軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

648 クマさん、フィナを見守る 四回戦開始

「フィナ、そろそろ始まるみたいよ」

ティルミナさんが会場を見ながら言う。

グラウンドでは四回戦の準備が終わろうとしている。

「うん、それじゃ行ってくるね」

「頑張ってきなさい」

「お姉ちゃん、頑張って」

「フィナちゃん、頑張ってね」

「フィナちゃん、応援しているからね」

それぞれがフィナに言葉を贈る。

無理はしてほしくないけど、かける言葉が「頑張って」しかないのはフィナに負担になるだけかもしれない。

どう言葉をかけようかと考えていると、フィナがわたしの言葉を待っている。

「ここまできたんだから、恥ずかしいことはないから、自分が持っている力を出せばいいからね」

「うん、頑張ってくる」

たいした言葉をかけることができなかったけど、フィナは頷くと、サーニャさんと一緒にグランドに降りていく。

「残ったのは20名! 最後の決勝に残れるのは10名だ!」

会場を見ると寂しくなった。100人近くいた人数が20人しかいない。女性の数はフィナを入れて3人。

冒険者ギルド職員のエリザっていう人と、フィナと同時に手を挙げた女性だ。あのクレアって冒険者の女性は残念ながら三回戦で負けてしまった。

この中に残れたフィナは誇っていい。

「100名以上の参加者の中、ここまで残ったら決勝を目指して、頑張ってほしい。だが、残れる人数は10名という狭き門だ」

本当に狭き門だ。フィナが得意とするウルフでさえ、10位の中に入れなかった。

二回戦の一角ウサギはさらに順位を落とすこととなり、40名と広かったから二回戦を突破できた。

三回戦から解体する魔物が難しくなり、ゲーターを解体をしたことがない者もいて、さらには焦って解体をした者のおかげで三回戦突破ができた。

そう考えると、四回戦に出てくる魔物次第では、状況は分からない。

「それでは、皆様の気持ちも落ち着いてきたでしょう。それでは、四回戦で解体する魔物を運んでください」

進行役の男性が言うと、係員によって台車に乗せられて運ばれてくる。

ゲーターと同様に台車の上には布が被されている。

ゲーターと同じか、それよりも少し大きく感じる。

できれば、フィナが解体したことがある魔物が出てほしい。解体したことがある魔物なら、一生懸命に解体して負けても仕方ないけど。解体をしたことがない魔物だったら、悔しい。

負けるにしても、戦って負けてほしい。

戦うこともできず、負けを認めないといけないほど辛いものはない。

わたしは願う。

一度でもいいから、フィナが解体をしたことがある魔物が出てきて。

「それじゃ、発表するぞ。四回戦はスコルピオンだ! 砂漠に住む魔物、王都では少し珍しい魔物だが、砂漠地帯なら普通の魔物だ。王都でもたまに解体されるから、ギルド職員なら、解体をしたことがあるかもしれない。ここまで残っている冒険者なら倒したことぐらいあるだろう」

でも反応は様々だ。

解体の経験がある者は無言。でも、解体をしたことがない者もいるようでクレームが出る。

「俺はないぞ。砂漠なんて行かないからな」

「冒険者は自由! どこにだって行けます。冒険者なら、一度は行ってみるといいですよ。知見が広がりますよ。それに四回戦に残った者たちは実力者揃いの冒険者のはずです。ウルフや一角ウサギで満足はせずに、日々精進して、成長してください」

「…………」

クレームをつけていた冒険者は「実力者」と言われたら何も言えなくなる。

ここまで残ったってことは、若手冒険者としても有望なんだと思う。それなりの数の魔物を倒して、解体をしてきたってことだ。

そうでなければ、解体の技術も身につかない。

それに、ここで否定すれば「実力者」って言葉も自分で否定することになる。彼らに足らないのは解体の経験だ。

でも、スコルピオンならフィナは解体をしたことがある。

もしかすると、もしかするかもしれない。

「それじゃ、辞退する者は申し出てください」

進行役の男性の言葉に3人ほど辞退を申し出る。

これで、17名。だからと言って、実力者が辞退したわけじゃない。フィナは実力で10名の中に入らないといけない。

「それでは、準備はいいですね。四回戦を始めます」

進行役の男性が四回戦開始の合図をすると、一斉に動き出す。

フィナもナイフを持って解体を始める。

「辞退をしたのが3名。17名による争いが始まりました。相変わらず、デッド君とガルド君の二人は手際よくスコルピオンを解体していく。この二人を止める者はいないのか!」

流石、優勝候補の二人だ。

ベテラン冒険者パーティーと、若手のみで構成されている将来有望なパーティーの二人はスコルピオンも解体したことがあるみたいで、誰よりも速く解体をしていく。

観客席の視線が二人に集まり、二人を応援する声が飛び、盛り上がる。

「冒険者ギルドで仕事をしているエリザちゃんも解体をしている。ギルド職員の方が有利か? いや、他の残った冒険者たちも解体をしている。さすが、ここまで残った猛者たちだ」

