軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

643 クマさん、フィナを応援する 三回戦

二回戦を終えたフィナと解説席を後にしたサーニャさんが一緒に戻ってくる。

「ユナお姉ちゃん」

フィナが笑顔で駆け寄ってくる。

「フィナ、おめでとう」

さっきから、おめでとうしか言っていないけど、それしか言葉が出てこないから仕方ない。

もう少し、気の利いた言葉が出ればいいんだけど、咄嗟には出てこない。

それに全員からも「おめでとう」を言われる。みんなも、同じ言葉しか出ないみたいだ。

でも、フィナはみんなの言葉に嬉しそうに微笑む。

「それにしても失礼よね。わたし、若いのに」

サーニャさんは少し口を尖らせながら言う。

どうやら、先ほどの進行役の男性の言葉に怒っているらしい。

「年齢は別として、エルフとしては若いと思うよ」

「そうよね。人間感覚で言わないでほしいわ」

まあ、エルフだけでなく、人は若く見られたいものだ。子供は背伸びをして、少しでも大人に見られたいと思う子もいるけど。

「サーニャさん、次の魔物ってなんなの?」

「それは言えないわよ。でも、前にも言ったけど、19歳以下の部では、珍しい魔物は出ないわよ」

その珍しくない魔物ってところがネックだ。王都とクリモニアでは違うかもしれない。

地域で生産している食べ物が違うのと同じことだ。ゲームだって、魔物の生息地帯は違った。その地域では当たり前のことでも、他では非常識なこともある。

「でも、三回戦からは少しだけ難しくなっていくわね。解体の経験がある者とない者の差が出てくるはずよ」

スコルピオンあたりはどうなんだろう。王都では珍しいのか、珍しくないのかは、わたしには判断ができない。

もし、スコルピオンなら、フィナは経験があるから十分に三回戦突破の可能性はある。

「フィナに活躍させたいなら、もう少し情報を教えてくれてもいいと思うのだけど」

「うぅ、それを言われると。実は、わたしも知らされていないのよ」

サーニャさんは暴露する。

「本来は前もって、報告を受けるんだけど、今回わたしがフィナちゃんを推薦したから、副ギルドマスターが、わたしに報告をあげないようにしちゃったのよ。酷いと思わない?」

副ギルドマスター、確かエルフの村にサーニャさんとルイミンと行ってサーニャさんがいない間、冒険者ギルドを任された人だ。

会ったことはないけど、どんな人なんだろう。

話を聞く限り、サーニャさんより、しっかりしていそうな人だ。

「それじゃ、解体する魔物の選別はサーニャさんは関わっていないんだ」

「ええ、魔物の選別などはギルド職員に任せてあるわ。それを、わたしが最後に確認して決定したりするんだけど、その報告書を副ギルドマスターに止められたのよ」

まあ、トップの人間がギルド内の全ての仕事を一人でするわけじゃない。部下に任せられるところは任せないと、人材は育たないし、仕事が一点に集中してしまう。

「つまり、サーニャさんは信用されていないってことですね」

「ユナちゃん、ひどい」

周りから、笑いが漏れる。

フィナも笑っている。緊張が少しでもほぐれればいい。

そして、会場の準備も終わり、三回戦が始まる。

サーニャさんはフィナを連れて、会場となるグラウンドに降りていく。

「みなさん準備はよろしいでしょうか。ついに40人になりました。四回戦に進めるのは半分の20人です。徐々に、綺麗な花が消えていくのは悲しいですが、これも仕方ありません。実力が無ければ、消えていくのみです。ですが、わたしの気持ちとしては、男たちに負けず、綺麗に咲く花たちには頑張ってもらいたいです」

残りの女性は6人ほどいて、その中にはフィナもいる。女性の割合は二割にも届いていない。

男性の参加者が多かったのだから、十分な人数かもしれない。

「わたしが密かに応援しているフィナちゃんには頑張ってほしいものですが、次のこれは、厳しいかもしれません」

進行役の男性がそういうと、係員によって次の解体するものが運ばれてくる。

今回は布が被されている。

会場から「なんだろう?」って声が聞こえてくる。

それぞれの参加者の横に台車が並べられ、一斉に布が取られる。

周りがざわつく。

「お母さん、あれなに?」

シュリが体を前に乗り出すようにして、台車に乗っている物を見る。

台車の上に乗っているのは、緑色をした細長い体。尻尾が長く、顔も細長く、口は大きい。あの口で噛みついたら離さない。

結論から言えば、ワニだ。

この世界に来て、初めて見る。

「あれはゲーターね」

「ゲーター?」

「川や沼地にいる魔物よ。沼地などの近くを通ったときに、沼から現れて、いきなり襲ってくる危険な魔物ね」

ゲーターって言うんだ。

当たり前だけど、まだ、わたしが知らない魔物もいるね。

クリモニアの近くにも川や沼はあるけど、見たことはない。全ての川や沼に生息しているわけじゃないってことだろう。

日本の川にワニが生息していないのと同じことだ。

でも、わたしが知らないってことは、フィナに解体を頼んだことがないってことだ。

「フィナって、あのゲーターって解体したことがあるの?」

わたしが知る限りではない。なので、ティルミナさんに尋ねる。

「ごめんなさい。わたし、フィナが今までに、どんな魔物を解体したことがあるか知らないの。あまり話す子じゃないし、それにわたし病気だったでしょう。だから、わたしに不安をかけさせたくなかったからだと思うけど、解体の話は、ほとんどしなかったの。そう考えると、親としては失格ね」

