軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

638 クマさん、リッカさんに会いに行く

サーニャさんと交渉を終えてクマハウスに帰ってくると、昨日の精神的なダメージを癒やすため、子熊化したくまゆるとくまきゅうに抱きついている。

虫好きの人には悪いけど。抱きつくなら、やっぱり、ふわふわの毛皮だよね。

「うぅ、癒やされる~」

「くぅ~ん」

「モコモコ」

「くぅ〜ん」

「うぅ、柔らかい」

「くぅ〜ん」

「うぅ、幸せ」

「くぅ〜ん」

くまゆるとくまきゅうに抱きつきながら、フィナのことを考える。

冒険者ギルドから帰ってくると、フィナに解体の練習がしたいからウルフを出してほしいと頼まれた。

今更、フィナにウルフの解体の練習は必要ないと思うけど、イベントが近づくに連れて落ち着かないみたいだ。

昨日まで、そんなことはなかったと思うけど、それとも隠していたのかな?

わたしがウルフを出してあげると、フィナは解体をやり始めた。

そんなフィナにティルミナさんは美味しいものを食べさせてあげようとして、シュリと一緒に夕食の買い出しに行った。

フィナのことを考えると、少し心配だ。

フィナ、大丈夫かな。

「……ユナお姉ちゃん?」

わたしがフィナのことを考えながら、くまゆるとくまきゅうを抱きしめていると、いきなり声をかけられる。

「うわっ、フィナ、いたの?」

ドアの前にフィナが立っていた。

「もしかして、見ていた?」

「うん、くまゆるとくまきゅうは可愛いもんね」

そう言うと、フィナはくまゆるとくまきゅうに近づくと頭を撫でる。

「少しは落ち着いた?」

「うん、解体しているときは大丈夫だけど、終わると、これでいいのかなと考え出しちゃって」

「あまり根を詰めるのもよくないよ。それにゲンツさんに教わったんだから、いつもどおりにやれば大丈夫だよ」

「……うん」

頷くけど、大丈夫ではなさそうだ。

これは息抜きが必要だね。

ティルミナさんとシュリは出かけてしまっている。そうなるとわたしの役目だ。

でも、どうしようか。

「……そうだ。これから、ガザルさんとリッカさんに会いに行こうか?」

わたしは少し考えて提案する。

フィナの気分転換にもなると思うし、久しぶりに会いに行くのもいい。

フィナは少し悩んで、解体の片付けをしてくると言って、出かける準備をする。

そんなわけで、やってきたのは、わたしのミスリルナイフを作ってくれたガザルさんのお店だ。

前回来たのはフィナの誕生日プレゼントのときだ。

「ユナちゃん、フィナちゃん。お茶をどうぞ」

「ありがとう。リッカさん」

リッカさんがお茶をわたしたちの前に置いてくれる。

顔を見ると、幸せそうだ。

ガザルさんは剣を作っているのか、奥から鉄を叩く音が聞こえてくる。

「リッカさん、王都での暮らしはどう?」

「ガザルもいるし、周りにもいい人たちがいるから大丈夫だよ」

リッカさんは満面の笑みで微笑む。

その表情から無理をして言っているようではないようだ。

「でも、わたしが来たことで、ガザルが虐められているから少し心配かな」

「ガザルさんが虐められて?」

「ふふ」

ガザルさんが虐められていると言っているのに、リッカさんは嬉しそうに笑っている。

まだリッカさんとガザルさんは結婚をしていないけど、周りからガザルさんの奥さんに見られているらしい。それで、結婚もしていない、彼女もいない周りの鍛冶職人の仲間から嫉妬を受けているらしい。

