軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

647 審査員、ギルド職員視点

俺は冒険者ギルドの職員のベガッド。

今日は冒険者ギルドが主催する解体のイベントが行われている。

魔物を見たことがない者に解体がどんなふうに行われるか、見てもらうため。

新人冒険者に、自分らの解体技術がどれほどなのかを知ってもらうため。

そして、解体できる者はお互いの解体技術を切磋琢磨して、解体技術を磨いてもらうため。

いろいろな思いが込められたイベントだ。

今日は19歳以下の者が解体をすることになっている。

ベテランの俺たちと一緒に解体をすれば、若い参加者がいなくなってしまうし、俺たちとの解体技術の差にやる気を無くしてしまう。そのため、若いやつらの中で競い合わせ、成長させるのが目的だ。

だから、俺から見ればみんなひよっこだ。

いや、あの二人。ガルドとデッドは優秀だ。あの二人は他の参加者よりも一歩も、二歩も、実力が上だ。

解体速度も速いし、処理も丁寧だ。

俺たちと一緒に解体をしても遜色はない。あとは、多くの種類の解体をして、経験を積み、どんな魔物でも解体ができるようになれば俺たちの仲間入りだ。

そんな将来を希望されている者がいる中、場違いな、小さい少女がいる。

俺の娘より小さい。

ナイフなんて持てるのか、不安になる。

ギルドマスターの推薦ということらしい。話を聞くと若い奴らを刺激させるためだと言う。

そもそも、こんな少女に魔物の解体ができるのか?

俺の娘だったら、死んでいる魔物を見ただけで、嫌がって近づきもしないし、解体なんて絶対にできない。

イベントの審査員として採点をするため、冒険者ギルドからやってきた俺は、その少女と数人の担当になった。

いくら、ギルドマスターの推薦だとしても、採点はちゃんとするつもりだ。

そして、進行役の男性の言葉と同時に、一斉にウルフの解体が始まる。

少女はナイフを持つと、悩むこともなくウルフのお腹を切っていく。

速い。

ナイフの扱い方も上手だ。

俺の娘なら怖くてナイフを持たすことはできない。だが、目の前の少女は、そんな危なさはなく、小さい手でナイフを上手に扱う。手に血がついても、気にせずにウルフの解体をしていく。

もし、俺の娘だったら血がついたら、泣いて嫌がるだろう。どこの子供だって一緒だ。

どんな環境で育ったら、この年齢で、ここまでの解体の技術が身に付くんだ。何よりも心が強い。

そんなことを考えていると、進行役の男性とギルドマスターが少女の生い立ちを話し始める。

それを聞いた俺は涙が出そうになる。

こんなところで泣くわけにはいかない。

俺がこんなに、涙もろいとは思いもしなかった。

俺が11歳のときはどうだった。

友達と駆け回って遊んでいた。

ギルドマスターが刺激を与えると言った意味が分かる。こんな少女が解体をやっていれば負けてはいられない。

恥ずかしいところは見せられないと思うはずだ。

目が少女を追ってしまう。

採点をするのは少女だけではない。受け持つ担当は5人いる。だが、どうしても、少女が気になってしまい。少女に目が向いてしまう。

ただ、それは俺だけじゃない。少女の担当ではない他の採点者も少女のことをチラチラと見ている。

お前らは、他の担当だろう。こっちを見るな。

だが、その気持ちはわからないこともない。

それだけ、少女の解体が凄いってことだ。

俺は一度、少女から目を離し、他の者の解体も確認する。

それが、俺の仕事だ。

そして、次々とウルフの解体を終えていく参加者たち。少女も終わりが近づいている。

速い。

100人以上が参加する中で、上位に入る解体速度だ。

このままいけば一回戦突破は間違いない。

そして、少女は最後まで速度が落ちることもなく、手を挙げて解体を終えたことを示す。

俺は最終採点に入る。

解体の手順、手際、解体道具の扱い、解体されたウルフの状態。

減点する箇所がない。

凄いという言葉しか出てこない。

ギルドマスターは、こんな凄い少女を、どこから連れてきたんだ。

そして、少女の最終順位は100人以上いる中で、13位となった。

いくら19歳以下しか参加していないとはいえ、驚異的な順位だ。

一回戦が終わり、俺と同様に審査していた仲間たちが俺のところに集まってくる。

「おい、なんだ。あの少女は」

「本当に11歳なのか?」

「俺の息子より小さいぞ」

集まった仲間たちは、あの少女について騒ぎ出す。

「くそ、近くで見たかった」

「俺は、結構、近かったから見えたけど、解体手順も、解体道具の扱いも、上手かったぞ」

「はっきり言って、どの新人冒険者よりも上手い」

「それはそうだろう。新人冒険者は解体なんて、ほとんどしたことがないからな。あんなのと一緒にしたら、可哀想だろう」

「誰しも初めの頃はそんなもんだろう」

新人冒険者は経験を積んで、成長していく。

誰しもが初めは素人だ。何度も経験をして成長していく。

だからこそ疑問に思う。

「そうなると、あの少女はいつから解体をしているんだ?」

あの解体の技術を身につけるのにどれほどの時間を有したのか。それは、長年解体をしてきた俺たちなら分かる。

一体、二体、解体をした程度では身につくことはない。

たとえ、技術は身についても、心はそうはいかない。誰だって、魔物は怖い、それが死んでいたとしてもだ。

血塗れになって解体することが、どれだけ初めの頃は心がキツイかは経験した者なら分かる。

あの少女は、たまに笑顔を見せていた。あの領域まで行くのは、本当に数をこなしていないとできない。

「ギルドマスターが言っていたとおりなら、家族を支えるためにしていたそうだな」

俺の娘は俺や妻が、もし病気や怪我で働けなかったら、俺たちのために魔物の解体をやってくれるだろうか。

ダメなことだが、どうしても自分の娘と比べてしまう。

苦労して育っていない俺の娘はダメだろう。

「俺が怪我をして仕事ができなかったら、息子は俺の代わりに、やってくれるだろうか」

俺と同様に自分の子供と比べてしまう仲間がいる。

誰しもが考えてしまうかもしれない。

でも、どこであの解体技術を身につけたんだ。

冒険者ギルドに集まってくる魔物はギルド職員がやる規則になっている。外部の者に頼むことはない。まして、冒険者ギルドに子供が解体の仕事をさせてほしいと頼まれても、子供にやらせるわけがない。

普通は追い出される。

考えられるのは、冒険者の娘か?

