軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

558 クマさん、二人の誕生日パーティーに参加する その1

先日、ミレーヌさんに会って、わたしの綿を盗んだ商人のその後の話を聞いた。

逃げられた盗賊のほうは誰も捕まえることができなかったそうだ。結局、わたしが捕まえた一人だけになった。もっとも、逃げられたのもわたしの責任だけど。

そして、リーデントの指示で動いていたミゲールは、シーリンのギルドマスターの口添えで、商人見習いとして仕事をすることになったそうだ。

ミレーヌさんとシーリンのギルマスは約束を守ったみたいだ。

ただし、監視付きになるそうだ。監視といっても、ギルドカードを雇い主に預けるだけだと言う。牢屋に入れられるよりは良いと思う。

それから、わたしが捕まえた見張り役だった男は、街の見習い警備員として、街の治安を守っていくそうだ。こちらも警備隊長? にギルドカード(市民カード)を預けてあるそうだ。

二人とも、仕事ぶりを判断してから、将来的にはカードを返すらしい。

まあ、更生のチャンスを与えるのはいいことだ。ただ、二回目は許されない。だから、真面目に仕事をしてほしいものだ。

いろいろとあったが、ノアとフィナの誕生日パーティーは、本日、ノアの家で行われる。

「本当にわたしたちが参加していいのかしら」

「そうだよな。俺たちなんか場違いだよな」

ティルミナさんとゲンツさんが不安そうに歩いている。

自分たちだけで領主の家であるノアの家に行くのは緊張するのでと、ティルミナさんに一緒に行ってほしいと頼まれた。

「招待状もあるから、大丈夫だよ」

ちゃんと、ティルミナさん、ゲンツさんにも招待状が届いた。ちなみに、わたしのところにも届いている。

フィナの話によると、ノアと二人で作ったそうだ。

「フィナは大丈夫なの?」

「ミサ様の誕生日パーティーに参加したし、ノア様とは何度も会ってますから」

フィナが、なにか悟った表情をする。

フィナにとって、ノアは友達であり気心が知れた貴族だ。何度もノアの家に行っている。ミサの誕生日パーティーにエレローラさんの家に滞在し、国王や王妃様、お姫様との食事をしたり、話をしたりしている。

そう考えると、この家族の中で唯一、緊張していないかもしれない。

「美味しい料理がでるのかな?」

いや、ここにも緊張していない子がいた。シュリもノア姉ちゃんと呼ぶほどの親しさがある。王都や海ではミサとも一緒に遊んでいたし、シュリも初めての頃よりは慣れた感じだ。

シュリは初めて会った人には恥ずかしそうにするが、すぐに親しくする能力を持っている。ただ、親しくし過ぎるのも困ったものだ。

「でも、ドレスは似合わないし、汚したらと思うと、あまりドレスは着たくないです」

フィナは、わたし同様にドレスを着るのは嫌なようだ。

「フィナは似合っているから大丈夫だよ。わたしのほうが似合っていないから」

フィナのドレス姿は可愛い。でも、わたしがドレスに着替えると、驚かれるし笑われる。

自分でも似合っていないことぐらい分かる。

「娘のドレス姿も楽しみだけど、ユナちゃんのドレス姿も楽しみね」

ここにも、笑いそうな人物がいた。

わたしもフィナ同様、誕生日パーティーに参加するのはいいけど、ドレスに着替えるのは気が重い。そんな会話をしていると、大きなお屋敷が見えてくる。

「着いちゃったわね」

わたしたちはクリフの家に到着する。ここまで来たら、腹を括るしかない。別に危険なことがあるわけではない。笑われるだけだ。

わたしたちが家に来ると、ララさんが出迎えてくれ、部屋に案内してくれる。

着替えはクリフのお屋敷ですることになっている。流石にドレスの格好で街の中を歩くことはできない。クマの格好とドレス姿、どっちが目立たないかなと、一瞬、考えるが、どっちもどっちかもしれない。