話によると鍛冶職人は汚い、うるさい、熱いなどの理由でなかなか相手が見つからないらしい。

結婚すれば店を手伝う。職人は汗水垂らして働く、鉄を叩く音がうるさい、火を使うから熱いなどの理由で敬遠されると言う。

さらに仕事柄、女性との出会いも少ないので、余計に女性から縁遠いらしい。

難しい問題だね。

だから、今まで女性の影もなかったガザルさんに、リッカさんの登場で、嫉妬で苛められているらしい。

リッカさん、可愛いし、なおさらだと思う。

「リッカさんは平気なの?」

「わたし? わたしは鍛冶職人の娘だよ。産まれたときから、その中で育っているから気にしないよ。お父さん、汗臭かったけど、お母さんに、わたしたちのために一生懸命に仕事をしている証拠だって言われて、育ったし。わたしも、その通りだと思うし、鉄を叩く音は子守唄のように聞きながら寝ていたから大丈夫だし、工房もお父さんやガザルの仕事を見たりしていたし、わたしもちょっとしたことで鉄を打ったりしていたからね」

リッカさんは鍛冶職人の嫁になるために産まれてきた女の子だね。やっぱり、どの職業もそうだけど、相手の職業に理解がないと結婚は難しいのかな?

女心が皆無のわたしには、難しいことだ。

「そういえば、ユナちゃんとフィナちゃん、王都に住んでいなかったんだね。ユナちゃんに会いに行こうとしたら、ガザルに王都に住んでいないって言われて驚いたよ。だって、家もあるのに」

そういえば、言っていなかった。

普通に王都に帰るから、リッカさんも一緒にと頼まれた。そのあとは、クマの転移門を使って王都に戻ってくると、その足でガザルさんのところにやってきて、二人が大丈夫なのを確認すると、クリモニアに帰ってきてしまった。

「言うタイミングがなかったからね。ごめんね」

「でも、ゴルドがいる街から来たって聞いたはずだから、おかしいとは思っていたんだよね」

「王都の家は、たまに来るから土地を購入して、家を建てたんだよ」

「たまにしか来ないのに、土地を購入するのも驚くけど、クマの家にも驚いたよ。でも、こうやって会いに来てくれると嬉しいよ。フィナちゃんもありがとうね」

「…………」

「フィナちゃん、どうしたの? さっきから黙っているけど」

「ご、ごめんなさい」

心ここにあらずって感じだ。

わたしはため息を吐く。

「今度、冒険者ギルドで行われる解体のイベントにフィナが参加するんだけど、少し思い詰めちゃって」

「ああ、あれ? フィナちゃん、参加するんだ」

「その、参加するって決めたけど。段々とわたしなんかでいいのかなとか、サーニャさんの期待を裏切らないかなとか、段々と心配になってきて」

「フィナがいつも通りに解体をすれば、大丈夫だよ」

「それにあんなに広い場所でやるとは思わなかったし」

「でも、フィナちゃん、解体なんてできたんだ」

「フィナの解体は上手だよ」

「わたしなんて、まだまだだよ。それにウルフばかり解体しているし」

「フィナが参加するのは19歳以下だから、他の参加者も、珍しい魔物なんて解体したことはないと思うよ。そもそも、そんな魔物がイベントに出るとは思わないし」

「わたしが、詳しかったら、どんな魔物が出たか教えてあげられるんだけど。王都歴は短いし、そんなイベントがあるのを知ったのも最近だし。ああ、ガザルに聞いてみようか?」

工房のほうへ目を向けるリッカさんをフィナが止める。

「リッカさん、心配してくれて、ありがとうございます。大丈夫です」

それから、リッカさんの王都での話を聞き、フィナも楽しそうにリッカさんの話を聞いている。

「ガザルって、だらしないから、わたしがいないとダメなのよ」

「しっかりしてそうだけど」

「仕事に関してはね。でも、私生活は全然ダメよ。本当に来て良かったと思うわ」

もしかして、ガザルさん、尻に敷かれているのかな?