若手に猛者とか、でもその言葉を言われて嫌な気分になる若手はいない。これからも精進していくと思う。

ただ、無謀な戦いはしないでほしいものだ。

冒険者は危険な仕事だ。

「そんな中、驚くことに、最年少の少女のフィナちゃんも手慣れた感じでスコルピオンを解体している。スコルピオンを解体したことがあるのか!」

「お姉ちゃん、頑張って!」

優勝候補の2人に負けずに、シュリの声援が飛ぶ。

「20名の中に残った女性は、エリザちゃん、アミーちゃん、フィナちゃんの3名。綺麗な花が散っていくのは寂しいものです。ぜひ、10名の中に残ってほしいところだ!」

だけど、この3人は、この三回戦にくるまでに一度も10位以内に入ったことがない。進行役の男性の言葉ではないが、ここまで残ったのはそれなりの実力を持った者たちだ。そう考えると難しいかもしれない。

「だが、女性にはスコルピオンの甲殻を外すのは辛いか、手間取っている。とくに体の小さいフィナちゃんが一番苦労しているみたいだ」

前に解体をしたときは、甲殻を外すのはゲンツさんが手伝ってくれた。でも、今は一人でしないといけない。

「わたしの手をフィナちゃんに差し伸べたくなります」

進行役は手を伸ばす仕草をする。

「それは、会場にいるみんなも同じ気持ちかもしれません」

「体が小さいと不利だよ」

シアが、小さい体を使って甲殻を外すフィナを見て、呟く。

フィナは甲殻の隙間にナイフを入れて、甲殻を外そうとしている。

「ですが、フィナちゃんの手際を見るとスコルピオンの解体をしたことがあるんでしょう。そのあたりはどうなんでしょうかギルドマスター」

進行役の男性は解説席にいるサーニャさんに話を振る。

「実のところ、わたしもフィナちゃんが、ここまで解体が出来るとは知らなかったから驚いているのよ。わたしも、他の人にフィナちゃんのことを聞いただけだったから」

エレローラさんのことだね。

「そうなのですね。フィナちゃんを推薦をしたので、詳しいと思っていました。そんなギルドマスターを良い方へ裏切ってくれたフィナちゃん。だが、ここにきて体格の差がハンデとなってしまっている」

くまゆるとくまきゅうを大きくしたり、小さくしたりできるスキルがフィナにも使えれば。もしくは、大人にできる魔法が使えれば。

「お母さん、お姉ちゃんダメなの?」

「重たい物を持つには力が必要でしょう」

「うん」

「それと同じように、スコルピオンの甲殻を外すには力が必要なの。だから、まだ、子供のフィナには辛いのよ」

甲殻を外すにしても、力があればそれだけ楽に外せる。どうしても、大人の男性と比較すれば、女で子供であるフィナは不利だ。

「お姉ちゃん……」

シュリが心配そうにフィナを見つめる。

「でも、お姉ちゃんは頑張っているから、しっかり応援しましょう」

「うん! お姉ちゃん、頑張って!」

「フィナちゃん、頑張って!」

シュリが応援し、それにならうようにシアも声を出す。

剣を扱うにしても、体格の差は大きい。同じ技量なら、体格が大きいほうが有利だ。

腕が1cmでも長ければ、相手に早く剣先が届く。足が長ければ、相手への踏み込みが近づく。

走るにしても、動く速度が同じなら、歩数が増えるたびに、差が開いていく。

子供と大人、体格の差は埋められない。

知識で補いたいところだけど、それも無理だ。ここまで残っている者は、しっかり知識も身につけている者たちばかりだ。考えれば考えるほど、フィナの勝ち目がないような気がしてくる。

でも、フィナは小さい体を使って、一生懸命に甲殻を外し、スコルピオンを解体している。

フィナ、頑張れ。

わたしの手に力が入る。

「それでは、他の人も見ていきましょう」

進行役の男性は順番に進行状況などを話しながら、会場を盛り上げていく。

流石、棄権もせずに、ここまで残った者たちだ。

だけど、その中には苦労している者も何人かはいる。

「やはり、フィナちゃん同様にエリザちゃんも苦労している。フィナちゃんよりは力はありますが、女性です。この大会、過去には一度も女性が優勝したことがありません。エリザちゃんには頑張ってほしいですが、優勝候補の二人が強すぎる!」

例の二人は相変わらず速い。みんなが苦労している中、どんどん、スコルピオンの甲殻が外されていく。

そんな進行役の男性の言葉で、他の参加者の解体速度が上がる。

「スコルピオンの甲殻は防具に使われます。強度も強く、軽いので防具としても人気が高いです。ですので、みなさん、綺麗に解体をしてくださいね。急いで解体しても汚いようでしたら減点ですからね」

進行役の男性の言葉で、急いで解体しようとしていた手が遅くなる。見ていて面白い。

そんな中でも、フィナは自分のペースを守り、確実にスコルピオンを解体していく。

そして中盤に入る頃には、トップとフィナの差はかなりついていた。