「ゲンツ様は、こちらの部屋でお着替えください」

当たり前だけど、着替えは男性と女性とに分かれる。そして、男性はゲンツさんだけだ。ゲンツさんは、見捨てられた犬のような表情で、寂しそうに部屋に入っていく。

助けを求められても、一緒に着替えることはできない。

「ティルミナ様、シュリ様、ユナ様は隣の部屋でお着替えください」

「わたしは?」

一人だけ、名前を呼ばれなかったフィナが、ララさんに尋ねる。

「フィナ様はお嬢様の部屋で着替えていただきます」

「どうしてですか?」

「フィナ様はご家族にドレス姿は見せていないと伺っています。それなら、サプライズとして、登場してもらったほうがいいと、お嬢様に言われました」

たしかに、一緒に着替えるより、ドレス姿で現れたら感動もするだろう。サプライズになる。

ノアのこういう頭が回るところは凄いと思う。

「フィナ、わたしもノアのアイディア、良いと思うよ。ティルミナさんとゲンツさんには、ちゃんと着替えてから、見せてあげたほうが、感動すると思うよ」

「でも……」

「そうね。フィナ、楽しみは後にとっておくから、別々に着替えましょう」

ティルミナさんにまで言われると、フィナは素直に頷く。

「うぅ、わたしも、お姉ちゃんと一緒に、お母さんを驚かせたい」

シュリがそんなことを言い出す。

シュリはノアの小さい頃のドレスを借りることになっていて、試着をした話も聞いている。

シュリにとっても初めてのお披露目になる。次のシュリの誕生日とはいかない。初めてのドレス姿は今日なのだ。それに姉妹一緒に現れたほうが、感動も倍増するだろう。

「ララさん、シュリもティルミナさんと別の部屋で着替えるってことはできます?」

シュリの誕生日パーティーではないけど、そのぐらいは良いと思う。

わたしの言葉にララさんは考え込む。

「分かりました。少し、お待ちください」

ララさんはそう言うと、部屋の中に入り、1分もせずに部屋から出てきた。

「シュリ様のドレスを取ってきました」

ララさんはアイテム袋の中を見せてくれる。

どうやら、部屋の中に用意してあったシュリのドレスを回収してきたみたいだ。

「それでは、フィナ様、シュリ様はノアお嬢様の部屋でお願いします」

「いいの?」

シュリが我儘を言ったと感じたようで、小さい声で尋ねる。

「はい、問題はありません。シュリ様の誕生日パーティーではありませんが、お母様を驚かせてあげましょう」

ララさんはシュリに向かって優しく微笑む。

シュリは嬉しそうに「うん!」と返事をする。

「ご迷惑では?」

ティルミナさんが不安そうに尋ねる。

「そんなことはありませんから、大丈夫ですよ。お嬢様は、シュリ様のことも大切な友人と思っていますから」

そこまで言われたら、ティルミナさんもそれ以上のことは言えない。

「それでは娘たちを、よろしくお願いします」

ティルミナさんが頭を下げると、ララさんは「はい、お任せください」と言って、フィナとシュリを連れて歩き出す。

残ったわたしとティルミナさんは部屋の中に入る。

「はぁ、緊張したわ」

部屋に入ると、ティルミナさんは小さな溜め息を吐く。

「まだ、始まってもいないよ」

「ユナちゃんと違って、領主様のお屋敷の中に入るだけでも緊張するのよ。それに、これからクリフ様にも会うと思うと、不安と緊張で心が潰れそうよ」

「クリフとは面識はあるんですよね?」

「ええ、クリフ様がお店に来られたときに、軽く挨拶する程度にはね。だからといって、緊張をしないわけじゃないわ」

「まあ、王族じゃないから大丈夫だよ。フィナなんて、国王と会話しているんだから」

「その話を聞くけど、未だに信じられないのよね。国王様と会話なんて。それにエレローラ様に会ったときも、緊張した様子はなかったし、誰に似たのかしら。ロイはどうだったかしら?」

ロイって、亡くなった旦那さんだっけ?

「フィナも初めの頃は緊張して、オドオドしていたよ。やっぱり、経験が糧になっているんだと思うよ」

フィナはノアのお屋敷に何度も来ているし、クリフとも会っている。ミサの誕生日パーティーに参加し、王族全員とも会い、会話もしている。ティルミナさんとフィナでは、経験が違う。

普通なら、王都に住んでいないフィナが王族を見る機会もなければ、会話をすることも考えられない。

しかし、フィナは国王や王妃様、お姫様に顔も名前も憶えられている。そう考えると、フィナってもの凄いことをしているのかもしれない。

「母親の知らないところで、娘は成長していくのね」

そんな、別に嫁に行くわけじゃないんだから、遠くを見るような目をしないでほしい。

わたしは緊張するティルミナさんを促して、着替えることにする。

本当なら、わたしが着替えるのを渋って、誰かが無理やり着せようとするのがパターンだけど、わたしがここで駄々を捏ねると、ティルミナさんまで着替えなくなってしまいそうなので、今日のところは、自分から進んで着替えることにする。

黒と白のドレスをクマボックスから取り出す。ミサの誕生日パーティーのときは二度と着ないと思っていたのに、三回も着ることになるとは思わなかった。

わたしがクマ装備を脱ぎ、ドレスに着替える準備を始めると、ティルミナさんもナールさんから借りた正装を取り出し、着替え始める。

やっぱり、ドレスは気恥ずかしい。

三回程度では慣れもしない。

でも、フィナとノアの誕生日パーティーだ。今日ぐらいは我慢しないといけない。クマ靴を履き、左手に白クマパペットを嵌めると、クマ服と黒クマパペットをクマボックスに仕舞う。

これで着替え終える。

「ティルミナさん、着替え終わりましたか?」

ドレスとは違った、貴族が着るような服を着ているティルミナさんに尋ねる。

「ええ、終わったわ」

ティルミナさんが振り返ると、目が点になる。

「……ユナちゃん?」

「そうだけど。笑ってもいいですよ」

「笑いはしないけど、街中で出会ったら、気づかないわね」

先ほども想像したけど、ドレス姿で街の中を歩くことはないから大丈夫だ。

「フィナも、かなり印象が変わりますよ」

フィナもどこかのお嬢様と言ってもいいほど、印象が変わる。シュリのドレス姿は見たことがないけど、可愛いことは想像はできる。

「それは楽しみね」

ティルミナさんはそう言って、微笑んだ。

たしかに、一緒に着替えないでよかったかもしれない。一緒に着替えたら、感動は薄れる。フィナにとっても、ティルミナさんにとっても、思い出に残る誕生日パーティーになりそうだ。