作品タイトル不明
915 クマさん、妖刀を回収する
「終わったのか?」
カガリさんとスオウ王が地面に倒れているサタケさんを見ている。
サタケさんはゆっくりと起き上がる。
手にはしっかりと妖刀が握られている。
「えっと、わたしの反則負け?」
わたしはクマボックスに仕舞ったくまきゅうナイフを出す。
避けられないと思って、咄嗟に出してしまった。
無意識に避けられないと思った瞬間、手に握っていた。
「いや、嬢ちゃんの勝ちだ。新しい武器を出したからと言って、負けじゃない。あの一瞬で別の武器を取り出し、防いだ。ただ、それだけだ」
「そうじゃのう。見ているほうはユナが負けたと思った。だが、ユナはサタケの攻撃に反応して、ナイフを握り、防いだ」
「はっきり言って、俺にはあの一瞬になにが起きたか分からなかったのだが」
どうやら、カガリさんには攻防は見えていたらしいけど、スオウ王には見えていなかったみたいだ。
そんなスオウ王に皆が説明する。
「あの一瞬で、そんなことが起きていたのか?」
話を聞いたスオウ王が驚く。
「それでサタケ、満足したか」
スオウ王がサタケさんに話しかける。
「はい、自分の未熟さでご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
頭を下げて謝罪する。
「嬢ちゃんにも迷惑をかけた」
今度はわたしに頭を下げる。
「本当だよ。妖刀回収しに行った人が妖刀に取り憑かれてどうするの?」
「面目ない。この刀を持った瞬間、なんとも言えない感情が流れてきた。この刀があれば嬢ちゃんやジュウベイに勝てると思ってしまった。弱い自分が強くなれるような錯覚を覚えた。いや、違うな。実際に、この刀を持った俺は強かった。今までで一番速い攻撃ができた。でも、嬢ちゃんは全て躱し、受け止め、防いだ」
まあ、クマ装備があるから動けたんだけど。
クマ装備がなければ、攻撃されると分かっても、体は動かなかったと思う。
「ああ、情けない。強さを求めて、武器に頼るなんて情けない」
「そんなことはないよ。強くなるために、強い武器を手に入れるのは当たり前のことだよ。強いて言うなら、技が単調、速くても攻撃の軌道が分かれば、受け止められるし、避けられるよ。もし、あの速度で、予想外の攻撃をされていたら、わたしが負けていたかも」
「気を遣わないでいい。たとえ、それができたとしても、嬢ちゃんには勝てなかっただろう。それだけ実力差があることは分かった」
サタケさんは晴れ晴れとした顔をしている。
「それじゃ、この妖刀を封印しないといけないな」
サタケさんは鞘に刀を納め、妖刀を差し出そうと腕を伸ばしたとき、刀が動き出す。
わたしは咄嗟に動き、サタケさんが持つ刀を掴む。
「逃がさないよ」
ギュッと強く、クマパペットで刀を握りしめる。
同じ過ちは繰り返さない。
「逃げようとするなら、折って、さらには粉々にするよ」
逃げられないと分かると『自分を使えばさらに強くなれるぞ。速い攻撃をすることができるぞ』みたいな感情が伝わってくる。
うっとうしい。
「カガリさん! 封印をお願い」
カガリさんが近寄る。
「しっかり掴んでてくれ」
カガリさんがなにか仕草をすると妖刀の前に魔力で作った魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣は妖刀に絡みつく。
しばらくすると妖刀から流れてくる感情がなくなった。
「これで、大丈夫じゃろう」
やっと一本回収できた。
これで、カガリさんが回収した妖刀馬鉄と合わせて2本目。
残り4本。
「これで一旦終わりだな」
国王がサタケさんの前に立つ。
「サタケ、隊長という立場を忘れ、多くの者に迷惑をかけた。おまえには10日間の謹慎を命じる」
「国王様。それだけですか。わたしは、隊長の立場を忘れ、己が強くなることだけを考え、妖刀の力に溺れました」
「そう思うなら、妖刀の力を頼らず、強くなれ。それに、なんのために人払いをさせたと思っている」
「ありがとうございます」
サタケさんは頭を深く下げる。
「ただし、謹慎は妖刀の件が片付いてからだ。引き続き、ジュウベイと妖刀の探索を命じる。情報が入り次第、ユナとカガリに連絡。サタケは城に待機、向かうのは禁じる」
「はい」
はっきりと、わたしたちに押しつけられると、なんとも言えない気持ちになる。
他の人たちは? と言いたくなる。
でも、ここまで関わったんだから、途中で放り出すことはしない。
「ユナには、迷惑をかける」
「乗りかかった船だよ。それにわたしも関係があるからね」
黒男の件がある。
