軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

636 クマさん、仕事を終えて帰る

蜘蛛に襲われていた村を出たわたしは、ウルフとタイガーウルフに襲われた村に戻ってくる。そして、乗っていたくまゆるは送還してから村の中に入る。

こちらの村も数時間前にウルフとタイガーウルフに襲われていたので、壊された家の処理や柵などを直している村の人の姿があった。

村長の家に向かうと、家の前に男性が立っている。

「あのときの嬢ちゃん!」

家の前にいた男性がわたしに気づくと駆け寄ってくる。

えっと、蜘蛛の村から助けを求めにやってきた人だ。

「それで、村は?」

男性はわたしの肩を掴む。

近いよ。

「村を襲っていた蜘蛛は討伐したから、大丈夫だよ」

「本当なのか!?」

「本当だよ。すぐにばれる嘘を吐いても仕方ないでしょう」

「そうだよな」

男性はホッとした表情を浮かべると、わたしの肩から手を離す。

「それで村のみんなは大丈夫なのか?」

「たぶん、大丈夫だと思うよ」

わたしが村に行くまでに、殺されている可能性も否定はできないけど、村の様子を見ると死んだ人はいなかった感じだった。

デボラネが村の住民を家の中に逃がしていた。その初動がよかったんだと思う。

気に食わないけど、デボラネたちのおかげで救われた命も多い。

「初めは嬢ちゃんみたいな変な格好をした女の子に魔物を討伐すると言われたときは心配だったが、この村の村長の言うとおりだったな」

「だから、心配はいらんと言っただろう」

男の後ろから村長が話しかけてくる。

わたしが帰ってきたことに気づいたのか、家から出てきていた。

「いや、この嬢ちゃんを見て、魔物と戦えるとは思わないだろう」

「まあ、そうだな」

村長はわたしを見て、男の言葉に頷く。

「だが、嬢ちゃんがウルフとタイガーウルフを倒してくれた話はしてやっただろう」

「そうだが」

男性はあらためてわたしを見る。

「嬢ちゃん、本当にありがとうな」

男性は頭を掻きながら、恥ずかしそうにお礼を言う。

「あとの詳しいことは村長に聞いて」

「分かった。それで、依頼料のことだが……」

男性は、少し言い難そうな表情をする。

助けを求めたが、お金がない。って感じだ。

「依頼料なら、別にいいよ」

本来の冒険者としてはダメなんだと思う。

冒険者は命をかけて戦って、お金を得る。それを無料でする者がいたら、「あの冒険者はお金を取らなかった」「無料で助けてくれた」と文句を言う人が現れるかもしれない。

でも、偽善と言われても仕方ないけど、お金に困っている人に、お金を寄越せと言えないんだよね。

そもそも、お金に困っていないし、わたしの目的は異世界を満喫することで、困っている人からお金を巻き上げるのが目的じゃない。

「でも、今回だけだよ。今度はお金をちゃんと用意してから、依頼をして」

わたしは、あくまで今回のみだと強調する。

そこだけはハッキリさせておかないと、二度、三度と頼まれるかもしれない。

「すまない。大したおもてなしはできないが、もし村の近くに来ることがあったら寄ってくれ。本当にありがとう」

男性は頭を下げ、村長にも礼を言うと、自分の村へ帰っていく。

わたしも、村長に帰る旨を伝え、王都に向けて出発する。

くまゆるとくまきゅうに乗って、王都に帰ってくる。あとは冒険者ギルドに報告をしたら帰るだけだ。暗くなる前に家に帰れそうだ。

「も、戻ってきたのか。それで村は!? タイガーウルフは!?」

冒険者ギルドにやってくると、こちらはこちらで、わたしを待っていた人がいた。

今朝、冒険者ギルドでタイガーウルフの討伐を依頼に来た人だ。

どうやら、あれからずっと、冒険者ギルドでわたしのことを待っていたみたいだ。

「大丈夫だよ。ちゃんと討伐したよ」

この台詞、今日何度も言っているような気がする。

「本当なんだな?」

「本当だよ。証拠の討伐したタイガーウルフもちゃんとあるよ」

蜘蛛と違って、タイガーウルフはサーニャさんに頼まれて回収してあるので、信じてもらうのは楽だ。

「よ、よかった」

男性は安堵の表情をする。

わたしが帰ってくるまで、一人で不安を抱えていたのかもしれない。

早く帰ってきて、よかった。

「ユナちゃん、お帰り」

サーニャさんがやってくる。

どうやら、わたしのことを見た受付嬢がサーニャさんを呼んでくれたみたいだ。

「それで、どうだったって聞くことはないわよね」

こちらは、全然心配している様子はない。

少しぐらい、心配してくれてもいいんじゃないと思うけど、魔物一万やエルフの村のことを知っているサーニャさんからしたら、タイガーウルフの討伐ぐらいじゃ、心配はしないかもしれない。

「タイガーウルフは討伐してきたよ。別件で報告したいことがあるけど」

「別件? 了解、わたしの部屋で話を聞きましょう。でも、その前にタイガーウルフの討伐の確認と報酬の手続きをしましょう」

村の男性も一緒に討伐されたタイガーウルフの確認をする。

男性には何度もお礼を言われ、初めに暴言を言ったことを謝られる。

男性は頭を下げて、冒険者ギルドを出ていった。

明日の朝一で、村に帰るそうだ。

そして、そのままタイガーウルフは約束どおりに冒険者ギルドで引き取ってもらう。

とても綺麗な状態だったので、引き取りに来たギルド職員は驚いていた。

ついでにウルフも欲しいと言われたので、引き取ってもらう。

「それで、別件で報告ってなに?」

場所をギルドマスターの部屋に移動したわたしは蜘蛛のことを伝える。

「蜘蛛の群れに、キングスパイダー。はぁ、ユナちゃん、ありがとう。キングスパイダーは厄介な魔物だから、早期に討伐ができてよかったわ。もし、ユナちゃんがいなかったら、どれだけの被害が出ていたか分からないわ」

