作品タイトル不明
951 クマさん、蟻と戦う その1
蟻の魔物か。
「それで、どうするつもりじゃ?」
「帰る選択肢はないよね?」
踵を返して、帰りたいところだ。
蟻の魔物なんて見たくないし、できれば戦いたくない。
でも、そういうわけにはいかない。
「酒が造れない。ダメじゃ」
だよね。
それに帰れば、ゴジールさんが困ることになる。
「それじゃ、倒すしかないけど……」
倒すだけなら、問題はない。
蟻の体に鉄ほどの強度がなければ、遠くから魔法を放てば倒すことはできる。
「倒せないのか?」
わたしが不安そうな表情をしたので、ゴジールさんが不安そうに尋ねてくる。
倒せないから不安そうにしたのでなく、大きな蟻と戦いたくないからであって、勘違いさせたみたいだ。
「 蟻(アント) の魔物ぐらい、こやつの敵ではない。問題は地下にいる蟻じゃ。いくら地上にいる蟻を倒しても残りが残っていたら、倒したことにはならぬ」
探知スキルの反応は5匹。
探知スキルは地下深くになると反応しなくなる。
もし、地下深くまで蟻の巣があったら、蟻の数は分からない。
蟻の巣があれば確実に地下にいる。
表面的に倒しても意味がない。
穴を埋めたとしても他から出てくる。
全ての蟻を倒すには地上に呼び出すか、蟻の巣ごと倒すしかない。
「それにしても 蟻(アント) か。災害級じゃのう」
「災害級?」
蟻がそこまでの魔物なの?
気持ち悪いとは思うけど、そこまでの魔物とは思えない。
災害級と言って、思いつくのは氷竜とかだと思うんだけど。
「一般人にとっては脅威じゃが、冒険者なら倒せない魔物ではない。ただし一匹ならばの話じゃ。 蟻(アント) は集団で動く。一斉に襲われたら、冒険者でも倒せない」
無数の蟻に囲まれたら発狂しそうだ。
しかも大きかったら。
「過去には村が 蟻(アント) に襲われて、全滅したこともある」
「そんなに危険な魔物なのか?」
話を聞いていたゴジールさんの顔がこわばる。
ゴジールさんも 蟻(アント) のことは知らなかったみたいだ。
「足は速い。人の足では逃げられない。なにより数が多い。低く見積もって50匹。多いと百を超え、最悪千を超えることもある。巣ごと討伐するなら冒険者ギルドが冒険者を招集して討伐する魔物じゃ。数の暴力じゃよ」
想像してみる。
おおきなたくさんの蟻(ウルフぐらいの蟻を想像)
それが百、千単位。
そんな蟻の軍団に襲われたら、ただではすまない。
「噓と思うなら、冒険者ギルドに確認してくれてもいい」
カガリさんの言葉を聞いて、ゴジールさんは絶望した顔になったと思うと俯き、顔を上げると決心した顔をする。
「戻ろう」
わたしとカガリさんはゴジールさんの言葉に驚く。
「そんな危険な魔物だとは知らなかった」
「いいの?」
「そんなに危険と分かっている魔物と戦ってくれなんて言えない。俺は魔物一匹でも逃げ出す。いくら嬢ちゃんが冒険者でも数百を超える魔物の相手をするなんて不可能だ」
普通はそうだよね。
でも、わたしには魔物を一万倒した経験がある。
数百ぐらい、相手ではない。
問題は地下にいることだ。
「お主はどうする? 決定権はお主が持っておる」
カガリさんがわたしに尋ねる。
「そこまで話を聞いて、逃げ出す選択肢はないよ」
虫は嫌いだけど、人を襲う可能性が高いなら、話は別だ。
蟻の数が増え、人がいるところまで来たら、大変なことになる。
「無理にお主一人でやることはないぞ。これは冒険者ギルドの仕事。正確には周辺の村、街の問題じゃ。よそ者の妾たちが首を突っ込むことはない」
カガリさんの言葉は正しい。
でも、もし、次にドワーフの町に来たときに、蟻に村が襲われ全滅した話を聞いたら、後悔する。
「ただ、問題は町の領主や冒険者が動くかどうかじゃ。 蟻(アント) は素材価値もない。遠く離れた場所の魔物。なにより、ここは死の山と呼ばれておるのじゃろう。危険度は、他の魔物を倒すのとでは比較にもならないほど高い。放置される可能性が高い」
冒険者は危険を冒して魔物と戦う。
困っている人のために戦う冒険者もいるが、そんなのは一部で、多くはお金のために仕事をする。
それは正しく、責められることではない。
さらに、蟻の素材は価値がないらしい、倒してもお金にはならないなら、意味もなくなる。
村や町がお金を出して、討伐依頼を出す方法もあるけど、たくさんの冒険者に依頼料を払うほどのお金があるかは別問題だ。
町ならまだしも、村にはそんなお金はないと思う。
なんだか、お酒だけの問題だけじゃなくなってきた。
「じゃが、お主なら、倒す方法はあるじゃろう」
どうやら、カガリさんには信用されているみたいだ。
とりあえず、思いついたことを言ってみる。
「水を流し込むとか?」
蟻の巣の中に水を流し込んで、窒息死だけど。
蟻って、水に弱かったっけ?
