はい。必ずや、私がレオルド様を救ってみせますわ!」
「別にレオルドは危険なわけじゃないんだぞ?」
「言葉の綾ですわ。陛下」
上品に笑うシルヴィアは国王の下から去り、ゼアトへ向かう準備を始める。イザベルの結婚式以来となる再会に胸躍らせながらシルヴィアは準備を進めていく。
そして、万全の準備を整えたシルヴィアは護衛を引き連れて転移魔法を使ってゼアトもといレオルドの元へと向かうのであった。
シルヴィアは見事にレオルドからの評価を改める事が出来るのだろうか。そして、王族としての務めを果たす事が出来るのだろうか。
恋する乙女のシルヴィアの強さを見せ付ける時が来たのだ。震えるがいいレオルドよ。今のシルヴィアに恐れるものはない。