軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

642 クマさん、フィナを応援する 二回戦

進行役の男性の声と一緒にドラが鳴り、二回戦が始まった。

フィナはナイフと解体道具を使って、一角ウサギを解体していく。

ウルフと一角ウサギの違うところは角だろうか。

前にフィナに一角ウサギは角の部分の解体が難しいと聞いたことがある。だから、ウルフの次は一角ウサギの解体が選ばれたのかもしれない。

「一斉に一角ウサギを解体していく参加者たち、誰がいち早く終えるのか! それは俺と言わんばかりに、もの凄い速さで解体をしていくデッド君とガルド君!」

他の参加者に比べて、2人だけ速い。

レベルが違い過ぎる。そもそもフィナは体格、力、全てにおいて負けている。フィナの力は、彼らにとっては半分以下の力かもしれない。身長も低いので、フィナは踏み台を使っている。

あの優勝候補の2人と比べるとあらゆる方面から見ても見劣りしてしまうけど、それでもフィナは小さい体で頑張っている。

「それでは、他の参加者たちも見ていきましょう。ウルフが3位だったジョーズ君は遅れているぞ。一角ウサギは経験不足か! 同様にウルフで上位だった者たちも遅れている。不得意がでてしまったか。いくら一回戦の順位が高くても、二回戦の順位が低ければ、三回戦に行くことはできないぞ!」

それはフィナも同様で、ウルフを解体したときほどの速さはでていない。

「次に女性たちを見ていきましょう。やっぱり、この子でしょうか。最年少のフィナちゃん。迷うこともなくナイフを動かしていく。11歳という年齢で、これほどの解体技術を身につけるのに、どれだけの努力をしたのでしょうか」

うちのフィナは努力をしてきたんだよ。

他の参加者もしてきたかもしれないけど、そんなこと知ったことじゃない。

「人は一歩一歩進んでいくものです。その歩みは人によって、速かったり遅かったりするでしょう。でも、進む意思がなければ、進みません。フィナちゃんは人の何倍も努力をしてきたのでしょう」

進行役の男性が少し泣き真似をすると、会場から「がんばれ!」などの声援が飛ぶ。隣でもシュリが大きな声で応援をしている。

フィナを持ち上げるが、これもサーニャさんが言っていた、周りの人たちを刺激するためなのかもしれない。

フィナの解体を見て、人生を見つめ直すかもしれない。

一歩一歩進めば、道が開かれる。

もちろん、その道が塞がれていることもある。

その塞がれた道を努力で通る者、大回りして通り抜ける者、立ちすくむ者もいるかもしれない。

でも、通り抜けることができれば、人は成長する。

進まなければ、道が塞がれていることさえ気づくこともできない。本当なら、進むことができるのに、立ち止まっていれば人は成長しない。

元の世界にいたときのわたしは、進むことはせず、立ち止まっていた。

でも、フィナやこの世界の住民に会うことで、踏み出したと思う。

だから、フィナが生きるために頑張ってきた努力は報われてほしい。

「他の女性陣たちも見てみましょう。冒険者ギルドの受付をしながら解体の仕事をするエリザちゃんは、順調に解体を進めている。冒険者のクレアさんは少し遅れているか?」

でも冒険者ギルドの女性でも解体の仕事をする人もいるんだね。もしかして、受付を希望したら、解体に回されたとか?

入社したら、希望の部署と違う場所だったとか、たまに話を聞くことがある。

そう考えると、好きなことができる、引きこもりが一番いいかもしれない。

もっとも、それも生活ができるお金があればの話だけど。ほとんどの人は生きていくために、嫌な仕事も頑張っている。フィナだって、初めて解体をしたときはできなかったと思う。初めから魔物の解体ができる人なんていない。

