軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

692 プリメのお姉さん ローネ その3

「無理やり止めようとは考えない方がいいですよ。その時は体内の魔力が無差別に放出されて、死に至りますから」

そして、リヤンを生かし続けるにはリヤンに魔力を流し続けないといけないと言う。

ベルングに流れる魔力を止めればいいでしょうと言いたくなるが、ベルングは止める気がないみたいだ。

「そんな魔力、どこから」

「ふ、街には多くの住民たちがいます。そこからいただきました」

街の風景が浮かぶ。

誰しもが楽しそうにしている人たち。

そんな住民から魔力を集めたと言う。

「あなたの街の大切な住民じゃなかったの」

ベルングは笑いながら、この街の物は全て俺の物だと言う。

狂っている。

今の彼は、わたしのことが見えて、喜ぶ無垢な人間ではなく、醜い人間になっていた。

「それから、もし他の者に助けを求めるようなこともしないでくださいね。もし、しましたら」

ベルングはナイフを取り出すとリヤンの頭の横にナイフを突き立てる。

「リヤンを殺したら、わたしのことが見えなくなるのよ」

「もし、リヤンが逃げましたら、どっちにしろ、わたしは二度とあなたを見ることはできなくなるでしょう」

ベルングにとっては、リヤンが救われることも死ぬことも同じ意味ってことだ。

この日を境にベルングは悪魔になった。

ベルングに苦言をする部下たちを追い出し、自分の言うことを聞く者だけが家に残り、家にたくさんいた人間が一気にいなくなった。

街の様子を窺ったが、魔力を住民から集めたことで、ベルングへの不満は大きかった。

でも、ベルングは無視を続けた。

それによって、街から出ていく者が増え、魔物を討伐していた冒険者たちも出ていってしまった。それによって、問題が起きる。

魔力を奪うには魔石が必要だった。それが冒険者が減ったことで、魔石の供給が足らなくなった。

リヤンに魔力の供給ができなくなれば、死ぬことになる。

ベルングは冒険者の代わりに魔物討伐させるために騎士たちにわたしの力を与えるように命じる。

研究によって、リヤンの魔力とわたしの魔力を混ぜて、相手に与えると強くなることが分かっていた。問題点は定期的に力を与えないと、力は消えてしまうことだった。

リヤンの魔力を得るために、リヤンの魔力を使うことはしたくなかったけど、リヤンを守るためには従うしかなかった。

わたしは騎士たちの前に現れ、力を与える。

初めは半信半疑だった騎士たちだったが、自分たちが強くなったことを知ると、感謝し、自ら妖精騎士と名乗るようになった。

力を得た騎士たちは冒険者に代わって魔物討伐をするようになり、安定的に魔石は確保できるようになった。

そして、騎士たちが強くなったことで、誰も表立ってベルングに刃向かうものはいなくなった。家の前で文句を言っていた者たちは消え、静かになった。

姿を消して街に行くと、陰では、みんなベルングの悪口を言っている。

初めて訪れたときの街の楽しそうな雰囲気は消え、暗くなっていった。

わたしは、何をやっているんだろうか。

何もかも放り出して、逃げ出したい。

でも、できない。

そのうち、わたしは考えることを放棄し、時間だけが過ぎていった。

……どれほどの時間が過ぎたのだろうか。

リヤンを助け出す方法は見つからず、その間もベルングの妖精の研究は続き、騎士たちに与える力が徐々に強くなっていく。

研究を続けることが、リヤンに会える交換条件だったため、わたしに断ることはできなかった。

「プリメに会いたい」

わたしはハンカチを手にする。

プリメが作ってくれたハンカチ。わたしも作って交換した。

ごめんね。

「プリメ……会いたい……」

あの笑顔をみたい。

でも、二度と会うことはできない。

あの男を妖精の森に連れていくわけにはいかない。

ハンカチを握りしめていると、いつもよりもプリメが近くに感じた。

嘘。

ハンカチを握っているとプリメを感じることができる。

もう一度、ハンカチを握る。

まさか……。

わたしは目を閉じ、集中する。

やっぱり、プリメが近くにいる。

この街に来ているの?

いや、もっと近い。

まさか、このお屋敷に?

わたしは飛び出す。

どこにいるの?

屋敷の中を捜しているとプリメがいた。

まさか、わたしを探しにここまで来たの?

