軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

616 クマさん、クリュナ=ハルクの杖を使う

「そろそろ来るのよね?」

わたしたちは町の入り口の防壁の上に立っている。

「「くぅ~ん」」

「近づいているみたいだよ」

スライムは無事と言っていいのか分からないけど、わたしたちのところに向かってきていた。

あとはクリュナ=ハルクの杖が効くかだ。

わたしたちはスライムが来る前にできる限りの準備を行なった。

もし、スライムと戦うときを考えて、足場を作った。

スライムがやってきたとき、地表はスライムで埋めつくされて足場がない。足場になるのは高い建物ぐらいだ。

その建物だって、スライムの中に入ってしまう可能性もある。そのことも考えて、建物以外の足場を確保するために、町のあっちこっちに土魔法で円筒形の柱を立てた。

建物や円柱を使って移動することになる。これも、どれほど役に立つか分からないけど、無いよりはあったほうがいいと考えた。

そして、フィナたちが身を隠すことになっているクマハウスもスライムがやってくる方角と反対側の防壁の外に設置してある。

「怖いなら、家の中にいればいいじゃろう」

「べ、べつに怖くなんかないわよ」

ミアは強がるが、巨大なスライムが迫っているんだ。怖くないほうがおかしい。

クマハウスの中に居てもらおうと思ったけど、ミアとキャロルは自分の目で確認したいと言って、クマハウスから出てきた。

「フィナも残っていてもよかったんだよ」

「……その、一人じゃ、不安だから。邪魔じゃなければ、ユナお姉ちゃんのそばにいたいです。でも、危ないと思ったら家の中に入るから」

たしかに、家の外が大騒ぎしている中、家の中でジッとしているのは、不安だし怖いかもしれない。

そして、スライムを待っているとミアが声を上げる。

「見えてきたわよ」

本当にミアは目がいい。

言われて、遠くで水が反射したのに気づくぐらいだ。

「それじゃ、スライムを町の中に呼び込むため、後ろの防壁まで移動するぞ」

わたしたちはくまゆるとくまきゅうに乗り、防壁の反対側へ移動する。

「入ってきたわよ」

「気持ち悪いです」

水が生き物のように動くのは、思っていたより気持ち悪い。ゲームに登場する水滴のような、ぷよぷよした可愛らしいスライムじゃない。

ねば〜とした液体だ。

小学生の頃に見たことがあるオモチャのスライムみたいだ。

その液体が防壁を登ったり、隙間から、町の中に入ってくる。

町の中に入ってくると、あらためて大きいと分かる。

引きこもりだったわたしは行ったことがないから正確なことは分からないけど、テレビで見た東京ドームぐらいはあると思う。

そんな大きなスライムだ。

絶対に取り込まれたくない。

そのスライムは、遅いけど徐々にわたしたちのほうへ移動してくる。

わたしはクマボックスからクリュナ=ハルクの杖を取り出し、いつでも使えるように準備する。

「効果があればいいんじゃが」

カガリさんが杖を見ながら言う。

「実際のところ、カガリさんはうまくいくと思う?」

「魔法陣を作ったのが妾じゃないからのう。効果が全然ないのか、ある程度、効果があるのか、こればかりは、やってみないことには分からん」

だよね。

分かっていれば、誰も不安になったりはしない。

スライムの先頭部分が中央近くまで、やってくる。

「あの、スライムの中にある青っぽい点みたいなものって、魔石?」

遠いのではっきりと見えないけど、小さな青い点みたいなものが見える。

「そうじゃろう。増殖して増えたのか、スライム同士がくっついて増えたのじゃろう」

水の魔石なのか、スライムの色が青っぽいので、青色の魔石が入っている。同色なので見えにくいが、かなりの数の魔石がある。

もし、討伐できたら、一生分の魔石を手にすることができそうだ。

「そろそろいいんじゃない?」

スライムは町の中央を通り、真っ直ぐにわたしたちに向かってくる。

「いや、もう少し待て。スライムの体全部が入っていなければ意味がない」

スライムは町の中央を越え、どんどん近づいてくる。

「カガリさん!」

「もう、いいじゃろう。ユナ、魔力を込めろ」

わたしはクリュナ=ハルクの杖に魔力を込める。

反応がない。

「ユナ、もっと魔力を込めろ」

カガリさんに言われるままに杖に魔力をさらに込める。

すると、魔法陣があったと思われる場所が光る。

「発動した!?」

「動いたわよ!」

ミアたちが大喜びする。

わたしは魔法陣が発動したのを確認すると、杖に魔力を流すのを止める。

魔力を杖に多く注ぎ込めばスライムが止まるなら、できるかぎり魔力を込める。でも、この杖はスイッチの役割をしている。どのタイミングでONとOFFの切り替えになっているか分からない。

