軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

709 クマさん、その後を語る

ブリッツに剣で胸を刺されたベルングは地面に倒れる。

「ユナ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫……」

わたしは地面に倒れているベルングを見ながら頷く。

ベルングは胸から血を流して倒れている。

「助けは不要と思ったが、戦いを長引かせたくなかったからな」

「……ううん、ありがとう。助かったよ」

心の中で、安堵している自分がいる。

でも、代わりにブリッツにベルングを殺させてしまった。

正確にはまだ生きているが、時間の問題だ。

「ユナ!」

ブリッツと話をしているとプリメが飛んでくる。

「倒したの?」

プリメは地面に倒れているベルングに目を向ける。

「うぅ……」

ベルングが苦しそうに声を出し、目を開ける。

「……俺は、負けたのか」

ベルングは苦しそうにしているが、力に取り憑かれ無表情だった顔つきは消え、晴れ晴れとした表情をしている。

正気を取り戻した今のベルングとなら話ができる。

「どうして、ローネやリヤンの気持ちを裏切ったの?」

「……初めはそんなつもりはなかった。でも、魔力譲渡の研究の過程で出る副作用が俺の気持ちを強めていった。研究を進めていくうちにローネを自分の物にしたい気持ちを抑えられなくなり、リヤンからローネを奪いたいと思い始めたら、止められなくなっていた。ローネを自分の物にしろ。誰にも渡すなと」

魔力の副作用。

でも、心の中でローネを自分の物にしたいって気持ちがあったから、膨れ上がってきたのかもしれない。悪魔のささやきなのかもしれない。

「最後に頼みがある。……俺を殺してほしい」

治療魔法が脳裏をよぎる。

「治療魔法をかけるよ」

「いや、いい。もう助からない。今、生きているのは魔力が流れ続けているからだ」

「魔石を破壊したのに?」

「壊したことで制御ができなくなって、無制限に流れ続けている」

ベルングが死なないと、魔力譲渡が止まらない。

もしくはリヤン、ローネからの魔力を……。

「それじゃ、今から魔法を奪う装置を壊せば?」

「時間がない。俺に流れている魔力から住民の苦しみが伝わってくる。このままでは死者がでる。これは俺が犯した罪の報いだ。気にすることはない」

住民とベルングの命の天秤。

「あと、お願いがある。俺のような人間を出さないように、妖精に関する資料は全て処分してくれ」

ベルングは苦しみながらも、妖精の研究室や魔法陣の場所を話す。

そして、言い終わると目を閉じる。

ブリッツは、わたしと交代するようにベルングに話しかける。

「最後に言い残すことはあるか?」

「ローネにすまなかったと伝えてくれ」

「分かった」

ブリッツは頷くとベルングの心臓に剣を突き立てた。

ミスリルの剣で刺されたベルングは死んだ。

これで終わった。

自分の手で人を殺さずに済んで、安堵している自分がいる。

「ブリッツ、ありがとうね」

「……ユナ。そのときが来たら迷うなよ」

ブリッツがわたしの頭に手を置きながら言う。

もしかして、わたしが人を殺すことをためらっていたことに気づいていた?

ブリッツは、それを知って、わたしの代わりにベルングを殺してくれた?

