軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

811 クマさん、クマの加護のことにする

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは走る。

「ねえ、ユナ」

「なに?」

「今更かもしれないけど。あなた、どうして、そんな格好をしているの?」

本当に今更だ。

「基本、わたしは誰がどんな服を着ようが気にしないんだけど、あんなに視線を向けられるとね。それに、わたしが冒険者ギルドに一人で来ると、冒険者たちが絡んできたりするけど、今回の冒険者の視線はあなたに向けられていたわ」

マーネさんより、わたしの格好のほうが目立つってことだと思う。

でも、こんな見た目の子供に絡むなんて、冒険者って暇なのかな。

「えっと、この格好をしているのは、クマの加護を受けているから……」

いつもの言い訳で答える。

でも、マーネさんは胡散臭さそうな顔をする。

「そんな加護があるの?」

「この子たちが証拠だよ」

わたしは乗っているくまきゅうの背中を撫でる。

「確かに……」

「クマの加護。本当にあるなら研究してみたいわね」

幼い顔をしてても、研究者の表情をする。

もっとも、クマの加護はわたしの噓だから、研究してもなにも分からないと思うよ。

「それにしても、この子たちは、本当に、この速度で何時間も走っているの?」

マーネさんはくまゆるの背中に触れる。

マーネさんは王都を出発して、すぐに寝てしまったから、実感がないのかもしれない。

「そこらにいるクマとは違うからね」

「凄いわね。エレローラとサーニャが、あなたを認めるわけね」

そして、わたしとマーネさんはお互いのことを話しながら進む。

「ユナはクリモニアに住んでいるのね。だから、魔法省に来るのが遅かったのね」

それもあるけど、クリフから話を聞いてから、出発もせずにのんびりとしていたせいでもある。

「マーネさんは、魔法省は長いの?」

「どうかしら、あまり気にしていないけど、エレローラが学生のときにはいたから、10年以上はいると思うわ」

エレローラさんは35歳だっけ?

それじゃ、15年から20年はいるかもしれない。

ハーフエルフだから、そのあたりの感覚がエルフと同様に鈍いのかもしれない。

「ずっと成長する研究を?」

「ずっとはしてないわ。なにか成長に繋がる情報を得たり、関わりがある研究資料が見つかったり、新しい発表があったりしたときに、研究をしているわ。ちゃんと、他の仕事をしないと追い出されるからね」

まあ、仕事をしないなら、辞めさせられても仕方ない。

働かざる者食うべからずって言葉があるぐらいだ。

会社勤めなら、会社の仕事をしないとダメだ。

まあ、社会に出たこともない、わたしが言っても説得力はないけど。

わたしほど、社会の歯車に噛み合わない人はいないと思う。

「それに、なんだかんだ言って、魔法省ほど情報が手に入る場所はないからね。わたしが探さなくても、魔法省で働く人たちが、情報を手にいれてくれたり、珍しい薬草を持ってきてくれたりするわ」

個人で調べるより、国の関係する会社で働いたほうが情報が多く入ってくる。

でも、職場の人が助けてくれるってことは、職場環境がいいってことだね。

「今回の西の森の件も、知り合いの冒険者に聞いた人がいて教えてくれたのよ」

「仲間がいるっていいね」

わたしもティルミナさん、モリンさん、いろいろな人が手を貸してくれるから、お店が成り立っている。

この世界に来て、いろいろな人に助けてもらっている。

一人でも生きていけるけど、助けてくれる人がいる人生のほうがいいと思う。

「そうね。でも魔法省に入ったばかりのときは、この見た目のせいでからかわれたりしたけどね」

その気持ちは分かる。

わたしも、クマの格好のせいで、バカにされたり、からかわれたりした。可愛いと言ってくれた人もいたけど。

お互いに自分のことを話しながら進む。

数時間話しただけでも、かなり打ち解けてきた。

わたしも、成長したものだ。

話しながら進んでいると道がなめらかに左に曲がっていく。

「ここを真っ直ぐだよね?」

このまま道通りに進めば、街がある。

でも、わたしたちが目指すのは西の森だ。

「サーニャが教えてくれたとおりならね」

「それじゃ、道から少し離れた場所で、野宿の準備をしようか」

もう、日が落ち始めている。

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは道を逸れて進み、野宿の場所を探す。

岩陰や木があり、街道からクマハウスを建てても見えない位置。

「このあたりにしようか」

くまゆるとくまきゅうは止まる。

「そういえば、サーニャが家があるとか言っていたけど。あれはどういう意味」

「そのままの意味だよ」

わたしはくまゆるから降り、クマボックスからお出かけ用クマハウスを出す。

「ちょ、クマ!?」

マーネさんはクマハウスを見て、驚く。

「クマ? アイテム袋? この大きさ?」

マーネさんはクマハウスとわたしの白クマパペットを交互に見る。

「何から、突っ込んだらいいのよ! 今、その白いクマから出てきたわよね。お昼のときもパンを出していたからアイテム袋ってことは知っていたけど。こんな大きな物まで入っていたの?」