何度もやって、慣れていくしかないと思う。

そう考えると、わたしはダメ人間だね。

「実は、冒険者ギルドでは一角ウサギは女性たちがやることが多いのよね」

解説席にいるサーニャさんが進行役の男性の言葉に返答する感じで、冒険者ギルドの内情を話す。

「そうなんですか?」

進行役の男性がサーニャさんに振る。

「ええ、気持ち悪い魔物は男性が、毛皮があるような比較的気持ち悪くない魔物は女性がやることが多いのよ。ほら、男性たちも若い女の子に嫌われたくないし。あと格好付けて、『こっちの魔物は俺に任せて、おまえは一角ウサギをやってくれ』みたいな?」

ああ、なんとなく想像ができてしまう。

優しい男アピールだね。

気持ち悪い魔物を自分が解体して、女性には一角ウサギを解体させる。

わたしからしたら解体なんてどれも同じだけど。蜘蛛と一角ウサギの二択をしなくてはいけなくなったら、一角ウサギを選ぶ。

「男性陣の下心が丸見えですね。女性たちの好感度を上げるために一生懸命ですね。でも、これで納得です。ギルドで働く男性陣の一角ウサギの解体が遅い理由が分かりました」

話を聞いた会場から男性たちにブーイングが上がる。

「うるせぇ! 好きな女に気持ち悪い魔物の解体なんてさせられるわけがないだろう!」

「おっと、ジョーズ君が叫ぶ。どうやら、同じ職場に気になる女性がいるみたいですね。若いっていいですね。そう思いますよね。ギルドマスターのサーニャさんも」

進行役の男性は何気なく解説席にいるサーニャさんに話を振る。

「あら、わたしも若いわよ」

「も、申し訳ありません。ギルドマスターも若いです。なので、ジョーズ君の気持ちも分かるってことですね」

「ええ、わたしも若いからよく分かるわ」

サーニャさんから、黒い瘴気みたいものが見えるけど、気のせいだよね。

ダークエルフになったりしないよね。

そもそも、ダークエルフの定義は作品によって違うから、悪とは限らないけど。今のサーニャさんなら悪のダークエルフになりそうだ。

人間の感覚ではサーニャさんの年齢はお婆ちゃんだ。でも、エルフの感覚では若いってなるんだと思う。

実際にサーニャさんは若く綺麗だ。エルフって本当にずるい存在だ。

「ユナ姉ちゃん、サーニャ姉ちゃんの体から黒いのが見えるよ」

シュリが目をゴシゴシと擦りながら尋ねてくる。

「見ちゃダメだよ」

わたしはそっと、シュリの顔をクマさんパペットで挟むと、フィナに目を向けさせる。

まさか、シュリにも黒いのが見えていたとは。

そんなサーニャさんの黒い瘴気事件に関係なく、一角ウサギの解体は進んでいく。

「解体は早くも中盤あたりになりましたが、デッド君とガルド君は周りより一歩も二歩も進んでいる感じだ! 最年少のフィナちゃん、一回戦のウルフは13位でしたが、一角ウサギは少し遅れているぞ! ぱっと見た感じ、中盤くらいの位置か!」

経験不足かもしれない。ウルフほど一角ウサギの解体を頼んだことはない。

解体の経験が多いほど、自信に繋がり、迷わず解体ができるようになる。今のフィナだったら、ウルフなら目を閉じながらでもできるかもしれない。でも、一角ウサギはそうもいかない。

なんでもそうだけど、経験は本人にとって財産であり、何よりもアドバンテージになる。

剣の扱いや魔法だって、初めて使うよりは、何度も使ったほうが上手にできるのは当たり前だ。

パンだって、初めて作るパンより、何度も作って経験を積んだパンのほうが美味しい。

天才じゃなければ、経験で差がでる。

もっと一角ウサギを倒して、フィナに解体をやってもらえばよかったと、考えてしまう。

でも、60人中の中盤なら30番ぐらいってことだ。二回戦を突破する40人の中に入っている。このままいけば二回戦を突破できる。

無理に上位を目指さなくてもいい。今は、一歩一歩進むことが大切だ。

ティルミナさんじゃないけど、自分が魔物と戦う以上に緊張する。

そんなわたしの心配をよそにフィナの手は一角ウサギを解体していく。

フィナ、頑張れ。

それから進行役の男性は会場を見ながら、進行させていく。

「そろそろ解体も終盤に入る。終わりが見えてきた者たちもいるぞ」

わたしが見てもわかる。優勝候補の二人だ。

「おっと、デッド君が手を挙げた! 速い、速いぞ! 一回戦に続き、二回戦も一番だ。優勝は誰にも渡さない気持ちが伝わってくるぞ! そして、少し遅れてガルド君も手を挙げる。解体の採点次第では順位の変動もあり得るぞ!」

