軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

668 クマさん、妖精の話を聞く

「お願い、助けて」

これはわたしの経験上、話を聞いたら、面倒事に巻き込まれる。まして、ノアもいる。話を聞いて、ノアまで巻き込まれでもしたら大変だ。ここは悪いけど、なにも聞かずに立ち去った方がいいかもしれない。

「悪いけど、危険なことはできないから」

「ちょ、どうして、帰ろうとするのよ。わたしの話を聞いてよ」

プリメは、わたしのクマの着ぐるみを掴み、逃さないようにする。

「そうですよ。妖精さんが、助けを求めているんですよ」

「それは、分かっているけど」

わたしの性格上、話を聞いたら助けたいと思ってしまう。

「ユナさん。妖精さんの願いを叶えると幸せになり、反対に願いを叶えることができないと不幸になると言われています」

「それって、やっぱり聞かないほうがいいってことじゃない」

願いを叶えることができなければ不幸になるなら、今の暮らしに問題がなければ、妖精の願いを叶える必要はない。

人によって、幸せの定義はいろいろとある。お金持ちになりたい。異性にモテたい。強くなりたい。頭が良くなりたい。今のわたしは、どれも必要としてない。

今のわたしは、たまに大変なことに巻き込まれることもあるけど、周りに恵まれて楽しく暮らしている。

なら、ギャンブルをしてまで、これ以上の幸せを手に入れる必要はない。

上を見たら、キリがない。

もし、願いが叶うなら、「世界が平和でありますように」と善人ぶってみる。いくら妖精でも、そんな願いが叶えられるわけはない。

それに叶えられなければ、不幸になるなら、引き受けないほうがいい。

「わたしは今に満足しているけど。ノアは幸せになりたいの? 妖精を助けて幸せになれるなら、妖精の幸せを待っている人のところに譲ってあげた方がいいと思うけど」

この世には妖精に出会って、幸せになりたいと思っている人、救いを求めている人が多くいるはずだ。どうせなら、その人たちのところに行ってもらったほうがいい。

「うぅ、そうですが、妖精さんが助けを求めているんですよ」

「さっきから聞いていればあれだけど、わたしは幸せにすることも、不幸にすることもできないわよ」

プリメは胸を張って言う。

なら、余計に話を聞く必要はない。

面倒ごとに巻き込まれるだけだ。

でも、ノアの考えは違うみたいだ。

「なら、話を聞いても大丈夫ですね」

面倒ごとに巻き込まれる分、不幸だと思うんだけど。

「そもそも、わたしみたいな、可愛い妖精に会えることが幸運みたいなものでしょう。幸せな気分になるでしょう」

自分で、それを言う?

元の世界でも妖精は見たことがないし、この世界でも、簡単に妖精を見ることができないらしいから、幸運なのかもしれない。正しいけど、当人に言われるとなんとも言えない気持ちになる。

「それに、わたしのことを見ることができる人は稀なのよ」

確かに、いろいろな人がこのお屋敷に来ているが、光を見たぐらいで、プリメを見れた者は誰もいない。

「お願い、わたしの話を聞いて。あなたのようにわたしが見える人間を見つけ出すのは大変なの。あなたしかいないの」

妖精はわたしの前に止まると、ふざけた表情は消え、また真剣な表情になる。

「ユナさん……」

「分かったよ。とりあえず話だけは聞くよ。それで、わたしにでも助けることができるようなことなら、手を貸してあげる。それでいいなら」

「あ、ありがとう」

わたしの返答に満足したのか、プリメは満面の笑顔になる。

どうせ、断れないなら、話だけ聞くことにする。もしかすると簡単なことかもしれない。

「それで、助けてってなに? ウルフやゴブリンでも倒せばいいの?」

それだったら、幽霊よりも簡単だ。

「ううん、わたしのお姉ちゃんを探してほしいの」

魔物討伐でも幽霊討伐でもなかった。人探しだった。

「お姉ちゃん、人間に会いに行くって言って、戻ってこなくなったの」

「人間。それじゃ、その人はそのお姉さんが見えていたんだ」

「うん。お姉ちゃんはそう言っていた。お姉ちゃん、何度も、その人間が妖精の森の近くに来ると、会いに行っていたの。あの日も、同じように会いに行ってくると言って出かけたんだけど。帰ってこなくなったの。今までに、そんなことは一度もなかったのに。きっと人間に連れて行かれたんだと思う」

「ちなみに、その人間のことを見たことは」

プリメは首を横に振る。

「興味もなかったし。どうせ、わたしのことは見えないだろうから、見に行こうとも思わなかったの」

情報はなしか。

「あなた1人でお姉さんを捜しに行こうとは思わなかったの?」

「ほとんどの人間はわたしのことは見えないし、声も聞こえない。声が聞こえたとしても、驚いて逃げてしまう。だから、わたしのことが見えて、声が聞こえる人を捜していたの」