プリメの顔を見たら、涙がでてくる。

会いたいが、出ていくわけにはいかない。

わたしは悪い妖精だ。

プリメに合わす顔はない。

ああ、その部屋は入っちゃダメ。

わたしの気持ちが分からないプリメがベルングの部屋に入っていく。

もし、ベルングに見つかれば、大変なことになる。

プリメが入った小窓から、部屋の中の様子を窺う。

プリメがわたしの絵を見ている。

ベルングが自分で描いたわたしの絵だ。

わたしに固執しているが、プリメがいることを知れば、プリメもわたし同様なことになるかもしれない。

そんなとき、ベルングがこちらにやってくるのが見えた。

プリメ、早く逃げて。

プリメのことが見えないと分かっていても、もしもと考えてしまう。

ベルングは部屋の中に入り、わたしの絵の前で止まる。

「君は僕のものだ」

気持ち悪い。

ベルングは何かを感じたのか、部屋の中を歩き始める。

もしかして、プリメのことに気づいた?

ベルングは全ての妖精を見る研究もしている。

もし、研究が完成し、プリメのことが見えていたら、大変なことになる。

ベルングはプリメがいる近くを歩いている。

答えは分からないが、今はプリメを守らないといけない。

プリメは逃げるように部屋から出ていく。

ベルングもプリメが逃げた先に目を向けている。

わたしはプリメの後を追いかけさせないように、ベルングの前にでる。

「ああ、ローネ。いたのですか」

「ええ、いたわよ。ちょっと、あなたをからかっただけ」

わたしの言葉に納得したのか、ベルングは手を差し出す。わたしはこの手の上に乗る。ベルングは満足気な顔をする。わたしが、手の上に乗らないと怒るのだ。

ベルングは、この部屋にプリメがいたことに気付いていない。

今すぐに、プリメの後を追いかけたい気持ちを我慢する。

「いつ見ても、美しい」

「ありがとう」

それから、少しして満足したのか、わたしのことを離してくれる。

わたしは気持ちを落ち着かせるため、リヤンに会いにいく。

「リヤン、妹がわたしを探しに来たよ。わたし、どうしたらいいのかな」

でも、返事はない。

リヤンはあれから寝たままだ。

痩せ細り、魔力によって生かされている。

心の中で、助けることはできないと分かっているが、離れることができない。

「プリメの声が聞きたいよ」

わたしはいろいろと考え、最後にプリメに会いに行くことにした。

プリメはわたしを見つけるまで帰らないはずだ。もし、またここに来て、ベルングに見つかれば、大変なことになる。

夜、ベルングや騎士たちに気付かれないように家を出る。外は暗く、街は静まり返っている。

わたしはプリメのハンカチを頼りにプリメの場所を探す。

ここね。

少し大きめの建物。看板からすると人間が泊まる建物だ。

この部屋かしら。

プリメのハンカチの反応はこの部屋からある。

窓が閉まっている。

風魔法を使って、鍵の留め金を上にあげて外す。

部屋の中に入るとベッドに人間が2人と、小さいクマ? が一緒に寝ている。それとプリメが小さい籠の中で寝ていた。

人間と一緒?

もしかして、プリメが見える?