そして、二人が解体を終えると、それを追うように次々と一角ウサギの解体を終え、手を挙げる者が増えていく。

フィナはまだ解体をしている。

「……お姉ちゃん」

シュリが心配そうに見ている。

「おっとエリザちゃんも終えたみたいだ! 15番ぐらいか! 女性の中では一番だ!」

あの受付嬢をしながら解体をしている女性も終えたみたいだ。

フィナも終わりに近づいているが、どんどん解体を終えた参加者が手を挙げていく。

でも、フィナも終わりが見えている。

「お姉ちゃん、手を挙げたよ!」

「おっと、ここで最年少のフィナちゃんも手を挙げた」

シュリと同時に進行役の男性も気づく。

もしかして、見ていたのかもしれない。

「えっと、30番ぐらいでしょうか。十分に二回戦の突破を狙える順位です。ですが、何度も言いますが、汚い解体は減点になりますので、確定順位ではありません」

30番。中盤以降から順位は変わっていなかったみたいだ。

順位が落ちていなくて、安心する。

この順位なら、進行役の男性の言うとおりに十分に二回戦突破を狙える。

フィナの解体は丁寧だ。汚いってことはないはずだから、今より順位は落ちないはずだ。

そして、解体が終わった者から審査が始まっている。フィナも採点に入り、緊張している。

フィナの採点が行われている間も次々と他の人たちも解体を終えていく。

そして、全員の解体と審査が終わり、進行役の男性によって順位が発表される。

「三回戦に行けるのは上位40名だ! 悔いが残らないように頑張ったか!」

本当に、ノリノリの進行役だ。

「それじゃ、1位から発表していくぞ。1位はデッド君、2位はガルド君。ここの順位は変わらず!」

周りから、歓声とやっぱりという声が漏れる。

流石に、この2人は別格だ。

「3位以降の順位はウルフと違って、かなり変動があったぞ!」

進行役の男性によって、順位と番号と名前が呼ばれていく。

「16位、……番、エリザちゃん」

会場から歓声が上がる。

エリザさんは手を観客席に向かって手を振ると、さらに歓声があがる。

仕事もでき、顔も可愛らしく、こういう女性がモテるのかもしれない。

なにより、女性では一番順位が高い。

そして、20位まで呼ばれたけど、フィナの名前がない。

「お姉ちゃん大丈夫かな?」

シュリが不安そうにしている。

「大丈夫だよ」

フィナは30番ぐらいで終えたから、まだ名前が呼ばれないのも仕方ない。

進行役の男性によって、次々と順位と番号と名前が呼ばれていく。

「26位、……27位……、28位、51番のフィナちゃん!」

周りから歓声があがる。

受付嬢の名前があがったときも歓声が出たが、フィナの名前が呼ばれると、それと同等の歓声が出る。

「やった!」

「フィナちゃん、凄い!」

シュリとシアが声を上げて喜ぶ。

「ふぅ」

ティルミナさんは疲れたように息を吐く。

「フィナちゃん、本当に凄いわね」

エレローラさんは感心している。

一回戦より順位を落としたが、無事に二回戦を突破した。

今回は経験の数の差が出てしまった感じだ。

でも、二回戦突破だ。

ちなみに一回戦で声をあげた冒険者のクレアさんは38位で、他にも何人か、女性が二回戦を突破している。

そう考えるとフィナの28位は十分に凄いことだ。

それにしても、見ているだけなのに疲れる。

こんなに他人を心の底から応援をしたのは初めてのことかもしれない。