フィナは母親が病気で伏せっているとき、ゲンツさんから解体の仕事をもらっていた。

フィナは優しい女の子だ。病気で伏せっている母親に心配をさせないように、黙っていたのかもしれない。

「でも、その代わりに、ゲンツさんが知っているからいいんじゃない? どっちかの親が知っていればいいと思うよ」

うちの両親は、わたしが、どんなことをして暮らしているかなんて知らなかったし。それを考えれば、ティルミナさんは、ちゃんと親をしている。

「そうね。今ならユナちゃんもいるしね。それに話さないからと言って、フィナが悪いことしているわけじゃないし、何より、わたしの自慢の娘だもんね」

「娘自慢?」

どこから話を聞いていたのか分からないけど「自慢の娘」って言葉にエレローラさんが反応する。

「娘自慢の話なら、わたしも混ぜてほしいわ。えっと、ノアはもちろん、シアは学園でも優秀な成績を得ていて――」

「お、お母さま、恥ずかしいから、やめて!」

いきなり、自分のことを話し始める母親にシアは慌てて、止める。

「えっ、どうして、親同士で娘自慢の話はするものでしょう?」

「したとしても、娘の前ではしないでよ〜」

確かに、自分の前でされたら恥ずかしい。

「それでは、ティルミナさん。今度、お互いの娘自慢でもしましょうか」

「えっと、その、ノア様やシア様には……」

「ほら、おばさまも困っているよ」

貴族の娘と自分の娘の自慢話では、流石にできないと思う。

ティルミナさんも、まだそこまでエレローラさんとの付き合いは長くないし、意気投合は難しいかもしれない。

そんな話をしている間に、それぞれの解体するテーブルの上にワニもとい、ゲーターが置かれる。

フィナはジッとゲーターを見ている。

もしかして、困っているのかもしれない。

「まあ、フィナがここまで来ただけでも十分よ」

それには同意だ。フィナの年齢で、ここまで解体ができる子はそうそういないはずだ。

100人を超す参加者の中で、40人の中に入れただけでも凄いことだ。

「もし、解体ができなくて、戻ってきても、ちゃんと迎えてあげましょう」

「うん」

「そうね」

「二回戦突破したんだから、十分に凄いことよ」

フィナのことだから、落ち込んで帰ってくるかもしれない。帰ってきたら、褒めてあげよう。

「それでは、始め!」

進行役の男性の言葉と同時にドラの音がなり、解体が始まる。

皆が一斉に動き出す。

解体できないと思ったフィナもナイフを手にして、ゲーターのお腹を切り、迷うこともなく解体をしていく。

「フィナちゃん、解体をしているわね」

「ええ」

全員、ゲーターを解体してるフィナを不思議そうに見ている。

「あの子、ゲーターも解体できたのね」

娘の初めての一面を見たようにティルミナさんは解体をするフィナを見つめる。

わたしと会う前のことは知らない。

わたしと会ってからも、ゲンツさんに教わってたかもしれない。わたしは冒険者ギルドの解体現場には顔を出さないので、フィナが何を解体したことがあるか、ほとんど知らない。わたしもフィナの新しい一面を見た気分だ。

「流石に、ゲーターは解体したことがない者もいるのか、手が止まっている参加者もいるが、最年少のフィナちゃんの手は動いている!」

進行役の男性の言う通りにフィナの手は動いているが、解体速度は遅い。ゆっくりと、考えながらやっているみたいだ。

でも、他の参加者の一部では、完全に手が止まっている者もいる。

やっぱり、新人には少し珍しい魔物なのかもしれない。

「フィナちゃんは、どこかで覚え、経験と知識を積んできたのでしょう。凄いぞ。だが、そんな少女に勝ちは譲らんとばかりに、優勝候補のデッド君とガルド君の2人は空気も読めずに、凄い速さでゲーターを解体をしていく」

進行役の男性の言葉に観客席から笑いが起こり「少女に勝たせろ!」「手加減しろ!」とかヤジが飛ぶ。

「観客席の皆さんの気持ちは分かりますが、年齢が19歳以下、性別、経歴は関係ないのが、この大会です。なので、デッド君とガルド君を許してあげてください」

進行役の男性の言葉で、会場は笑いが起きる。

でも、そんな周りの声が聞こえていないのか、フィナは無心にゲーターを解体している。

それだけ集中して解体しているってことだろう。