マーネさんはわたしのところにやってくると左手の白クマパペットを小さい手でニギニギと握りしめる。

その度にクマの顔が変形する。

「こんな大きな物が入るなんて。しかも一個人が持っているなんて。あなた、どこかの王族や貴族なの? それとも大商人の娘?」

どうやら、クマハウスより、アイテム袋のほうが気になったみたいだ。

魔道具や魔法陣を研究しているサガかもしれない。

「普通の一般人だよ」

「一般人は、こんな凄いアイテム袋を持っていないわ。どこで手に入れたの?」

「えっと、これもクマの加護のおかげだよ」

嘘を嘘で固めていく。

まあ、わたししか使えないから嘘ではないけど。

「クマの加護……」

わたしの言葉に、わたしを見て、握りしめているクマパペットを見て、くまゆるとくまきゅうを見て、最後にクマハウスを見上げる。

そして一言「クマ」と呟く。

「とりあえず、疲れているでしょう。中に入って休もう」

わたしは握られているマーネさんの手を離し、くまゆるとくまきゅうを小さくさせる。

「クマが小さくなったわ!」

そういえば、くまゆるとくまきゅうが小さくなれることを知らなかったんだ。

マーネさんは小さくなったくまゆるを抱きかかえる。

「どういう仕掛け? なんで小さくなったの?」

次々と尋ねてくる。

新しい研究対象を見つけたような目をしている。

「くまゆるとくまきゅうは、特別なクマだから、小さくできるんだよ」

「特別? 特別でも小さくはなれないと思うけど」

子供のように簡単に騙されてくれない。

研究者として、知識を持つ人にとって、ありえない現象なのかもしれない。

わたしからしたら、くまゆるとくまきゅうが小さくなれるのは、魔法と変わりないんだけど。

「どんな原理なのかしら?」

くまゆるの体を隅々まで確認するように触る。

手や足を見たり、口や尻尾を観察する。

「不思議だわ」

「ちなみに、わたしに聞かれても分からないからね」

「あなたのクマなのに?」

「小さく願えば小さく、大きく願えば大きくなれるぐらいしか分からないから」

「大きくなれるの?」

「大きくなれると言っても、通常の大きさのことだよ。それ以上は大きくはなれないよ。ちなみに、これもクマの加護で」

なんでもクマの加護ってことにしておく。

「クマの加護……」

納得したのか、してないのか分からないけど。いつまでも外にいるわけにはいかないので、クマハウスの中に入ることになった。

「適当に座って」

マーネさんはソファに座る。

くまゆるとくまきゅうも、その左右に座る。

「はい、飲み物」

「ありがとう」

マーネさんはキョロキョロと部屋を見ている。

「本当に家ね。こんな大きな家が入るなんて。確か、クマの加護って言っていたわね」

マーネさんはあらためて、白クマパペットに目を向ける。

「うん、このアイテム袋は、わたししか使えないよ」

わたしは白クマパペットをマーネさんの前のテーブルの上に置く。

マーネさんは白クマパペットに触れて、動かそうとするけど、動かない。

「重い? 違うわね。動かないわ」

わたしは軽々と白クマパペットを手に取り、左手にはめる。

「クマの加護だよ」

クマの呪いとも言う。

そんなことを言えば、くまゆるとくまきゅうが悲しむから、言わないけど。

「本当に、そんな加護があるのね。長いこと生きていたけど、知らなかったわ。わたしもまだまだね」

何か、納得した感じだ。

まあ、目の前で見せられて、実際に触れたのだから、納得するしかないのかもしれない。

噓なんだけど。

「本人しか使えないのは、ギルドカードと同じ仕組みだけど」

確かに、ギルドカードは本人登録した魔力しか反応しない。

「本人しか使えないのは分かるけど。動かないのは謎だわ。それがクマの加護の効果なのかしら?」

研究者らしい表情で考え込み始める。

「うぅ」「動かせなくする方法は……」「固定魔法?」などと、一人言を言い始める。

そんなマーネさんはほっとくことにして、夕食の準備をする。とは言っても、簡単料理だけど。

野菜を洗って、サラダを作って、余った野菜と肉を炒めて、野菜炒めを作る。

お米にも合うし、パンに挟んでも美味しい。

わたしにはお米を用意し、マーネさんにはパンを用意する。

作った夕食をテーブルに運ぶと、マーネさんはくまゆるとくまきゅうと遊んでいた。

遊んでいたというよりは、調べていたのかもしれない。

「それはお米?」

「知っているの?」

「昔に父が、どこかから持ってきたわ」

和の国に行ったことがあるのか、他の場所でも作っているのかもしれない。

マーネさんはパンに肉を挟み、食べる。

「美味しいわ」

「口に合ったならよかったよ。食べ終わったら、お風呂に入ってね」

食事を作っている間に、お風呂のお湯を入れに行った。

もう、お湯も張っているはずだ。

「お風呂……本当にあるのね」

「ちゃんと食べて、お風呂に入って、ちゃんと寝ないと、疲れが取れないからね。ああ、安心して寝てて大丈夫だからね。弱い魔物なら、この家の中にいれば安全だし、危険があれば、くまゆるとくまきゅうが教えてくれるから」

「エレローラとサーニャが、あなたなら安心だと言った理由が、改めて分かった気がするわ。こんな安全で快適な旅はないわ」

マーネさんは、そう言うとパンを口に入れる。