作品タイトル不明
884 カガリさん、動く その1
窓際で酒を飲む。
平和じゃ。
大蛇の存在もなくなったことで、大蛇の封印の管理も無くなった。
たまにユナの付き合いで大変な目に遭うが、それはそれで楽しい。昔の冒険者時代を思い出す。
だからと言って、巨大スライムや氷竜と戦ったりするとは思いもしなかったが。
酒をコップに注ぎ、一口飲む。
ユナが妾が成長しないのは酒のせいじゃないかというが、やめられない。
ユナも酒の美味さを知れば妾の気持ちも分かるじゃろう。
もう一口、飲む。
のんびりとお酒を飲んでいると外から声がしてくる。
「カガリ様、いるっすか」
この声はシノブか。
妾のことならスズランに聞けばよかろうにシノブはたまに様子を見にやってくる。
まあ、酒や食べ物を持って来るから追い出したりはしないが。
階段を上がってくる足音がする。
襖が開き、シノブが部屋に入ってくる。
「こんにちはっす」
「騒がしいのう」
「お酒と食べ物っす」
シノブはアイテム袋から酒が入った小樽と食べ物を出す。
「スズランさんには内緒っす」
スズランは妾が大蛇の封印の管理をしていたときから、世話をしてくている。
妾がここにいることを知っている数少ない者だ。
そのため、今も食糧と酒を持ってきてくれている。
初めはここに一緒に住むと言い出したが断った。ユナがあの門を使って、いつ来るか分からないし、今まで一人で島にいたから、一人のほうが気楽でいい。
こうやって人がたまに来てくれるだけで十分。
「とっくにスズランに気付かれているに決まっておるじゃろう」
「どうしてっすか。話したっすか? 毎回黙ってほしいと言っているっすよね」
「スズランが知らない酒樽があれば、誰かが持って来たと思うじゃろう」
ここに来る者は限られている。
だから、必然的に絞られる。
「そこは、カガリ様本人が買ったことにすれば」
「こんななりじゃ、酒を買うのも面倒じゃ」
親のお使いで買いに来たと言えば買えるが、それには子供のフリをしないといけない。
そんな恥ずかしいことはできぬ。
……とは言うが、何度か子供のフリをして酒を購入したことがある。でも、そんなことはスズランにもシノブにも言えぬ。
だから、スズランが知らぬ酒樽や食べ物はシノブが持ってきていることにしている。
「スズランさんに怒られるっす」
「妾が頼んだことにしてあるから、大丈夫じゃ」
「それなら、いいっすが」
次回から持ってきてくれなくなっても困る。
スズランが持ってくる食べ物は真面目なものばかりだから、なんだかんだ言って、シノブが持ってきてくれる酒と食べ物は嬉しいのは事実だ。
「お主も飲むか?」
酒が入ったコップを見せる。
「仕事中っす」
「仕事?」
「実はカガリ様に聞きたいことがあるっす。カガリ様は妖刀について知っていることはあるっすか?」
妖刀、不思議な力を持った刀。
人の意思を操る。
過去に何度か出会ったことも、戦ったこともある。
「あるが、それがどうした?」
「実は、妖刀が盗まれたっす。それで妖刀の情報があれば教えてほしいっす」
妖刀は城の保管室で保管されている。
妾が関わった妖刀も保管されていたはず。
「どの妖刀が盗まれたのじゃ?」
「今のところ判明しているのは妖刀赤桜、妖刀風切、妖刀馬鉄の3本っす」
「今のところ?」
「実は部屋が荒らされてて、盗まれた妖刀は把握できていないっす」
記憶によれば10本近くの妖刀が保管されていたはず。
そのうち盗まれたのが判明しているのは、妖刀赤桜、妖刀風切、妖刀馬鉄の3本か。
名前は聞いたことがあるが、実際に見たことはない。
ただ妖刀はどれも危険だ。
当時の冒険者が何人も斬られている。
「あいにくじゃが、その3本については詳しくは知らんのう」
「そうっすか」
「行方も分かっていないのか?」
「今のところ盗んだ犯人も妖刀の行方も掴めていないっす」
「どの妖刀についても言える事じゃが、気をつけろ。時間が経てば経つほど、妖刀に飲み込まれる。被害が少ないうちに回収しろ」
「もちろんっす。だから、カガリ様が情報を持っていればと思ったっすけど」
「あいにく、その3本は知らぬ」
「それじゃ、他の妖刀は知っているってことっすか?」
「妾が何年生きていると思っておる。何本かは知っておる。もし、他の盗まれた妖刀が判明したら、連絡を寄越せ。知っていることなら、話してやる」
「了解っす」
シノブは立ち上がると部屋から出ていく。
いつもなら長々と他愛もない話をして、温泉に入って行くのに、今日は急いでいるのか、帰っていく。
それだけ妖刀の回収は急がないといけない。
妾はコップに酒を注ぎ、飲む。
妖刀が盗まれた。
もしかすると、あの妖刀も。
現状では盗まれたかどうか、分かっていない。
妖刀の回収の仕事は妾の役目じゃないから、妾が気にすることではない。
人にはそれぞれ役目がある。
妖刀の回収はスオウ王の仕事だ。
シノブが出ていってからも妖刀のことが頭の中を 過(よぎ) る。
酒を飲んで、食べ物を食べて、風呂に入っているときも、朝になっても、あの妖刀のことが気になる。
もう分かりきっている。
「はぁ、自分の目で確認したほうが早い」
妾は着替え、身なりを整える。
必要最低限なものを持つと、窓の外へと飛び出す。
空を飛び、城に向かう。
「なんじゃ」
城に向かって飛んでいると、街道をふらふら歩いている男が一人いる。
その手には細長い物が握られている。
刀?
