軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

914 サタケ、ユナと戦う

俺が刀を構えると目の前にいるクマの格好した少女も武器を構える。

その武器を見た瞬間、怒りを覚える。

持っていたのは木の棒。

「その木の棒で戦うつもりなのか? 俺は真剣に戦ってくれと言ったと思うが」

俺はジュウベイに勝ったユナと本気で戦いたい。

すでに魔法無しのハンデをもらっている。

さらに木の棒で戦うと言うのか。

幼くなったカガリ様がユナに刀を貸そうとするが、断る。

しかも、「強さは武器で決まるものじゃないことをサタケさんに教えないといけないからね」と言う。

俺も武器で決まるものではないと思う。

だが、現実は違う。

実力が同じなら、武器の差が明暗を分ける。

そのごく僅かな差で勝つなんてこともある。

強い武器を求めるのは普通のことだ。

「別に武器で強くなれるのは否定はしないよ。わたしだって、強い武器は欲しいと思うし」

ユナは優しい言葉で、俺の行動を否定はしない。

その言葉が俺の心に痛みを与える。

俺は力を求めて妖刀を手にした。

「強度、軽さ、バランス、魔力の流れの良さ、武器には無限の可能性があると思う。でも、今回は違うと思う。妖刀の意思なのか、サタケさんの意思なのか、曖昧になっていると思う」

