軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

876 クマさん、ぬいぐるみを配布する

ミサが帰っていった。

ノアは勉強があるということなので家に戻り、フィナとシュリはティルミナさんのお手伝いをするため孤児院に向かった。

最近、4人と一緒だったから寂しくなる。

でも、一番寂しいのは離れた街に住んでいるミサだ。

わたしはいつでもノアとフィナ、シュリに会えるからね。

さて、どうしようかな。

最近はリバーシ関係で忙しかった。

その前はマーネさんと一緒に薬草採取。今度こそゆっくりと休めそうだ。

少し考え、くまゆるとくまきゅうのハチミツを買いに行くことにした。

ドアを開けて、店の中に入るとレムおじさんがカウンターで下を向いている。

「レムおじさん、ハチミツください」

わたしが声をかけるとレムおじさんが顔をあげる。

「クマの嬢ちゃんか……」

なにか表情が暗い。

「どうかしたの?」

「いや、先日のリバーシ大会で負けて悔しくてな。あの爺さんたち強すぎるだろう」

お爺ちゃんたちが1位、2位、3位、独占だからね。かろうじてもう一つの3位は20歳ぐらいの男の人だった。

確か、レムおじさんも、お爺ちゃんに負けてた記憶がある。

どのお爺ちゃんに負けたかまでは覚えていないけど。

「もしかして、食べ放題券?」

「違う。ぬいぐるみだ。嬢ちゃんのクマのぬいぐるみが賞品となると聞いて参加したんだ」

「くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみ?」

「ああ、従業員仲間と練習したんだが、あの爺さんに負けてしまった……」

悔しそうに言う。

「そんなに欲しかったの?」

「欲しいに決まっているだろう」

決まっているんだ。

「一緒にハチミツを取りに行った仲だ」

確かに行ったね。(わたしもいたけど)

「熊を守ってくれた」

そうだけど。(わたしも魔物と戦って守ったよ)

「だから、どうしても欲しかった」

レムおじさんは拳を握るが、項垂れる。

「そんなに欲しいなら、あげるけど」

「本当か!?」

レムおじさんが前のめりになる。

わたしはクマボックスからくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみをカウンターの上に置く。

「本当にいいのか。賞品じゃないのか?」

レムおじさんは嬉しそうにくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみを手にする。

「別に賞品のために作ったわけじゃないからね。わたしの知り合いのために作ったんだよ。だから、欲しいっていうなら、あげるよ」

知らない人に理由もなくプレゼントするつもりはないけど、レムおじさんとは一緒にハチミツを取りに行ったりした仲だ。

個人的にハチミツを購入もしているけど、お店に使うハチミツもお世話になっている。

そのレムおじさんが欲しいと言うなら、プレゼントしてもいい。

「でも、条件があるよ」

「なんだ?」

「くまゆるとくまきゅうは一緒にいさせてあげて。あと、誰かにあげたりしないで」

「約束しよう」

わたしはくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみをレムおじさんにプレゼントした。

そのお礼にハチミツをくれそうになったけど、ちゃんとお金を払って購入したよ。

まさか、レムおじさんがリバーシ大会に参加した理由がくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみとは思わなかった。

ちなみに後日来たら、ぬいぐるみはカウンターの後ろにガラスケースに入って飾られていた。

ハチミツを購入したわたしは、次はどうしようと思っていると、冒険者ギルドが見える。

「冒険者ギルドか……」

最近、顔を出していない。

ちょっと顔を出しに行くことにした。

冒険者ギルドに入ると、大きな体のギルが視界に入る。

ギルは椅子に座っており、その前には帽子を被ったルリーナさんがテーブルに突っ伏している。

「ギル。ルリーナさん、どうかしたの?」

「ユナちゃん!」

わたしの声にルリーナさんが反応して、顔を上げる。

「生きていた」

「死んでいないわよ」

「でも、どうしたの? 仕事しないの?」

「やる気が起きない」

「なにかあったの?」

「大会に負けた」

ギルが答える。

「大会って、リバーシの大会? そんなにリバーシ大会で負けたのが悔しかったの?」

「悔しかったわよ。ぬいぐるみが手に入らなかったんだから」

そういえばくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみが欲しくて、ギルを無理やりに参加させたんだっけ。

