軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

947 クマさん、依頼を受ける

タロトバさんは受付にいるゴジールさんを見る。

「ゴジールか」

「タロトバか」

お互いに顔を見合わす。

「えっと、2人は知り合い?」

「昔に、こいつの酒を造る機具を作った。その縁でその器具のメンテナンスも俺がしている」

そうなんだ。鍛冶職人だからと言って、作るのは武器だけでない。ロージナさんのように調理道具を作る職人もいる。

「だが、最近酒を造っていない噂を聞いたが、器具の調子が悪いのか? 調子が悪いなら見に行くが」

「機具は問題ない。酒が造れないのは酒に必要なものが手に入らなくなったからだ」

「もしかして、魔物か?」

タロトバさんはゴジールさんが冒険者ギルドにいる理由を把握する。

「ああ、それで嬢ちゃんが頼まれてここにいるのか。嬢ちゃんは見た目と違って強いからな」

「タロトバ。この嬢ちゃんを知っているのか?」

「知っている。この前の鍛冶職人の試練にロージナが作った武器を持って参加していた」

タロトバさんは鍛冶職人の試練のときに、わたしの戦いを見ている。

「この嬢ちゃんが……」

「この変な格好のせいで、強いとは思えないが、見た目で判断してはダメって

典型的な見本だな」

「……」

タロトバさんに言われても、ゴジールさんは信じられないというような顔をしている。

それにしても、変な格好って、やっぱり、タロトバさんはそう思っていたんだ。

「どうしましょうか?」

受付嬢がそれぞれを見ながら尋ねてくる。

「依頼票が貼られたら、妾たちが引き受けるぞ」

「わたしだけどね」

「……依頼料はこの金額以上は払えない」

「えっと、依頼料はいらないから、カガリさんが欲しがっているお酒でもいいよ」

「それはいい考えじゃのう。もっとも、依頼が完遂したら、購入させてもらうつもりじゃったが」

「待ってください。依頼料が減らされたら困ります」

受付嬢が勝手に依頼料を下げるわたしたちに声をあげる。

「金額は依頼主が自由に決められるはずじゃ。その依頼を選ぶかは冒険者次第。それが依頼金額が0としてもじゃ」

「そ、そうですが……」

依頼料の一部が冒険者ギルドの収入になるから、少なくなれば、冒険者ギルドに入るお金も減ることになる。

今のわたしたちは営業妨害をしているようなものだ。

冒険者ギルドを通さずに依頼を受けて、お金をもらうのと同じだ。

中には、そう依頼を受ける冒険者の話を聞いたことがある。

メリットとして、冒険者ギルドに通すより、お金が多く手に入る。

デメリットはギルドカードに依頼記録が残らない。

だから、高ランク冒険者は冒険者ギルドに現れないというような話を聞いた。

「だが、ここまで話を聞いて、冒険者ギルドに通さないのはよくないじゃろう」

「その前に、ゴジールさんが承諾してくれるかどうかだよ。断る権利は依頼主であるゴジールさんにあるから」

普通の魔物討伐なら、依頼票をとって、受ければ終わる。

依頼主の確認はほとんどない。

でも、今回のように護衛が含まれると、依頼主の意見が反映されることがある。

自分の命を守ってもらうからには、護衛をしてくれる冒険者の確認は必要だ。

護衛対象が女の子や女性の場合、女性冒険者が好まれることが多い。

だから、ミサの護衛にはマリナたち女性だけの冒険者が好まれる。(※初めて王都に行ったときにミサの護衛をしていた女性4人パーティーの冒険者)

「妾たちに頼むがよかろう」

「えっと、わたしのことを信用してもらうために、討伐記録の一部をゴジールさんに教えてあげて」

断られても困るので、わたしは受付嬢に頼む。

「よろしいのでしょうか」

「いいよ」

この女の子みたいなドワーフの受付嬢はしっかりしている。

ヘレンさんなら、喋っている気がする。

「それでは一部ですが、討伐記録を話させていただきます。ウルフの群れを討伐。ゴブリンの群れ、ゴブリンキングの討伐。タイガーウルフの討伐、ブラックバイパーの討伐。…………」

