軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

948 クマさん、出発する

翌朝、ゴジールさんの家に向かう。

すでに、わたしたちを待っていたのか、ゴジールさんは家の前に立っていた。

でも、待っていたのはゴジールさんだけでなかった。

「なんじゃ、もう1人追加か?」

カガリさんの言うとおりにゴジールさんの他に、もう1人いる。

ドワーフだから分かりにくいけど、少し歳を取っているように見える。

もしかして、ゴジールさんの父親?

「この変な格好した嬢ちゃんが冒険者なのか? クマの格好した嬢ちゃんに、幼い女の子」

ゴジールさんの父親らしき人物がわたしたちを見る。

「何度も説明しただろう。冒険者ギルドで討伐記録を聞かせてもらったから実力はあると。見た目で判断はしないでくれと」

「確かにクマの格好した女の子と聞かされていたが、こんな可愛らしいクマとは思わなかった。クマの格好と言うから、本物の熊の毛皮を被っていると思っていた」

父親らしき人物が、わたしの人物像を語る。

「すまない」

ゴジールさんは説明してくれる。

なんでも、冒険者ギルドに依頼を出したことを父親に話したとのこと。

そうしたら、質問攻めに遭い、今回の依頼を受けたのがクマの格好した冒険者だと言うことを話したらしい。

やっぱり、ゴジールさんの父親だったみたいだ。

「つまり、クマの格好した冒険者が気になって、見に来たってこと?」

わたしは動物園のクマじゃないよ。

「それもあるが、息子が全てを話していないと聞いてな」

お酒に入れる機密情報だ。全ては話せないと思う。

テレビに出てくる料理のレシピは秘密なので、「これ以上の撮影は禁止とか」ある。

「さらにはクマの格好して、幼い子供まで一緒だと言う」

確かに気になるよね。

「冒険者ギルドから討伐記録を聞かされたとおりなら、優秀な冒険者なんだろう。あとタロトバの知り合いだと言うから、息子から話を聞いたあとタロトバのところに嬢ちゃんのことを聞きに行った」

それで、冒険者としてのわたしの実力は信じてくれたけど、クマの格好が気になったらしい。

「だが、息子がちゃんと伝えていなかったことは別だ」

「それは仕方ないよ。お酒の秘密の材料なんでしょう」

「それ以前の問題だ。命に関わることだ」

「冒険者が命が関わる仕事だということは、誰しもが分かっていることじゃ。気にしないでよかろう」

幼女のカガリさんが言うので、ゴジールさんの父親は驚いた表情をする。

「そうかもしれぬが、危険と知っているのに、伝えないのは別の問題だ。冒険者の命を軽視していいことにはならない。だから、話を聞いて、無理と思えば断ってくれてもいい」

「断るつもりはないが、話を聞こう」

お酒のためなら、カガリさんは断らないよね。

「冒険者なら知っていると思うが、目的の場所はベネノーズ山だ」

「ベネノーズ山?」

聞き覚えがない山だ。

そもそも、山の名前なんて、ほとんど知らない。

まして、この周辺の地名なんて、一つも知らない。

「もしかして、知らないのか?」

「わたしたち、ここいらの冒険者じゃないから」

「そうなんだな」

「それで、なんじゃ。そのベネノーズ山とは?」

カガリさんが尋ねる。

「死の山とも呼ばれている。魔物だけが生息できる山だ」

「そんな山があるの?」

「冒険者にとって、宝の山じゃのう」

「普通の冒険者は山に入らない。入れば死ぬことになる」

「……!?」

「どういうことじゃ」

「人が入れば倒れて、死ぬからだ。人だけじゃない、動物も。だから死の山と呼ばれている。息子は、そのことを伝えずに依頼をした。そして、嬢ちゃんたちは知らずに受けた。いくら、酒の材料が秘密だといえ、やってはいけないことだ。人の命がかかっている。だから、父親として謝罪と断ってもらっても構わないことを伝えようと思っていた」

ゴジールさんの父親は誠実な人みたいだ。

お酒の秘密より、人の命を大切にする。

「確認だけど、いつも2人は一緒に行っていたんだよね。それって、つまり対処方法があるから取りに行ける。それと場所を知られたくないのは本当のことだけど、ゴジールさんも危険と知って一緒に行くからには安全な道があるってことじゃない?」

「ああ、そうだ。安全な道がある。だが、一歩、間違えれば、死ぬことになる」

森の中に入ると死ぬってところが気になるけど。

考えられるのは毒ガスだ。

地中から噴き出している可能性がある。

でも……

「安全な道があるなら、問題はないよ。カガリさんもいいよね?」

「構わぬ」

「えっと、クマの嬢ちゃんの強さは冒険者ギルドで教えてもらったが、本当に嬢ちゃんまで来るのか?」

ゴジールさんがカガリさんを見て、再確認する。

「妾のことは気にしないでよい。自分の身は自分で守れる。もしもの場合は見捨てても構わぬ」

「いや、そう言うわけには」

「カガリさんのことは、わたしが守るから大丈夫だよ。もちろん、ゴジールさんも守るから安心して」

本当はわたし1人で行ってもいいんだけど、カガリさんは引き下がらないと思う。

お酒って、そんなに危険を冒してまで飲みたい、美味しい飲み物なのかな。

食べ物に置き換えてみると、自分も危険があっても頑張るような気がするので、強くは否定はできない。

「息子のことをお願いする」

「年下の女の子に守られるのは情けないが」

「強さに年齢は関係ないよ。大人になっても弱い人はいる。大人の強さは家族を守れる強さだと思うよ」

「家族を?」

「もちろん、魔物から襲われたら守れる力があればいいけど、普通は町の中で働いて、魔物に襲われることはないでしょう。だから、わたしが言う大人の強さは、しっかり働いて、家族のお腹を満たして、温かい家で暮らせることだと思うよ」

