作品タイトル不明
885 カガリさん、動く その2
空を飛び、気付かれないように城までやってくる。
見られると面倒じゃからのう。
「あそこにいるのは……」
城の近くまでやって来ると、城の隅にある訓練場に見覚えがある者たちがいた。
あれはユナとシノブ、それとスオウか。
もう一人は……。
確か、ジュウベイと一緒にいたところを見たことがある。
「じゃが、どうしてユナがいる? もしかして、妖刀の件でサクラが呼んだのか?」
遠くにいるユナと話せる魔道具は、妾とサクラしか持っておらぬ。
もしやシノブが、妾では頼りにならぬとユナを呼んだか?
「じゃが、いつ来たのじゃ?」
あの遠くの場所を移動できる門は、妾が住む屋敷にしか置かれておらぬ。
もしかして、妾が屋敷を出たあとにユナが来たのか?
妾が魔物と戦ったり、森の中で男を探している間に追い越されたみたいだ。
ユナたちの様子を窺っていると、どうやらユナと男が試合をするみたいだ。
妾は城の上の死角になるところから様子を窺う。
ユナと男が木刀を手にする。
そういえば、ユナが短い武器、ナイフを持っているところは見たことがあるが、刀や剣を持っているところを見たことはない。
扱えるのか?
魔法有りなら、ユナが勝つのは当たり前。
「これは面白いものが見られそうじゃのう」
ユナと男の試合が始まる。
男の動きもよいが、それ以上にユナの動きのほうがよい。
男の攻撃を躱し、まるで赤子のように扱っておる。
決して、男が弱いわけではない。
男の攻撃は鋭いし、速い。
それを簡単に躱すユナが強すぎるのじゃ。
魔法がメインで、武器は補助的なものだと思っていたが、武器がメインと言われても不思議じゃない。
それにしても、いつも思うが、あの動き難そうな服装でよく戦えるものじゃ。
試合の結果はユナが勝った。
ユナにあれほど剣の才能があるとは。
ユナのことは知っているつもりじゃったが、まだ知らぬこともあるみたいじゃな。
そもそも、ユナには秘密が多すぎる。
それは妾にも言えることじゃが。
そして、4人の様子を窺っているとスオウは3人と別れ、1人歩き出す。ユナたちは3人で歩き出す。
スオウは部屋に戻るみたいだ。
ユナたちのことも気になるが、妾は先回りして、スオウの部屋に向かう。
窓から部屋の中を窺っているとスオウが1人で戻ってくる。
椅子に座るのを確認して、窓から部屋の中に入る。
「失礼するぞ」
「カガリ!?」
スオウが驚いた顔をする。
「そんな化け物を見たような顔をするな。美少女が入ってきたのだから、喜べ」
「化け物だろうが美少女だろうが、こんな高いところにある窓からいきなり入ってくれば誰でも驚く」
「ミノムシみたいな心臓じゃのう」
「はぁ、それで、なんだ。いきなり会いにきて。まさか、国から出て行くとか」
スオウは真面目な表情で尋ねてくる。
「それはサクラが成長するまでしないと約束したじゃろう」
妾の言葉にスオウは安堵する。
妾が出ていくといえば、お主が一番悲しむじゃろう。
いくら歳を取っても子供じゃのう。
「ここに来たのは妖刀の件じゃ」
「そのことをどうして」
「シノブに聞いた。それと、ここに来る途中で、妖刀らしきものを持った男に会った」
「それは本当か! どこで会った?」
前のめりになって、尋ねてくる。
「城下街から離れた街道の近くじゃ。魔物に襲われて倒している間に、森の中に入られた。しばらく探したが見つけることができなかった」
「そうか。こちらで手配しておこう」
「ユナが手伝ってくれるなら、ユナに任せたほうがいいかもしれぬ。ユナの奴が来ているのじゃろう」
ユナには魔物や人の居場所が分かるくまゆるとくまきゅうがいる。
「知っていたのか?」
「先ほど、ユナが試合しているところを見させてもらった」
「見ていたなら、声をかけてくれ」
「見知らぬ男がいたからな」
「見知らぬ男? サタケのことか」
そんな名前か。
「初めて聞いたのう」
「一応、第5部隊長だ」
どうりで見覚えがあったわけか。
「部隊長と言っても、妾は島に長いこといたからのう。ジュウベイ以外はほとんど知らぬ」
たまに島から出ることもあったが、酒を飲みに行くときぐらいじゃ。
それに昔会ったことがあったとしても大人の姿のとき。こんな子供姿で会えば面倒になる。
「そうだったな」
「それで、ユナに妖刀の回収を頼んだのか?」
「シノブが怪我をして、サクラが治療のために呼んだらしい」
「あやつが怪我?」
あの年齢のわりに場数は踏んでいるシノブが?