それだって、考えられない。

一緒に魔物討伐に連れていくなんて、ありえないし、そもそも、娘に解体をやらせるのか?

ギルドマスターは家族のためと言っていたが。

それとも、熊みたいな大男に「ほら、家族のために金が欲しいんだろう」とか言われて、無理矢理やらされていたのかもしれない。

自分の娘が、もしそんな環境で育ったら、涙が止まらない。

「次の解体はなんだったっけ」

「去年と一緒で、一角ウサギだ」

一回戦は毎年ウルフと決まっており、二回戦はたまに変更はあるが、珍しい魔物ではない。

三回戦から、少し難しくなって、去年とは違う魔物になる。

「一角ウサギか。ウルフの次に解体の実力を確かめるには、ちょうどいい魔物だな」

ウルフと多少違うが、基本ができているなら問題なく解体ができる魔物だ。

「こんな場所で話していないで、準備に取り掛かるぞ」

俺たちは一角ウサギの準備を始める。

そして、60名による二回戦が始まる。

俺の受け持つ担当に、またあの少女がいた。

そして、二回戦が始まり、少女はウルフ同様に手慣れた感じで、一角ウサギを解体していく。

迷いがない。

つまり、ウルフ同様に何度も解体をしてきたってことだ。

周りの審査する者も、チラチラと少女を見ている。

気になって仕方ないんだろう。

それはそうだ。自分たちの子供より小さい少女が、解体をしているんだ。気にならないほうがおかしい。

そして、応援したくなる。

審査員として、贔屓することはできないが、採点を甘くしてしまいそうな俺がいる。

だが、そんな心配をする必要はなく、少女の解体は素晴らしく、一角ウサギの解体を丁寧に終わらせた。減点をする箇所はなく、解体を終わらせた順番より順位を少し上げ、二回戦突破した。

そして、三回戦はゲーターだ。

進行役の男性の開始の合図とともに三回戦が始まる。

俺たちの見解では、ゲーターは無理だと一致している。

これはウルフと一角ウサギと違う。解体するには、別の知識が必要になる。

ゲーターは冒険者ギルドでも、若手にはあまり回ってこない魔物だ。

だから、有利なのは冒険者ギルドの参加者、そして、冒険者でもゲーターを倒すことができる者たちに限られる。

開始と同時に5人が棄権を申し出る。

できなかった者は、後で解体の勉強を無料で受けることができる。だから、三回戦まできたことは無駄にならない。

できなければ、学べばいいだけだ。

少女も棄権を申し出るかと思ったが、少女はゲーターを解体している。

ウルフを解体したときほどの速さはない。たまに考えるため、手が止まることもあるが、手順どおりに解体をしていく。

ゲーターの解体の知識もあるのか!?

俺と、周りの審査する者たちは驚くように少女を見ている。

少し、経験不足かもしれないが、ちゃんとゲーターの解体の知識はあるみたいだ。

審査員全員が少女を応援している。

頑張れ。

そして、次々と上位の者たちが解体を終えていく。

進行役の男性が終わらせた順番を言うたびに、残っているものたちは解体の速度を上げていく。

でも、その中でも、少女は自分のペースを守って解体をしている。

凄い精神力だ。

順位を競う勝負ごとなら、周りが気になって自分も速度を上げたくなるものだ。

そして、解体が雑になる者が毎年、何人もいる。

だけど、少女は周りに振り回されることもなく、丁寧に解体をしていく。

三回戦を勝ってほしい。

俺は周りを見る。

少女の現在の順位は三回戦突破できるギリギリのラインだ。しかも、その辺りは何人もいる。

少しでも早く解体を終わらせてくれ。

解体状態が同じなら、早く解体を終わらせた者が上位になる。

初めは贔屓するつもりはなかったが、ここまで健気に解体をされたら、応援したくなる。

そして、少女はゲーターの解体を終えた。

20番という順位だったが、同時に終わらせたのが、他にも3人いて、20番に終わらせたのが4人同時という状況となった。

俺は採点をする。

贔屓をしたくなるが、贔屓はできない。

採点が甘くなりそうになる。

だが、そんな俺の心に関係なく、素晴らしい解体だった。

解体手順も問題はなかったし、道具の使い方。そして、最後の解体状態。

優秀だ。

完璧だ。

解体速度を抜かせば、満点だ。

あとは、他の採点者と比べることになる。

「本当か?」

お互いの採点表を見せ合う。

「これは、トラブルになる前に、伝えておいたほうがいいだろう」

「そうだな。前に、贔屓だと文句を言って、騒いだ奴もいたからな」

俺たちは順位が発表される前に17番と18番目に解体を終えた男性のところへ向かう。

本来はしないが、イベントをスムーズに進行させるべきと思ったときは行う。

17番目と18番目に終わらせた二人は、解体速度を優先するあまり、酷い解体だったので減点したこと、そして、他の者の解体を見せると、すぐに納得して騒ぐことはなかった。

そして、順位に文句を言う者は誰一人おらず、あの少女は18位となり、三回戦を突破した。