軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

812 クマさん、森の近くまでやってくる

「気持ちいいわね」

マーネさんは湯船の中で体を伸ばす。

「まさか、本当にお風呂があるなんて。やっぱり、ユナは貴族の令嬢ね。エレローラとも知り合いだったし」

「わたしは冒険者だよ」

店に出資こそしているけど、あくまで「クマの憩いの店」はモリンさんの店であり「クマ食堂」はアンズの店だと思っている。

「それに、こんな気品もない貴族の令嬢なんていないよ」

ティリアにしても、シアにしても、雰囲気から令嬢感が漂っている。百歩譲って大商人の子供だと思うけど。

「そんなもの教育次第でしょう。とんでもない貴族なんて、たくさんいるわよ」

まあ、確かにそうだけど。

全てがティリアやシアみたいな令嬢とは限らない。

なかには、とんでもない貴族の子供がいるからね。

ミサの誕生日パーティーのことを思い出す。

あの息子は酷かった。

「まあ、ユナが本当のことを言いたくないなら、深くは追求はしないわ。誰にだって、聞かれたくない過去ぐらいあるからね」

聞かれたくない過去って言うのは合っているけど、マーネさんが思う過去と、わたしが思う過去は違うと思う。

どっちにしても、わたしが別の世界から来たことは話せないので、マーネさんの勘違いのままにしておく。

お風呂からあがり、マーネさんの腰まである長い髪をドライヤーで乾かしてあげる。

「温風機まであるのね」

ドライヤーに似たものがあるみたいだ。

フィナは知らなかったみたいだけど、温かい風を出すだけだから、あってもおかしくはない。

「これで乾いたと思うよ」

「ありがとう。それじゃ、あなたの髪はわたしがやってあげるわ」

「自分でできるから大丈夫だよ」

今まで、自分でやってきた。

「年下の子にさせて、大人のわたしがしないわけにはいかないでしょう」

そうなんだよね。マーネさんは年上なんだよね。

どうしても、見た目に引っ張られて、マーネさんを年下のように扱ってしまっていた。

わたしはマーネさんの厚意に甘え、お願いする。

「年齢的にあなたは娘みたいなものよ」

孫では? とは言わないよ。口にすれば、怒りそうだから。

マーネさんは丁寧に髪を乾かしてくれた。

お風呂から出て髪も乾いたわたしたちは、寝る準備をする。

「マーネさん、1人で寝られる?」

「わたしは大人よ。1人で寝られるわよ」

少し、怒ったように答える。

どうやら、子供扱いされたと思ったみたいだ。

「そういう意味じゃなくて、一応、ここは魔物も出る危険な場所だから、不安で寝られないかなと思って」

魔物に関しては、大人も子供も関係無い。

大人の冒険者だって、魔物が現れる可能性がある場所で1人で寝るのは恐い。

危険と隣り合わせだ。

「温かい料理にお風呂。リラックスしていたから家にいる気分になって忘れていたわ」

それだけゆっくり休めたってことだ。

肉体的にも精神的にも旅に疲れがあるのは危険だからね。

リラックスできたならよかった。

「ここは王都の外で、魔物に襲われる危険もあるのね」

「さっきも言ったけど、この家の中ならウルフやゴブリンぐらいなら大丈夫だけど。もし、不安に思うなら、くまゆるかくまきゅうを貸そうかと思って。もし、なにかあっても、守ってくれるよ」

