作品タイトル不明
953 クマさん、蟻と蝶を燃やす
「熱いのう」
「危ないから離れて」
炎のクマに近づくのは危険だ。
カガリさんとゴジールさんには離れてもらう。
蟻の巣の途中にいるかもしれない蟻をしっかり倒すため、炎のクマをゆっくりと穴の中に降ろしていく。
「「くぅ〜ん」」
くまゆるとくまきゅうが鳴く。
探知スキルを使うと周囲に 蟻(アント) の反応。
地表近くにいるってことだ。
地面が盛り上がり、蟻が顔を出してくる。
やっぱり、残っているよね。
風魔法で蟻の体を切り裂く。
蟻が出てきた小さい穴から熱風らしきものが出ているので、炎のクマから逃げてきたのが分かる。
「これなら、 蟻(アント) も全て倒せるじゃろう」
カガリさんからお墨付きを貰えると少し嬉しい。
もし、女王蟻がいた近くに蟻の卵があれば間違いなく焼かれている。
蟻の巣に蟻が生き残っていたとしても、蒸し殺される。
わたしは蟻が出てくると、もぐらたたきゲームの要領で蟻を倒していく。
頭を斬ったり、体を切ったりしているので、もぐらたたきゲームみたいには可愛くない。
大きな蟻を倒していくと、周囲がグロテスクになっていく。
このままでは精神的にもよくないので、蟻の死体を片付けることにする。
クマゴーレムを作り、蟻の死体を運ばせて、女王蟻が出てきた穴に落とす。穴の下には巨大な炎のクマが下降中なので燃やしてくれる。
「確認だが、そのクマの形をしたものはなんだ?」
ゴジールさんが珍しいものを見るようにクマゴーレムを見ている。
「ゴーレムだよ。簡単な命令なら聞いてくれるよ」
魔物を倒せとか、蟻の死体を穴に落とせとか、本当に簡易的なことだけだ。
ただし、魔力が切れたら動かなくなる。
「お主、一応冒険者じゃろう。魔石を取らずにいいのか? さっきも埋めていたが」
「虫嫌いだし、解体できないし、アイテム袋に虫を入れて持ち帰りもしたくないから」
この世にはお金より大切なことがある。
それは心だ。
心を痛めてまで、お金を手に入れることはない。
まあ、それはお金を持っているから言えることだけど。
わたしは家族のために幼いときから解体をしてお金を稼いでいた少女を知っている。
……知っているけど、解体だけは無理だ。まして、虫の解体なんて。
とりあえず、今のわたしには不要なので蟻の死体を処理していく。
地面からでてきたら、風魔法で倒し、倒した蟻はクマゴーレムが運ぶ流れができる。
順調に処理が進んでいると、「「くぅ〜ん」」とくまゆるとくまきゅうが鳴く。
「なに?」
すぐに探知スキルを使うが数匹の 蟻(アント) の反応しかない。
これなら、くまゆるとくまきゅうが反応するわけがない。
くまゆるとくまきゅうを見ると鼻をぴくぴくさせている。
毒ガス!?
「ゴジールさん、魔石は!?」
ゴジールさんに目を向けると、ゴジールさんが持っていた魔石が赤くなっていた。
「いつの間に」
ゴジールさんは蟻とクマゴーレムを見ていて、気付いていなかったみたいだ。
「ユナ、この場を離れるぞ」
いつ赤くなったのか分からない。
ゴジールさんとカガリさんはくまゆるとくまきゅうに乗る。
わたしもくまゆるに乗ろうとしたとき、視界の中でなにかが光る。
「どうしたのじゃ!」
木々の奥でなにかが光った。
「なにかが来る」
残って確認したい。
離れないと危険。
矛盾した思いが交差する。
なら、2つ同時にすればいい。
「2人ともくまゆるとくまきゅうにちゃんとしがみついていてね」
その言葉と同時にわたしたちがいた地面が盛り上がる。
盛り上がった土は高い柱となり、わたしたちは柱の上に立つ。
ガスには空気より重いガスと軽いガスがある。
動物や魔物がいないなら、重いガスで死んだ可能性が高い。
もし軽かったら、上に逃げれば拡散される。
そう思って、上に逃げた。
その判断はゴジールさんが持っている魔石で判断すればいい。
「ゴジールさん、魔石の色は?」
「と、透明だ」
ゴジールさんが持っている魔石は無色透明に戻っていた。
とりあえず、安堵する。
そして、先ほど気になった光ったものを確認するため、柱の上から下を覗く。
蟻が倒れていて、その周りをなにかがキラキラと光っている。
「あれは蝶?」
数十匹の蝶が飛んでいる。
どんどん、その数は増えている。
「蝶みたいじゃのう。だが、ただの蝶ではない」
「カガリさん、あの蝶のことを知っているの?」
わたしには蝶を愛でることはないので、蝶の知識はほぼない。
知っている蝶はモンシロチョウぐらいだ。
あと、街灯の周りを飛んでいる蛾も知っているよ。
もっとも最近はLED化で見なくなったけど。
「あれは金死蝶、綺麗な金色の羽を持った蝶、近寄ってきた生物を毒の鱗粉を撒き散らして殺し、死んだ死体に卵を産み付ける蝶じゃよ」
わたしは体をぶるっと震わせる。
「なにも知らない人間は綺麗な蝶と思って近寄って死ぬ者が多い」
確かに綺麗な蝶を見たら、近寄るかも。
わたしも今のカガリさんの話を聞いていなかったら、近づいていたと思う。
まあ、クマ装備は毒からも守ってくれると検証済みだから、死ぬようなことはないけど、もしかしたらがある。
