軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

615 クマさん、明日について話し合う

魔法陣がある地下室を7ヶ所見つけることができたが、いろいろと問題があった。

「これはまずいのう」

初めに見つけた魔法陣を入れて、床が壊れていたのが3ヶ所。

ちゃんとしてそうな魔法陣が4ヶ所だった。

つまり半分近くがダメだった。

わたしたちは今後のことをクマハウスの中で話し合う。

「それじゃ、クリュナ=ハルクの杖は使えないってこと?」

「それは分からぬ。数日前まではスライムの魔道具を止めておったはずじゃ。4つでも効果はあるのかもしれぬし、ないかもしれぬ。こればかりは、確かめてみないことには分からぬ」

カガリさんの言葉に、みんな静かになる。

カガリさんが魔法陣を作ったわけじゃない、クリュナ=ハルクが昔に作ったものだ。作った本人だって、3ヶ所が壊れていた場合、発動するかなんて知る由もないと思う。

「修復はできないの? 壊れていない魔法陣もあったでしょう? それと同じように作れば」

「ダメじゃろう」

「どうしてよ?」

「魔法陣の模様が違った。たぶん、それぞれの方角に効果を及ぼすようにできているんじゃろう」

「ちょ、模様が違うって、7ヶ所全て覚えているの?」

「なんとなくじゃ。じゃが、違ったことぐらいは分かる。もし疑うなら、見てくればいい」

「そんな面倒なことなんてしないわよ」

わたしも、少し違うかなぐらいで、細かいところなんて覚えていない。

「この町の地図と魔法陣があった場所を見るがよい」

カガリさんは、手書きで書かれた簡素な町の地図に、クリュナ=ハルクが残したと思われる魔法陣があった場所を指差す。

魔法陣は、円を描くように等間隔に6ヶ所、それから、中央に1ヶ所の計7ヶ所ある。

「魔法陣がある場所は等間隔で設置されておるじゃろう。たぶんじゃが、中央に魔力が集まるように作られておったみたいじゃ。町から少し離れた場所なら、魔道具が使えた理由も、その辺りにあるのかもしれぬ」

「よく、魔法陣を見ただけで分かったね」

「伊達に歳はとっておらんからのう」

「何歳なのよ」

「おなごに歳を聞くもんじゃないぞ」

そういえば、ミアたちは、カガリさんが大人になれることと、狐ってことは知っているけど、数百年生きているってことは、知らないんだよね。

「それに、そう簡単に魔法陣を複写できるようなら、苦労はしない」

「クリュナ=ハルクも、スライムの対応策を何か残しておきなさいよ」

ミアの言う通りに、スライムに関することや魔法陣のことが書かれたノートでも残っているかと思ったけど、どの部屋も紙切れ一つ残っていなかった。

考えれば、当たり前のことかもしれない。クリュナ=ハルクはスライムが暴走したときの予防策を講じただけで、スライムの研究がどうなるか知る前に町を出ている。

スライムが暴走するかなんて、クリュナ=ハルクも詳しくは分かっていなかったかもしれない。

だからこそ、魔道具を止めるための杖だったのかもしれない。

それに、カガリさんが一つ目の魔法陣を見つけたときに言っていたけど、地下室にいた研究者が魔法陣を研究するために、クリュナ=ハルクの物を全て持ち帰ったのかもしれない。

でも、研究室にはなにもなかったんだよね。

「あとは、残っている魔法陣だけで、発動するかじゃな。せめてもの救いは中央にある魔法陣が無事だったことじゃ。たぶん、中央にあった魔法陣が壊れておったら、完全にダメじゃったじゃろう」

「でも、他の3ヶ所が壊れているから、ダメかもしれないんだよね?」

「何度も言っておるが、こればかりはやってみないと分からん」

「もし、もしだよ。クリュナ=ハルクの杖で止められなかったら……」

「その場合は、スライムの中にある魔導具の破壊しかないね」

カガリさんの代わりにわたしが答える。

それしか方法はない。

「破壊できるの? スライムに攻撃が効かなかったって、ノートに書いてあったでしょう」

「できなくはないと思うよ」

クマ魔法があるし。

スライムが水系の魔物なら、電撃魔法も有効だと思う。

だから、スライムの魔道具を破壊する方法はある。

問題があるとしたら、あの大きな体の中から魔道具を見つけ出すことができるのか、見つけたとしても攻撃が届くかどうかだ。カガリさんのセリフじゃないけど、こればかりは確かめてみないと分からない。