「それじゃ、俺は仕事に戻る。今回のことは口外無用だ。ここではなにも起きていない」
国王は指示をだすと、歩き出す。
「はぁ」
国王が立ち去ると、サタケさんが大きな溜め息を吐く。
「情けない。いい大人が嫉妬するなんて」
「嫉妬?」
「ああ、嬢ちゃんの強さに嫉妬した。ジュウベイに勝つのは俺だと思っていた。でも、勝ったのは嬢ちゃんだった。嬢ちゃん、どうして俺は負けた? この刀のおかげで、攻撃は速くなったはずだ。ジュウベイよりも速い。誰よりも速かったはずだ」
サタケさんは妖刀を握りしめる。
「もちろん、強くなるには速さも重要だよ」
攻撃が遅ければ、簡単に避けられる。
速さが増せば、威力は上がる。
速度は大切だ。
でも、メリハリが必要だ。
「相手は人間。技を繰り出せば勝てるわけじゃないよ。相手を見て、どんな技を繰り出すのか、どんな動きをするのか、ちゃんと考えないと、強くなれないよ。もし、技を出したいだけなら、案山子相手にすればいいと思うよ」
「そこまで言うか」
サタケさんは笑う。
「速度は誰にも負けていなかった。ただ、妖刀を手に入れたのはこの前でしょう。だから、妖刀を上手に扱えていなかったんだと思うよ」
なんでもそうだけど、新しい武器には慣れが必要だ。
普通のRPGなら装備するだけでパラメータが上がって強くなれるけど、ゲームと現実は違う。
強い武器を手に入れたからといって、強くなれるわけじゃない。
強いけど、知らない武器を手に入れても、扱えなければ意味がない。
「妖刀はサタケさんが扱っている刀と同じでも特性は違う」
「つまり、この刀の力を引き出せていなかったってことだな。でも、それは事実だ。刀の速度を上げるたびに、俺の体は悲鳴をあげていた。俺の肉体がついていけなかった」
サタケさんは憑き物が取れた表情をしている。
「嬢ちゃん、どうしたら強くなれる」
「年下の女の子に聞く?」
「年齢、性別は関係ない。強き者に尋ねている」
「はぁ」
わたしは感じたまま教えてあげる。
「まず、サタケさんの剣筋は綺麗すぎる。多分、同じ型の練習を反復するように長いことしてたんだと思うけど、応用がない」
「……応用」
「相手によっては一回見れば、刀の軌道はバレバレだよ。ただ、サタケさんの技は一流だから、自分と同等以下の実力の人なら通用するけど、同等か格上になると通用はしなくなるんだよ」
普通の人なら、防ぐこともできず、倒すことができる。
でも、わたしやジュウベイさんほどになれば、通用はしない。
戦いは速さだけではない。
「それに駆け引き、応用力、観察力、判断力も必要だよ」
肉体的なことばかりではない。
人によっては頭よりも体が動くってこともあるけど。それも正しいと思う。
「でも、反復練習は否定はしないよ。その反復練習を体に染み込ませ、最高の技にするのも強くなる方法の一つだと思う。強くなる方法なんて、数多くあるから、どれが正解なんてない。ただ、一つのことをすると、その一つを防がれたり、効果がなかったら、なにもできなくなるでしょう」
「ああ」
「でも、なんでもやろうとすると、得意技がおろそかになるかもしれない」
「なら、どうすればいい」
「そんな答え、誰も持っていないよ。時間は有限、進むしかないし、曲がった道かもしれない。その道を短くするために、師匠や年上の先人たちから教わるんでしょう」
「ふふ、あはははははははは」
サタケさんが笑い出す。
「まさか、そのことを年下の少女に言われるとは思いもしなかった」
「そうじゃな、それには同意じゃ」
カガリさんも笑っている。
「なんで、笑うの?」
「年下のお主が、サタケに年上のように話しているからじゃよ。本当はサタケより年上なのか?」
「15年しか生きていないよ」
「お主は本当に不思議な女じゃのう」
まあ、異世界から来て、クマ装備を神様からもらって、ゲームで戦い方を覚えた女の子なんていないからね。
それからサタケさんが妖刀を納めに行くというので、一緒についていく。
「場所を変えたんだね」
「ああ、また盗みに入られても困るからな」
部屋の片付けをしながら、保管場所を変えたとのことだ。
わたしたちは新しい保管所にやってくる。
刀が数本、壁に掛かっている。
サタケさんは空いている場所に刀を置く。
「あと4本じゃな」
「ジュウベイさんが2本、黒男が一本、行方知れずの妖刀が一本だね」
「被害が出る前に見つけないとね」
「それじゃ、馬車の手配はしておくから、門の入り口で待っててくれ」
サタケさんと別れ、わたしとカガリさんは門の方へ歩き出す。
一つの仕事が終わって、満足していると、クマボックスの中から、「くぅ〜ん、くぅ〜ん」とクマフォンが鳴り出す。