軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

639 クマさん、イベント会場に向かう

解体イベントの当日。

一緒に解体のイベントに行くことになっていた、エレローラさんとシアがクマハウスにやってきた。

エレローラさんの厚意に甘え、馬車で解体のイベントを行う会場に向かう。

建物の中に入ると、グラウンドには100個ほどのテーブルが置かれ、解体場所が出来上がっていた。

参加者はそのぐらいいるってことだろうか。

「うぅ、緊張します」

フィナがテーブルが並べられているグラウンドを見ながら呟く。

本日、フィナが参加する19歳以下の人による解体の技術を競うイベントが先に行われ、その後メインになるベテラン組の解体のイベントが行われることになっている。

「フィナなら大丈夫だよ。それに、負けたとしても恥ずかしいことじゃないよ。フィナの年齢で解体ができること自体が凄いことなんだから」

「うん」

技術面は大丈夫だと思うけど、人前でやるのは緊張するのかもしれない。

「今更だけど、フィナがこんなところで、人前で解体をするのね」

フィナ同様にティルミナさんも緊張しているみたいだ。

「ほら、ティルミナさんまで緊張したら、フィナちゃんも緊張して、本来の実力が出せなくなりますよ」

フィナの応援に来てくれたエレローラさんが2人の緊張をほぐす。

「フィナちゃん。わたし、応援することしかできないけど、頑張ってね」

「……シア様。……はい。頑張ります」

学生も見学するなら、休みがもらえるらしい。

会場のあっちこっちに学生の姿もある。

もしかすると、学園祭で解体の出し物をした学生かもしれない。

「忘れ物ないかな」

フィナは不安そうにアイテム袋に触れる。

「今朝、何度も確認したでしょう」

「そうだけど……」

解体道具も冒険者ギルドで用意されるけど、道具を持っている人は使い慣れている道具を持ってきてもよくなっている。

基本的に、参加する人は自分の解体道具を持参するらしい。

まあ、イベントに参加するぐらいだ。自分の解体道具を持っていてもおかしくはない。

わたしたちはエレローラさんの貴族権限と、冒険者ギルドのギルドマスターのサーニャさんの権力によって、身分不相応の特別席に移動する。

「エレローラ様、お待ちしていました。それから、ユナちゃんも」

特別席にやってくるとサーニャさんが出迎えてくれる。

「本当に、わたしたちがここで見ていいのですか?」

ティルミナさんが遠慮がちに尋ねる。

他の観客席とは違って、他とは隔離されている。

左右は壁がある。ニュースで見たことがあるけど、これって記者席?