デボラネがキングスパイダーを見たら逃げろって言っていたもんね。それだけ危険だったということだろう。

「それに、あいつの狩り場で戦うことなんて、考えたくもないわ」

なんでもそうだけど有利に戦える場所がある。

今回は、村の中で戦ったから、どうにかなった。

もし、キングスパイダーを含め、他の蜘蛛も一緒に、蜘蛛が得意とする場所で戦うようなことがあれば、倒せるかどうかも怪しい。

まあ、森を焼き尽くしたり、ハゲ坊主にしたり、損害を無視した攻撃をしてもいいなら、倒せなくもない。

「それじゃ、今回のウルフとタイガーウルフの件は、蜘蛛とキングスパイダーがウルフやタイガーウルフが住んでいた場所に入り込んで、ウルフとタイガーウルフは逃げて、その先に村があったのね」

サーニャさんは地図を見ながら確認する。

二つの村は近くにある。

もし、そうならウルフもタイガーウルフも被害者だったのかもね。

「それで、森の探索は?」

「フリーの依頼を出すことはできるわ。あとはその村がどれだけ依頼料を上乗せできるかによって、冒険者が受けるかどうか決めるわ」

冒険者ギルドからは、森に蜘蛛がいる可能性を示して、あとは冒険者が討伐して、素材を買い取ることになる。

その金額に見合うなら、冒険者は村からの追加のお金がなくても依頼を受けることもある。

でも、今回は蜘蛛の素材を売って、そのお金で依頼をする予定だから大丈夫だと思う。

「それでデボラネって冒険者が報告と蜘蛛の素材を持ってくると思うから、よろしくね」

「でも、素材を全部譲るなんて、もったいないことをするわね」

「わたし、虫、嫌いだから」

普通の蜘蛛でも苦手なのに、ウルフぐらいの大きさの蜘蛛なんてあり得ない。蜘蛛が苦手なわたしにとっては触りたくも、見たくもない。

「ふふ、虫が嫌いなんて、ユナちゃんも可愛らしい女の子だったのね」

「女の子だよ」

失礼だよ。可愛らしいかは別にして、女の子だよ。

「冗談よ。虫が苦手な女性冒険者も多いから、恥ずかしいことじゃないわよ」

もちろん、女性だって虫が好きな人もいるから、人それぞれだと思うけど。

「ちなみにサーニャさんは?」

「わたしは森の中で育ったエルフよ」

「それじゃ大丈夫なんだ」

流石、森の中で暮らすエルフだ。

「ふふ、でも大きいのは無理よ」

ドヤ顔で言われた。

まあ、あの大きさの虫は誰でも無理だと思う。

あれだけは、男女問わず、好きな人なんていないはずだ。

そう考えると、蜘蛛の血を浴びながらも戦ったデボラネは凄い。さらには解体処理まで引き受けてくれたんだから、前に冒険者ギルドで絡んできたことは水に流してあげよう。そもそも、忘れていたし。

「それじゃ、そのデボラネって冒険者が来たら、話を聞いて対応しておくわ」

後のことはサーニャさんに任せ、わたしはクマハウスに帰ってくる。

クマハウスを見ると、安心する。

クリモニアにあるクマハウスとは違うけど、やっぱり自分の家を見ると、帰ってきたと思える。

そして、家の中に入ると、フィナが出迎えてくれる。

「ユナお姉ちゃん、お帰りなさい」

「ただいま」

この「お帰りなさい」と、「ただいま」も、前までは少し気恥ずかしかったけど、今では、当たり前のようになってきた。

それだけ、フィナが家にいることが多くなったってことかな。

「ユナ姉ちゃん、おかえり~」

「ユナちゃん、お帰りなさい」

シュリにティルミナさんも声をかけてくれる。

仕事から帰ってくると、家に人がいるのは、嬉しいものだ。

そして、ティルミナさんが夕食の準備をしてくれていて、フィナとシュリがテーブルの上にお皿を並べていく。

わたしも手伝おうとしたけど、みんなに「仕事から帰ってきて、疲れているんだから、座って待っていて」と言われて、わたしは椅子に座っている。

……わたし、仕事から帰ってきた父親?

いやいや、フィナの父親はゲンツさんだから。わたしはそんな歳でもないし、性別も違うから、そこは仕事から帰ってきたお姉ちゃんってところだと思いたい。

そして、ティルミナさんが作った夕食をいただき、約束通りに子熊化したくまゆるとくまきゅうと一緒にお風呂に入り、ハチミツをあげる。

寝るときも一緒に寝る。

シュリがくまゆるとくまきゅうと寝たそうにしていたが、今回は我慢をしてもらった。

わたしが布団の中に入り、腕を広げると、くまゆるとくまきゅうは腕の中に入ってくる。

わたしはくまゆるとくまきゅうを抱える。

これなら、蜘蛛に襲われる夢を見ても、くまゆるとくまきゅうは助けてくれるはずだ。安心して眠ることができそうだ。

くまゆるとくまきゅうと寝る約束はしたけど、わたしはわたしで、蜘蛛のこともあったので、一緒に寝たかったのかもしれない。

そして、くまゆるとくまきゅうのおかげで、蜘蛛に襲われるような悪夢を見ることはなかった。