「孤児院で子供たちが持っているのを見て、羨ましかったんだから。ねえ、ユナちゃん、販売予定はないの?」

「その予定はないけど」

「うぅ、くまゆるちゃん、くまきゅうちゃん」

また、ルリーナさんはテーブルに顔を埋める。

「そんなに欲しいなら、あげるけど」

「本当!」

復活した。

わたしはくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみをテーブルの上に出す。

「本当にいいの?」

ルリーナさんは確認しながら、くまゆるとくまきゅうぬいぐるみを手にする。

「可愛い」

満面の笑みだ。

「お金、払うわよ」

「別にいらないよ。大切にしてくれれば、それでいいよ。でも、条件があるかな」

「条件?」

わたしはレムおじさんに言った条件と同じことをルリーナさんにも言う。

「大切にすること」

「するわ」

「他人にあげないこと」

「あげないわ」

「くまゆるとくまきゅうは一緒にしてあげること」

「一緒にさせるわ」

「なら、あげるよ」

「ありがとう」

嬉しそうにくまゆるとくまきゅうぬいぐるみを抱きしめる。

「でも、ルリーナさんがぬいぐるみを欲しがるとは思わなかったよ」

「女の子は何歳になっても、可愛いものが好きなものよ」

まあ、わたしもくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみは可愛いと思うから、否定はできない。

「ユナ、感謝する」

なんでか、ギルにお礼を言われる。

「大会に負けてから、あんな状態だった」

冒険者って仕事は命懸けの仕事だ。

ちょっとしたミスで怪我をしたり、最悪死ぬこともある。

それが、ぬいぐるみ2つでやる気になってくれれば安いものだ。

「ズルいです」

「なに!?」

いきなり後ろから声をかけられて、驚く。

振り向くと受付嬢のヘレンさんがいた。

「わたしもくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみが欲しいです」

「ヘレンさんも欲しいの?」

「わたしもくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみを手に入れるためにリバーシ大会に参加したかったんですよ。でも、仕事で参加することができなかったんです。ギルマスが休ませてくれなかったんです」

そういえば、ゲンツさんも休めなかったとフィナが言っていた。

「なにかあったの?」

「手が空いているギルド職員で、棚卸しだったんですよ」

「棚卸し?」

棚卸しって、在庫を確認する作業のことだっけ?

「ええ、それで参加できなかったのよ」

「冒険者ギルドでも、そんなことするの?」

「商業ギルドに引き渡していない物があるから、その確認ね。商業ギルドの棚卸しは、もっと大変って聞いたけど」

確かに、在庫の量は冒険者ギルドと違って比較にならないほど多そうだから、商業ギルドの棚卸しは大変そうだ。

「よりによって、大会と重なるなんて。参加していたら優勝したのに」

それは無理だと思う。あのお爺ちゃんたちには勝てない。とりあえず、わたしはルリーナさんと同じ条件でくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみをヘレンさんにプレゼントした。

ヘレンさんはぬいぐるみを受け取ると、嬉しそうに受付に戻っていった。

なにか、他にも視線を向けられていたけど、捕まる前に冒険者ギルドを出ることにした。

それにしても、わたしが考えていたよりも、くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみを欲しがる人が多い。

冒険者ギルドを出ると、近くにある商業ギルドが見える。

せっかく近くまで来たので、リアナさんに会いに行くことにした。

商業ギルドの中は、相変わらず商人たちがたくさんいる。

リアナさんを探すけど、いない?

いつもなら、受付に座ってお客さんの対応をしているはずなのに。

「あら、ユナちゃん。どうしたの?」

「ミレーヌさん?」

「もしかして、リアナ?」

「少し、話を聞ければと思ったんだけど」

「それなら、わたしが話してあげるわ」

「仕事はいいの?」

「息抜きは必要よ」

わたしはミレーヌさんに奥の部屋に連れて行かれる。

「それで、リアナさんは?」

「リアナは、先日の大会の後片づけで動いているわ。お世話になったところに挨拶回りとかね」

大会が終われば、それで終わりではないってことかな。

「ユナちゃん、リアナを助けてくれてありがとうね」

「自分にできることに手を貸しただけだよ」

「そのユナちゃんのできることが、普通の人からしたら、大きいんだけどね」

確かに、普通の人は会場を魔法で作ったりしないよね。

「今後、同じようなイベントをすることになったら、リアナの役に立つわ。不測の出来事、予想外のこと。対処の仕方を学ぶ。これは経験してみないと分からないことだから。リアナにはいい勉強になったわ」