「どうやら、妖刀を持つ者と戦ったらしい」
「なんの妖刀じゃ!?」
「昨日の夜のことだったらしいから、暗くて分からなかったそうだ。ただ、動きが速かったから 風切(カゼキリ) かもと言っていた」
風切か。
「他に情報は?」
「今のところはない」
やっぱり、シノブから聞いた以上の情報はないみたいだ。
「妖刀を盗んだ犯人の目星は?」
「調べ中だ」
外の者か、内の者なのかによって変わってくる。
面倒なことになったのう。
「分かっておると思うが、早く回収するんじゃぞ」
「分かっている」
森の中に消えた男についてはユナに相談することになった。
「話は変わるが、妖刀が保管されている部屋を見せてくれぬか?」
そのためにここまで来た。
「今、あの部屋は」
「シノブから話を聞いているから分かっておる。でも、妾なら大丈夫だ。少し確認するだけじゃ」
あの妖刀があるかどうかの確認だ。
「……分かった。だが、俺も一緒に行く」
「子供じゃないから、妾一人で大丈夫じゃ」
見た目が子供じゃが、中身は大人じゃ。
「片付けをしている者がいるから、人払いをさせる」
確かに人がいたら調べられない。
だから、今回は素直にスオウに従う。
スオウは立ち上がり、部屋を出るので、ついていく。
保管室の扉は開かれ、中には片付けをしているものが数人いる。
スオウは話しかけ、一時間ほど休憩をするように伝える。
全員、素直に従い部屋から出ていく。
「これで、確認できるだろう」
「助かる。お主は仕事に戻っていいぞ。部屋に入れないじゃろう」
もし、この国の国王になにかあれば、国が揺らぐ。
そんな危険がある場所に国の王を入らせるわけにはいかない。
スオウは少し考える。
子供のときと同じ仕草じゃ。
「分かった。カガリも無理はするなよ。なにか分かったら、連絡をくれ」
スオウは素直に妾の言葉に従う。
立ち去って行くスオウと別れ、妾は部屋の中に入る。
部屋は広く、妖刀から、変な言い伝えがある防具、危険な魔道具もある。
部屋全体も大変なことになっているが、妖刀が置かれていた一角が特に酷い状態だ。
部屋の中が散らかっているのは争ったのが原因じゃろう。
壁、床、魔道具や妖刀が置かれていた棚に刀傷がある。
妖刀が保管されていた一角に移動する。
床に数本の妖刀が転がっている。
刀を見ていると手に取りたくなる衝動にかられる。まるで鞘から刀を抜けと、心に呼びかけてくる感じだ。
こんな幼子に刀を抜けとは、非常識な妖刀じゃ。
もしかするとこの部屋に入った盗人が妖刀の呼びかけを聞き、鞘を抜いたのが原因かも知れぬ。
これが片付けが遅れている理由みたいじゃな。
精神力が弱ければ、妖刀に飲み込まれる。
妾は床に転がっている妖刀に目を向ける。
鞘を抜けと語りかけてくる。
「うるさいのう」
妖刀を踏みつける。
妾に折られたくなかったら、黙れ。
魔力を放出して、妖刀を黙らせる。
妾は魔力で魔法陣を描き、落ちている妖刀に一本、二本と簡易的に封印を施していく。
これで静かになるじゃろう。
部屋を見渡す。
……ない。
どこにも落ちていない。
置かれていた場所にもない。
盗まれたか。
嫌な予感が的中した。
森での男の進んだ方向は当たらなかったのに、嫌な予感は的中する。
逆だったら、どれだけよかったことか。
他の妖刀だけでも面倒なのに。
部屋を見渡し、危険そうな物には簡易的に封印を施し、部屋を出る。
見つけ出さないとならない。
部屋を出た妾は誰にも気づかれないように空を飛び、スオウの部屋に向かう。
「戻ったぞ」
「……!? だから、そんなところからいきなり声をかけるな。普通に扉から入れ」
「気が小さいのう。そんなんじゃ、王としての器が問われるぞ」
「それとこれは別問題だ」
ああ言えばこう言う。
子供のときと変わっておらんのう。
「とりあえず部屋にあった危険な物には簡易的な封印を施しておいた。これで少しは片付けも進むじゃろう」
「助かる。それで、なにか分かったことはあったか?」
「……妖刀 右京(ウキョウ) がなかった」
「妖刀右京? 確か、あの妖刀は……」
「昔に、妾が回収したものじゃ」
ちょっとばかりの因縁がある。
「なにか情報を掴んだら、優先的に回してくれ」
「どこに?」
確かに、そう言われると困る。
しばらく屋敷に戻る予定はない。
屋敷に人を送られても妾はいない。手紙を送られても、いちいち戻って確認するのは面倒じゃ。
シノブとも思ったが、あやつも動き回って連絡が付かぬ。
「なら、サクラに頼む」
「サクラか?」
「サクラは今回のことを知っているのじゃろう」
シノブが怪我をして、ユナを呼んだと言っていたから話を聞いているはずじゃ。
「それにユナの奴もいるじゃろう。そのほうが情報の交換がしやすい」
「分かった。新しい情報が入ったらサクラに伝えておく」
窓に手を掛ける。
こんな緊急事態だが、お腹が空いた。
どこかで飯を食ってから、サクラのところに行くか。
窓の外から城を出る。