軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

950 クマさん、山を登る

翌朝、わたしとカガリさんはくまゆるとくまきゅうに起こされる。

「カガリさん、おはよう」

「もう、朝か」

カガリさんは小さく欠伸をすると、起こしてくれたくまきゅうの頭を撫でる。

わたしたちは身だしなみを整えて、リビングに移動する。

リビングに行くと、すでにゴジールさんは起きて、ソファーに座っていた。

「もう、起きていたんだね」

「早いのう」

「酒造りの朝は早いからな。だが、嬢ちゃんたちも早いな」

くまゆる、くまきゅう目覚まし時計がなかったら、まだ寝ていたと思う。

わたしは朝食を食べながら、ゴジールさんにくまゆるとくまきゅうは魔物が近くにいると教えてくれることを説明する。

「だから、いきなり魔物に襲われることはないから、安心して」

高速で移動する魔物がいたら、絶対とは言い切れないけど。

過去には探知スキルで 黒虎(ブラックタイガー) を発見したと思ったら、逃げることもできずに襲われた。

でも、待ち構える時間はある。

「嬢ちゃんのクマは凄いな。人の言葉は理解し、魔物が近くにいることまで分かるなんて」

ゴジールさんに褒められてくまゆるとくまきゅうは嬉しそうにする。

食事を終えたわたしたちは出発の準備をする。とは言っても、なにもすることはないので外に出る。

外に出るとゴジールさんは袋からなにかを取り出す。

「魔石?」

少し大きめの無色の魔石。

タイガーウルフの魔石ぐらいの大きさだ。

「すまないが、これから話すことは誰にも言わないでもらえると助かる」

「まだ、妾たちのことを信じていないのか?」

「信じている。ただ、言葉で言ってほしい気持ちがある」

それはなんとなく分かる。

言葉にしないのとするのとでは違う。

だから、わたしは口にする。

「誰にも言わないよ」

「妾もじゃ」

「感謝する」

「それで、その魔石はなんなんじゃ?」

「危険が迫ると色の変わる魔石だ」「危険が迫ると色が変わるじゃと?」

「危険が迫ると色が変わる?」

わたしとカガリさんはゴジールさんの言葉を繰り返す。

「どういうことじゃ?」

「言葉どおりに危険が迫ると魔石の色が薄い赤色になり、危険が増すと、どんどん色が濃くなってくる」

まるで危険信号みたいだ。

「どんな危険があると赤くなるのじゃ」

「分からない。色が変わったら、絶対に色が消えるまで離れろと言われている」

「お主の父親にか?」

「親父からもそうだが、祖父が生きていたときから言われていた」

生きていたってことは、お爺ちゃんは亡くなっているみたいだ。

「それじゃ、赤くなる理由は分からんってことか」

「俺と親父は祖父の赤くなったら逃げろ、離れろって言葉を守っている。それがこの山で生き残るためだと理解しているからな。だから、この魔石が赤くなったら、危険が迫っていると思ってくれ」

危険を知らせてくれる魔石か。

「なんの危険を知らせてくれるんだろうね」

「考えられる可能性は当初の予想どおり毒があるガスに反応するじゃな」

一番、ありえる。

でも、そんな魔石があるんだね。

魔法陣とか刻まれているのかもしれない。

「次の可能性は魔物に反応するじゃな」

確かに、それもあり得る。

探知スキルみたいなもので、魔物が近くにいたら反応するとか?

「まあ、別の可能性もあるかも知れぬが」

「例えば?」

「知らぬ」

まあ、そうだけど。

分かれば、苦労はしない。

とりあえず、魔石だけではなんの危険か迫っているのか分からないので、くまゆるとくまきゅうにも異変を感じたら、教えてくれるように頼んでおく。そして、一応、出発前に探知スキルで確認する。魔物の反応はない。

