軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

945 クマさん、お酒の話を聞く

建物の中には誰もいない。

そんな中、カガリさんが歩き出す。

「どこかにお酒がないかのう」

「勝手に歩き回るな」

ダダンさんが注意したとき、奥の扉が開き、男性のドワーフが出てきた。

「誰だ。勝手に入ってきたのは」

「ゴジール、俺だ」

「ダダンか。何度も言っているが、卸す酒ならないぞ」

「分かっている。俺は付き添いだ。この嬢ちゃんたちが、おまえさんと交渉すると言って、聞かなくてな」

ダダンさんがわたしたちを見ながら言う。

「クマと少女?」

ゴジールと呼ばれたドワーフがわたしとカガリさんを見る。

「妾はカガリじゃ、お主の造った酒が美味いと聞いてな。どうにか譲ってくれないだろうか」

カガリさんは丁寧に頼む。

「すまないが酒ならない」

でも、カガリさんは簡単には引き下がらない。

「酒職人なら、予備とかあるじゃろう。それを少し譲ってくれればいい」

カガリさんの言葉が正しかったのか、ゴジールさんは固まる。

「確かにあるが、言葉どおり予備だ。もしものときのために残してある。売り物じゃない」

予備とは、本当に必要なときに使うものだ。いきなり見知らぬ幼女がお酒を売ってほしいと言っても、売ってくれないと思う。

「ゴジール。俺からの確認なんだが、いつ頃、酒ができるんだ。おまえさんの酒を待っている人は、この嬢ちゃんだけじゃない。たくさんいる」

ダダンさんの言葉にゴジールさんは顔をしかめる。

「……すまない。造れないんだ」

「前にも言っていたな。理由は教えてくれなかったが」

「……」

ゴジールさんは黙ったままだ。

「俺もお前の造る酒の好きな一人だ。俺にできることがあったら手を貸すから教えてほしい」

「…………」

ダダンさんの真剣な言葉にゴジールさんは歯を食いしばって黙ったままだ。

「ゴジール……」

再度、名前を呼ぶと、固く閉じていたゴジールさんの口が緩む。

「そうだな。造れない理由を知る権利は、ダダンにはあるな。少し場所を変えよう」

そう言って、わたしたちを奥の部屋に案内してくれる。

「適当に座ってくれ」

部屋にはテーブルがあり、椅子が置かれている。

わたしたちは言われるままに椅子に座る。

ゴジールさんもわたしたちの前の椅子に座ると口を開く。

「簡単に言えば酒に必要なものが手に入らなくなった」

「理由は?」

「酒を造るのに必要なものがある場所に魔物が現れるようになった」

言い回しがあれだけど、材料が取れるところに魔物が現れたってこと?