男を見ていると、遠くから馬車がやってくる。
このまま行けば男とすれ違う。
まさかと思って、上空から様子を窺う。
男と馬車がすれ違う。
なにも起きなかった。
そう思った。
だが、男が振り返り、馬車を見ている。
鞘から刀が抜かれる。
まさか。
妾は飛び降りて、男と馬車の間に入り、風魔法で壁を作る。
それと同時に突風が吹き上げる。
風が治まる。
馬車は後ろのことに気付くこともなく、離れて行く。
目の前にいる男に目を向ける。
男は刀を持ち、虚ろな目で妾を見ている。
もしかしてシノブが言っていた妖刀か。
刀に目を向ける。
妾が知っている妖刀ではなかった。
「妾の言葉が分かるなら、刀を納めよ」
「…………」
男が無言で妾に向かって走り出してくる。
速い。
一瞬で距離が縮まる。
男が刀を振り下ろす。
ギリギリで躱すが、次の攻撃が襲ってくる。
土の壁を作り、防ぐ。
防いだと思った。
土の壁が斬り裂かれる。
後方に跳び、逃げるように浮かび上がる。
男は浮かんでいる妾を虚ろな目で見ている。
「誰だか知らないが、悪いが倒させてもらう」
手に魔力を集める。
「篝火」
男に向けて篝火を放つ。
だが、男は篝火を斬る。
そして、空を飛ぶ妾に興味が失せたのか、背を向けて離れて行く。
「待て」
男は妾の声を無視して、歩き続ける。
追いかけようとしたとき、数匹のヴォルガラスが上空に飛んでいることに気付く。
「間が悪い」
ヴォルガラスが飛んでいる妾を餌と認識したのか、襲ってくる。
「篝火」
ヴォルガラスが炎に包まれる。
妾を襲ってくるヴォルガラスを倒し、男を追いかけようとしたがヴォルガラスの数匹が先ほど男とすれ違った馬車の方へ飛んで行く。
ヴォルガラスと立ち去っていく男を見比べる。
「妾に選べと」
多くの命を救うなら妖刀を追いかけるのが正しい。
じゃが、目の前の命を見捨てることもできない。
なら、両方選べばいい。
「考えている時間が無駄じゃ」
素早くヴォルガラスを倒して男を追いかければいい。
妾は馬車を追う。
上空にはヴォルガラスが飛んでいる。
馬車の近くまで行くと、ヴォルガラスが妾に向かってくる。
「篝火」
馬車を襲おうとしていたヴォルガラスを倒し、男のところに戻るが、いない。
男が歩いていた先には森が見える。
森の中に逃げ込んだか。
「面倒なことになったのう」
森の中に入り、男を捜す。
森は深く、男が移動した方角が分からなければ、見つけることはできない。
どっちの方向を探すべきか。こっちにいくか。勘を頼りに進む。
これでも、巫女の端くれ、妾の勘を信じる。
………………あっちかも知れぬ。
…………こっちかも知れぬ。
……やっぱり、あっちか。
見つからない。
妾の勘が外れるとは。
妾は巫女の端くれだからしかたない。
「こういうとき、あのクマがいれば頼りになるのじゃが」
黒いクマと白いクマを思い浮かべる。
居ないもののことを言ってもしかたない。
男の捜索は諦め、城に向かう。