軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

669 クマさん、プリムを助けることにする

「ちょ、お姉ちゃんのハンカチは!?」

プリメはノアの手に乗って、ハンカチを探そうとする。

「わたしが受け止めようとしましたら、消えてしまいました」

わたしの目にもプリメのハンカチはノアの手のひらの中に消えていったように見えた。

「嘘でしょう。床に落ちたかも」

プリメはノアの言葉を信じたくないようで、ノアの足元を探し始める。わたしもノアもしゃがんで探すが、小さいハンカチは見つからない。

「ない。やっと、わたしのことを見えて、話すことができる人を見つけたのに。お姉ちゃんを探しに行けると思ったのに……」

「他に、お姉さんの物は?」

「ないの。あれだけなの」

プリメは少し前までは、わたしに会えたこと、わたしが妖精の森に行くことを了承したときは笑顔だったのに。今は泣きそうな顔をしている。

「ねえ、本当にあなたの体の中に入ったの?」

プリメは確認するようにノアの手の上に乗り、触りながら尋ねる。

「手で受け止めようとしたら、消えていきました」

「ノア、体に異常は?」

ノアは自分の体を触ったり、手を広げたり閉じたりする。

「いえ、なんともありません。……でも、何かを感じます」

ノアは胸に手を当てると、そんなことを言う。

「ねえ、感じるって、どんなふうに感じるの?」

「なんと説明したらいいか分かりません。ただ、わたしの中に違う小さい魔力を感じます。前にユナさんに魔法の使い方を教わった時に、わたしの体に魔力を流したときの感じに似てます」

ノアとフィナに魔力の扱いを教えるときに、体に魔力を流したことがあった。

「でも、小さい感じです。ただ、ユナさんの魔力の時は消えましたが、今は残っている感じです」

「もしかして、お姉ちゃんの魔力を取り込んでしまったのかも」

「それって危険はないの? ノアに変なことは起きないの?」

「別に悪影響が起きるものじゃないから、それは大丈夫だと思う。わたしがあなたの魔力をもらったようなものだから」

わたしが魔法を教えるために、ノアとフィナに魔力を流したようなものだ。そう考えれば、危険はないのかもしれない。

「でも、ハンカチとして作られていたから、魔力がそのまま、その子の体に残っているのかも。ねえ、お姉ちゃんの居場所が分かる? なにか遠くにかんじない?」

プリメは僅かな望みをかけて尋ねる。

ノアは目を閉じて、両手を胸に当てる。

「ごめんなさい。わかりません。ただ、何かは感じます。もしかすると、プリメさんが言っていた通りに遠いからかもしれません」

「それじゃ、妖精の森に行けば……」

「わたしも妖精の森に連れていってくれるんですか!?」

自分も妖精の森に行けると思ったノアは、嬉しそうに尋ねる。

「いや、それはダメだよ」

「どうしてですか!?」

「人探し、もとい妖精捜しは時間がかかるでしょう。数時間で見つかるわけじゃないと思う。そうなると、外泊することになる。それに知らない土地に行くことをクリフが許すわけがないでしょう」

「うぅ、確かにそうですが」

「プリメ。悪いけど、そういうわけだから、ノアを連れていくことはできないから」

ノアは簡単に連れ出せる子ではない。百歩譲って、フィナなら。ティルミナさんに言えば許可を出してくれると思う。

でも、今回はクリフの許可が必要だ。それにノアは貴族の令嬢だ。簡単に遠出ができる身分ではない。

「そのごめんなさい。わたしのせいで」

ノアもそれが分かっているのか、無理強いはせず謝る。

「あなたのせいじゃないわ。わたしが騒ぎすぎて、お姉ちゃんのハンカチを落としてしまったのがいけないの。あなたはそのハンカチを床に落ちないように、受け止めようとしてくれただけ」

「ですが……」

「ユナ、ごめんなさい。あなたが手伝ってくれるって言ってくれたのに」

プリメは申し訳なさそうに謝る。

でも、わたしの気持ちは変わっていない。

「行くよ」

「えっ、でも、手がかりは」

「近くの村や町に行って、妖精の話を聞くことぐらいできるでしょう。お姉さんは普通に妖精の森から出ていったんでしょう」

「うん」

「それなら、とりあえず、人がいる近場を探せばいいよ。そこに妖精を見たって人の情報があるかもしれないし。でも、情報がなにもなく、見つけられなかったら諦めるしかないけど」