マーネさんは子熊化したくまゆるとくまきゅうを見る。

「そうね。貸してくれると助かるわ」

「それじゃ、くまゆる、マーネさんをお願いね」

「くぅ〜ん」

くまゆるはマーネさんのところにいく。

マーネさんはくまゆるを抱きかかえる。

「よろしくね。くまゆる」

「くぅ〜ん」

「出発は日の出ぐらいでいい?」

「ええ、構わないわ」

マーネさんには2階の客室を使ってもらい、わたしもくまきゅうと一緒に自室に入り、ベッドに腰をかける。

「今日はありがとうね。明日もお願いね」

「くぅ〜ん」

くまきゅうが任せてって感じに鳴く。

わたしはくまきゅう目覚ましをセットして、眠りに就く。

……なにか、柔らかいものが顔に押し付けられている。

何度も経験しているから分かる。

くまゆるとくまきゅうの手だ

と、思ったが、今日はくまゆるはマーネさんと寝ているから、この手はくまきゅうだね。

わたしの思考がはっきりしてくる。

「くまきゅう、おはよう」

「くぅ〜ん」

くまきゅう目覚ましが、気持ちよく起こしてくれた。

ベッドから起き上がり、カーテンを開けると、日が昇り始めている。

この世界に来て、本当に規則正しい生活を送っていると思う。

ただ、夜起きていても、テレビもゲームもネットも漫画も小説も、娯楽が何もないから、早く寝ているだけだけど。

「マーネさんは寝ているかな」

とりあえず、起こしてから、朝食の準備かな。

わたしはマーネさんの部屋をノックするが、反応はない。

ドアを開け、部屋の中に入ると、くまゆるに抱きついて、気持ちよく寝ているマーネさんがいた。

「マーネさん、朝だよ」

「なに、もう朝?」

マーネさんの目が開く。一緒に寝ていたくまゆるも動き出す。

「起きたら、下に来て。くまゆる、マーネさんが二度寝しないようにお願いね」

「くぅ〜ん」

マーネさんのことはくまゆるに頼み。わたしはくまきゅうと一緒に一階に下りる。

朝食の準備をしていると、眠そうに目を擦りながらマーネさんがやってくる。

子供なら微笑ましいが、マーネさんは大人だ。だらしない大人にも見える。

「……眠い」

「魔物が来ると思って、寝られなかったの?」

「違うわよ。くまゆるのことが気になったのよ。クマが小さくなるなんて、普通に考えて有り得ないでしょう。そんな事を考えていたら、寝るのが遅くなったのよ」

その答えは、わたしは持っていない。

スキルで小さくなれるとしか言い様がない。

でも、この世界には魔法以外にスキルは存在しないので、説明のしようがないし、することもできない。

話せば、スキルとはなに? と聞かれるに決まっている。

スキルなんて、説明しようがない。

眠そうにするマーネさんはパンをかじる。

「どうして、クマが小さくなったり、大きくなったりするの? もしかして、人も小さくなれるの?」

とか、呟いている。

わたしは気にしないで、パンを食べる。

モリンさんのパンは美味しい。

そして、朝食を終えたわたしたちは出発する。

クマハウスを片付け、くまゆるとくまきゅうを通常サイズに戻す。

「クマが大きくなったわ。小さいクマが大きくなるなんて、不思議ね」

マーネさんはくまゆるの体を触る。

「それじゃ、まずは昨日と同じでくまきゅうに乗って、途中で交代をお願いしますね」

マーネさんは素直にくまきゅうに乗る。

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは西の森がある方角へ走る。

草原を走り、岩山を越える。

途中で、ウルフの群れが現れたけど、サクッと倒しておいた。

「本当に強いのね」

「信じていなかったの?」

「エレローラとサーニャのことは信じているわよ。でも、あなたは可愛らしいクマの格好した女の子でしょう。実際にこの目で見るまでは、確信にまでは至らないものよ」

まあ、他人にいくら聞かされても、自分の目で見るまでは信じられないと思う。

「それにあなたが強い理由は、このクマたちが強いからとも思っていたのよ」

マーネさんはくまゆるとくまきゅうを見る。

「くまゆるとくまきゅうも強いよ。だから、わたしが魔物と戦っているときは、くまゆるとくまきゅうから、離れないでね」

そして、昼食後にはくまゆるとくまきゅうを乗り換え、夕暮れ近くになる頃、森が見えてきた。

「流石にこれから、森の中に入るのは危険だから、明日の朝に森の中に入りましょう」

マーネさんの言葉に賛成だ。クマハウスがあれば、森の中でも安全だと思うけど、危険を冒すことはない。

わたしはクマハウスを出し、昨日と同じように泊まる。

ちなみに、一緒に寝るくまゆるとくまきゅうを交代したよ。

翌朝、森の中に入るため、近くまでやってくる。

木々が生え、徐々に生い茂ってくる。

「この辺りから入った冒険者がいるようね」

マーネさんが斜め上を見ながら言う。

マーネさんの視線を追うと木の枝に赤いなにかがなびいている。

一瞬、赤蛇とかと思ったけど、違った。

「この赤い紐? リボン? はなに?」

木の枝にプレゼントの包装に使うような赤いリボンが結ばれている。

「なに、知らないの?」

「マーネさんは知っているの?」

「目印よ。深い森などに入るときに冒険者に使われているわ」

森には何度か、入ったことがあるけど見かけたことがない。

それだけ、この森が深いってことなのかもしれない。

「くまゆる、近づいて」

マーネさんに言われて、くまゆるはリボンが結ばれている木に近づく。

「リボンの結び目が来た方角。そして、釘が刺さっている方角が移動先よ」

釘?

確かに、よく見ると釘が刺さっている。

リボンが飛ばされないようにするためだけではなかったみたいだ。

釘が刺さっている方角は森を向いている。

マーネさんの説明どおりなら、ここから冒険者が入ったことになる。

「かなり色あせているから、昔のものね」

マーネさんは手を伸ばし、リボンに触れる。

「それじゃ、昔に冒険者がここから入ったってこと?」

「このリボンを結んだ冒険者がね。そのあとも、このリボンを目印にして、入っていった冒険者もたくさんいると思うわよ。進んだってことは、安全ってことだから」

誰かが進んだ道なら、安全と考えるかもしれない。

「もしくは、全員が戻ってこなかった可能性もあるけどね」

つまり、全員死んだってことだ。

「それに、ほかの冒険者に使わせないため、偽情報とかも有り得るし」

「それじゃ、使えないんじゃ」

「まあ、その可能性は低いけど。信用するのも、信用しないのも、自分次第よ」

結局は自分の力で進むってことだ。

まあ、わたしにはクマの地図のスキルがあるから、迷うことはない。