「そんなにイベントがあるの?」

「大小、いろいろとあるわよ。大きいところだと、実りを祝うお祭りとか、収穫を祝うお祭りとか」

「商業ギルドで管理しているんだね」

「大きいイベントは領主様の指示ね。それを運営するのが商業ギルドって感じ」

そう考えると、商業ギルドって忙しいと思う。

そのトップにいるミレーヌさんは、それだけ凄い人ってことだ。

「どうしたの?」

「ミレーヌさんは、凄いなって思って」

「そう思うなら、ぬいぐるみちょうだい」

「……え?」

「だから、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみをちょうだい。癒やしが欲しいのよ。心が疲れているのよ」

ミレーヌさんがわたしに抱きついてくる。

「あげるから、離れて」

わたしはミレーヌさんを引き剥がし、クマボックスからくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみを出す。

そして、今までにぬいぐるみをプレゼントした人たちと同じことをミレーヌさんに伝える。

「約束するわ」

即答すると、ミレーヌさんは嬉しそうにぬいぐるみを受け取る。

後から知ったけど、くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみはミレーヌさんの仕事机の上に飾られることになる。

ハチミツを購入、冒険者ギルド、商業ギルドと寄っていたら昼食時を過ぎてしまった。

昨日はパンを食べたし、今日はくまさん食堂で食べることにする。

「あれ、ユナちゃん、いらっしゃい。お昼?」

店に入ってきたわたしに、セーノさんが声をかけてくる。

「うん、ちょっと遅めの昼食を」

「なににしますか?」

「う~ん。それじゃ、焼き魚定食でお願い」

セーノさんは奥の厨房に向かって「焼き魚定食1つ、お願い」と声をかける。

わたしは適当に座り、店内を見る。

昼時は過ぎているので、お客さんは少ない。

「ねえ、ユナちゃん」

セーノさんがわたしの前の席に座る。

仕事は? と言いたいけど、接客するお客さんはいない。

「なに?」

「ぬいぐるみがほしい」

ド直球に言われた。

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみがほしい。孤児院の子が持っているのを見て、羨ましかったの。孤児院の子にちょうだいなんて言えないでしょう」

「言ったら、怒ったよ」

「言わないよ。だから、ユナちゃんに言うんだよ」

セーノさんがわたしのクマパペットを握る。

「ちょうだい」

「もしかして、セーノさんもぬいぐるみのためにリバーシの大会に出たの?」

「そうだよ。アンズちゃんを誘って。フォルネとベトルは参加してくれなかったけど」

「だって、セーノに勝てないのに無理でしょう」

話を聞いていたフォルネさんが反論する。

「もし、わたしと対戦することになったら、わたしに勝てるでしょう」

確かにそうだけど。

「でもわたしには勝っても、あのお爺ちゃんたちには勝てないよね」

フォルネさんの言うとおりに、そんな方法で勝ち上がっても、本当の強者には勝てない。

「あのお爺ちゃんたち、強すぎだよ」

それは同意だ。

次回、年配部門を作ってもいいかも。

あのお爺ちゃんたちを隔離しないと、他の人が勝てない。

もし、来年もやるようなら、もっと強くなっていそうだし。

「勝てなかったんだから、諦めなさい」

フォルネさんに引っ張られるセーノさん。

「もう、なにをやっているの? はい、ユナちゃん」

ベトルさんが焼き魚定食を運んでくる。

わたしの前に焼き魚、味噌汁、ご飯、漬物が置かれる。

「ありがとう」

わたしは焼き魚定食に醤油をかけて、いただく。

美味しい。

「みんなはくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんぬいぐるみ欲しくないの?」

「欲しいか、欲しくないかと言われたら欲しいけど」

「その二択ならね」

フォルネさんとベトルさんがセーノさんの言葉に同意する。

「クマさんはミリーラの守り神だよ」

「そう言われると」

「なにも言えないわね」

3人がジッとわたしを見る。

ミリーラの町にはクラーケンを討伐したときの大きなクマが建っている。さらにはクリモニアと行き来するためのトンネルの入り口も守るようにクマがいる。

「分かったよ。あげるよ。だから大切にしてね」

わたしは今までにあげてきた人と同じことを伝える。

それに汚さないことを追加する。

料理屋って、油とか煙とかで汚れそうだったので、追加した。

後日、知ったけど、くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみは2階の談話室に置かれ、4人の憩いのぬいぐるみとなった。