わたしだって、絶対に見つけてあげるとは約束できない。

妖精を見たことがある人が、他の人に「自分は妖精が見える」と言っている可能性もある。

逆に誰にも言わずに黙っていたら、情報はなく、見つけ出すことは不可能だと思う。

確認しないことには、現状ではなにも分からない。

「ユナ、ありがとう」

プリメのために、お姉ちゃんを探してあげたい気持ちは本当だけど、妖精の森に行きたい気持ちも大きい。

ギブアンドテイクだ。

「……わたしも、行きます」

ノアが何かを決心した表情で言う。

「お父様にお願いします。お父様が許可を出してくださるなら、わたしも一緒に行ってもいいんですよね」

「ノア……」

「でも、無力なわたしが一緒に行くと、ユナさんにご迷惑をおかけするかもしれません。なるべく、ご迷惑をおかけしないようにします。もし、わたしが妖精さんのお手伝いができるなら、お手伝いがしたいです。もし、お父様が許可を出してくださったら、わたしも一緒に行ってもいいですか」

ノアは真剣な表情だ。わたしのように妖精の森に行きたいとか、不純な動機ではない。プリメのため、自分がしてしまったことを後悔しているように見える。ノアは悪くないのに。

「ノア、本当にいいの? 知らない土地に行くんだよ。危険かもしれないんだよ」

「少し怖いですが、ユナさんがいれば大丈夫です。それに、自分にできることがあるのに、なにもせずに待っているような人にはなりたくありません。でも、ユナさんが迷惑と思うなら……」

わたしはノアの悲しい顔を見てからプリメを見る。

「確認だけど、その鏡を通って妖精の森に行くんだよね」

「うん」

「ノアも連れていくことはできるの?」

「王女様には一人までって言われているから、見つかると怒られるけど、すぐに妖精の森を出れば、大丈夫だと思う」

人間を妖精が住む森に何人も連れてくることは妖精の王女としては、看過はできないと思う。

もしもの場合はわたしだけ先に移動して、クマの転移門を使って、ノアを連れてくることはできる。

そのときはクマの転移門のことをノアに話さないといけないけど。

それに、もし危険なときも、クマの転移門を使えば、安全な場所にノアを逃がすことはできる。タイミングを見て、クマの転移門のことを教えてあげるのもいいかもしれない。

クリフやエレローラさんに話さないか、少し心配だけど。

「わかったよ。それじゃ、クリフに頼みに行こうか」

「ユナさん!」

ノアの真剣だった表情が、パッと嬉しそうな表情に変わる。

やっぱり、ノアは笑っている顔のほうがいい。

「でも、約束して。危険なことはしない。1人で行動しない。わたしから離れるときは、くまゆるとくまきゅう、どちらかと一緒にいること」

「「くぅ〜ん」」

くまゆるとくまきゅうがノアに近づく。

「はい。お約束します」

いざとなれば、クマの転移門の中に放り込んで守ればいい。

「それじゃ、ちょっとこの子の父親に外出の許可をもらってくるから、待っていて」

「わたしも行くわ。わたしが説明したほうが信じてくれるでしょう」

「そうですね。お父様もプリメさんを見れば、信じてくれると思います」

確かに、妖精が目の前にいれば、クリフを説得しやすいかもしれない。

「そうと決まったら、鏡も一緒にお願い。実は鏡から、あまり離れることができないの」

プリメの話だと、鏡から離れすぎると、妖精の水の効果が切れてしまうそうだ。

だから、幽霊騒ぎは、お屋敷限定に現れていたみたいだ。自分が見える人を探すなら、人が多くいたところに行ったほうがいいに決まっている。

わたしは壁にかけてある鏡を取り、両手で抱える。

泥棒にならないよね。

「ユナさん、重くありませんか?」

「大丈夫だよ」

大きいがクマ装備なら楽なものだ。

でも、鏡をクマボックスに入れてもいいのか分からないので、仕舞わずに鏡を運ぶことにする。

わたしたちは幽霊が出ると言われていたお屋敷を出て、クリフの屋敷に向かう。子熊化したくまゆるとくまきゅうは歩き、プリメは他の人に見つかったら騒ぎになるので、ノアの服の中に隠れてもらう。

そんなプリメに、ノアが尋ねる。

「プリメさんは自分が見える人を探していたんですよね」

「うん、初めは近くの村まで行ってみたけど。誰もわたしが見えなくて、声も聞こえなくて、そのときに一人でお姉ちゃんのことを探しに行こうと思ったけど、お姉ちゃんは遠くに感じて」

「怖くて、一人じゃいけなかったと」

「仕方ないでしょう。妖精の森から、ほとんど出たことがなくて、村だって数回程度しか行ったことがないんだから」

こんな小さい体じゃ、仕方ないと思う。

飛べるとしても鳥みたいに、速く飛ぶことはできそうもない。

「だから、妖精の水を使って、わたしのことが見える人を探していたの。妖精の水は、導いてくれると言い伝えがあるから。だから、この妖精の鏡と繋がったんだと思う」

「それじゃ、ユナさんとプリメさんは出会うべくして、出会ったんですね」

ノアは恥ずかしげもなく、そんなことを言う。

そして、ノアの家にやってきたわたしたちは、すぐにクリフに会いに行く。

仕事をしていたクリフだったが、わたしたちと一緒にいた妖精を見た瞬間、驚いた表情をしたと思ったら「話を聞こう」と言ってくれた。