軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

954 クマさん、コカトリスを見つける

とりあえず、遠くにいるヴォルガラスは放置することにする。

ここからだと遠いし、わざわざ倒しに行くメリットもない。

襲ってきたら、倒せばいい。

わざわざ離れた場所へ行くのは面倒だ。

「毒を持つ蝶に、毒を持つ魔物か。嫌な予感しかしないのう」

「そんな物騒なことを言わないでほしいんだけど」

「ほれ、言っている先から、とんでもない魔物が現れたのう」

カガリさんは軽い口調で言う。

軽い口調で言うものだから、大した魔物じゃないと思いながらカガリさんが見ている方へ望遠鏡を向ける。

その望遠鏡の先には顔と足が鶏みたいで、翼を持つ魔物がいた。

「カガリさん、あれって」

「コカトリスじゃのう」

「だよね」

コカトリスは初めてエルフの村に行ったときに遭遇した魔物だ。

羽根を飛ばしたり、嘴から紫色の毒を吐いたりする。

ゲームに出てくるコカトリスと違って、石化とかはしてこないので、わたしが知っているコカトリスより弱い。

もし、石化する能力があったら倒すのが大変だったと思う。

クマ装備なら石化しない可能性もあるけど、もしものことを考えれば、確かめることはできない。

石になれば死ぬのと同じだ。そんな危険を冒すことはできない。

「それにしても毒を持っている生物ばかりだね。 蟻(アント) は持っていなかったけど。今更だけど、毒は持ってないよね?」

知らずに倒しちゃったけど、実は毒持ちだった可能性もある。

蟻(アント) のことは何も知らない。

「毒は持っていない。ここでは最弱だったのかもしれない。先ほどの金死蝶の餌となり、ヴォルガラスの餌にもなっていたかもしれぬ」

まさしく、弱肉強食の世界だね。

「俺はこんな恐ろしい山に来ていたのか」

ゴジールさんは体を震わせている。

魔物の巣窟だと知れば怖いよね。

「死の山と呼ばれているのじゃから、恐ろしい山に決まっておるじゃろう」

「そうだが」

蟻(アント) だけでなく、毒を撒き散らす蝶、毒の嘴を持つヴォルガラス、毒を吐くコカトリスまでいるとは思わなかったのだろう。

まあ、わたしも来るまでは火山から出るガスが原因ぐらいと思っていた。

「あっ」

「なんじゃ」

「コカトリスが、ヴォルガラスを捕まえた」

なんとなく遠くにいるコカトリスのほうを見ていたら、コカトリスがヴォルガラスに向かったと思ったら、足で掴んで、そのまま飛び去っていった。

「飛んで行ったね」

「飛んで行ったのう」

「どうして、嬢ちゃんたちは、そんなに呑気なんだ。蟻の大群はいるわ。変な蝶は飛んでくるわ。ヴォルガラスなんて鳥の魔物がいると思ったら、今度はコカトリスだぞ」

ゴジールさんは1人で大騒ぎしている。

まあ、一般人のゴジールさんからしたら、その気持ちは分からなくもない。

「ゴジールさん。コカトリスのことを知っているの?」

一般人なら、コカトリスなんて出くわすことはないと思うけど。

「この目で見るのは初めてだが、見ただけで危険と分かる。それに昔に冒険者ギルドで貼り出されていたコカトリスの絵を見たことがある。当時、コカトリスを見た冒険者がいて、注意勧告が出て騒ぎになっていた。だから、コカトリスが危険な魔物だというぐらいの知識はある」