「もしかしたら、あの蟻どもは蝶から逃げてきたのかもしれぬのう。ここは魔物がいなかったのじゃろう」
カガリさんはゴジールさんに確認するように尋ねる。
「ああ、今までいなかった」
「じゃから、ここに巣を作ったところ、お主に発見されて、ユナに依頼をすることになって、ユナが蟻を討伐した。じゃが、蝶も蟻を嗅ぎつけてきたかもしれぬ」
「もしかして、この山に魔物も動物もほとんどいなくて、死の山と呼ばれていたのは、あの蝶のせいってこと?」
「かもしれぬ。違うかもしれぬ。妾は答えを持っておらん」
そうだよね。
誰も答えなんて持っていない。
あくまで可能性の1つだ。
「それじゃ、蟻には可哀想なことをしたかもね」
「魔物相手に気にすることではない。人と魔物は敵対する。あの蟻どもも住処がなければ、他の場所に移動し、餌を求めて人を襲うこともある。数が増えれば脅威となり、村や町を襲うこともある」
過去には村が襲われて、全滅したって言っていたよね。
魔物が人を餌と思っていたら、戦うしかない。
人だって、魔物の素材を使って生きている。
相容れないこともある。だから、気にしない事にする。
「ただ、あの大きさの女王蟻じゃったのに蟻の数が少なかったのは、あの蝶が原因かもしれぬ」
「つまり、襲われて数が減ったと」
「蝶が原因かもしれぬが、他に原因があるかもしれぬ」
これも答えが分からないから正解はない。
だからと言って考え無しはダメだ。
あらゆる可能性を模索しないと危険回避はできない。
「それじゃ、ゴジールさんの魔石は毒ガスでなく、あの金死蝶の毒の鱗粉に反応したってこと?」
「かもしれぬ。違うかもしれぬ。お主、今までにあの蝶を見たことは?」
カガリさんはゴジールさんに確認する。
「ない。とにかく、魔石が赤くなったら死ぬと言われていたから、離れることを守っていた」
死ぬと言われたら、逃げるよね。
「よく、好奇心に負けなかったのう」
「いや、話を聞いたばかりのときは確認したい気持ちはあった。でも、ここは死の山と呼ばれている。脅しや冗談ではないことは分かっている。俺たち一族が生きてこられたのは守っていたからだ。それと親父の弟、俺の叔父が俺が子供のときに確認しようとして死んだ。だから、守るようにしている」
そんなことがあったんだ。
でも、確認したいと思った叔父さんの気持ちは分かる。
「さて、これから、どうするかのう」
下では蝶がひらひらと飛んでいる。
とりあえず下に向けて火の玉を放り込んでみることにする。
「お主、なにをするつもりじゃ」
「なにをって、とりあえず蝶討伐かな」
そう言って、火の玉を放り投げる。
「やめろ」
やめろと言われても遅い、もう放り投げている。
蝶に当たる瞬間、爆発する。
まるで火薬が爆発した感じだ。
「なに!?」
「金死蝶の粉は火に触れると爆発する」
火薬みたいじゃなくて、火薬だった。
「そして、あやつらは近くにいる人を巻き添えにする」
「なにそれ、怖い」
「接近戦の武器では倒せない。だから、魔法で倒す事になるが火の魔法を使えば爆発する。風魔法を使えば鱗粉を撒き散らすことになる」
鱗粉を集めたらダイナマイトが作れそうだ。
「でも、遠くから魔法を使う分ならいいんじゃない? それに毒の鱗粉も消えるし、一石二鳥だよ」
風魔法で毒の鱗粉を拡散させるよりは火の魔法で爆発させたほうがいい。鱗粉が舞えば、死ぬことになる。
火によって燃えて消えるなら安全も確保できる。わたしは柱の上から下に向けて火の玉を放つ。
何度も爆発が起きる。
蝶が可哀想かもしれないけど、殺しに来ている蝶を擁護するつもりはない。
しばらくすると爆発しなくなる。
「終わったみたいだね」
蝶も飛んでいない。
わたしの火で燃えたのか、爆発で死んだのか、見えない。蝶と鱗粉はなくなったみたいだ。
「これで、下りても大丈夫かな」
「魔石を確認しながら、下りれば大丈夫じゃろう」
「ああ、任せてくれ」
ゴジールさんの魔石を持つ手が震えていた。
緊張したのかな?
柱をゆっくりと下げようと思ったとき、「ちょっと待て」とカガリさんが言う。
「どうしたの?」
「遠くになにか飛んでおる」
確かに、なにかが飛んでいる。
山だ。鳥ぐらい飛んでいてもおかしくはない。
カガリさんはアイテム袋から望遠鏡を取り出すと、覗く。
「ヴォルガラスのようじゃのう」
「ヴォルガラスって、赤い嘴に麻痺毒があるんだっけ?」
大きさは鷹より少し大きい。
「お主も冒険者なだけあって、知っているようじゃのう」
「何度か戦ったことがあるからね」
戦ったことがない魔物は流石に知らない。
「この山にはそんな魔物までいるのか」
ゴジールさんは不安そうにしている。
それはそうだ。
今まで、魔物に遭遇したことがなかったのだから。
「大丈夫なのか?」
空を飛ぶ魔物の中では下級魔物だ。
普通の冒険者からしたら、空を飛ぶ魔物は脅威だけど、わたしにとってヴォルガラスは脅威にならない。
「遠くだから、大丈夫じゃろう。もし、襲われてもユナと妾がいれば問題にはならん」
カガリさんに信用されているのは少し嬉しい。