軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

644 クマさん、フィナを応援する 三回戦終了

サーニャさんの言うとおりに一回戦、二回戦と違って解体ができる者、できない者の差が出てきた。

優勝候補の二人のように速く解体する者もいれば、フィナのようにゆっくりだけど解体をする者。そして、全く解体ができない者と分かれている。

経験の差、知識の差、いろいろなものの差が出る三回戦の始まりとなった。

「おっと、解体のメモ帳を取り出している者もいます。ちなみに解体の資料を持ち込むのは問題はありません。理由として、紙を見ながらやっても、頭の中に手順が入っている者に比べれば、解体が遅くなるからです」

まあ、頭の中にある知識で行うのと、紙に書かれているものを見ながら行うのでは、前者のほうが圧倒的に速い。

料理でもレシピが頭の中に入っている状態で作るのと、紙に書かれているレシピを見ながら作るのでは、頭の中に入っているほうが早いのと同じことだ。

フィナも少し考えるため、手が止まることが度々あるが、頭の中にゲーターの解体手順が入っているのか、ゆっくりだけど解体していく。

「女性パーティーのみで構成されてるクレアさんの手が止まっているぞ。周りを見ながら、解体をしようとするが、手順が分からないのか、困っている。これはゲーターの解体をしたことがないのかもしれません。そのあたりはどうなんでしょうか。ギルドマスター」

進行役の男性が解説席に座っているサーニャさんに尋ねる。

「ゲーター討伐依頼は、新人冒険者が受けるには難しいかもね」

「やはり、そうなんですね」

「ゲーターは川、池、沼などの近くに生息している凶暴な魔物。一度噛み付いたら離さない。水の中に引き込まれる可能性もある。さらに、水の中に逃げ込まれると討伐が困難になる。だから、新人冒険者には討伐は難しいわ」

「なるほど、それでは討伐ができなければ、解体の経験がなくても仕方ないですね」

「でも、ある程度の実力をつけ、倒すコツが分かれば、倒すのに苦労する魔物ではなくなるわ」

それはゲームでも同じことが言える。

敵の行動パターン。どんな攻撃方法を持っているのか、どこの部位が弱点なのか、どのタイミングで攻撃を仕掛ければいいのか、敵を倒す攻略方法が分かっているのと、分かっていないのでは、天と地の差がある。

「そのゲーターを倒すコツとは?」

「ゲーターの口は最強の攻撃でもあるけど、それと同時に弱点でもあるわ。口を開いたときに、奥深くまで剣を突き刺せばいい。もしくは魔法を放てばいいだけよ」

「簡単そうですね」

「何を言っているの? それが難しいのよ。目の前でゲーターが口を開けば、噛まれる恐怖から、ほとんどの者は、その恐怖から逃げようとするわ。でも、その恐怖に打ち勝ち一歩踏み込み、攻撃をすることで倒すことができるのよ」

「確かに、話を聞くには簡単そうですが、あのゲーターの口が目の前にあったら逃げてしまいそうですね」

「恐怖に立ち向かうのは、とても難しいことよ」

簡単そうで、簡単ではない。

わたしだってクマ装備がなければできない。身を守ってくれるクマ装備があるから、魔物に立ち向かっていける。

もし、攻撃力はあっても、身の安全が保証されていなかったら、怖くて、戦えなかったかもしれない。

「そこが新人冒険者を抜け出すことができる一歩なのかもしれませんね」

その一歩を踏み出すのが難しいんだけど。

ウルフ討伐で一歩、一角ウサギで一歩、ゲーターで一歩。そう考えると、冒険者の道も大変そうだ。

「その一歩を踏み込むことができるように新人冒険者教育も行なっているわよ。ベテラン冒険者やギルド職員が一緒に随伴して、魔物討伐や解体の仕方を教えているわ。もちろん、お金は頂いたり、無報酬で仕事をさせることになるけど、勉強にはなると思うわ」

冒険者ギルドで、そんなことをしているんだ。

クリモニアでもしているのかな?

わたしが新人冒険者のときは、そんな話を聞かされたことは一度もなかったけど。

そんなことを考えていると、どこからともなく「新人冒険者はウルフの群れやタイガーウルフは討伐しません」と言うヘレンさんの声が聞こえてくるような気がした。

どの職業でもそうだけど、後に続く者が成長しないと、衰退する。全員が魔物と戦うことができなくなったら、人は全滅するかもしれない。

そう考えると、新人冒険者の成長は必要だ。

「ギルドマスター、貴重なお言葉、ありがとうございました。それでは会場に目を向けてみましょう」

進行役の男性の言葉で、サーニャさんから会場に目を向ける。

「冒険者と違って、解体の経験があるのかギルド職員は解体をしていく。その中には受付嬢のエリザちゃんの姿もあるぞ」

「冒険者ギルドに運ばれてくれば、解体はするから、その差が出たわね」

「やはり、解体をやったことがないものとの経験の差が出てしまっていますね」

フィナも凄いけど、あの冒険者ギルド職員の女の人も凄い。17歳か18歳ぐらいだと思うけど、あの年齢で今の解体の技術を身につけたってことは、もっと若いときから解体をしてきたのかもしれない。

