作品タイトル不明
949 クマさん、山の麓に到着する
わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは馬車よりも速く移動する。
初めはくまゆるに乗って怖がっていたゴジールさんもしばらく走ると、落ち着いてくる。
「確認じゃが、人が死ぬ原因は分かっておるのか?」
「魔物の仕業だとか言われているが、分かっていない。誰も近づかないし、調べることもしない」
まあ、遠く離れた場所のことだ。調べることはしないだろう。
まして、死ぬ可能性がある。そんな山なんて、近寄らなければいいだけだ。
命をかけて調べるメリットはない。
「魔物の可能性もあるが、地中から噴き出しているガスかもしれぬのう」
「カガリさん、ガス知っているの?」
「それぐらい知っておる」
この世界にガスの概念があったんだ。
いまのところガスが使われているものを見たことがなかった。
もし、毒ガスだとしても専門家じゃないと調べることは難しい。
臭いを嗅いで、これは〇〇〇のガスだ。なんて分からない。
そもそも日本で使っていたガスは無臭だと聞いたことがある。でも、それだとガス漏れのときに気付かないから、臭いを付けたということだ。
もし、無臭のガスだったら、気付けない恐れがある。
逆に温泉ガスだと変な臭いがする。
詳しくないけど、ガスにもいろいろな種類がある。
「他の場所からもガスは出るが主に火山地帯が多い。人は近寄らないから、知らぬ者は多い」
「火山って、炎が噴き出す山のことだろう」
「そうじゃ」
「山から炎は噴き出していない」
休眠している火山の可能性もある。
「まあ、行ってみれば分かるじゃろう。分からなくても、妾たちが魔物を倒せば問題はない」
「もしかして、カガリさんが戦うつもり?」
「お主がいれば妾の出番はないじゃろう。じゃが、必要な場面がくれば戦うつもりじゃ」
「えっと、冗談だよね」
話を聞いていたゴジールさんは苦笑いをする、本気とは思っていないみたいだ。
幼女のカガリさんが魔物と戦うとは誰も思わないだろう。
「まずは、わたしが戦うよ。その間はくまゆるとくまきゅうは2人の護衛。もし、数が多かったり、クマの手でも借りたい場合は、くまゆるかくまきゅうのどっちかが、戦いに参加。それでも無理なら退避ってことでお願いね」
「妾が戦うところが入っておらぬが」
「わたしが逃げるような相手だったら、逃げたほうがいいよ」
「確かに、お主が尻尾を巻いて逃げ出すような相手なら、逃げたほうがいいかもしれぬな」
そんな相手は、そうそう出くわすことはないと思う。
フラグじゃないよ。
現れないでいいからね。
くまゆるとくまきゅうは走り続け、途中で休憩の昼食を挟む。
ゴジールさんが保存食を食べようとしていたので、パンとスープを出してあげる。
カガリさんにはおにぎりと味噌汁。
一から用意するなら面倒くさいけど、作ったものをクマボックスに仕舞い、出すだけだから、苦労はない。
「俺の分まで、ありがとう」
「気にしないでいいよ。たくさんあるから、足りなかったら言ってね」
昼食を食べながら、体を休ませる。
「それにしても、かなり進んだな」
くまゆるとくまきゅうは馬車の数倍の速度で走った。
馬ならジョギング程度の速度だと1時間程度しか走れないけど、くまゆるとくまきゅうなら、数時間は走れる。いや、もっと走り続けることもできると思う。
「このまま行けば、今日中に死の山の麓には辿り着けるな」
「あの山だよね」
ここからでも目的の山が見える。
「ああ、そうだ」
死の山の近くに道があるわけがなく、わたしたちは道を外れ、山に向かっている。
ここから見た感じでは山が噴火している様子はない。
1時間ほど休憩したわたしたちは出発する。
ちなみに、いつもどおりにくまゆるとくまきゅうは乗り換えてる。
くまゆるとくまきゅうは走り続け、夕刻前には山の麓の近くまでやってくることができた。
「このクマは凄いな」
「それで、どうするのじゃ」
「夜の山は危険だから、ここで一晩明かしてから、朝一に出発でいいと思うよ」
「そうじゃな。無理に危険を冒してまで、進む必要はない」
「カガリさんなら、お酒のためなら、『行くぞ!』と言うと思ったけど」
「流石の妾でも見知らぬ場所で無理をしたりしないぞ」
と言うわけで、わたしたちはここで野宿をすることになった。
ここに来るまでにクマハウスを出すか悩んでいた。
初めの頃はクマハウスのことは隠していたけど、人が少なければクマハウスを使ってもいいのかなと思い始めている。
わたしが今回はクマハウスを出そうと思っていると、ゴジールさんが「この先に小さい小屋がある」と言う。
ゴジールさんの案内で進むと、木々に隠れるように小さい小屋があった。
「ここで、俺と親父のどちらかが 留(とど) まって馬の世話をする。小さいが野宿をするよりはいいだろう」
小屋は本当に小さい。
「ゴジールさんが作ったの?」
「父親と祖父だ」
「そんなに古いの?」
「多少は修繕している」
そう言って、ゴジールさんは小屋の中に入る。
小屋の中には古いベッドが二つ置いてあるだけだった。
「俺は床で寝るから、2人はベッドを使ってくれ」
カガリさんが近寄ってきて、小さい声で話しかけてくる。
「この小屋で寝るのか? 妾は……」
カガリさんの言いたいことは分かるよ。
このベッドにはゴジールさんとゴジールさんの父親が使っていたんだよね。
潔癖症じゃないけど、ここでぐっすり眠れる気がしない。
でも、ゴジールさんの厚意を無駄にすることも……。
「……………………」
短い沈黙が流れる。
クマハウスを使うか、この小屋で寝るか葛藤する。
……そうだ!