それからもわたしのギルドカードに登録されている討伐記録を読み上げていく。

もちろん、裏に登録されているクラーケンや魔物一万、巨大スコルピオンなどの討伐は読み上げられることはない。

そんな討伐記録がなくても、ゴジールさんの顔は信じられないって顔をしている。

「討伐記録を聞いて驚いたが、実際に嬢ちゃんなら、倒せるだろう」

受付嬢の口から発せられた言葉とタロトバさんの言葉により、ゴジールさんはあらためてわたしを見る。

「嬢ちゃんを信じてもいいのだろうか」

「妾たちに任せておけば大丈夫じゃ」

「どうして、カガリさんが言うかな」

受付嬢やタロトバさん、それからゴジールさんから笑いが起きる。

「嬢ちゃんに頼もう。そして、依頼を解決してくれたら、予備でとってある酒を譲ろう」

「よいのか?」

「造れるようになれば、問題はない」

この瞬間、依頼はわたしたちが受けることになった。

「待ってください。ちゃんと冒険者ギルドを通してください」

小さい受付嬢の言葉に従い、冒険者ギルドを通して依頼を受ける。

依頼金額は、さきほどの受付嬢が提示した金額になった。

お酒が目的なので、金額は問題ではない。

依頼を受けたわたしはギルドカードを返してもらい、冒険者ギルドを出る。

「ゴジール、おまえさんの酒を楽しみにしている。新しい酒ができたら、飲ませてくれ」

「もちろん、そのときは買ってくれるんだよな」

「そこは、タダ酒を飲ませてくれるってところだろう」

タロトバさんは笑いながら立ち去っていく。

「それで、いつ出発するのじゃ?」

「わたしたちは準備はできているからいつでもいいよ」

食べ物を含めて、必要なものはクマボックスに入っている。

「それじゃ、今から出発しようかのう」

「待て、今からじゃ時間も遅い。こっちも準備がある。そうだな、明日の朝一にしよう」

「それじゃ、明日の朝一にゴジールさんの家に行くね」

すでに昼は過ぎ、おやつの時間だ。

今から出発してもすぐに日が沈む。

まあ、進むだけ進んで、クマハウスってこともあるけど、急ぎではない。

いや、横には急いで討伐して、お酒を手に入れようとする人がいるけど。

「なんじゃ、今すぐに行って、倒せばよかろう」

「カガリさんも無理は言わないで、依頼を受けたのはわたしなんだから」

「こんな姿じゃなければ」

カガリさんは自分の小さい腕を見たり、体を見たりしている。

一時的に大人にはなれるけど、疲れるし、時間は短いらしいから、簡単には大人になったりはできないとのことだ。

「そうだ。あと、移動手段はどうする?」

もしかしたら、ゴジールさんが馬? 馬車を用意するかもしれないので尋ねる。

馬車よりも、くまゆるとくまきゅうに乗って行ったほうが早い。

「それは場所次第じゃろう。馬が通れるなら馬の用意。馬が通れない場所なら歩きになる。もしくは初めは馬で移動し、途中から歩きって場合もある。その判断は場所を知らぬ妾たちにはできぬ。判断は場所を知っているお主だけじゃ」

カガリさんはくまゆるとくまきゅうのことを知っているはずだけど、あえて馬と言う。

なんとなくだけど、ゴジールさんは口が硬いから情報を引き出そうとしているみたいだ。

「途中まで馬で移動し、途中で歩くのが早い」

「それでは、馬は放置か? いままで、お主はどうやって行っていたのじゃ?」

「親父と一緒に行っていた」

お父さんいるんだ。

まあ、魔物に殺されたり、病死でなければ、生きている年齢だ。

なんでも片方が馬の世話で待ち、片方が酒を造るのに必要なものを取りに行っていたそうだ。

「だが、魔物がいる場所に親父を連れて行きたくない。だからと言って、他の者を雇うこともできない。だから、歩きと思っている」

「了解。移動手段はこっちで用意するから、気にしないで」

「移動手段?」

「それは、当日になれば分かるよ」

この時点でクマに乗りたくないと言われても困る。

当日に、無理矢理にくまゆるとくまきゅうに乗せるつもりだ。

ゴジールさんは、これ以上は尋ねてこなかった。

わたしたちはゴジールさんと別れ、クリモニアのクマハウスに戻ってくる。

「夕食はどうしようか」

「適当で構わん」

美味しいものを食べるのは好きだけど、自分で準備するとなると別だ。

たまにならいいけど、毎日となると面倒臭い。

「それじゃ食べに行こうか」

「外に出てもよいのか?」

もしかして、気にしていたのかもしれない。

「う~ん、いいんじゃない。でも、クマの転移門は秘密だから、変なことは言わないでね」

「分かっておる。適当に誤魔化すから安心せよ」

「パンとお米、どっちがいい?」

「その二択ならお米じゃろう」

だよね。

そんなわけで、わたしたちはクマさん食堂にやってくる。

「クマの置物があるのう」

店の前には魚を抱いているクマの置物がある。

「わたしの店だからね」

わたしたちは店の中に入る。

「あれ、ユナちゃん」

店内で仕事をしていたセーノさんが店に入ってきたわたしに気づく。

「ご飯を食べに来たんだけど、席は空いている?」

「空いてますよ。たとえ、席が埋まっていたとしても、ユナちゃんのために席を空けさせるよ」

「それ、冗談でもやめてね」

「ええ~、冗談じゃないのに。本気なのに」

それこそタチが悪い。

「まあ、まだ混む前だから、席はたくさん空いているよ」

これから仕事終わりの人が食べに来る。

「それで、そっちの可愛い女の子は誰?」

セーノさんがカガリさんを見る。

「妾はカガリじゃ、こやつの知り合いじゃ」

「面白い喋り方だね。それとその服は和の国の服?」

そうだ。カガリさんの服のことを忘れていた。

自分がクマの格好しかしてないから、服に無頓着になっていた。

それって、女の子としてどうなんだろう。

でも、引きこもっていたときも、適当に服を選び、適当に着ていたから、今とさほど変わらない事に気づく。

「ほう、この服のことを知っておるのか」

「うん、わたしが住んでいた町は和の国と船が行き来していたからね。だから、和の国の服は見たことがあるよ」

「少し前に商人である父親と一緒に来た。それで、知り合いのユナにお世話になることになった」

「そうなんだ。でも、ユナちゃんのことを、呼び捨てにしちゃダメだよ」

セーノさんはカガリさんが、わたしのことを呼び捨てにしたことが気になったみたいだ。

「ちゃんとユナお姉ちゃんって、呼ばないと」

「ユナお姉ちゃん?」

カガリさんがそう口にした瞬間、背筋がゾワッとした。

「えっと、わたしは別に気にしないけど」

なんだろう、カガリさんに、そんな呼び方をさせたらダメと警鐘している。

「ダメだよ。ちゃんとしないと。ほら、ユナお姉ちゃんって呼んであげて」

カガリさんはわたしを見ながら口を開く。

「……ユナお姉ちゃん」

また、背筋がゾワッとした。

恐怖? 気持ち悪さ?

「えっと、いつもどおりでお願い。セーノさんも気にしないで」

「ユナちゃんが、そう言うなら、言わないけど」

納得してない表情だけど、納得してくれた。

でも、カガリさんが面白いものを見つけたような表情をしていたのは気のせいだよね。