それと、スライムの中にある魔道具を破壊できたとしても、スライムがどうなるか分からないことだ。

わたしたちを追ってくるのを止めるのか、それとも追い続けるのか。

もし、追ってこなくても、今後のスライムの行動次第では、脅威になる。

無差別に動き出すってことだ。

あんな大きなスライムが自由に動き回ることを想像しただけでも恐ろしい。普通の村や町じゃ対応はできない。

「なんでか、ユナが言うと、できるかもって思えてくるわね、安心する自分がいるわ」

「たぶん、今まで非常識なところを見てきたからだと思うよ」

ミアの疑問にキャロルが答える。

「そうね。甲冑騎士を倒し、速く走り続けられる召喚獣のクマを従え」

「それに、この家を入れることができるアイテム袋を所持」

「誰も見ることができなかったノートを見ることができたし」

「妾も見ることはできたぞ」

「それから、そのクマの格好を見ていると、落ち着くっていうか」

「うん、分かる。真面目に悩むのがバカバカしくなるんだよね」

ミアとキャロルはカガリさんの言葉をスルーして、わたしの格好について話し始める。

「ユナの格好を見ていると、やすらぐのよね。それ以前にクマがやすらぐのかも」

ミアは丸くなっているくまゆるとくまきゅうを微笑ましそうに見る。

「そうだね。きっとそうだよ」

ミアの言葉にキャロルも同意して、同じようにくまゆるとくまきゅうを見る。

そして、わたしたちは、明日来ると思われるスライムに備えて、体を休ませることにする。

「はい、できたよ」

肉料理やパンにピザ、それからフルーツの盛り合わせが、テーブルの上に並ぶ。

いつもより、豪華な料理になっている。

「もしかして、最後の晩餐だから、豪華ってわけじゃないわよね?」

ミアが引き攣った顔でテーブルに並んでいる料理を見る。

「違うよ。明日の英気を養うためだよ」

そもそも、死ぬつもりはないし、いざとなればクマの転移門で逃げる。

「実は、わたしたちを囮にしたり……」

「死ぬつもりもなければ、ミアたちを囮にするつもりもないよ」

もしかして、わたしたちと別れたあと、スライムに追われたことがトラウマになっているのかな?

わたしたちは椅子に座り、料理を食べ始める。

「美味しい」

「って言うか。ユナは料理までできるの?」

「嗜む程度にはね」

元の世界じゃ一人でいることが多かったし、簡単な料理だけど自分で作っていた。出前やピザやコンビニ弁当ばかり食べていたとき、お爺ちゃんに怒られて、お爺ちゃんの家に連れていかれそうになったので、自分で作るようになった。

「お金も持っていて、魔力も強くて、魔法も使えて、可愛いクマを従えて、ユナ本人も可愛いし、料理もできて、勝ち組じゃない。人生って不公平ね」

「人生は平等じゃないですから」

ミアはそう文句を言いながら、キャロルは頷きながら、料理を美味しそうに食べる。

否定したい箇所もあったけど、そのことを言うと、さらに愚痴が増えそうなので、黙っていることにする。

「カガリは空を飛べるし、本来の姿は魅力的な女性だし。なんだかんだいって、知識も豊富で頭もいいし」

「もっと、褒めてもいいぞ」

褒められてカガリさんは嬉しそうにする。

ミアは次にフィナを見る。

「わたしは、普通の女の子です」

フィナがミアの視線に気付いて、先に答える。

「知っている? あなたぐらいの女の子は、こんなところに来たりは普通はしないわよ。魔法も使えるし、スライムを見ても、わたしたちより怖がっていないし。そんな子供はいないわよ」

言われてみれば、たしかにミアの言う通りだ。

11歳の女の子が、こんな遠くまで来ることはないし、連れてこられることもない。

「つまり、フィナは普通の子供じゃないわよ!」

「……!」

ミアの言葉にフィナはショックを受けた表情をする。

何にショックを受けているのかな?

少し、フィナに問い詰めたいところだ。

そして、明日のことを話し合い、最後の晩餐でなく、英気を養ったわたしたちは、お風呂に入って寝ることにする。

「気持ちいいのう」

カガリさんは気持ちよさそうに湯船に浸かる。

「温泉じゃないけどね」

クマの転移門を使って、温泉に入りに戻ることはできるけど、カガリさんも、そんなことを言いだすことはしない。

「ムムルートさんでも、魔法陣を直せないかな?」

フィナの髪を洗いながら、カガリさんに尋ねる。

「たぶん、魔法陣に詳しいムムルートでも、無理じゃろう。できたとしても、数日でできる簡単なものじゃない」

そうなると、やっぱり、残っている魔法陣が発動することを祈るしかないみたいだ。

ダメなら魔道具を壊す。それでも止まらなければ、スライムを討伐するしかないけど。

あの巨大なスライムを討伐することができるのか、流石のわたしでも戦ってみないと分からない。

まあ、明日は明日の風が吹く。

わたしはフィナの髪についた泡を洗い流す。