「ゴジールさん」
「なんだ?」
「今後のことも考えて、新しい小屋を作ってもいい?」
「小屋を作る?」
ゴジールさんがなにを言っているんだ? みたいな表情をする。
「今後もお酒の材料を取りに来るんでしょう」
「ああ」
「だったら、安心、安全、快適な小屋のほうがいいでしょう」
「ああ」
わたしの勢いに押されてゴジールさんは「ああ」しか言わない。
「だったら、わたしが小屋を作ってもいいよね」
「ああ、ちょっと待て、小屋を作る?」
了承を得た。
わたしはゴジールさんの声を聞き流し、外に出る。
そして、ボロボロの小屋の隣に、土魔法で小さい小屋を作った。
二階建てにすると目立つので、平屋にした。
「お主、本当にクマが好きじゃのう」
家はクマが寝そべっている感じで、玄関はクマの口になっている。
「イメージがしやすいんだよ」
それとクマの家だと、どうしてか強化される。
「それじゃ、中も作っちゃうね」
まだ、外壁だけだ。
わたしはクマの口から食われるように家の中に入る。
寝室、キッチン、トイレ、それから……。
「待て、お主、なにを作ろうとしておる」
「お風呂?」
「流石にいらんじゃろう」
「お風呂がないと汚いでしょう」
「お主、どんだけお風呂が好きなんじゃ」
お風呂は嫌いじゃない。
のんびりできるし、まったりできる。
娯楽が少ない、この世界では楽しみでもある。
「ゴジールさんもお風呂は必要と思うよね」
「ああ、じゃなくて。なんだ、この家は!」
今まで「ああ」しか言っていなかったゴジールさんが我に返ったように叫ぶ。
「なんだと言われても、小屋だけど」
「こんな、立派な小屋があるか! それ以前にどうして、簡単に作れる。魔力は大丈夫なのか。もし、魔物に襲われたら」
聞きたいことを、並べていく。
「魔力は大丈夫。このぐらいの小屋なら簡単に作れるよ。やっぱり、お風呂って必要だよね。それとも、リクエストってある? 要相談で受け付けるけど」
ゴジールさんは部屋の中を見渡す。
「幼いほうの嬢ちゃん」
「なんじゃ」
「この子は、こんなに規格外なのか」
「まだ、序の口じゃな」
カガリさんの言葉にゴジールさんは冗談だろうって表情をしていた。
とりあえず、お風呂はいらないってことになり、代わりにクマのお尻に馬を休ませる場所を作った。
「作ってもらってから言うのもなんだが、小屋の代金は払えないぞ」
「お金はいらないよ。これからも美味しいお酒を造ってほしいから、わたしからの気持ちだよ。もし、わたしがお酒を飲めるようになったら、真っ先に飲むから」
現状ではお酒を飲みたい気持ちはこれっぽっちもないけど、数年後は分からない。
それなら、自分への未来の投資だ。
もし、本当に美味しいお酒なら、無くなってほしいとは思わない。
それに、ゴジールさん家族になにかあれば、お酒が造れなくなるかもしれない。そんなことになれば、カガリさんが暴れる可能性がある。
「ありがとう。そのときは最上級のお酒を渡そう」
「お主たち、盛り上がるのはよいが、その前に魔物を倒さないといけないがのう」
カガリさんの言うとおりだ。これからもゴジールさんがお酒を造るには魔物を倒して、安心して目的地に向かえるようにしないといけない。
そして、無事にクマ小屋が完成する。
前の小屋のベッドは寝るだけの場所だったけど、ちゃんとふかふかの布団がある。
キッチンも水の魔石を設置して、水が出るようになっている。
魔石の効果が無くなったら、取り替えるように説明する。
「なんだろうな。こんな場所に、こんな立派な小屋があっていいのだろうか。それに何度も使うこともないのだが」
年に何回使うか分からないけど、あって困るものじゃない。
安心、安全が得られるなら安いものだ。
そして、今夜の部屋割りは、わたしとカガリさんが寝室を使い、ゴジールさんは部屋の中心であるリビングで寝ることになった。
ここでも、十分に快適だと言う。
まあ、あの小屋に比べたらね。
ちなみに、ゴジールさんはくまゆるとくまきゅうは馬小屋で寝ると思ったみたいだけど、わたしとカガリさんの寝室で寝ることになった。
「それじゃ、明日はサクッと倒して、帰るとするかのう」
「そうだね」
わたしとカガリさんは眠りに就く。