ユナの言葉で考える。

今回のことが自分の意思なのか、妖刀の意思なのか答えはでない。

ただ、ユナとジュウベイに勝ちたいという気持ちが止められない。

「いいだろう。その傲慢な考え、叩き潰してやろう」

今の俺ができることは木の棒で戦ったことを後悔させてやることだけだ。

そして、スオウ王の開始の合図で試合が始まる。

お互いに様子見で動かない。

前回戦ったときも思ったが、隙がない構えだ。

本当に天才って奴は、気にくわない。

俺が越え難き山を簡単に越えていく。

俺がユナと同じぐらいの年齢のときの実力を思い出すと、笑えてくる。

比較にならないほど弱かった。

だが、このまま向き合っているだけでは勝負は付かない。

「先手は譲るよ」

ユナの言葉に裏を読む。

「誘いか?」

攻撃と防御では防御のほうが難しい。

だが、攻撃を防ぐことができれば、防御した者が有利になる。

防御に徹し、隙を窺う戦い方もある。

「それなら、わたしから行こうか」

「いや、この妖刀の力が嬢ちゃん相手にどれほど使えるか、確かめさせてもらう」

俺は守りより攻めが得意だ。

なにより、妖刀の力がどこまでジュウベイに勝ったユナに通用するか確かめたい。

俺はゆっくりと間合いを詰め、ユナの動きを見る。

ユナは俺を見ている。

その目は全てを見透かしているように感じてしまう。

こんな小さい体が、巨大に感じる。

俺は小さく息を吸い込み、足に力を入れる。俺は動き、ユナとの間合いを詰める。

過去、最速。

でも、ユナは木の棒で受け止める。

受け止められることは分かっていた。

すぐに切り返して、斬りかかる。

でも、ユナは俺の攻撃を見透かしたように躱し、捌き、受け流す。

強い。

木の棒がハンデになっていない。

初めは木の棒を斬ってやるつもりだったが、綺麗に受け流される。

どんなに速く刀を振っても、対応される。

避けられ、受け流される。

妖刀から力が伝わってくる。もっと速く動け、もっと速く腕を振れ、もっと速く……。

俺は今までにない速度で体を動かし、刀を振るう。

でも、全ての攻撃が躱される。

「どうして、避けられる」

「経験だよ」

俺の無意識に出た言葉にユナが答えてくれる。

「経験だけで、それほど強くなれるのか?」

言葉通りなら、ユナは俺よりも戦いの経験が多いってことになる。

「経験は大きいよ。武器を向けられても慣れてくるし、ギリギリで見切ることができる」

「でも、その年齢で、それほどまでの経験をどうやって積んだ!?」

城の新人兵士より若い。

新人兵士なんて、武器を向けられるだけで怖がる。

シノブみたいな特殊な人間もいるが例外だ。

シノブは幼いときから鍛えられている。

初めてシノブを見たとき、嫉妬したことを覚えている。

男、女、関係ない。

すでに恐怖心は乗り越え、傷ついても諦めない強い心。修羅場を乗り越えていた。

幼いときから鍛えていないと無理だ。

つまり、ユナもそっち側の人間ってことだ。

時間を子供のときに戻したい。

遊んでいないで、刀を振っていれば。

積み重ねたものが違う。

「サタケさんは毎日、命懸けで戦ったことがある?」

毎日と問われたら、ない。

「何度も死にかけるまで戦ったことはある?」

命の危険はあったが、仲間たち、師匠たちに守られていた。

安全な場所で戦ってきた。

それは当たり前のことだ。

育てている者を、死なせるわけにはいかない。

今だって、命の危険がある仕事は経験が浅い者にはさせていない。

それは死ぬからだ。

「強くなるには戦いの数だよ」

ユナの言葉が心に突き刺さる。

「俺の戦いの数が少ないと言いたいのか!」

「少ないよ。毎日何時間も戦ったことがないでしょう。対人戦は、自分より強い人と戦ったことは?」

「おまえさんはあると言うのか」

「あるよ。何度も負けたよ。そうやって成長してきたよ」

ジュウベイに一度だけ、ユナとの戦いについて尋ねたことがある。

戦いの場数が違うと言われた。

幼いときから、戦い続けていなければ身につかない。

恐怖心を乗り越えた者の目をしていた。

勝つために、真っ直ぐに俺を見てきたと。

初めはクマの格好に騙されたとか。

だが、戦っているうちに気にならなくなったとか。

自分の力を出し切って負けたと、ジュウベイは笑いながら話してくれた。

そして、そのユナと出会って練習試合を申し込んだ。

どれほどの実力かと思ったが、あっさりと負けた。

年端もいかない少女に負けた。

どうして、ジュウベイは負けたのに笑っていられるのか分からなかった。

今まで積み上げてきたものが崩れていく感覚に襲われた。

だから、妖刀を手に入れ、動きが速くなったときは、ジュウベイにもユナにも勝てると思った。

でも、実際は俺の攻撃を躱す。

「それじゃ、わたしが胸を貸してあげるから、本気でかかってきていいよ」

「その言葉後悔しても知らないぞ」

だが、後悔させてやることはできなかった。

妖刀を持って戦っている俺の攻撃は全て、木の棒に防がれる。

無様だ。妖刀の力を借りて戦うが、この醜態。刀を振るうが、受け止められる。切り返そうした瞬間、腹に衝撃が走る。

蹴られた。

「卑怯とは言わないよね。魔法は禁止だけど、蹴りは禁止じゃないよね。もしかして、綺麗な戦いがしたかった?」

言わない。

ユナの守りの隙を窺うために、武器しかみていなかった。

蹴りを想定していなかった自分に怒りを覚える。

でも、その理由は分かっている。

ユナとの実力差があるからだ。

足まで注意を払えば、他の攻撃が躱せないからだ。

自分の情けなさに怒りを覚えてくる。

ユナとの差はなんだ。

どうして、躱せる?

どこを見ている?

ユナの目はどこまで見えている?

あの頭に被っているクマの目にまで見られている感覚に陥る。

昔の書物に第三の目で見ろと書かれてあったが、4つの目で見られている。

ユナを見ると、曇り一つない綺麗な目で俺を見ている。

自分が妖刀を使っている醜さが、心を痛めつける。今の俺の目は濁っているだろう。

だが、もう引けない。

「強いな。ジュウベイの奴が負けるわけだ。さらに、魔法も使えるんだから、嬢ちゃんが本気で戦ったら、俺はあっという間に負けていたんだろうな」

この強さに大蛇を倒すほどの魔法まである。

どうやって、これほどの強さを手にいれられる。

どう頑張っても届かない。

でも、最後の悪あがきをさせてもらう。

「それじゃ、これが最後だ。受け止めたら、嬢ちゃんの勝ちだ」

俺は妖刀から力を引き出す。

もっと速く。

ユナが躱せないほどに速く。

誰も躱せないほどに速く。

力をくれ。

妖刀から、意思が流れてくる。

『我が刀は最速なり』

妖刀と俺の意思が重なる。

何度も振り続けてきた型。

俺の最後の技。

初見で躱せる者はいない。

あのジュウベイでさえ、初見は躱せなかった。

さらに、今は妖刀の力によって速度が追加されている。

一呼吸入れると、踏み込む。

最速。

足に痛みが走るが、そのまま踏み込む。

間合いが一気に詰まる。

上段斬り。腕に痛みが走るが振るう。

最速の上段斬りをユナが体をずらして躱す。

俺は腕を切り返し、刀を斜め上に切り上げる。

無理矢理に切り返したことで、さらに腕に痛みが走る。

速度と反動。

だが、今まで最速の切り返しだ。

でも、それさえも木の棒で受け流される。

まだだ!

受け流したことで、ユナの体が開く。

斬り上げた刀を、最速で振り下げる。

腕が千切れそうになる。

振れ! 振りぬけ!

勝ったと思った瞬間、白い手袋にナイフが握られ、受け止められた。

どこまで見えているんだ。

でも、まだだ!

刀を引く。

3連続攻撃で、ユナの体が無防備になる。

「俺の勝ちだ」

引いた刀を突き出した。

狙いは肩。

しばらく武器が持てなくなるかもしれないが、許してくれ。

ジュウベイに負けない最高の突き。

勝ったと思った瞬間、ユナの肩が下がり、無情にも突きは空を斬る。

最後の力を込めた突きが、躱されたことでバランスを崩す。

まずいと思った瞬間、突きで伸び切った腕に衝撃が走る。

木の棒で斬られた。

そう思った次の瞬間には、白いクマが目の前に迫っていた。

避けられない。

顔に衝撃が走り、体が浮かび、吹っ飛ぶ。

地面を転がり、終わったと心の奥で思った。

強いと分かっていた。

あのジュウベイが負けた相手だ。

前回、実際に戦って、強いことは理解していた。

しかし自分より、年齢が低く、女に負けたことが許せなかった。

いや、違う。

その若さで持っている強さが羨ましかった。

剣の扱いだけでなく、大蛇を倒せるほどの魔法を使えるユナが羨ましかった。

それを認めたくなかった俺は、どんな方法を使ってでも勝ちたかった。

年下の女に負けた事実から逃げたんだ。

実力がない事実から逃げた。

だから、妖刀を手に入れたとき、誘惑に負けた。

でも、妖刀を使っても負けた。

魔法の使用をなしにしてもらい、さらには木の棒のハンデをもらった。

完膚なきまでに負けた。

ジュウベイの奴も、こんな気持ちだったのかもしれない。

ユナに負けてから、あいつは鍛錬する量が増えた。

今なら、その気持ちが分かる。

ジュウベイ、俺のようにはなるなよ。