とりあえず、騒がれても困るので、ポケットから眠り粉を取り出し、寝ている人間に振りかける。

これで、多少騒いでも起きないはずだ。

わたしはプリメに近づく。

よく眠っている。

久しぶりに見る妹の顔。

ここまで、わたしを捜しに来てくれたと思うと嬉しく思う。

でも、プリメの気持ちに応えることはできない。

「プリメ、起きなさい」

「うう、誰?」

なかなか起きない。

「いいから、起きなさい」

「お、お姉ちゃん!」

目が開き、わたしを見ると驚く。

「プリメ、久しぶりね」

「お姉ちゃん、どうしてここに。わたしお姉ちゃんを捜しにきたんだよ」

やっぱり、わたしを捜しに、こんな遠いところまで。

嬉しい。

「ええ、知っているわ。先日、お屋敷に来たのでしょう」

抱きしめたいのを我慢する。

「知っていたの? それじゃ、どうして出て来てくれなかったの。ううん、それはどうでもいい。お姉ちゃん、帰ろう」

このままプリメと一緒に妖精の森に帰りたい。でも、帰ることはできない。

「今日は、あなたに伝えに来たの。わたしは帰らないから、一人で妖精の森に帰りなさいって」

「お姉ちゃん!」

プリメに話せば、優しいプリメはわたしのために、何かをしようとする。

そんなことをすれば、あの男に見つかるかもしれない。

諦めてもらおうとしたとき、ベッドで寝ていた人間が起き上がる。

「それは、どういうこと?」

立ち上がったのは、人ではなく、クマだった。

いや、クマの格好をした人間の女の子だった。

「起こさないように、眠り粉を嗅がせたはずなんだけど」

どうして、起き上がるの?

寝ているときに眠り粉をかければ、そのまま眠りが深くなるはず。

クマの格好した女の子は、他のベッドに寝ている女の子とクマに向けて名前を呼ぶ。

クマに、くまゆるとくまきゅうって、そのままだと思うんだけど。

面白い人間の女の子だ。

このクマの格好した女の子がプリメのパートナーなのかしら。

「たしか、ローネだったっけ。帰らないってどういうこと?」

「言葉どおりよ。わたしはここに残る」

「どうしてなのお姉ちゃん。もし、人間に捕まっているなら逃げようよ」

わたしは首を横に振る。

帰れるものなら帰りたい。でも、わたしとベルングが繋がってしまっているいま、妖精の森に帰ることはできない。

「ここには、大切な人がいるわ。だから、プリメと一緒に帰ることはできない」

「お姉ちゃん!」

プリメは叫ぶが、わたしは無視をしてベッドのクマを抱いて寝ている女の子に目を向ける。

先ほどから、この女の子から微かにわたしとの繋がりを感じる。

そのことを口にすると、プリメにあげたわたしの作ったハンカチが体の中に入ってしまったそうだ。そんなことが起きるの?

人間にハンカチをプレゼントしたことがないから分からない。

どっちにしろ、どうでもいいことだ。

「そうなのね。まあ、いいわ。プリメ、早くこの街から出て、妖精の森に帰りなさい。そして、わたしのことは忘れなさい」

わたしはプリメを突き放すような言い方をする。

わたしを嫌ってもいいから、早くこの街から出ていってほしい。

あと、プリメのパートナーが魔力を奪われて、体調が悪くなるかもしれないから、これから魔力が奪われることを忠告しておく。

わたしにできるのはそのぐらいだ。

魔力を奪われた影響は人によって変わってくるが、プリメのパートナーに影響が少ないことを祈るだけだ。

わたしの言葉にプリメは涙目になり、落ち込んでいる。

抱きしめたいが、できない。一刻も早く、妖精の森に帰り、わたしのことは忘れてほしい。

ここにこれ以上いたら、わたしも泣いてしまう。だから、帰ろうとすると、プリメのパートナーの女の子が呼び止める。

このまま帰ることなんてできないから、納得する質問に答えてと言う。

「あなたが、騎士に力を与えているの?」

「ええ、そうよ」

わたしの魔力を与えることで、騎士が強くなる。

「どうして騎士に力を与えているの?」

「魔石を集めるため」

「どうして、魔石を集めているの?」

「魔力を集めるため」

「魔力を集めている理由は?」

「あの人を死なせないため」

リヤンを死なせないため。

それだけのために、今日まで頑張ってきた。

いつまで続くのかは分からない。

何度も逃げようと思った。でも、リヤンの寝ている姿を見ると逃げることはできなかった。

「話はおしまい。これ以上、話すことはないわ」

これ以上話しても、わたしは帰るつもりはない。

「最後にもう一つ。ここで、無理やりにあなたを連れ戻すっていうのは」

プリメのパートナーが動く。

わたしは風を巻き起こし、その一瞬の隙をついて、部屋から逃げ出す。

優しいパートナーみたいね。

妹のために、ここまでやってきて、わたしを連れ戻そうとしている。

もし、プリメと彼女のことが、あの男に知られれば、リヤンと同じようにさせられるかもしれない。

そんなことになれば、プリメが悲しむ。

だから、早くこの街から出ていって。

そういえば、人に見られないようにリヤンとの魔力を切ったはずなのに、あのクマの格好した女の子は、わたしの姿が見えて、話をしていた。

まさか、そんなことが……。