軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

635 クマさん、キングスパイダーを倒す

「くぅ〜〜〜〜ん」

村のどこかで、くまゆるの鳴き声が聞こえてきたわたしは探知スキルでくまゆるの位置を確認する。

「くまきゅう、くまゆるに分かったって伝えて」

「くぅ〜ん」

探知スキルのくまゆるの反応が移動を始める。

「くまきゅう キングスパイダーを誘導するよ」

「くぅ~ん」

くまゆると合流したわたしたちは、道を塞いだり、くまゆるとくまきゅうのコンビネーションでキングスパイダーの行動を制限したりして、先ほど、くまゆるが鳴いた場所にキングスパイダーを誘導させる。

そっちに、行って。土の壁を作る。簡単によじ登ろうとするので、魔法を放つが逃げていく。でも、この魔法も誘導目的のものだ。

もうすぐだ。

わたしたちの前には古ぼけた一軒の家が見えた。

探知スキルと照合させる。くまゆるが鳴いた場所だ。

あの家で間違いないみたいだ。

探知スキルには家の中に人の反応が2つある。

キングスパイダーはその家の壁に引っ付き、家を盾にする。キングスパイダーはわたしが攻撃ができないと思っている。それが、キングスパイダーの初めての油断だ。

わたしは魔力を両手に集め、今までのうっぷんを晴らすように、家を破壊するほどの風魔法を放つ。

「吹っ飛べ~~~~~~!」

風は竜巻となり、キングスパイダーと崩れていく家ごと巻き込んで上昇していく。

「くそ!」

「デボラネさん!」

その竜巻の中には、崩壊した家の他に、キングスパイダー、デボラネ、ランズもいた。

わたしは竜巻を止め、巻き上げた瓦礫の中に飛び込む。向かうのは一直線にキングスパイダー。

わたしの目の前に気持ち悪い顔が映る。口をカチカチさせ、目がギョロっとわたしを見る。

最初で最後の我慢だ。

「流石に空中では、逃げられないでしょう」

わたしの左右の手にはミスリルナイフが握られている。黒いクマさんパペットには黒い柄のくまゆるナイフ。白いクマさんパペットには白い柄のくまきゅうナイフ。

クマの風魔法じゃ、弾き飛ばすだけになるかもしれない。他の魔法も耐えるかもしれない。

だから、確実に倒すためにミスリルナイフを使う。

わたしは二つのナイフに魔力を込める。

キングスパイダーは口を閉じ、体が赤くなり、王冠の金色の模様が浮かぶ。

完全防御態勢だ。

チャンスはこの一回だけだ。

二度目はないかもしれない。

わたしが切るのはキングスパイダーの体ではなく、脚、関節部分。

くまゆるナイフを振り下ろす。

抵抗もなく、キングスパイダーの脚が切れる。

魔力で硬化したと言っても、わたしの魔力を込めたミスリルナイフを防ぐことはできなかったみたいだ。

さらに弱い部分と思われる関節部分だ。

関節部分は曲げるため、他の部分よりどうしても柔らかくなる。まして、柔軟性が高い蜘蛛だ。硬くするにも限度がある。

そして、わたしのくまゆるナイフとくまきゅうナイフはキングスパイダーの8本の脚を切った。

それと同時に空中にいたわたしは重力に引っ張られるように、キングスパイダーと壊れた家と一緒に地上に落ちていく。

わたしが地面に着地すると、わたしの後ろでは壊れた家が落ち、物凄い音が響き渡る。

そして、胴体のみとなったキングスパイダーの体が、わたしの前に転がる。

もう、逃げることはできない。

わたしがキングスパイダーに近づくと最後の足掻きで、口を開いて糸を吐き出そうとしてくる。

わたしは気持ち悪いのを我慢して、ナイフを突き刺してトドメを刺す。

終わった。

わたしは後ろを振り向き、崩れた家を見る。

「2人の死は無駄じゃなかったよ」

きっと、デボラネとランズは、この崩れた家の下敷きになって……。

「勝手に殺すんじゃねえ!」

「俺たちを殺すつもりか!」

「ふっ」

瓦礫の傍から文句を言いながら現れたデボラネとランズを見た瞬間、笑ってしまった。

「笑うんじゃねえ」

それは無理だよ。

だって、デボラネとランズがくまゆるとくまきゅうにお姫様抱っこされているんだから、これを見て笑うなと言うのが無理だ。

再度、デボラネとランズがくまゆるとくまきゅうに抱かれているのを見ると、笑いが込み上げてくる。

「クマ! いい加減に、離しやがれ」

くまゆるの腕の中で暴れるデボラネ。

「2人とも離してあげて」

「「くぅ〜ん」」

くまゆるとくまきゅうは、ゴミを捨てるようにデボラネとランズを地面に放り投げる。

「いて」

「投げるんじゃねえ!」

まあ、結果を言えば、こう言うことだ。

空き家になっている家に、デボラネとランズにいてもらう。くまゆるに準備が整ったら鳴いてもらい、その合図で探知スキルでくまゆるの位置を確認。

その位置を確認したら、わたしとくまきゅう(と合流したくまゆる)が、その家にキングスパイダーを誘導させる。

そして、キングスパイダーが家に張り付いたのを確認すると、魔法で家ごと空に飛ばした。

蜘蛛は地面を走るのは速いが、空中を移動することは無理だ。

キングスパイダーは、家の中に人がいるから、わたしが攻撃ができないと思っていたはずだ。

知能が高いのが仇となったわけだ。

あとは、わたしが空中でキングスパイダーを倒し、空中にいたデボラネとランズはくまゆるとくまきゅうが確保したというわけだ。