「それじゃ、出発しようかのう」

わたしとカガリさんはくまゆるに乗り、ゴジールさんはくまきゅうに乗る。

「こっちだ」

ゴジールさんの案内で森の中に入っていく。

このあたりは植物は残っている。

ガスが原因なら植物は育たないと思う。

それにくまゆるとくまきゅうも反応はない。

もしかしたら、休火山で山の上のほうでガスが漏れているのかもしれない。

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは森の中を進む。

ゆるやかな傾斜を進む。

ゴジールさんは魔石を持って、反応を見逃さないようにしている。

ゴジールさんの心配をよそに探知スキルに魔物の反応はない。くまゆるとくまきゅうも何事もなく木々の間を歩いている。

静かなものだ。

「静かすぎるのう」

カガリさんがわたしが心で思っていることを口にする。

「そうだね。魔物もいないみたいだよ」

静かで心地良い。

風が葉を揺らす音しか聞こえない。

でも、わたしの感じている気持ちとカガリさんが感じている気持ちは違った。

「静かすぎる。鳥の声も聞こえない。気持ち悪い」

言われてみれば、確かに鳥の声は聞こえない。

引きこもりのわたしは山の中や森の中で遊んだこともないので、違和感を感じなかった。ただ、静かでいいなと思っただけだ。

「嫌な予感がするのう」

「カガリさんの予感、当たりそうだから、やめてほしいんだけど」

狐様だ。

なにかを感じてもおかしくはない。

でも、わたしには嫌な感じはしない。

「妾が口にしても、関係はないじゃろう。それ以前にお主が行くところに災いがあるほうが正しいじゃろう」

「それじゃ、わたしの行く先々で危険があるみたいに聞こえるんだけど」

「お主、自分の胸に手を当てて聞いても、それが言えるかのう」

「…………」

それは前々から思っていたよ。

わたしの行く先々で魔物がいたり、事件が起きたりするよ。

でも、それはわたしが呼び寄せたわけではない。

わたしが進む先に魔物がいるだけだ。

でも、そうなると、この進む先に魔物がいるってことになる。

「でも、今回は魔物討伐が依頼なんだから、魔物がいるのは当たり前でしょう」

「普通の魔物ならいいがのう」

怖いことを言わないでほしい。地面に引きずり込む魔物らしいけど、サクッと倒せる魔物にしてほしい。

わたしたちは先に進む。

本当に静かだ。くまゆるとくまきゅうが落ちている小枝や葉を踏む音しかしない。

探知スキルにも魔物の反応はない。

「暇だ」

「注意を疎かにするんじゃないぞ」

「ちゃんと確認しているから大丈夫だよ」

「お主でなく、クマたちじゃろう」

まあ、そうなんだけど。

わたしの中では、くまゆるとくまきゅうが反応してから探知スキルで確認するって流れができあがっている。

だから、サボっているわけではない。くまゆるとくまきゅうが反応してからが、わたしの仕事だ。

「でも、本当に静かだね」

「怖いぐらいじゃ」

「本当に大丈夫なんだよな」

ゴジールさんが少し、不安そうにしている。

「もし、危険なことが起きたら、くまゆるとくまきゅうに乗って逃げれば大丈夫だよ。くまゆるとくまきゅうが速いことは知っているでしょう」

くまゆるとくまきゅうも任せてって感じに「「くぅ〜ん」」と鳴く。

「そうだな」

少しだけ、不安は取れたみたいだ。

「それで、お主の魔石の反応はどうなんじゃ?」

「いまのところ反応はない。目的地に近づくと若干赤くなるが、大丈夫だ」

つまり、目的地の近くに危険なものがあるってことだよね。

それがガスなのか魔物なのかなにを示しているのか分からないけど注意しないとダメってことだ。

危険なこともなく進んでいると、くまゆるとくまきゅうが止まり、「「くぅ〜ん」」と鳴く。

わたしは、すぐに探知スキルで確認する。

進む先に、魔物の反応がある。

名前はアント。

つまり、蟻の魔物?

「なんじゃ。クマたちはなんと言っておる」

「えっと、魔物がいるんだけど。蟻みたい」

「蟻じゃと?」

「わたし、見たことがないんだけど。蟻の魔物っているの?」

「おる。厄介な魔物がいたもんじゃ」

いるんだ。

大きさは?

大きいの?

探知スキルでは大きさは分からない。

大きい蟻を想像する。

身震いする。

わたしは虫が苦手だ。嫌いと言ってもいいぐらいだ。

この世界で大きい虫の魔物を見てから、虫嫌いが加速した。

だって、あの顔だよ。小さいなら、直視することはない。

でも、戦うことになれば正面から顔を直視することになる。

大きな目にカチカチさせる口、それからなんともいえない手に足。

想像しただけで、ダメだ。ウルフが可愛いぐらいだ。

「えっと、帰ろうか」

「お主、なにを言っておる」

「わたし、虫嫌い、苦手だから」

「まあ、気持ちは分からなくはない。妾も好きかと問われたら、好きじゃないからのう」

虫好きな人には悪いけど、苦手なものは仕方ない。

誰しもが苦手なものはある。

「えっと、このクマは先にいる魔物の種類まで分かるのか?」

「匂いで分かるみたい? だから、知らない魔物だと分からないけど」

わたしは曖昧に答える。氷竜が現れたとき、探知スキルには名前が書かれていなかった。

「つまり、俺が見た魔物は蟻だったってことか」

「地下に引きずり込んだのじゃろう。可能性は高い。お主、運が良かったのう。逃げていなかったら、巣に引きずり込まれていたぞ」

カガリさんの言葉にゴジールさんは体を震わせる。

いや、ゴジールさんでなくても、想像しただけで、怖いよ。

巣に引きずり込まれて、蟻の餌となる。

夜、寝られないかも。