「エリザは親の借金があって、それを稼ぐために、ギルドに職員として入ったとき、解体の仕事もさせてほしいと頼んできたの。だから、フィナちゃん同様に勤勉で真面目な女の子よ」

「そうなんですね。頑張っている女の子は応援したくなります」

「それに家庭的で優しいから、男性職員に人気があるのよね」

「ギルマス!」

エリザさんが叫ぶ。

「どうして、喋るんですか! わたしのことは喋らないでくださいってお願いしたのに」

「いや、なんとなく流れで?」

サーニャさんは手を合わせて謝る。

いや、頼まれていたなら、人の秘密は話しちゃダメだよ。

わたしの秘密を契約魔法しておいてよかったかもしれない。会話の流れで話されでもしたら、たまったものじゃない。

でも、あのエリザさんって女の人も苦労していたんだね。本当に、この世界の人は頑張って生きている。

うちの親に爪の垢でも飲ませてあげたい。

もっとも、引きこもり生活をしていた、わたしには言われたくないかもしれない。

でも、一応、自分で生計を立てていたから、親よりはマシとは思いたい。

そして、サーニャさんはエリザさんから逃げるように、他の人の暴露を始める。

「それから、ガーナー君は結婚資金を貯めるために頑張っているわ。相手もいないのに」

「ギルマス!」

今度は男の人が叫ぶ。

いや、若いときからお金を貯めるのは偉いことだよ。それが相手がいなくても、いつか、相手が見つかったとき必要になるんだから。無いよりは、お金はあったほうがいい。

だからと言って、暴露していいことにはならないけど。

そもそも、最後の一言が余計だ。

「男性も女性も頑張ってほしいですが、どんなに頑張っても三回戦突破できるのは20名。非情かもしれませんが、それがルールです。特にフィナちゃんエリザちゃん、クレアさん、他の女性たちには頑張ってほしいものです。えこひいきと言われても、わたしは女性たちを応援します!」

それは進行役としてはダメと思うのはわたしだけだろうか。

だけど、わたしも同じ女として、女性を応援したくなる。

でも、そんな気持ちに関係なく、相変わらず、優勝候補の男性二人が競うようにもの凄い速さで解体している。

そして、解体は後半へと進む。

参加者の中には諦めた者もいる。その人たちは係員に伝え、脱落する。

フィナはゆっくりだけど、確実に解体処理をしている。

ここから見た感じ順位は分からない。

フィナ、がんばれ。

わたしは心の中で応援する。

進行役の男性と解説役のサーニャさんコンビによって、面白おかしく、進んでいく。

そして、終わりが見えてくる。

「やはり、一番、二番争いはこの二人です。デッド君とガルド君。もう、終わりが近づいているぞ!」

解体、素人のわたしの目から見ても、一歩、二歩、実力は抜きん出ている。

「おっとデッド君、ここで手を挙げた。やはり、一番に終えたのはデッド君だ。デッド君は冒険者なんですよね」

進行役の男性はサーニャさんに尋ねる。

「ええ、ベテラン冒険者のパーティに所属しているわ。しっかりと解体技術を叩き込まれているんでしょうね」

ベテラン組なら、ゲーターを討伐もできるはずだ。だから、あの解体の腕前なのか。

「そして、少し遅れて、ガルド君も解体を終える! ガルド君は、その辺りはどうなんですか?」

「彼は、同年代のパーティーを組んでいるわ。リーダーで成長株のパーティーよ」

そう考えると、パーティー内にベテラン先輩がいるデッド君と、いないガルド君では差が出てしまうのは仕方ないかもしれない。

でも、そう考えると僅差で二位のガルド君は優秀なのかもしれない。

そして、二人が終えて、しばらくすると、他の参加者も次々と解体を終えていく。

「おっと、15番で終わらせたのはエリザちゃんだ。女性では一番に終えた!」

受付嬢が終えた。

フィナはというと、まだ解体をしてる。でも、終わりが見えている。

その間に、16番目、17番目、18番目と他の手が上がっていく。

解体終えた順位が、そのままの順位になるわけじゃないけど、早いほうが評価が高い。

だから、20番以内に入ってほしい。

19番目も手が挙がる。

あと一人。

ティルミナさん、シュリ、エレローラさん、シア、みんな不安そうにフィナを見ている。

3回戦まで来られたんだから、十分だと思う。

でも、頑張っているんだから、勝ってほしい気持ちもある。

フィナ、頑張れ。

そして、フィナと数人がほぼ同時に手を挙げる。

「おっと、同時に4つの手が挙がったぞ! その中にはフィナちゃんの手もある。どうだ? あとは解体の採点によって順位が決まるぞ!」

「ねえ! フィナちゃん、何番?」

シアが興奮するように尋ねる。

「フィナちゃんの前には19番まで手が上がっていたから、20番から23番ってところかしら」

「……20番、フィナちゃん、大丈夫だよね」

同着の20位なら、あとは本当に解体されたゲーターの綺麗さになる。

4人に3人が落ちる。

ここからでは、4人の解体の差はわからない。

もしかすると、サーニャさんの権限で三回戦突破になりそうだけど。

そんな不安に関わらず、他の参加者たちも次々とゲーターの解体を終えていく。