確かに、言葉が通じない場所で、人捜しは大変だ。まして、自分の姿も声も聞こえないようだったら、探すのは難しい。

それは妖精を見ることができないわたしもだ。

「無理だよ」

「ユナさん。断るのですか?」

「ノアだって、一度も妖精を見たことがないって言っていたでしょう。そんな妖精を見つけるなんてできないよ」

探知スキルでも、妖精の反応はない。くまゆるとくまきゅうも反応がなかった。つまり、妖精は、そのような存在なのかもしれない。

そんな妖精を探すのは不可能に近い。

「そうですが……。あのう、どこに居そうとか、手がかりはないのですか?」

ノアはわたしの言葉に納得はするが、どうにか見つけることができないか、プリメに尋ねる。

「どこにいるかは分からないけど、方角ならわかるよ」

「そうなのですか?」

プリメは服の下から、何かを取り出す。

妖精だから小さいから分かりにくいけど、プリメの手には布のようなものが見える。

「妖精の服は、妖精の魔力で作り上げているのは知っているでしょう」

そんな、当たり前のことのように言われても、妖精界の常識は知らない。

「あいにく、わたしは妖精の常識は持ち合わせていないから」

でも、この世界では常識なのかもしれないと思って、確認するようにノアを見る。

「わたしも知りませんでした」

ノアも知らなかったらしい。

「本当に、人間って無知ね」

「いや、妖精の存在自体が、珍しいんだから無理だよ」

「それじゃ、説明してあげる。わたしたち妖精の服は魔力で作られているの。この服も、わたしが自分で作ったのよ。可愛いでしょう」

プリメは服の裾を持ってみせる。

「はい、とっても可愛いです」

ノアの言葉にプリメは嬉しそうにする。

「それで、その服がどうしたの?」

「服は関係ないけど、この布はお姉ちゃんが自分の魔力で作ったハンカチなの」

なんとなく、話が見えてきた。

「もしかして、その魔力で作られたハンカチで、そのお姉ちゃんの居場所が分かるってこと?」

「うん、よく分かったね」

「ユナさん。凄いです」

ノアは褒めてくれるが、物語には人が持っていたものから、人を見つけ出すネタはよくある。犬が見つけたり、同じ反応があるとか。

だから、そう思いついただけなので、褒められても、なんとも言えない気持ちになる。

「だから、このハンカチがあれば、お姉ちゃんのいる方角が感じ取れるの」

「それじゃ、今も?」

プリメはハンカチを握りしめながら首を横に振る。

「ううん、離れすぎると、無理なの。たぶん、ここは、わたしたちが住む妖精の森から、離れているからだと思う」

「離れているって、妖精の森って、どこにあるの?」

「わからない。そもそも、ここがどこかも知らないから」

「知らないって、あなたはどこから来たのよ」

「あそこから来たの」

プリメは壁にある鏡を指す。

「鏡?」

「わたし、その鏡を通ってやってきたから、ここがどこかも、わたしが住んでいる妖精の森がどこにあるかもわからないの」

わたしとノアは鏡に近づく。

楕円形で、額縁は装飾してあり、抱き抱えられるほどの大きさの鏡だ。

「触っても大丈夫?」

いきなり、妖精の森に連れていかれない?

「今は、大丈夫よ」

触ってみるが、普通の鏡だ。鏡にはクマの着ぐるみ姿のわたしが映っている。あらためて思うけど、この格好で、街中を歩いているんだよね。

プリメは鏡の前にやってくる。

「この鏡は妖精の鏡」

「妖精の鏡?」

わたしとノアは再度、鏡を見る。

縁の装飾は立派だけど、普通の鏡にしか見えない。

「かなり昔に作られたと思うんだけど、鏡には妖精の魔力が込められているわ。もしかすると、今のわたしのように行き来するために妖精が作ったのかもしれない」

「それじゃ、鏡の向こうにも、同じような鏡があるの?」

「鏡は無いわ。妖精の水を使って、同じような現象を起こして、ここに来たって言えばいいのかしら」

妖精の水。

なんか、神秘的で、特殊効果がありそうな水だ。

幽霊とかにかければ、消滅しそうな。それは聖水だけど。

「だから、妖精の森に戻れば、お姉ちゃんの居場所を感じとることができるの」

つまり、妖精の森に行くってことだ。

やばい。行ってみたい感情が湧き上がってきた。

だって、妖精の森だよ。ファンタジーだよ。

「それじゃ、わたしがあなたのお姉さんを探すのを手伝ってあげれば、あなたが住む、妖精の森に連れていってくれるの?」

「本当は妖精の森に人を連れてきちゃダメなんだけど。王女様から、わたしたちが住む場所に連れてこずに、すぐに妖精の森を出れば、良いって許可はもらっているから」

それって、庭に入れるけど、家の中には入れないってこと?

でも、妖精の森に妖精の王女って響きは魅力的だ。

ゲーマーとしては行ってみたい衝動にかられる。

それにお姉さんがいる方角は分かるって言うし、見つけ出すことは、それほど難しいことではないかもしれない。

「分かったよ。お姉さんを探すのを手伝うよ」

「本当に? ありがとう」

プリメはわたしの周りを嬉しそうに飛び回る。

妖精に妖精の森。それだけでも十分に行く価値がある。

魔物討伐じゃないみたいだし。ただ、問題はお姉さんがどうなっているか。捕まっているなら助けないといけないし。一緒について行っているだけなら、プリメも安否の確認できれば問題はないはずだ。

そう考えると、後者の場合が一番楽かもしれない。

「ユナさん、羨ましいです。わたしも妖精さんの森に行ってみたいです」

「危険かもしれないから、流石に今回は連れていけないよ。ノアはお留守番だよ」

「分かりました。それじゃ、お土産話をいっぱい聞かせてくださいね」

「ええ、その時は、わたしも話してあげるわ」

妖精がノアの前に飛びながら言う。そのとき、プリメの手からハンカチが落ちる。

「あっ、落ちましたよ」

ノアは両手で受け止めようとして、手のひらを広げる。

ハンカチはヒラヒラと落ち、ノアの手の上に乗るかと思ったら、溶け込むように消えていった。