「それなら冒険者に魔物討伐依頼を頼めばいいだろう」

「知っていると思うが、俺が造る酒は代々受け継がれてきた。材料も製法も秘密だ。冒険者に頼めば酒に使っている材料の情報が漏れる」

人の口を完全に塞ぐことはできない。

ゴジールさんの依頼となれば、お酒の材料と思うはずだ。

「もちろん、酒が材料一つからできるわけじゃない。だが、代々守ってきた秘密を知られるわけにはいかない」

「その気持ちは分かるが、いつまでも酒を造らないわけにはいかないだろう」

「分かっている。でも、しばらくすれば魔物が消える可能性もある」

「楽観的な考えじゃのう」

話を聞いていたカガリさんが口を開く。

「魔物が棲みついたら、離れないぞ。逆に数が増えることもある。そして、近場なら、いつかは人が襲われることもある。危機感を持ったほうがいい」

「分かっている。だが、なかなか行動に移せない」

代々受け継がれてきたことが足枷になっているんだろう。

自分の代で、漏れる可能性があることはしたくない。

「いい大人がうっとうしい。お主の役目はなんじゃ。酒を造ることじゃろう。そして冒険者の役目は危険な魔物を倒すことじゃ」

人には役割がある。

わたしにはお酒を造ることはできない。

でも、魔物を倒すことはできる。

「だが、そう簡単なことじゃない。代々受け継がれてきた材料だ」

「材料だとしても、比率とかあるじゃろう。酒造りにおいて、材料の比率がなによりも秘匿することじゃろう。それさえ守れば、同じ酒は造れん」

料理だってそうだ。

調味料を入れればいいってわけじゃない。美味しく作るには適量ってものがある。

たくさん入れれば美味しくなるものではない。

「確かに嬢ちゃんの言うとおりだな」

ゴジールさんは決心する顔をする。

「魔物討伐を依頼しよう。冒険者ギルドに行ってくる」

「それなら妾がその依頼を受けよう。礼は酒でいいぞ」

カガリさんの言葉に全員が固まる

「いや、嬢ちゃん。魔物がなにか知っているのか。嬢ちゃんなんて簡単に食われてしまうぞ」

まあ、普通はそう思うよね。

「魔物ぐらい知っておる。妾が倒してやろうと言っておる」

どっちの気持ちも分かる。

カガリさんなら、魔物を簡単に倒せる。でも、ゴジールさんから見たら、カガリさんなんて、幼女だ。

魔物を倒すどころか、なにもできずに魔物に食われると思っているはずだ。

わたしだって、カガリさんの本当の姿を知らなかったら、ゴジールさんと同じ反応をすると思う。

ダダンはカガリさんのことを知っているけど、約束を守っているのか、どうしようか考え込んでいる。

ここは、波風が立たないようにわたしが前に出る。

「えっと、わたし、一応冒険者だから、わたしが引き受けるよ」

カガリさんの代わりに引き受けることはできる。

「嬢ちゃんが? 冗談はよしてくれ。遊びじゃないんだ」

わたしも疑われるような目で見られる。

やっぱり、クマの格好じゃ説得力はないみたいだ。

「見た目で判断するのは、酒を飲まずに判断することと同じじゃぞ」

いいことをカガリさんが言った。

見た目が美味しそうに見えても、マズイ料理はある。

綺麗な家があっても、耐震性がないとか。

見た目が美女、美男だとしても、心が汚いとか。

その逆もある。

美味しそうに見えない料理が、美味しいとか。

崩れそうな建物でも、崩れないとか。

見た目がアレの男女でも心が綺麗とか。

もちろん、美味しそうな料理が、美味しいのが一番だし、綺麗な家が頑丈なことがいい。美男、美女の心が綺麗だったらモテる。

つまり、なにが言いたいかと言えば、クマの着ぐるみの格好していても、幼女でも強いんだよってことだ。

でも、それを見た目で証明するのは難しい。

「嬢ちゃんの言うとおりに見た目で判断するのはよくない。見た目が悪くても美味しい酒はある。でも、見た目は大切だ」

つまり、遠回しにクマの格好をしているわたしには依頼はできないってこと?

「見た目が悪く、臭い酒は、美味しくない場合が多い」

「妾たちが臭いとでもいうのか?」

着ぐるみの中は汗臭いって聞くけど、クマの中は臭くないよ。

……臭くないよ。

「ものの例えだ。もし、嬢ちゃんたちに頼んで、嬢ちゃんたちが死ぬことがあれば、子供を死にに行かせたことになる。俺はそんなことをしたくない」

子供に言い聞かせるように言う。

見た目で判断するのはよくない。

でも、人は見た目で判断する生き物だ。

普通に考えれば正しいんだけど、なんとも言えない気持ちになる。

「たとえ、見た目で判断したとしても、幼い子供や女の子に魔物討伐をしてくれとは頼めない」

普通に考えて、幼女のカガリさんに魔物討伐を依頼する人はいない。

いたら、それはそれで問題だけど。

でも、その中に、わたしまで入っているとは思わなかった。

「ダダン、ありがとう。嬢ちゃんたちもありがとうな。冒険者ギルドに行くよ」

結局、わたしたちの言葉は信じてくれなかった。

わたしたちは建物から追い出される。

「そういうわけだ。冒険者が魔物を倒せば解決する。酒はそれまで我慢するんだな」

それしかないよね。

ゴジールさんが冒険者に頼むことにお酒造りが前進した。それでよしとしないといけない。

「俺は店に戻る」

「付き合ってくれて、ありがとうね」

ダダンさんがいなかったら、ゴジールさんに会えなかったかもしれないし、話を聞くこともできなかったかもしれない。

なにより、話を聞くことができたから、ゴジールさんは冒険者ギルドに依頼することを決心した。

「まあ、ゴジールの酒ができたら確保だけはしておいてやるから」

ダダンさんは歩き出す。わたしたちはその背中を見送る。

「どうする? 一度帰って、解決したころに、戻ってくる?」

横にいるカガリさんに尋ねる。

「他の冒険者に頼むのもいいが、当てになるのか? そもそもいつ解決するのじゃ? やっぱり妾たちが行って片付けてくるのが早い」

どうやら、カガリさんには待つって言葉がないらしい。

お米が欲しくて、クラーケンと戦った自分としては、カガリさんのことを反論することはできない。

「そもそも、カガリさんは冒険者ギルドカードは持っているの?」

「酒を購入するために魔物討伐をしていたから持っておる。だが、カードの年齢は偽って25歳じゃ。さらに、このなりじゃ、使えんじゃろう」

確かに。

「どうするかのう」

カガリさんは少しでも早くお酒が欲しいみたいだ。

「それじゃ、ゴジールさんが依頼を申し込んだ瞬間に、わたしが受けるっていうのはどう?」

「それはいい考えじゃ」

依頼が出されたなら、誰でも受けられるはずだ。

もちろん、依頼内容では低ランクの冒険者は受けられないけど、冒険者ランクCなら、ある程度、引き受けることができる。

わたしたちが、そんなことを話しているとゴジールさんが建物から出てくる。

「なんだ。まだいたのか?」

「冒険者ギルドに行くんだよね。わたしたちも一緒に行くよ」

「行くのは構わんが、邪魔はするなよ」

邪魔はしない。

どっちかというと助ける側だ。