雨でも生きているイメージがある。
小学生のとき、理科の授業で大きな透明なガラス瓶に蟻を入れて、クラスでお世話をしたことがある。
当時から虫が嫌いだったわたしは、ほとんど世話はしなかったけど、授業は聞いていたので、思い出してみる。
蟻は水では簡単には死なない。
それと巣は水対策がされており、水没しないようになっていた。
蟻は頭がいい。
まあ、もし、水没したら、雨の日に蟻は全滅してこの世から消えてしまう。
でも、意外と小学校の授業内容を覚えているものだ。
「無理じゃな。あの蟻どもは水程度では死なない」
やっぱり、普通の蟻同様に無理みたいだ。
「それじゃ、あとは水で吸い上げるとか?」
ミサの誕生日パーティーのときにモグラ討伐をしたことがある方法だ。
穴の中に水を入れて、穴の中にいるモグラを吸い上げて、討伐した。
それから、水の代わりに炎のミニクマを穴に放り込んで、巣の中を通らせる方法もある。
その他では地上に呼び寄せる方法として、穴の近くに餌を置いて、出て来たところを倒すとか。
「ほう、面白いことを考えるのう」
「まあ、討伐方法はいくらでもあるよ」
問題は、わたしが気持ち悪さに耐えられるかどうかぐらいだ。
「なら、問題はないな。それじゃ、討伐に行くかのう」
「本当に行くのか?」
「ゴジールさんはどうする? くまゆるに護衛させるから、小屋に戻っている?」
「本当に戦うつもりなのか?」
「それが依頼だし、カガリさんがお酒のためなら、1人でも行きそうだからね」
「確認だが、俺も一緒に行っても大丈夫か? 足手纏いなら戻るが」
「勝手な行動はしない。くまゆるの上から降りない。パニックになって、くまゆるの上で暴れないって約束してくれるなら、大丈夫だよ」
「分かった。約束しよう」
わたしたちは 蟻(アント) がいる方へ、向かう。
「ちなみにわたしが断ったら、カガリさんはどうするの?」
「そのときは、妾一人で倒しに行くかのう」
考えることもせずに、即答する。
「もしかして、カガリさんが一人で行くって言ったら、わたしが断らないと思っている?」
「そうは思っておらんが、酒のためじゃからのう」
そっちか。
「カガリさん一人だったら、どうやって倒すつもりだったの?」
「数によるが、妾は空を飛べるからのう」
空から攻撃をするってことか。
「問題があるとしたら、魔力じゃろう。そのときは持久戦になるじゃろう」
それでも、地上に出てきた場合の討伐方法だ。
地上に出てこなかったら、倒しようがない。
地下にいる蟻の討伐方法を聞こうと思ったけど、目的地に近づいてくる
「そろそろ見えてくると思うから、静かにね」
ゆっくりと進む。
反応があるけど、蟻の姿は見えない。
「いないのう」
「あの穴の入り口にいるみたいだよ」
反応はある。
たぶん、穴の入り口にいる。
「近くに獲物がきたら、引きずり込むのかのう」
蟻って、待ち伏せよりは、あっちこっちにいるイメージなんだけど。
「それじゃ、行ってくるよ。カガリさんはゴジールさんをお願いね」
「分かった。もし危ないかったら、妾も手伝いにいく」
わたしはくまきゅうから降り、穴にゆっくりと近づく。
穴の大きさは、ビッグモグラの穴と同じぐらいある。
ゆっくりと穴に近づくと、穴から 蟻(アント) が出てくる。
匂いで、わたしが近づいたことに気付いていたのかな?
わたしは風の刃を放ち、蟻の頭を斬る。
「うぅ」
とっさに倒したけど、大きい。
ウルフより小さいけど、3歳児の子供ぐらいある。
それでも、大きい。
やっぱり、大きい虫はダメだ。
一匹倒すと、異変を感じたのか、次から次へと湧き出してくる。
わたしは穴から出てくる蟻に向けて風魔法を放ち、倒していく。
そして、50匹ほど倒すと、出てこなくなる。
蟻の死体の山。
フィナに解体させたくないし、わたしもアイテム袋に入れたくない。魔石なんていらないので、炎を放り投げて蟻の死体を燃やす。
「終わったのか?」
くまゆるとくまきゅうに乗ったゴジールさんとカガリさんが近づいてくる。
「とりあえず、穴から出てくる蟻は倒したけど、巣の中に残っているか分からないから、全部と聞かれたら、分からないよ」
「これから、どうするつもりじゃ?」
「とりあえず、餌を置いてみるよ」
わたしは穴の近くにクマボックスからウルフの死体を3体ほど置く。
「それで、出てくるかのう?」
蟻のことは詳しくない。
学校ではクラスメイトが砂糖をあげていた記憶もあるけど、わたしはお世話をしていない。
たまに男の子が虫の死骸を入れていた記憶もある。
あれって、何が楽しかったのか分からない。
蟻の生態の勉強だったらしいけど、人生では役に立たない。
いや、あのときにちゃんと勉強していたら、今、役に立っていたかもしれない。
そもそも、異世界に来るとは誰も思わないよ。
とりあえず、ウルフの死体を置いたことで、数匹の蟻が出て来たので、サクッと倒しておく。
「これで、打ち止めかな?」
「それにしても、簡単に倒すんだな。災害級とか言うから、心配したが」
「こやつだからできることじゃ。他の冒険者に同じことをさせるのは危険じゃぞ。そもそも、依頼を引き受けてくれぬと思うが」
わたしがあの価格でこの仕事をしたからといって、他の冒険者が引き受けるとは思えない。わたしはカガリさんのお酒のために頑張っている。
今回はお金のためではない。
「じゃが、これで全て倒したのならいいが、数が少ない気がする」
「やっぱり、残っていると思う?」
「残っているじゃろうな」
うろ覚えだけど、働き蟻がいて、サボる蟻もいた記憶がある。
まあ、普通の蟻と魔物の蟻が同じ性質を持っているとは限らないけど。
とりあえず、当初の予定通りに、次は穴の中に水魔法を入れて吸い上げることにする。