軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

089

デスゲーム後のPvPは単なる娯楽に有らず。

理由は単純、人命に関わるからである。

特に相手のLPが0になるまで行う〝デスマッチ〟は固く禁じられており、LPを半分まで削って勝敗を決める〝ハーフマッチ〟もご法度となっていた。

その点、訓練場で行えるこの〝仮想PvP〟ではいかなる設定でも人が死ぬことはない。危険が伴うPvPの練習がリスク無しで行えるため、ギルドにとって訓練場は生命線とも呼べる重要な施設となっているのであった。

最前線に挑むギルドほど、このPvPを徹底して実地している。

特にデスゲーム化後のPKの存在は、侵攻と同等以上に無視できないものとなっていたから――

「ここは訓練場だし、LPが本当に減ったりしないから安心してね。もちろんその上で設定は安全なものにする」

真剣な眼差しを向ける 怜蘭(レイラン)

修太郎は困ったようにうろたえる。

「僕なんかがまともに相手になるかどうか……」

その呟きに答えたのはラオだった。

「私が見てた限り、かなりいい勝負できると思う。それに、 この世界(・・・・) は特に対人戦練習こそ入念に行った方がいい。自衛のためにもね」

ラオは複雑な表情でそう言った。

LP残量によって行動ルーチンの変わるmobでも、しっかりとした法則と特性に基づいた〝決められた動き〟をする。

それに対し、プレイヤーはそれこそ千差万別の動きを見せる。特に対人に特化したPK達は、たとえ対人訓練を積んだプレイヤーでも厄介な存在といえる。

最前線は未踏破エリア攻略の恩恵だったり、ボスから出るレアなアイテムの分配だったりで頻繁にトラブルが起きる。その時、勢い余ってPvPに発展することも珍しくないため、メンバーに高い対人自衛能力を求めるギルドも少なくない。

「私達〝黄昏の冒険者〟だったり、貢献度と完成度優先で部隊順位が決まる紋章と違って、黄昏と〝 八岐(ヤマタ) 〟は対人戦での格付け順位で実力が決まるの。だから怜蘭もこんな血気盛んになっちゃってさ……」

「人を戦闘狂みたいに言わないでよ」

腰に手を当て怒りを露わにする怜蘭。

どう違うんだと汗をかくショウキチ。

バーバラ達は、これほど実力のあるプレイヤー同士の試合なんて滅多にお目に掛かれないため、ことの顛末まで見守ろうと固唾を飲んで黙り込んでいる。

『模擬戦ですか。我々も暇があれば 殺し合い(試合) をしたものです』

(シルヴィア達の事を血気盛んって言うんだろうなぁ)

しみじみと頷く小さな銀狼。

まるで縁側でお茶を啜る老人のような態度である。

少し悩んだ後、修太郎は怜蘭に向き直る。

「わかった! やろう!」

力強く頷く修太郎。

怜蘭は嬉しそうに頷くと移動を開始した。

* * * *

訓練場でのPvPは様々な設定がいじれる。

それは勝敗の決め方だけでなく、戦う場所や仮想敵を交えながらの乱戦モードなど、どんなシチュエーションの戦場も再現できる。

「せっかくだし、MAP変更してもいい? 何か希望のMAPがあればそれにするよ」

そう尋ねながらパネルを操作する怜蘭。

修太郎は少し考えた後、あるMAPを指定する。

「じゃあ、キレン墓地!」

「先々の事も考えているんだね。了解」

微笑みながらそれに同意する怜蘭が指を動かすと、何もないコンクリート調の地面が小刻みに揺れ、その形をみるみる変貌させてゆく。

大小様々な墓が立ち並ぶ、薄暗い墓地。

見た者全ての幸せを奪ってゆくような不気味さを醸し出している。

二人は距離をとって向かい合う。

「じゃあ修太郎君、準備いい?」

そう言って怜蘭は剣先を修太郎に向けた。

十字架を模した細長いその剣は、墓標に囲まれたこの場所に妙にマッチしているように見えた。

「もちろん!」

気合十分に応じる修太郎。

訓練場で練習していたプレイヤー達も、今から始まるPvPを見物しようと集まってきており、中には「おいあれ〝 幻影(ファントム) 〟の怜蘭か?」とか、「怜蘭だ……!」などと耳打ちが聞こえてくる。

「怜蘭さんは有名人だったんだね」

「え、あー……最前線ではそれなりに無茶してたから、かな」

尊敬の眼差しを送る修太郎に対し、照れ臭そうに額を掻く怜蘭。気付けば訓練場を囲うプレイヤーで小さなサークルが形成されていた。

「設定はさっき説明した通り、致命傷のみを1点として10点を先に取った方の勝利ね。痛みも死ぬ心配もないから、お互い思いっきり戦っていいからね!」

「ラオさんもなかなかに血が滾ってる……」

興奮気味に審判の紛いごとをするラオを、ケットルは少し引いた目で眺めている。

訓練場内では怜蘭が十字架の大剣をゆっくり抜き、修太郎も牙の剣をスラリと抜いた。

「開始まで5! 4……!」

声高らかに秒読みするラオの声を遠くに聞きながら、深呼吸した修太郎が口を開く。

「じゃあ怜蘭さん――」

ゾクッ……!

反射的に怜蘭の体が震える。

試合前の震えは武者震いだった。

なら、この震えは――?

妖しく光る二つの瞳。

まるで獰猛な蛇に睨まれたかのような感覚が怜蘭を襲い、対人戦に明け暮れた過去一度も味わった事のない〝恐怖〟を、自分が初めて覚えていることに気付く。

(この子は……ッ!)

「――2! 1!」

一瞬遠くに聞こえていたラオの秒読みが明瞭に聞こえるようになると、怜蘭はハッとなり大剣を握る手に力を込める。

「いくよ」

凛とした修太郎の声が響くと――

ラオの試合開始の声が轟いた。