「俺も躊躇して仲間に怪我をさせてしまったことがあった。もし仲間が死んでいたら、自分が許せなかったはずだ」

誰でも、初めから人を殺せるわけじゃない。

それが悪人であってもだ。

悩んで、考えて、殺す。そういう世界だ。

「ただ、ユナなら、殺さずに進む道も見つけられるかもしれない。でも、自分が傷ついたり、仲間や自分が死ぬような道を選ぶことだけはしないでくれな」

ブリッツはそう告げると、静かに微笑む。

「……うん」

ローザさんたちがブリッツを慕うのも分かる気がする。

わたしも、いつかは人を殺さないといけないときがくるかもしれない。

そのときは、ちゃんと人を殺せるだろうか。

ベルングと戦った翌日。

わたしたちはベルングに頼まれた妖精に関する物を全て壊し、資料は全て燃やした。

そのときにランが「貴重な資料が!」とか騒いでいた。

確かに貴重かも知れないが、この世に出回らないほうがいいものもある。今回の妖精に関するものは残してはいけないものだ。

ただ、元ゲーマーのわたしとしては、ランの気持ちは分からないでもない。

貴重な物は手に入れたくなるからね。

そして、全てが終わったわたしは冒険者ギルドの上の階にある一室にいる。

「これで、終わったんですね」

部屋の窓から、ノアが外を見ながら言う。

戦いが終わったあと、ローザさんがノアのことを尋ねてきたので、すぐにクマの転移門を使って、ノアをこっちに連れてきた。

もちろん、クマの転移門はローザさんたちに知られないように隠れた場所に設置した。

わたしはノアの隣に並び、外を見る。

魔力を奪われ、多くの住民が倒れたが、今は活気があるように見える。

せめてもの救いは、住民の誰も死ななかったことだ。

ただ、かなりの人が寝込んでいるとのことだ。でも、それも数日で治ることだろう。

「うん、ノアもありがとうね」

「最後、ユナさんの戦いを見ることができなくて、残念でした」

わたしとしてはベルングが死ぬところをノアに見せなくてよかったと思っている。

わたしとノアが外を見ていると、プリメが飛んできて窓の枠に座る。

「ユナ、ノア、本当にありがとうね」

「ローネさんを助けることができてよかったです」

「それで、ローネはどうするか聞いた?」

「ううん、まだ聞いていない」

リヤンは生きている。

わたしの治療魔法が間に合った。

多分、ベルングと同じだったんだと思う。

住民の魔力が流れ続けていたおかげで、ぎりぎり命が保たれていた。

魔力を奪う地下室も壊され、魔力が流れていたベルングは死に、リヤンに魔力が流れることも、奪われることもなくなった。

でも、リヤンは傷も酷かったので、今はベッドの上で寝ている。

傷は塞いだけど、流れた血は戻らないし、痛みも残っているそうだ。

わたしの治療魔法も万能ではないってことだ。

でも、時間が経てば治るという。

「ふう、疲れたわ」

わたしたちが部屋でのんびりしているとローザさんたちが戻ってくる。

「おかえり」

「ただいま。くまゆるちゃん、くまきゅうちゃん、疲れたよ」

ローザさんは子熊化しているくまゆるに抱きつく。

「わたしも」

ランも奪うようにくまきゅうに抱きつく。

「街の様子はどうだった」

「う〜ん。とりあえず、落ち着いているわね。力を失った騎士に暴言を吐く人がいるけど」

今まで、住民から奪った魔力で威張り、住民をバカにしてきたのだから自業自得だ。

「でも、中には前々から優しかった騎士もいたみたいだから、その人たち中心に街のために頑張っていくと思うわ」

そんな人もいたんだね。

全てが悪人ってわけではないってことだけでも救いだ。

「問題はブリッツよ」

「何かあったの?」

「ブリッツ、モテモテ」

ランが頬を膨らませながら言う。

冒険者ギルドから領主が死んだことが説明された。

領主が死んだ理由は公表しなかったが、ブリッツたちが倒したと街に広まっている。

その理由としては、馬に乗って領主の屋敷に向かっているところを見られていたこと、騎士と戦っていたことも知られていた。

さらには門番の人があることないことを話したことで、冒険者ブリッツたちは腐敗した騎士を倒し、領主を倒した英雄扱いになっているとのことだ。

「ブリッツが歩くだけで、感謝され、女性たちが目を輝かせながら近寄ってくる」

あの容姿で、街を救ってくれたなら、そうなるかもね。

イケメンで、性格が良くて、強かったら、モテるよね。

それに、ブリッツは元々、今回の首謀者が自分であるかのように動いていた。

ギルマスたちも、わたしに迷惑をかけたくないと思って、ブリッツの案に乗っていた。

だから、今回のことはブリッツたちが中心になって動いたことになっている。

「ユナちゃん、本当のことを言わないでよかったの?」

「遠慮するよ。それに、わたしが戦ったと言っても信じてくれないでしょう」

なんと言っても、クマの格好をしている。

誰も、わたしが屋敷にいる騎士たちを倒し、ベルングと戦ったとは思わない。

それに、最後に手を血で染めたのはブリッツだ。救ったのはブリッツで間違ってはいない。

街の話を聞いたわたしはローネの様子を見に、リヤンが寝かされている部屋に向かう。

リヤンが寝ている部屋に入ると、ローネはベッドで寝ているリヤンの側に座っていた。

「ユナ?」

「リヤンの様子はどう?」

「大丈夫。さっき、少し会話をしたから疲れて寝ているだけ」

「ローネ、どうするか決めた?」

「帰る」

ローネは悩むことなく答える。

もう、答えは出ていたみたいだ。

「ローネさん……」

「この街の人たちは妖精への良い感情を持っていない」

「他の人にローネのことは見えないんだから別に……」

パートナーの魔力を使わなければ、他の人は妖精を見ることはできない。

「それに、さっき、リヤンと話したの。リヤンは自分とベルング、わたしがしたことを償うために、この街のために生きていくと言っていたわ」

リヤンは3人分の償いをしていくらしい。

この人も責任を感じているのかもしれない。

「そんな彼の側にいれば、邪魔になる。それに、側にいるわたしの噂が立てば、わたしを狙う人間が現れるかもしれない」

今まではベルングがローネを守っていた。

そのベルングはいない。

「だから、わたしはこの街から出ていく。それが住民の願いであり、リヤンの願いだから」

ローネは小さい手でリヤンの頬に触れる。

「それにリヤンが、街への償いが終わったら、会いに来るって約束したから、一生会えないってわけじゃないわ」

ローネとリヤンが決めたことなら、わたしが口を挟むことではない。