「リッカ、そんなことを嬢ちゃんたちに話すな」

奥から、ムスッとした表情をしたガザルさんがやってくる。

「ガザルさん、こんにちは。お邪魔しているよ」

「こんにちは」

「今日はどうした? ナイフのメンテナンスか?」

「違うよ。王都に来たから、顔を出しに来たんだよ。それと、フィナの気分転換になればと思ってね」

「嬢ちゃんの気分転換?」

わたしは冒険者ギルドが主催する解体イベントにフィナが参加することを話す。

「ガザル、何か知っている?」

「何度か見に行ったことはあるが、行くのはベテランのほうだからな。珍しい魔物とか出る場合があるから。クマの嬢ちゃんの言う通り、嬢ちゃんが出る19歳以下に珍しい魔物が出たという話は聞いたことはない」

「ほら、言ったでしょう。だから、大丈夫だよ」

「うん」

「役に立てないで、すまないな」

「ううん、ありがとう」

「そうか、イベントについては俺ができることはないが、俺に解体道具の手入れをさせてくれないか? 俺が嬢ちゃんにしてあげられるのはそのぐらいだ」

「そんな、迷惑じゃ……」

「参加している途中で解体道具になにかあって、実力が発揮できないほうが問題だろう」

確かに、解体したことがない魔物は仕方ない。でも、解体ができる魔物なのに、解体道具のせいで、できないことが一番悔いが残る。

「フィナちゃん、いいのよ。ガザルがやりたいって言っているんだし、気にしないで」

「でも……」

「それじゃ、お金を出して、頼めば仕事ってことになるんじゃ」

それなら、お互いに問題はない。

わたしがお金をだそうとすると、フィナがわたしを止め、自分でお財布を出そうとするが、さらにガザルさんがフィナを止める。

「ユナお姉ちゃん。それなら、わたしが自分で」

「金はいらない。嬢ちゃんたちには、世話になっている。それにお金なら、クマの嬢ちゃんから、すでにもらっている」

「ああ、アイアンゴーレムのことね」

わたしは何のことだろうと思っていると、リッカさんが思い出したように言う。

「あれだけで十分なお金になる。嬢ちゃんたちの武器や道具を何百回、手入れをしても、おつりが出る」

「フィナ、ここまで言ってくれてるんだし、お願いをしたら」

断り続けるのも失礼だ。

何より、ガザルさんの気持ちを蔑ろにしてしまう。

「……それじゃ、お願いします」

フィナは少し悩んで、解体道具をアイテム袋から出す。

ナイフが3本、二本はクリモニアの鍛冶職人であり、ガザルさんの同門であるゴルドさんが作ったミスリルナイフと鉄のナイフ。もう一本は、たまに見るナイフだ。

「ナイフが3本に、こっちが解体道具か」

ナイフの他に革に包まれた道具一式がある。わたしもあまり詳しいことは知らないが、細かい部分や、特殊な箇所を解体するときに使うらしい。

ガザルさんはナイフを手にする。

「ゴルドが作ったミスリルのナイフと鉄のナイフか」

「見ただけで分かるんだ」

ミスリルナイフは前回来たときに見せたけど、鉄のナイフは見せていない。

「お互いに作ったものを見せ合ったからな。でも、これは違うな」

ガザルさんは残りの一本のナイフを手にする。

「それは、お父さんが冒険者のときに使っていたナイフだから」

お父さん? ゲンツさんじゃなくて、亡くなったお父さんのほうみたいだ。

「その解体道具もお父さんが冒険者のときに使っていたものなの」

ガザルさんは解体道具一式を見る。

「これは……」

「どうしたの?」

「なんでもない。ちゃんと手入れがされていて、綺麗なものだ。作った鍛冶職人も嬉しいだろう」

フィナは解体作業が終わると、いつも丁寧に道具の手入れをして大切にしている。

それから、ガザルさんはフィナの解体道具を調整して、磨き、手入れをしてくれた。

「ありがとうございます」

「今、自分ができることをやれば、誰も文句は言わない。もちろん、いつも通りの実力を発揮するのは難しいかもしれない。俺だって毎回毎回同じように良い剣が作れるわけじゃない。でも、今まで自分がやってきたことを否定してはいけない。それは嬢ちゃんに解体の仕方を教えてくれた人を否定することになる」

ガザルさんは自分に言うようにフィナに言う。

「否定したらダメ……」

ガザルさんの言葉にフィナが考え込む。

「説明が下手ですまない」

「いえ、ありがとうございます。わたし、今できることを頑張ります」

ガザルさんの言葉が届いたのか、フィナの顔から思い詰めた表情が消えた。

来て、よかった。