情報共有ってことか。

「冒険者たちが騒ぐほどの危険な魔物なのに、どうして、嬢ちゃんたちはそんなに落ち着いているんだ」

「それは前に倒したことがあるから?」

一度倒せば、戦い方の要領は分かるので、怖い相手ではない。

一番怖いのは、相手がなにをしてくるか分からないことだ。

「妾が知っている魔物に比べたら、大したことがないからのう」

カガリさんが知っている魔物って大蛇? 大蛇と比べたら、他の魔物なんて可愛く見える。

「俺が変なのか? 違うよな。嬢ちゃんたちが変なんだよな」

一応、コカトリスが危険な魔物ってことは、わたしでも分かっている。

ただ、クマ装備のおかげで脅威になっていないだけだ。

「まさか、この山にあんな魔物がいるなんて」

「今まで、遭遇してこなかったのじゃ。気にすることはなかろう」

「いや、気にするだろう。あんな魔物がいると知ったら」

まあ、そうだよね。

危険があるかもしれない場所に行っていたら、危険な魔物がいた。

お化けがいるかもしれない場所と、100%お化けがいる場所では違う。

熊がいるかもしれない場所と、熊と出会うとは違う。

本人はお化けはいないと思っているし、自分は熊と出会うことはないと思っている。

だから、行くことができる。

でも、実際に出会ったら、怖くなる。

「職人は命をかけて、ものを作るのじゃろう。コカトリスぐらいで騒ぐな」

「いや、命を賭けてまでものを作る職人は一部の変人だけだからな」

全ての職人が命を賭けてものを作っていたら、この世から職人が消えてしまう。

「じゃが、少なからずいるのは否定はしないのじゃのう。死の山と呼ばれている山に酒の材料を取りにくるお主はどっちじゃ?」

確かに、死の山と呼ばれている山に美味しいお酒を造るために来ている。

そう考えると、ゴジールさんは命を賭けてお酒を造っている職人になる。

「美味しい酒が造りたい気持ちはある。だが、今回、地面に引きずりこまれる動物を見て、怖くなったのも事実だ」

まあ、魔物は誰でも怖い。

「さらには毒を持つ蝶に、ヴォルガラスにコカトリス。そんな魔物までいると知れば、怖くなるのも当たり前だろう」

もし、わたしがなにも力を持たない一般人だったらと想像すると、ゴジールさんの気持ちは分からないでもない。

わたしだったら、この時点で逃げ出している。

「安心せよ。もし、襲われても妾たちが対処する」

対処するのはわたしだけどね。

「じゃが、今後のことも考えると魔物は倒したほうがいいのかもしれぬのう」

「倒しに行くの?」

前回、ムムルートさんと一緒に討伐したコカトリスは王都の解体イベントで使用した。

コカトリスの素材を使う予定はないけど、珍しい魔物を見ると素材を手に入れたくなる。

コカトリスも気持ち悪いけど、なぜか虫よりは許容できる自分がいる。

やっぱり顔なのかな?

顔が鳥だから許せるのかもしれない。

ほら、漫画でも人型の昆虫はダメだけど、人型の鳥や動物は許せる。

「討伐はおいおいと考えるとしよう」

今の優先順位はお酒の材料がある通り道にいる魔物を倒すこと。

次はお酒の材料を手に入れること。

ヴォルガラスとコカトリスの討伐は後回しだ。

依頼が終わったあとに一人でコカトリスは倒しに行ってもいいしね。

とりあえず、 蟻(アント) の確認と金死蝶がばらまいた鱗粉の毒の確認をするため、わたしたちが乗っている柱を下げることにする。

ゴジールさんには魔石を確認してもらいながら、わたしはゆっくりと柱を縮める。

柱はゆっくりと下がっていく。

魔石の色に変化はない。

蝶が数匹残っていたので、上から火の魔法で倒す。

探知スキルを使って、あらためて蝶の確認をしたけど、探知スキルには魔物の反応はなかった。

金死蝶は探知スキルでは魔物扱いではないみたいだ。

でも、火を点けると爆発する鱗粉か、毒がなければ爆弾を作る素材になったかも。

毒があるからこそ、危険な爆弾が作られることもないと喜ぶべきか、作れないことを残念と思うべきか、難しいところだ。

「とりあえず、大丈夫みたいじゃな」

地面に降りたけど、ゴジールさんが持つ魔石は無色透明。くまゆるとくまきゅうの反応もない。

見える範囲内には金死蝶も見えない。

「くまゆる、くまきゅう、なにか感じたら教えてね」

「「くぅ〜ん」」

探知スキルでは分らなくても、くまゆるとくまきゅうが金死蝶に反応できることが分かったのは大きい。一番怖いのは、なにも知らずに毒に冒されることだ。わたしはクマ装備で大丈夫でも、ゴジールさんとカガリさんはそうはいかない。

ゴジールさんが魔石の変化に気づかなかったら、死ぬ可能性もある。

「それじゃ、蟻の巣を塞ぐから、ちょっと待っていて」

大きな炎のクマの影響で熱いと思うので、2人には離れてもらう。

わたしは女王蟻が出てきた穴に近づく。

もの凄い熱量だ。

クマ装備がなかったら、熱風で火傷をしていた。

とりあえず、大きな炎のクマは魔力が切れるまで地下深くで放置することにし、土魔法で穴を埋める。

今更だけど、空気がなくても魔法って燃えるのかな?

魔力を火に変換しているから、魔力がある限り燃え続けると思うけど。

そんなことを思いつつ、普通の蟻が出てきた小さい穴も埋めていく。

「とりあえず、これで終わりかな」

「蟻も出てこないから、ほぼ死んだと思って間違いないじゃろう」

「ほぼって、全部じゃないのか?」

「この世に絶対はない。まして、見えぬところじゃ。じゃから、今後、ここを通るなら、安全を確認しながら通ることじゃ」

わたしも絶対に全部倒したとは言えない。

証拠も出せない。未来のことは誰も分らない。

だから、ここ辺りが危険だったことが分るようにしておく。

わたしは土魔法でクマを作り、看板を持たせる。

その看板には「 蟻(アント) 永眠する」とだけ書く。

「これで、分りやすいでしょう」

「お墓みたいじゃのう」

「でも、なんでクマなんだ?」

「この地を守るようにだよ」

一番の理由はクマだと壊れにくいからだ。

「まあ、これで、安心して酒の材料を取りに行けるじゃろう。それで確認じゃが、妾たちはどうする? 契約の魔物は討伐した。酒の素材の在り処を知られたくないなら、ここで待っておるが」

確かにそうだ。

依頼内容は地面に引きずり込む謎の魔物の討伐。このまま一緒に行くつもりでいたけど、契約内容の魔物を討伐したなら、わたしたちの仕事は終わりになる。

でも、カガリさんの言葉にゴジールさんは首を横に振る。

「できれば一緒に来てくれ。まだ、あの金色の蝶も飛んでくるかもしれない。それにあの魔物の鳥にコカトリスを見たあとで1人で行動するのは正直怖い」

「大の男が情けないのう」

「大の男でも、コカトリスは普通に怖いぞ。何度も言うが、嬢ちゃんたちがおかしいんだからな」

ゴジールさんは声を上げる。

クマ装備を脱げば一般人だから、わたしは一般人の気持ちは分かるつもりだ。カガリさんと一緒にしないでほしいものだ。