「そうじゃのう。お主は酒を造って、家族を支えておる。魔物を倒す強さは必要はない。そんな仕事はできる者に任せればよい」

適材適所って言葉がある。

魔物と戦うことはできるが、商人のように働くことはできない人もいる。

いくら頑張っても、人にはできることとできないことがある。

わたしはクマ装備を外して、魔物と戦えと言われてもできない。

でも、商人だったら、元の世界の知識を使って、商売はできると思う。

「嬢ちゃんたちは大人みたいな考えをもっているな」

カガリさんは大人だし、わたしの場合は働かない両親が反面教師だ。

ゴジールさんの父親からゴジールさんのことを頼まれ、わたしたちは町の外に向かう。

「そう言えば、移動手段はどうするんだ? 用意するとか言っていたが」

「準備はしてきたよ。町の外にあるよ」

わたしはくまゆるとくまきゅうのことを黙ったまま、町の外までやってくる。

「それで、馬車か馬は?」

周囲を探すゴジールさんを気にせずに、くまゆるとくまきゅうを召喚する。

「クマ!?」

「このクマに乗って行くよ」

「このクマに?」

「目の前で召喚したから分かると思うけど、わたしの召喚獣だから安全だよ。黒いクマがくまゆる、白いクマがくまきゅう」

わたしはくまゆるとくまきゅうを撫でる。

「ほれ、早く乗って出発するぞ」

カガリさんは早く出発したいのか、くまきゅうの背中によじ登っている。

ここでグダグダしても仕方ない。

「ゴジールさんはくまゆるに乗って」

カガリさんがくまきゅうに乗っているので、わたしもくまきゅうに乗る。

くまゆるはゴジールさんに背中を向け、「乗って」と言う感じに腰を下ろしている。

「本当に、そのクマに乗って行くのか?」

「出発が遅れるから、早く乗れ。お主も早く酒造りがしたいじゃろう。まさか、クマが怖いとは言わぬよな」

カガリさんは煽るように言う。

いや、普通にクマは怖い存在だからね。

でも、ゴジールさんはカガリさんに言われて、「そんなわけがないだろう」と言いながら、恐る恐るくまゆるに近づく。

腰はへっぴり腰だ。

くまゆるが、「まだ?」みたいに確認するように後ろを見ると、ゴジールさんは驚いて、後退りする。

「あと、言葉も分かるから、暴言とか、嫌われることはしないでね」

「……分かった」

ゴジールさんは再度、くまゆるに近づく。

「えっと、くまゆると言ったな。よろしく頼む」

ゴジールさんは礼儀正しく、くまゆるに言うと背中に乗る。

くまゆるはゴジールさんが乗るのを確認すると腰を上げて、立ち上がる。

「それじゃ、ゴジールさん。道案内お願い」

「まずは、道なりに進んでくれ」

ゴジールさんの指示に従って、くまゆるとくまきゅうは走り出す。

「黙っていて、すまなかった」

ゴジールさんがいきなり謝罪をする。

「道案内するから、黙っていればいいと思っていた」

「今後、冒険者に依頼を頼むようなことがあるなら、隠し事はしないほうがいい。冒険者は命を張って、お主を守るために戦う。じゃが、危険な場所と知っておるのに知らせないのは命を危険に晒すことになる」

「すまない。隠したい気持ちと死の山が目的地と知られたら、依頼を受けてくれないと考えてしまった」

「愚かな考えじゃ。妾たちは知らなかったが、知っている者もいるじゃろう。もし、お主が知っているのに黙っていることを知られたら、二度と冒険者ギルドは依頼を引き受けてくれなくなるぞ。依頼主との信頼関係がなければ、冒険者も命を張って戦うことはできない」

カガリさんの言うとおりだ。冒険者は命を張って依頼をこなす。黙っているだけだから嘘は吐いていないことにはならない。

「確認じゃが、魔物が分からないって言うのは、本当じゃろうな。本当のことを言うなら、いまのうちじゃぞ」

「魔物については本当だ。地中からなにかが飛び出して、動物を地中に引きずり込んだ」

「動物はいないんじゃなかったの?」

「俺たちが通る道は安全だから、多くはないが動物もいる」

「なるほど、回り道ができないから、魔物討伐となるわけか」

「そうだ」

「じゃが、地中に引きずり込む魔物か、なんじゃろうな」

「カガリさんでも、どんな魔物か分からないの?」

「地中に潜む魔物はおるが、地中に引きずり込むだけじゃ分からん。せめて魔物の特徴が分かれば」

「すまない。怖くなって逃げだした」

まあ、わたしだって日本でクマ装備もなく、森の中で遠くに熊を見かけたら逃げる。

近くで確認しようとはならない。

まあ、どんな魔物でも探知スキルもあるし、大丈夫だと思う。