多少の怪我を負うかもしれないが、デボラネとランズはこの作戦を了承した。

でも、くまゆるとくまきゅうには崩れた家と飛んだデボラネとランズを救うようにお願いをしたのだが、それを嫌がっていた。

まあ、わたしもデボラネを抱き抱えるのは嫌だけど(クマ装備があるので可能)。

約束どおりに、ハチミツとお風呂、それから一緒に寝てあげないとね。

「くそ、本当に容赦なくやりやがって、流石に家ごと空を飛んだとき、死ぬかと思ったぜ」

「俺は、空を飛んだ瞬間、死んだと思いましたよ」

「でも、よく囮役なんて役目を引き受けたね」

わたしの話を聞いたとき、デボラネはムカつく顔をしたけど、わたしが倒すと言ったら、引き受けてくれた。

「おまえのことは嫌いだが、実力があるのは認めているからな」

「デボラネさんの指示だったからだ」

これがフィナやノアだったら、絶対にできない。そもそもやらせないし、頼まない。

もちろん、知らない村人でもできないよ。

2人だからこそ、わたしは気兼ねなく、家ごと魔法で吹っ飛ばすことができた。

今後も、囮が必要な場合は2人に頼むのもいいかもしれない。気兼ねなく、魔法が放てる相手は貴重な存在だ。

「だが、約束どおり、蜘蛛の全ての素材は貰うからな」

デボラネは倒されたキングスパイダーを見ながら言う。

「そのことなんだけど」

「言ったはずだ。後から、欲しいと言っても、譲らんと」

「違うよ。少しだけ、この村のために使ってほしいだけ」

デボラネとランズは村を見る。

わたしやデボラネたち。何より、蜘蛛が暴れたせいで、村は酷い惨状だ。

先程ランズが言うには馬も何頭かやられているみたいだし、農作物も被害を受けている。

わたしが壊した家もある。

なんでもそうだけど、復興にはお金がかかる。

「普通は助けたんだから金を貰うものだが、まあ、そのぐらいならいいだろう」

デボラネは少し考えて、そう答えた。

渋ると思ったのに予想外だ。

「でも、これで本当に終わったんですね」

「ああ」

ランズの言葉じゃないけど、本当に終わった。

タイガーウルフを討伐する楽な依頼だったはずなのに、ものすごく疲れた。

逃げる相手ほど、戦い難い相手もいないと再確認した。

わたしたちは討伐したことを報告するため村長の家に向かう。

「全て終わったぞ」

デボラネが家に向かって声をかけると、村長が家からでてくる。

「本当ですか?」

それから、討伐の確認をしてもらうため、村長と村を見回る。

村長は村の被害が多いことに落胆した表情を見せるが、デボラネが討伐した魔物の一部を復興資金に当てるというと、嬉しそうにし、何度もデボラネにお礼を言っていた。

デボラネが「そのクマの指示だからだ」と言うと、わたしにもお礼を言う。

家は空き家を提供してもらったらしいが、それでも村にとっては大切な家の一つだ。

そして、蜘蛛がいなくなったことを家の中で身を潜めていた村人たちに伝える。

でも、蜘蛛の糸のせいで家の外に出られないので、デボラネとランズがナイフでドアに絡まっている糸を切っていく。

これ、家に巻き付いている糸を全部処理するには大変なことになりそうだ。

わたしが心配していると家の強度が上がるので、そのままにすると言う。

もちろん、出入口や窓についている糸は排除する。

村の人は家から出てくるとデボラネとランズに礼を言っていた。

誰もわたしにお礼を言う者はいない。逆に変なものを見るような目で見られている。

デボラネとランズの指示で家の中で身を縮こませて、外を見ていなかったみたいだ。

そして、家の外に出たら、蜘蛛は退治されていた。誰だって、デボラネとランズが倒したと思う。

誰もクマの着ぐるみを来た女の子に救われたとは思わない。

「それじゃ、わたしは帰るけど、後のことはお願いね」

村人を助け出したわたしは帰ることにする。遅くなれば、フィナたちが心配する。

まあクマフォンで現状を伝えればいいだけのことだけど、不安にさせることもない。

「先に帰るなら、冒険者ギルドへは報告しておけ」

ああ、確かに、これだけのことなら必要になる。

「それに森にもまだ蜘蛛が残っているかもしれない。その辺りの報告。森の探索に冒険者へ依頼を出すかはこの村次第だが、まあ、今回は貴様が全て蜘蛛を譲ってくれると言うから、その辺りの金はそこから出せばいいだろう」

「何か、優しくない? 何かたくらんでいない?」

「なに言ってやがる。俺様は、優しい男だぞ」

「冗談は顔だけにして」

デボラネが優しかったら、新人いびりなんてしない。

ただ、冒険者らしかったことだけは認める。

でも、デボラネの言うとおりに冒険者ギルドへの報告は早めにしておいたほうがいい。

「わかったよ。デボラネが倒したことにする?」

素材は譲るし、そのほうが説明も楽になる。

「ふざけるな! 倒してもいない魔物を自分のことにできるか! それに、キングスパイダーを倒すことができると思われて、また次にキングスパイダーが現れたときに、戦わされるようなことにはなりたくないからな」

強い魔物を倒したと見栄を張っても、それは自分の実力ではない。そして、同じ魔物が現れたとき、あいつなら倒せるだろうと思われても迷惑なことは同意だ。

身の丈に合わない見栄は、身を滅ぼすだけだ。

そして、後のことはデボラネとランズに任せて、わたしは村を出る。