せっかく魔法陣が発動したのに、止めたら意味がない。

地下室の研究室でしたように、解除しては意味がない。

「やはり3つの魔法陣は動いていないみたいじゃ」

光っている場所はやっぱりと言うか、正常に残っていた魔法陣の場所だけだった。

壊れていたんだから、仕方ない。

「スライム、止まらないわよ」

ミアの言う通りに、スライムはわたしに向かってくる。

でも、中心にある魔法陣を含め、4つの魔法陣は動いている。

スライムが止まる可能性は十分にある。

あとは見守るだけしかできない。

でも、スライムは、まだ動いている。

「ダメなの?」

「いや、よく見てみろ。動きが鈍くなっておる」

確かに迫ってくる速度が遅くなっている。

「それじゃ、このまま」

周囲を見ていると、魔法陣の光が消える。

「カガリさん!?」

「魔法陣が光るのは発動時だけじゃ」

確かに、ずっと光っていたら、目立つし、わたしたちが町に来たときも光っていなかったらおかしいことになる。

「じゃが、油断だけはするんじゃないぞ」

わたしたちはスライムの動きを監視する。ぷよぷよと動いている。

でも、スライムの動きが段々と止まり始める。

「もしかして、成功した?」

「そうみたいじゃのう」

カガリさんは安心したように腰を下ろす。

「やった~」

「ミアちゃん、止まったよ。止まったよ」

ミアとキャロルが抱きついて、フィナはホッとした表情をしている。

「これで、妾たちも、安心して帰れるのう」

まあ、巨大なスライムを放置することになるけど、人が来なければ、スライムも人を襲うこともないと思う。

本当なら、倒したほうがいいんだろうけど。フィナやミアたちがいるので、無理をして戦うつもりはない。戦って、近くにいる人を無差別に襲い始めたら、面倒くさいことになる。

触らぬ神に祟りなしって言うしね。

「それじゃ、帰る準備でもするとするかのう」

カガリさんが後ろを振り向いたときフィナが叫ぶ。

「ユナお姉ちゃん! スライムが」

フィナがスライムを指さしている。

「動いている」

「それは動くじゃろう。もしかすると、地下室に行くのかもしれぬ」

「だったらいいんだけど」

わたしたちはスライムの動向を見守る。

「ねえ、わたしたちのほうに近づいていない?」

ミアの言う通りにスライムはわたしたちのほうに向かって移動している。

「魔法陣は!?」

「もしかすると」

カガリさんが何かを思いついた表情をする。

「カガリさん?」

「ユナ、もう一度、杖に魔力を」

「それじゃ、解除されて」

「すでに動いておる。解除されたなら、もう一度、魔力を込めればいいだけじゃ」

やらないよりはやった方がいいに決まっている。

わたしはクリュナ=ハルクの杖に魔力を込める。

「魔法陣が光らない?」

「解除されただけなのかもしれぬ。もう一度じゃ」

わたしはもう一度、クリュナ=ハルクの杖に魔力を込める。

だけど、1回目のときと違って、何も反応が起きない。

「やっぱりか」

カガリさんは悔しがるような表情をすると空を飛ぶ。そして、町を一周して、戻ってくる。

「カガリさん!」

「いきなり、飛んでどうしたのよ?」

「クリュナ=ハルクの魔法陣を上から確認してきた。魔法陣があった場所は、スライムに埋もれておった」

「つまり、どういうことよ」

「地下室にスライムが流れ込んで、魔法陣を壊した可能性がある。正確には魔石の魔力を取り込んだというところかもしれぬ」

「そんな」

長い年月で床がひび割れ、スライムが入り込んでもおかしくはない。

二度目のとき、魔法陣が発動しなかった理由も説明がつく。

「そういえば、入り口の扉もボロボロだったわね」

ミアが思い出すように言う。

半壊していたのが、ほとんどだった。

今更だけど、出入口ぐらいは修復しておけばよかった。

後の祭りだ。

「いや、元々効果は半減。壊れただけかもしれぬ。分かっていることは、クリュナ=ハルクの魔法陣の効果がなかったことじゃ!」

確認することはできない。

魔法陣はスライムの中だ。

「ならば、当初の予定どおりに、魔道具を壊すまでじゃ。妾がスライムを引き付けている間に、ユナは嬢ちゃんたちを家の中に」

カガリさんはスライムを引き付けてくれるため、空を飛ぶ。

「フィナたちはクマハウスに」

「本当に、あのスライムと戦うの?」

ミアが心配そうに尋ねる。

「魔道具を壊すだけだよ」

「それって、スライムに攻撃するってことだよね。ユナとカガリが強くても、やっぱり、あんな大きいスライムなんて無理よ。逃げましょう」

「心配してくれるの?」

「当たり前でしょう。ユナとカガリが死んだら。わたし、自分が許せなくなる」

「大丈夫だよ。ちゃんと、スライムを止めるから3人は安心して家の中で待っていて」

わたしは3人をクマハウスに連れていき、ミアたちの馬と一緒に、クマの転移門がある部屋に移動する。

わたしはクマの転移門の扉を開く。転移先はクリモニアのクマハウスの地下室。タールグイのときに魔物が現れたときに、フィナたちに隠れてもらった部屋だ。

「フィナ、2人のことをお願いね」

フィナには、もしもの場合はミアたちに本当のことを伝え、クリモニアの外に出てもらうようにお願いはしてある。

もっとも、もしもの場合になる前には逃げるつもりだから、そんなことにはならないけど、万が一の場合だ。

「……うん、ユナお姉ちゃん。気をつけてね」

フィナは心配そうな表情をする。

わたしは安心させるために、微笑みながらフィナの頭を撫でる。

あと、安心させるため、くまゆるを置いていく。

くまきゅうには、もしものためにクマさんパペットに入ってもらい、わたしと一緒に来てもらう。

「くまゆるもみんなのことをお願いね」

「くぅ〜ん」

「それじゃ、行ってくるよ」

わたしは部屋から出ると、クマの転移門を閉める。