屋根があり、雨が降っても大丈夫だ。

さらに解体場所はわたしたちの正面で、作業が見やすくなっている。

そんな感じで、他の席とは違って特別席だ。

「ええ、大丈夫ですよ。ここはちょっと偉い人が使うぐらいですから」

「偉い人……」

ティルミナさんはエレローラさんとサーニャさんを見る。貴族にギルドマスターだ。偉い人だ。

「ふふ、フィナちゃんは娘の大切な友人です。それに、今回のことは、わたしが提案したことだから、ティルミナさんは気にしないで、フィナちゃんを応援してあげて」

「エレローラ様、ありがとうございます」

わたしたちはエレローラさんとサーニャさんの厚意に甘えることにする。

「でも、人が思ったより少なくてよかったです」

確かに、アイドルコンサートやプロ野球ニュースで見た観客席は人がいっぱいだ。それに比べたら、今の観客席はまばらだ。

空席のほうが多い。

これはイベントとはいえ、解体に興味がある人が少ないってことだと思う。

わたし一人だったら、見学に来ていたかは微妙なところだ。

でも、珍しい魔物を見ることができるなら来るかもしれない。

「今日の19歳以下のイベントのほうは魔物も大したものは出ないし、観客は少ないのよ。どうしても珍しい魔物や解体技術が上手いベテランの日に人が集まるの」

どうやら、わたしと同じ考えをする人が多いらしい。

なんでもそうだけど、スポーツにしろ、アイドルコンサートにしろ、お笑いにしろ、 新人(アマチュア) がやるよりは、プロ(ベテラン)のほうが人が集まる。

「一般人は少ないけど、解体関係者は見にくるわよ。新人冒険者とか、それから魔物を見たことがない人もいるから面白半分で来たりするわ」

まあ、一般人が魔物と遭遇することもないだろうし、見る機会もないかもしれない。

わたしがいた元の世界の都会で、野生の動物を見るのと同じぐらいの確率かもしれない。

王都を出たとしても、街道なら魔物と出くわす可能性は低いし、魔物を見る機会は少ない。

「だから、こういう機会に一般公開しているのよ」

見た事がないものを危険というのは難しい。でも、討伐された魔物でも見たことがあれば、危険と認識はできる。

くまゆるとくまきゅうは可愛いけど。もし、熊のことを見たことも聞いたこともなければ、どれほど危険なことかは分からない。

綺麗な花には棘があるっていうし。

可愛いクマさんに近づいたら、襲われる可能性だってある。

「いろいろと考えているんですね」

「そうよ。ユナちゃん、分かってくれる? ギルドマスターも大変なのよ。毎年やるだけじゃマンネリ化するし、だから、フィナちゃんの参加は助かるわ」

自由を愛するわたしには絶対にギルドマスターにもギルド職員にもなれないね。

嫌だけど、この辺りの考え方は両親の血を引いているんだなと、あらためて思う。

だからといって、心を入れ替えるつもりは、全然ないんだけど。

「それじゃ、フィナちゃん。そろそろ時間だから、待合室にいかないと」

「はい」

「フィナ、しっかりね」

「お姉ちゃん、頑張ってね」

「うん、行ってくるね」

フィナは家族(一人いないけど、きっと遠くで応援しているはずだ)に見送られて、サーニャさんが呼んだ職員と一緒に待合室に向かう。

わたしたちができることはフィナを信じ、観客席から応援することだ。

「それじゃ、わたしも行ってくるわね」

サーニャさんも仕事があるらしく、席を離れていく。サーニャさんは、そのままグラウンドに降りると、サーニャさんの席が用意されているらしく、そこに座る。

わたしたちも椅子に座り、上から見下ろす感じで会場となるグラウンドを見ていると、スーツっぽい服を着た一人の男性がグラウンドに登場する。

そして、手に持っている物を口元に近づけると、話し始める。

「皆さま、お待たせしました。これから19歳以下の解体技術を競うイベントを行います」

どうやら、あの手に持っているものは声を大きくする魔道具みたいだ。

そんなものがあるんだね。

でも、その魔道具のおかげで、声がグラウンド全体に届く。

「それでは、参加する皆さま、入場をお願いします」

男性がそう言うと、グラウンドの出入り口から人が出てくる。

その中にはひときわ小さい女の子が歩いてる。

見間違えることはない。

「お姉ちゃんだ」

シュリが椅子から立ち上がる。

「大丈夫かしら、みんな大きい人ばかりよ」

ティルミナさんは不安そうにする。

確かに、フィナが一番小さい。

そして、参加者は係員によって、それぞれのテーブルの前に案内される。

フィナは一番前だ。見やすい。

これも、サーニャさんが気を使ってくれたのかもしれない。

「参加人数は105名。多くの参加ありがとうございます」

声が大きくなる魔道具を持っていた男性は一礼する。

どうやら、魔道具を持っている男性は進行役らしい。

「さて、毎年やっていることですが、今年が初めてという人もいるでしょう」

進行役の男性はチラッとフィナを見る。

「説明が不要という人もいるでしょうが、説明をさせていただきます。評価は解体の速さ、綺麗さ、知識、を基に審査されます。そして、評価上位60名が二回戦に進むことができますので、皆様、ぜひ頑張ってください」

約半分が1回戦で振るい落とされるみたいだ。

「そして、1回目の解体はウルフを2体やってもらいます」

進行役の男性がそう言うと、係員によって台車に乗ったウルフが参加者の横に運ばれてくる。

「二頭のウルフです。見て分かるように、ベテラン冒険者が一撃で倒したウルフと、新人冒険者が何度も攻撃をして倒したウルフです。いかに、この二頭のウルフを速く、綺麗に解体ができるかです」

前にフィナが言っていたけど、一撃で討伐された魔物と、何度もダメージを受けた魔物では解体は前者のほうが楽だ。(フィナ談)

当たり前だけど、何度も攻撃を受けた魔物は穴が空く。綺麗に解体しないと、ボロボロになってしまう。

「不正は即退場です。係員が目を光らせていますので、しないように」

審査をする係員が30人ぐらいいる。

「でも、解体に不正なんてあるの?」

ペーパーテストなら、カンニングとかありそうだけど。誰かに解体をしてもらうわけにもいかないし。あとは考えられる方法は替え玉とか?

「聞いた話だと、前に解体した毛皮と入れ替えたとか」

わたしの問いにエレローラさんが答えてくれる。

「それって、すぐにばれるんじゃ」

「ええ、ばれたらしいわよ」

「なのにするの?」

「不正は初めて参加する人に多いらしいわね。一回戦は突破したいって気持ちでやっちゃうみたいね」

なるほど、一回戦落ちは恥ずかしい気持ちがあるのかもしれない。誰しも、一回戦ぐらいは突破したいと思うはずだ。

「解体が終わった人は手を上げてください。係の者が時間をチェックしますので。他に質問は?」

進行役の男性が参加者たちに確認する。

フィナの隣にいる10代後半の男性が手を挙げる。

「はい、そこの男性の方、なんでしょうか?」

進行役の男性が手を挙げた男性を指さす。

「あのう、子供がいるんですが」

男性が隣のテーブルにいるフィナを見る。

「年齢は19歳以下でしたら、参加できますので、問題はありません。彼女が20歳以上に見えますか?」

「……見えません」

「なら、問題はありません」

進行役の男性は質問を打ち切る。

サーニャさんがわたしを見て、微笑む。

どうやら、フィナのことは話してあるみたいだ。

「他に質問はありませんね。それでは皆様、解体の準備を始めてください。解体道具の貸し出しもありますので、自由に使ってください」

それぞれが解体道具の準備を始める。

フィナもアイテム袋から解体道具を出す。

そして、ウルフがそれぞれのテーブルの上に載せられる。

「それでは、準備はよろしいですか? 始まったら、止めることはできませんよ」

進行役は周りを見る。誰も声を出さない。

準備が整ったみたいだ。

「それでは……始め!」

男性の言葉と同時にドラを叩く音がグラウンドに響き渡る。

一斉に解体が始まる。